珈琲の匂いのする想い出

雪水

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俺なんかでいいんですか(光輝視点)

まさかのおねだり

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「あっ!!!!!!!」

俺は双葉くんの番号が合格者一覧のところに載っていたのを見つけて年甲斐もなく叫んでしまった。

「ある!あったよ双葉くん!やったよ双葉くん!!!!!」

...後から思うとちょっとどころじゃなく喜びすぎた気がする。

まぁ良いや。

とりあえず双葉くんには俺のスマホを貸して親とかに報告するように促した。

一通り連絡が終わった頃を見計らって双葉くんを喫茶店に連れて行った。

俺はいつも通り珈琲を頼もうとしたが双葉くんがケーキセットにしたいと言うのでどうせならと俺もケーキセットにすることにした。

俺は珈琲とショートケーキ、双葉くんはミルクティーとフルーツタルトにした。

呼び鈴を押して程なく店員さんが注文を取りに来た。

「ご注文をお伺いします。」

「ケーキセットのショートケーキ1つとフルーツタルト1つ、飲み物は珈琲とミルクティーでお願いします。」

「かしこまりました。お飲み物はアイスとホットどちらになさいますか?」

俺は双葉くんに聞く。

「どうする?」

「じゃあ冷たいの!」

「珈琲もミルクティーもアイスでお願いします。」

「かしこまりました、少々お待ちくださいませ。」

「あ、すみません。あとガムシロップ1つ付けてもらえませんか?」

「かしこまりました。失礼します。」

しばらく待っているとキラキラとしたケーキが2種類と珈琲、ミルクティーが運ばれてきた。

それぞれの注文したものを前に食べようかと思っていると双葉くんが恍惚とした表情でケーキを眺めていた。

「双葉くん、食べないの?」

「なんか綺麗すぎてもうちょっとだけ、もうちょっとだけって見てたらどんどん食べにくくなっちゃって...」

なるほど、言われてみればこうして見るとケーキって食べ物としてだけじゃなくて1つの芸術作品としても完成されてるよな。

「その気持ちわかるわ、でもせっかく美味しいタルトがサクサクじゃなくなっちゃうよ?」

「うー、それはそうだけど...」

「ね、食べちゃおうよ。」

「んー、じゃあ食べようかな!」

「じゃ、頂きます。」

「頂きます!」

ケーキを口に運んでしばらくすると甘さが襲ってきたので珈琲で口をリセットする。

双葉くんを見るとこの上なく幸せそうな顔でタルトを食べていた。

ふと目が合った。

輝くフルーツが双葉くんの口に運ばれる様がやけに艶めかしく映る。

そんな煩悩を払うように双葉くんが邪気のない顔で俺に聞く。

「光輝さんもタルト食べる?美味しいよ!」

「ん、あぁいいよ、全部食べな?」

そう告げると双葉くんが少し残念そうに そっかー...美味しいのにな と呟いていた。

正直食べても良かったがさっきの光景が目にありありと焼き付いてしまったので平常心を保つことができなくなりそうだった。

俺も聞いてみることにした。

「ショートケーキ食べる?」

「え?うーん、ケーキより珈琲がいい!」

「苦いよ?」

「知ってる、でも飲んでみたい!」

「良いけど...」

そう言って俺は双葉くんに珈琲のグラスを渡す。

ストローを咥え珈琲を吸い出す。

「んんー、苦い!!!!」

「あーほら言ったじゃん...ケーキ食べな、ケーキ。」

「うー、まだ飲めないや...」

1つ双葉くんが大人に?なったところでケーキを食べ終わったので家に誘うことにした。

「双葉くん、この後時間あったらうち来る?」

「いく!!」

...早いな。

いや、嬉しいけども。

「じゃあ行こうか、」

「はーい。」



「いらっしゃい、改めて合格おめでとう!」

「え、あ、ありが...と?」

なんか戸惑ってる、可愛い。

「これ、あげる。」

昨日買っておいたクッキーの詰め合わせを双葉くんに渡す。

ちょっと困ったようにこっちを見てきたので 「開けてみて?」 というとおずおずと箱を開け始めた。

中身を見た途端笑顔になった。

早速食べることにしたようだ。

「ねね、光輝さん。」

「ん?」

「ありがと!」

こんなにもいい笑顔が見られると思ってなかったので心から買っておいてよかったと思った。

なにか飲み物を入れようか、いくら好物と言えど流石に飲み物無しでクッキーはしんどいだろう。

「なにか飲み物入れようか?」

「んとね、珈琲が良い!」

「さっきめっちゃ苦そうにしてたけど飲めるの?」

「ミルクと砂糖いっぱい入れて飲むもん。」

「なるほど、その手があったか。」

「ね~早く、クッキー食べたい。」

「分かった分かった、入れるから先クッキー食べてな。」

「はーい」

「温かいのと冷たいのどっちにする?」

「温かい方がいい!」

「了解、」

早速包みを破る音がした。

「ん、美味しい!」

「それは良かった。」

言いながら俺は某外国輸入雑貨販売店で買った珈琲豆の粉末を専用の機械に入れて珈琲を入れ始めた。

すぐに部屋いっぱいに珈琲の匂いが広がる。

少し濃い目に入れた珈琲にミルクと砂糖を入れてから双葉くんのもとに向かう。

「はい、カフェオレ出来たよ。」

「ありがと!」

「ちょっと飲んでみて?苦かったら砂糖とミルク足すから。」

「ん...うん!おいしい!ちょっと苦いけどクッキーと一緒に食べるからこれくらいが良いかも。」

「なら良かった、ゆっくり食べてね?」

「光輝さんは食べないの?」

「双葉くんの合格祝いのクッキーだしね、全部食べていいよ?」

「一緒に食べようよ~」

こうもおねだりされると食べざるをえない。

「じゃあ一枚だけもらおうかな、ありがとう。」

言いながらクッキーを取ろうとすると双葉くんに阻まれた。

「...?」

顔いっぱいに?が浮かんでいたのかすぐに双葉くんが話しかけてくる。

「光輝さんにあーんってしたい。」

「え?」

「だめ?」

「いや、ダメっていうか、うーん。」

正直嬉しくはあったけど何か大人としてダメな気がしてならない。

考えているうちに双葉くんはクッキーを手に取り俺の口に入れ込んでこようとする。

仕方なく口を開きクッキーを食べると双葉くんは嬉しそうに笑っていた。

そうしてしばらくクッキーを食べながら喋ったりしているうちに外が暗くなってきたので帰るように促す。

「双葉くん、そろそろ暗くなってきてるから帰ったほうが良いよ?」

「え、もうそんな時間?」

「そう、もうこんな時間。」

「じゃあもう1個ご褒美ほしいな...」

「ん?別にいいよ。」

「あの、光輝さんに...」

「うん、」

「...」

「?」

「ぎゅってしたい...」

「え?」

「ハグしたいなって、だめ?」

「それくらいなら全然良いよ、ほら、おいで?」

言いながら腕を広げる。

「やった!!」

双葉くんがものすごい勢いで飛び込んできた。

そして俺に聞こえるか聞こえないかくらいの声でつぶやく。

「自分へのご褒美、いいよね。」

「ん?」

「あのね、光輝さん。」

「うん。」

「大好きだよ、付き合ってください。」

俺は思考がショートした。

目の前の少年がいきなり告白してきたんだから仕方がないっちゃ仕方がないんだが...

いやそんなことよりなにか言わないと、

えっと、まずは...

「俺なんかでいいんですか?」

チゲぇだろ!!!!!

「あの、光輝さんが良いんだけど...」

なるほど、やっとわかった。

最近感じていた違和感の正体に

恋だ

俺は今双葉くんから言われてようやく自覚した。

俺はこの少年に恋をしていたようだ。

「本当に良いんだね?」

「光輝さん以外ヤダ。」

「後悔するなよ、」

「しないよ。」

「じゃあ、これからよろしく。」

「こちらこそ!!」

双葉くんがより一層強く抱きしめてきた。

「ねぇ光輝さん」

「ん?」

「双葉くんってやめてくれない?」

「え?」

「双葉、がいい。」

「今更変えろって言われてもなぁ、まぁ良いよ。」

目の前のかわいい少年はまるでクッキーのように甘く 今呼んで と囁いてくる。

しばらく沈黙が流れ間の抜けたタイミングでやっとその名を呼ぶと満足げな顔をしてクッキーを持って帰った。
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