茶柱

雪水

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緑茶

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「遊びに来たぜ~!!!」

「朝からうるさい」

「つれないこと言うなよなぁ、せっかくこの僕が遊びに来たというのに」

「どのお前もお前だろ、うるさいことに変わりはない」

「それはそうと、今日こそ僕と遊んで貰うぜ」

「無理」

「もぉ~いつもいつも無理ばっかり言いやがって無理星人かお前!」

「無理星人ってなんだお前、バカか?」

「無理星人じゃないならじゃあイヤイヤ期か…」

「はぁ…」

俺は高橋 武(たかはし たける)

今の会話を聞いてもらえれば分かると思うが最近俺はこのうるさくて鬱陶しいやつに付きまとわれている。

ことの発端は色々あるが…まぁ二学期の中盤だったことは記憶している。

「今日からこの2年3組に1人生徒が増えます、入っておいで」

俺の担任の口上と共にドアを開けて入ってきたのがこいつだった。

「初めまして、愛知県から来ました。堅田 満(かただ みちる)と言います、仲良くしてください」

まぁ端的に言えばこいつは普通に自己紹介をした。

ルックスも普通、特筆するべきところもない平凡な学生に見えた。

少なくとも当時の俺はそう見ていた。

満はフレンドリーな性格だったのであっという間に3組に馴染んでいた。

しかし俺には満がみんなと一線を引いて接しているような、そんな不思議な感覚を感じた。

まぁ正直なところ俺は満に全く興味がなかったのでどうでもいいというのがが本心だった。

そんなある日、満はいきなり俺に話しかけてきた。

「高橋くんって…」

「武でいい、」

苗字で呼ばれるのがあまり好きではなかったので被せて返事してしまった。

しかしそんな俺には特に不満を持った様子もなく満は自分の話を続けだした。

「ごめん、武くんとはまだ喋ったことないかなと思って喋りたくって」

「そうか」

「嫌だった…?」

別に嫌ではないが、少し気になる。

話しかけてきたのは向こうだし聞いても許されるだろう。

「嫌では無い…堅田、だっけ?」

「そう、堅田 満。満で呼び捨てでいいよ」

「そうか…満、お前何にビビってんだ?」

「…え?」

「ずっとみんなと壁作ってんだろ」

「…」

「俺の思い違いなら悪い、忘れてくれ」

「武くん、なんでわかったの?」

「…あのフレンドリーな満は自分じゃないんだろ」

「そ…いや…わかんない」

「まぁなんでわかったかなんて俺にもわからないけどそんなに悪いやつはいないから」

「うん…」

「転校生だからって虐められるようなことは無い。ただし俺はあんまり人と関わるのが得意じゃないから極力話しかけないでくれ」

「わかった、ありがとう武くん」

「武、でいい。あとお礼なんて言われる筋合いは俺にない」

「あ、うん」

自分でも思う。

とんでもなく無愛想だって。

でもまぁこれが俺だから仕方ない。

正直満のようにはっきりしないやつはあまり得意では無い、はっきり言ったし今後関わってくることは無いだろう。

そう思っていたのに。

「武、おはよう」

「武、授業のペース違うから前の学校との間の分教えて…」

「武、一緒にご飯たべよ」

「武って友達いるの?」

「今度の土曜日遊ぼうよ」

「武~!」

「だぁぁ!うるさい!!!!」

ビクッと体を跳ねさせた満。

いくら無愛想だと言っても俺も人間、限界は来る。

周りの視線が俺に注がれていることに気がついた俺は少し決まりが悪くなったので満を廊下に連れていった。

「お前、うるさい。あんま関わんなっつっただろ」

「でも…」

「でもなんだよ」

「俺席端っこだし…」

「そうだな」

「横の席に武いるし…」

「そうだな」

「前の子女子で話しかけるの緊張するし」

「そうなのか」

「だから武しかいなくて」

「そうはならないだろ」

「でもぉ…」

「百歩、いや、五万歩くらい譲って隣の席だから勉強のことを聞くのは構わない。だが一緒にご飯を食べようだとか友達の有無だとか土曜日遊ぼうだとか、友達か俺らは。」

「友達…じゃないの?」

「少なくとも俺は思ってない」

「友達の有無聞かれて怒るって武、友達いないでしょ」

「あぁ、いない」

「だから1人なのか、なるほど」

「その納得の仕方すげぇ腹立つからやめろ」

「ほら俺と友達になりたくなってきたでしょ」

「ならない」

「なりたく…?」

「ならない」

「ちなみに俺成田空港から来たんだよね」

「そうか」

「なりたくなってきたと成田空港ってちょっと語感似てるよね」

「まぁ…そうだな」

「どう、俺と友達に成田空港んじゃない?」

「…ならない、何言ってんだ」

「むぅ…」

「はぁ…」

俺は教室に戻った。

その次の日も、またその次の日も

まるで変わらずに俺に絡んできた。

「おいもうしつこいって」

「そろそろいいじゃん、俺と友達になろうよ」

「ならない」

「ならなくてもいいから明日俺の家来て」

「なんでわざわざ大事な土曜日をお前に割かないといけないんだ」

「何も聞かずに来て」

「はぁ…」

「○○駅分かる?」

「あぁ、分かる」

「そこ集合で」

「…」

「昼の3時ね」

「わかったよ…」

全く、変にペースを握られるとやりにくいことこの上ない。

当日の約束の時間に駅に行くとそこには満と満のおばあちゃんが立っていた。

満のおばあちゃんが口を開く。

「いつも私の孫と仲良くしてくれているそうで、大変ありがとうございます。」

うちの土地の訛りが柔らかく混ざっていて柔和に聞こえる。

「いえ、仲良くと言いますか…」

『仲良く』していた覚えは無いので言葉を濁す。

「でもこの子、私に学校でのことを喋る時に武くんの名前を出さなかった日はないんです。」

「ちょっとおばあちゃん!」

「あらあら、ごめんなさいね。立ち話もよろしくありませんしどうぞ、うちにいらしてくださいな。」

「は、はぁ…」

いまいち状況が飲み込めないまま気づけば堅田家に着いていた。

家に着くと満の部屋に通された。

「これ、うちで採れた茶葉で入れた緑茶なんです。お口に合うか分かりませんが是非どうぞ」

満のおばあちゃんがそう言って美しい湯飲み茶碗に緑茶を淹れて持ってきてくれた。

おばあちゃんが家を出てすぐに満が口を開く。

「この前の話の続き、しよう」

「この前の?」

「うん、僕が怖がってるっていう話」

「あぁ、ちゃんと理由あんのか」

「あるよ、ちょっと話にくいけど」

そう言うと満は少し緑茶を啜った。

「俺、いや僕、昔は…」

殺されかけたんだ

そう言い放った満の言葉はとても冷たかった。

聞くだけで苦しくなる程に、その一言に満の過去が全て詰まっていた。

「…ッ」

俺が言葉に詰まっている間にも満はどんどん話していく。

満の『昔話』を。

「僕は昔ね、虐められてたんだ。」

俺はもう黙って聞いておくことにした。

「中学三年生のことだった。本当にいきなり虐められ始めたんだ。参考書が隠されたり無視されたり、トイレに行って教室に戻ったらカバンがなかったこともあったかな」

話している満の顔は昔話をしている割に穏やかではなく苦々しい表情を浮かべていた。

「去年…高校一年生の時にも同じ高校に行った中学の同級生に虐めれて僕は不登校になった。」

俺は息をするのすら憚られるようなそんな空気感にただひたすらじっと耐えていた。

「だから僕は不登校になった」

「そんで…うちの高校に来たってことか」

「そう。もう虐められないようにみんなに対して友好的で、でも舐められないように一人称を変えて『俺』の中の『僕』を殺した」

「だから壁を作ってるわけか」

「ははは…」

「なら俺とはなんであんなに距離感近かったんだ」

「わかんない、でも友達は怖い」

「よくわかんないな」

「僕も分からない」

「そうか」

「あ、ねぇ武」

「なんだ」

「見てこれ、茶柱立ってる」

「おぉ」

「いいことあるかな」

「自分のままでクラスに馴染めばいいことあるだろ」

「その前に僕と友達になってよ武」

正直こう来るとは思ってた。

言葉に詰まる。

「…」

「ダメ?」

俺はできるだけ無愛想に聞こえるように言う。

「またここの緑茶、飲みに来てやるよ」
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