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本編
ラムネなんて
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パァン...
「うわぁっ」
「あっははは、へったくそだなぁ」
夏休みの中旬、僕は朝陽と夏祭りに来ていた。
祭りを存分に楽しみ、疲れ果てた頃、ラムネを買ったので飲もうとビー玉を押し込むと派手な音がして僕の手元でラムネが溢れてしまったのだ。
1/3くらい中身が溢れてしまったラムネを飲みながら朝陽の胸元に光っている狐のネックレスに興味が惹かれる。
「そういえば最近ずっと狐のアクセサリー着けてるけど朝陽って狐好きだっけ?」
「いや、全然好きじゃない。むしろ嫌い」
「なんか、変だね」
「おま、変!?俺が??」
「だって別に好きでもない狐のアクセサリー着けてるんでしょ?」
「まぁ、うん」
「変じゃん」
「うるせぇ。いろいろ事情があるんだよ」
「ふーん、」
僕は全く納得をしていなかったがとりあえず納得したふうにしてラムネの瓶を呷った。
シュワシュワと口の中で弾けるラムネが大好きだ。
ラムネ味、としか言えないような唯一無二の味もこの感覚も。
ずっとここでラムネを飲んでいたかったけど、もう夜も遅い、来週また別の場所で夏祭りがあるのでそれに一緒に行くという約束を朝陽としてから家に帰った。
「ただいまー」
こう家の中に呼びかけても何も返事はない。
僕にはお母さんはいない。
お父さんも滅多に家にいない。
たまに家にいると思ったらいつも違う女の人と一緒に当たり前のように家の中にいる。
吐き気がする。
楽しかった気分が最悪だ。
まだ少しだけ残ってたラムネを飲み干す。
からん...
ビー玉が瓶の口を塞いだ。
そのまま口を離してみるとラムネの向こう側が見えた。
僕がいつも見ている世界とは違ってとても綺麗だった。
綺麗な世界を見ていたいと願うのに涙で視界が滲み始める。
お母さんが居なくてさみしいともお父さんが居なくてさみしいとも思ったことはない。
ただ、ただ僕は
心の拠り所が欲しいだけなんだ
そんな生活の中、僕は朝陽と出会った。
狐が好きじゃないと言いながら毎日どこかに狐のアクセサリーを着けている朝陽。
いつもどこか抜けていて、それでいてしっかり者の朝陽。
僕の唯一の心の拠り所で、大好きな朝陽。
日南と朝陽の太陽友達はいつまでも続くよと、僕に言い聞かせてくれた朝陽。
ありがとうと言うといつも照れくさそうに「やめろ」と言う朝陽。
僕は今、朝陽のお陰で生きていると言っても過言ではない。
ラムネを通した世界は残酷なほど美しくて、それでいて暴力的だった。
十分な程に突き刺さる。
自らの名に恥じるほど、二度と陽の光を浴びることがない心には。
【月曜日】
朝起きても誰も居ない。
もう慣れた。
朝ご飯は食べなくてもいいや、給食で食べれば。
【火曜日】
今日は珍しく朝からお父さんが居た。
その横にはもちろん知らない女の人が居たけど。
【水曜日】
昨日の夜、お父さんはどこかに行ってしまったが女の人だけは家に残っていたらしい。
朝起きたときにご飯を作ってくれていた。
僕は温かさに泣きそうになりながら朝ご飯を食べた。
久しぶりに朝から温かいご飯を食べた。
【木曜日】
昨日、学校から帰ってきたときには既に女の人は居なかった。
お父さんももちろん居なかった。
朝ご飯は食べない。
自分で作っても美味しくないから。
【金曜日】
もう何も言うことがなくなった。
いつもどおりの風景。
【土曜日】
今日は休みだからゆっくりできる。
給食がないからご飯は食べられないけど。
明日はまた朝陽と夏祭りに行く、とても楽しみ。
【日曜日】
朝目が覚めてお父さんがいることのほうが珍しい。
今日はその珍しい日らしい。
どこから聞いたか知らないけど今日僕が朝陽と夏祭りに行くことを知っていてお小遣いをくれた。
家にいることが少ないだけで本当は優しいお父さんなの、僕知ってるよ。
夕方頃、朝陽が家に来た。
僕と朝陽は夏祭りの会場まで自転車で向かった、五分とかからない。
朝陽は今日も狐のアクセサリーを着けている。
前はネックレスだったが、今日はイヤリングになっていた。
右耳には白い狐のイヤリング、左耳には黒い狐のイヤリングを。
僕と朝陽は前みたいにお祭りを見て回って、一通り見たところで狐のお面を売っているところを見つけた。
朝陽は真面目な顔をしてそのお面を買いに行った。
僕はその間にラムネを買った。
また、朝陽と合流すると朝陽が僕に話しかけた
「ちょっと人の少ないところに移動しようぜ」
僕は朝陽が人前で狐のお面をつけるのが恥ずかしいんだ(狐だらけになるから)と思い、すぐに了承した。
そこで朝陽は先週僕が聞いた狐のアクセサリーを着ける理由を教えてくれた。
そこで僕は朝陽の秘密を知ることになる。
「俺さ、人間なんだけど人間じゃないんだ」
どういうことか僕には理解が出来なかった。
「俺、狐の子孫なんだ」
そこでようやく合点がいった、朝陽が普段狐のアクセサリーを着ける理由、でも狐が好きじゃない理由。
何もかもに納得がいった。
いや、納得はしてない、けどわかった。
朝陽は狐と縁が深い人間なのだ。
僕は朝陽に質問をした。
「なんでいつも狐のアクセサリー着けてるの?」
「うん、それは...」
ちょっと言いづらそうに朝陽は口を開く。
「僕、狐のアクセサリー着けないと狐になっちゃうんだよね」
「...え?」
いや、狐になるって...
「ごめん...意味がわかんない」
「だよね、意味分かんないよね」
「うん」
「簡単に説明するね。まず俺の家系には狐がいるんだけど、その狐って俺の家系を呪ってくるんだよね」
「その呪いがさっき言ってたアクセサリーを着けないと狐になっちゃうってやつ?」
「そうそう、だからいつも狐の指輪とかネックレスとか着けてるの」
「それで、なんでそんな大事そうなことを僕に教えてくれたの?」
「俺、日南のこと親友だと思ってる」
「僕も朝陽のこと親友だと思ってる」
「だからこそ言わないとだめだと思った」
「うん、」
「俺、今日がリミットなんだ」
「リミット?」
「俺の誕生日が明日なのは知ってる?」
「うん、知ってるよ」
「僕、その狐のお使いに選ばれちゃっててさ、十三歳になったらこの世界から離れないといけなくって」
「この世界から?」
「そう、狐の世界に行かなくちゃいけないの」
「今日?」
「うん、今日」
「ねぇ、ラムネ飲まないの?」
「あ、飲む。冷たいうちに飲まないと美味しくないもんね」
パァン...
「うわぁっ」
『あっははは、へったくそだなぁ』
また朝陽に下手くそと言われてしまったので言い返そうと顔を上げたそこには
狐のイヤリングと狐のお面、そして朝陽の髪の色に似た獣の毛が落ちていた。
僕は朝陽が嘘をついて隠れていると思い落ちてたものを持ってそのへんを探し回った。
三十分
一時間
一時間半
居ない。
どこをどれだけ探しても居なかった。
僕は悲しさに打ちのめされてもう動けなくなった。
それを家の近くに住むお兄さんに保護されて家まで送ってもらった。
僕はその後、朝陽に出会うことはなかった。
「うわぁっ」
「あっははは、へったくそだなぁ」
夏休みの中旬、僕は朝陽と夏祭りに来ていた。
祭りを存分に楽しみ、疲れ果てた頃、ラムネを買ったので飲もうとビー玉を押し込むと派手な音がして僕の手元でラムネが溢れてしまったのだ。
1/3くらい中身が溢れてしまったラムネを飲みながら朝陽の胸元に光っている狐のネックレスに興味が惹かれる。
「そういえば最近ずっと狐のアクセサリー着けてるけど朝陽って狐好きだっけ?」
「いや、全然好きじゃない。むしろ嫌い」
「なんか、変だね」
「おま、変!?俺が??」
「だって別に好きでもない狐のアクセサリー着けてるんでしょ?」
「まぁ、うん」
「変じゃん」
「うるせぇ。いろいろ事情があるんだよ」
「ふーん、」
僕は全く納得をしていなかったがとりあえず納得したふうにしてラムネの瓶を呷った。
シュワシュワと口の中で弾けるラムネが大好きだ。
ラムネ味、としか言えないような唯一無二の味もこの感覚も。
ずっとここでラムネを飲んでいたかったけど、もう夜も遅い、来週また別の場所で夏祭りがあるのでそれに一緒に行くという約束を朝陽としてから家に帰った。
「ただいまー」
こう家の中に呼びかけても何も返事はない。
僕にはお母さんはいない。
お父さんも滅多に家にいない。
たまに家にいると思ったらいつも違う女の人と一緒に当たり前のように家の中にいる。
吐き気がする。
楽しかった気分が最悪だ。
まだ少しだけ残ってたラムネを飲み干す。
からん...
ビー玉が瓶の口を塞いだ。
そのまま口を離してみるとラムネの向こう側が見えた。
僕がいつも見ている世界とは違ってとても綺麗だった。
綺麗な世界を見ていたいと願うのに涙で視界が滲み始める。
お母さんが居なくてさみしいともお父さんが居なくてさみしいとも思ったことはない。
ただ、ただ僕は
心の拠り所が欲しいだけなんだ
そんな生活の中、僕は朝陽と出会った。
狐が好きじゃないと言いながら毎日どこかに狐のアクセサリーを着けている朝陽。
いつもどこか抜けていて、それでいてしっかり者の朝陽。
僕の唯一の心の拠り所で、大好きな朝陽。
日南と朝陽の太陽友達はいつまでも続くよと、僕に言い聞かせてくれた朝陽。
ありがとうと言うといつも照れくさそうに「やめろ」と言う朝陽。
僕は今、朝陽のお陰で生きていると言っても過言ではない。
ラムネを通した世界は残酷なほど美しくて、それでいて暴力的だった。
十分な程に突き刺さる。
自らの名に恥じるほど、二度と陽の光を浴びることがない心には。
【月曜日】
朝起きても誰も居ない。
もう慣れた。
朝ご飯は食べなくてもいいや、給食で食べれば。
【火曜日】
今日は珍しく朝からお父さんが居た。
その横にはもちろん知らない女の人が居たけど。
【水曜日】
昨日の夜、お父さんはどこかに行ってしまったが女の人だけは家に残っていたらしい。
朝起きたときにご飯を作ってくれていた。
僕は温かさに泣きそうになりながら朝ご飯を食べた。
久しぶりに朝から温かいご飯を食べた。
【木曜日】
昨日、学校から帰ってきたときには既に女の人は居なかった。
お父さんももちろん居なかった。
朝ご飯は食べない。
自分で作っても美味しくないから。
【金曜日】
もう何も言うことがなくなった。
いつもどおりの風景。
【土曜日】
今日は休みだからゆっくりできる。
給食がないからご飯は食べられないけど。
明日はまた朝陽と夏祭りに行く、とても楽しみ。
【日曜日】
朝目が覚めてお父さんがいることのほうが珍しい。
今日はその珍しい日らしい。
どこから聞いたか知らないけど今日僕が朝陽と夏祭りに行くことを知っていてお小遣いをくれた。
家にいることが少ないだけで本当は優しいお父さんなの、僕知ってるよ。
夕方頃、朝陽が家に来た。
僕と朝陽は夏祭りの会場まで自転車で向かった、五分とかからない。
朝陽は今日も狐のアクセサリーを着けている。
前はネックレスだったが、今日はイヤリングになっていた。
右耳には白い狐のイヤリング、左耳には黒い狐のイヤリングを。
僕と朝陽は前みたいにお祭りを見て回って、一通り見たところで狐のお面を売っているところを見つけた。
朝陽は真面目な顔をしてそのお面を買いに行った。
僕はその間にラムネを買った。
また、朝陽と合流すると朝陽が僕に話しかけた
「ちょっと人の少ないところに移動しようぜ」
僕は朝陽が人前で狐のお面をつけるのが恥ずかしいんだ(狐だらけになるから)と思い、すぐに了承した。
そこで朝陽は先週僕が聞いた狐のアクセサリーを着ける理由を教えてくれた。
そこで僕は朝陽の秘密を知ることになる。
「俺さ、人間なんだけど人間じゃないんだ」
どういうことか僕には理解が出来なかった。
「俺、狐の子孫なんだ」
そこでようやく合点がいった、朝陽が普段狐のアクセサリーを着ける理由、でも狐が好きじゃない理由。
何もかもに納得がいった。
いや、納得はしてない、けどわかった。
朝陽は狐と縁が深い人間なのだ。
僕は朝陽に質問をした。
「なんでいつも狐のアクセサリー着けてるの?」
「うん、それは...」
ちょっと言いづらそうに朝陽は口を開く。
「僕、狐のアクセサリー着けないと狐になっちゃうんだよね」
「...え?」
いや、狐になるって...
「ごめん...意味がわかんない」
「だよね、意味分かんないよね」
「うん」
「簡単に説明するね。まず俺の家系には狐がいるんだけど、その狐って俺の家系を呪ってくるんだよね」
「その呪いがさっき言ってたアクセサリーを着けないと狐になっちゃうってやつ?」
「そうそう、だからいつも狐の指輪とかネックレスとか着けてるの」
「それで、なんでそんな大事そうなことを僕に教えてくれたの?」
「俺、日南のこと親友だと思ってる」
「僕も朝陽のこと親友だと思ってる」
「だからこそ言わないとだめだと思った」
「うん、」
「俺、今日がリミットなんだ」
「リミット?」
「俺の誕生日が明日なのは知ってる?」
「うん、知ってるよ」
「僕、その狐のお使いに選ばれちゃっててさ、十三歳になったらこの世界から離れないといけなくって」
「この世界から?」
「そう、狐の世界に行かなくちゃいけないの」
「今日?」
「うん、今日」
「ねぇ、ラムネ飲まないの?」
「あ、飲む。冷たいうちに飲まないと美味しくないもんね」
パァン...
「うわぁっ」
『あっははは、へったくそだなぁ』
また朝陽に下手くそと言われてしまったので言い返そうと顔を上げたそこには
狐のイヤリングと狐のお面、そして朝陽の髪の色に似た獣の毛が落ちていた。
僕は朝陽が嘘をついて隠れていると思い落ちてたものを持ってそのへんを探し回った。
三十分
一時間
一時間半
居ない。
どこをどれだけ探しても居なかった。
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