珈琲の匂いのする想い出

雪水

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背伸びした味(光輝視点)

初デートは珈琲と共に

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早いものでそろそろ小学校の卒業式のようだ。

双葉には卒業式にも来てほしいと言われたが傍から見ればただの他人なので丁重にお断りした。

その代わりに卒業式が終わったらうちで遊ぶ約束をしている。

仕事が休みの日じゃないとこうして双葉と遊ぶことも出来ないので遊ぶ日は目一杯遊ぶようにしている。

しばし家でごろごろしているとインターホンが鳴った。

そしてドアが開く。

「光輝さん!ただいま~」

「おかえり双葉、卒業おめでとう。」

「ありがと~!」

いつの間にか双葉は俺の腕の中にすっぽりと収まっていた。

相変わらずかわいいなぁと思いながら双葉を見つめていると次第に顔が薄く桜色に染まっていき

「...見すぎ。」

と注意を受けた。

口ではごめんと言いながら可愛い双葉から目を離したくなかったのでずっと見つめたままだったが。

しばらくすると卒業式の疲れが出たのか眠り始めたので俺のいつも使っているベッドに運んだ。

ゆっくりお休み。

そう言っておでこに軽くキスをしたのはきっと俺以外知らない秘密だ。


日頃の疲れが残っていたのか俺もいつの間にかソファで寝てたようだ。

目を覚ますと目の前には双葉の顔。

状況が読み込めずもう一度目を閉じようとしたら双葉に軽く頬を叩かれたので仕方なく目を覚ます。

「おはよう双葉、よく寝れた?」

「うん、ていうか光輝さんも寝てたじゃん、最近疲れ溜まってるんじゃないの?」

「んー、溜まってるっちゃ溜まってる。」

「じゃあ僕が癒やしてあげる!」

いいつつ双葉はソファに寝転んでいた姿勢から椅子に座るような体制になった。

少年らしいハリのある腿を叩きながら 膝枕してあげる となんとも甘美な響きのお誘いを頂いた。

その言葉に甘えて頭を下ろすとなんとも言い難い幸福感に包まれた。

大人の男とは断じて違う柔らかくもハリのある腿がズボンの下からでも吸い付いてきてるんじゃないかというくらい俺の頭にフィットしている。

...いや大人の男に膝枕してもらった経験は無いが。

しかも目前には可愛い恋人の顔と来たもんだ、喜ばないやつなんて居ないだろ、これ。

「光輝さんどう?気持ちいい?」

「あ、うん。やばい。」

下から見上げてるせいかわからないけど双葉の目がいつもより潤んでいるように見えた。

...やばいな。

俺の愚息が熱を持ち始めた。

嘘だろ?

恋人とはいえまだ少年だぞ?

やっぱり俺ってショタコンなのかな...

ええい、知らないふりをしてやれ!

「双葉、ありがとな。だいぶ楽になったよ。」

「ほんと?良かった。」

にっこりほほえみながら双葉が言う。

「今日はこのあと出かけるんじゃなかったのか?そろそろ帰ったほうが良くない?」

「そ、そうだった!ありがと光輝さん!...てか帰れって言うならどいてよ、そこ。」

おっと、あまりの心地よさにずっと頭置いたままだった。

「ごめんごめん、っと」

「じゃあね光輝さん!明日から僕は春休みだからいっぱい家来て良い?」

「もちろん、仕事しててもいいならほんとにいつ来てもいいよ。」

「ほんと!?じゃあ毎日来るね!!!」

「あぁ、まってるよ。」

「じゃあね光輝さん、また明日!」

「また明日。」

純粋な少年に愚息の熱はすっかり冷まされてしまった。

暫く経ったある日の朝、前日から双葉に休みかどうかを聞かれていたのでどこかに連れていけと言われるんだろうなと身構えているとチャイムが鳴った。

「おはよう光輝さん!お出かけしよ!!」

「おはよ。どっか行きたいとこでもあるの?」

「水族館!」

「水族館?」

「そう、いきたい!」

「別にいいけど、荷物は?」

「ケータイとお小遣い!」

「それだけでいいの?」

「うん!」

「じゃ、俺も準備してくるわ。」

「はーい!」

そして俺の準備も整い、早速水族館に向かうことにした。

昨日は楽しみで眠れなかったのか高速道路に入って走行音が目立たなくなった頃にはすでに双葉の寝息が聞こえていた。

子供というものはなんとも狡猾な生き物で寝たフリをしながら俺のふとももの上に頭を載せてきた。

いや、寝ながらそこまで動けないだろ そう思いながら俺は双葉に声をかける。

「双葉お前、起きてんだろ。」

「...」

「おっさんの膝枕なんてなにが良いんだか、」

「光輝さんはおっさんじゃないよ!」

「やっぱ起きてんじゃねーか!」

「あ...いや、寝言だから。うん。」

「別に寝てないと膝枕してやらないとか言うつもり無いから、俺暇だし眠くないなら話そーぜ。」

「ほんとに?いいの?」

「そこが良いんだろ?ならいいよ。」

「やったー!」

楽しい時間は過ぎるのも早い、すぐに水族館に着いた。

「よし、着いたぞ双葉。」

「おぉ、久々の水族館だ、楽しみすぎる~!!」

双葉の年齢のチケットが小学生なのか中学生なのかわからないので受付の人に聞いた。

「すみません、この子小学校卒業したんですけどまだ中学校には入学してないんですよね。どっちのチケット買えばいいですか?」

「ご卒業おめでとうございます!その場合ですと、本日は3月29日ですので小学生料金となりますね。」

「そうなんですね、何かルールとかってあるんですかね。」

「はい、日本の決まりでは3月31日までは卒業した側の学校、4月1日からは新たに入学する方の学校の扱いとなります。」

「そんな決まりがあったんですね、ありがとうございます。」

「いえいえ、お力に慣れて光栄でございます。」

「あ、すみません。大人1枚と小学生1枚お願いします。」

「かしこまりました、こちらの半券は向こうの入場ゲートにて係員がちぎり取りますのでご自身でちぎったりなさらぬよう、お願い申し上げます。」

「わかりました、ありがとうございます!」

「それでは楽しいひと時をお過ごしください。」

双葉のところに戻ると少しご機嫌斜めだった。

「なんかあった?」

「女の人と仲良くしてた...」

「いや、あれは双葉のチケットが小学生のか中学生のか分からなかったから聞いてただけで、」

「遅すぎるもん。」

「ご、ごめんなさい。」

「...いいよ。じゃあ行こ?」

「はーい。」

「...ん、」

「ん?」

見ると双葉の小さい手がこちらに伸ばされていた。

その手を握ると双葉は満足げな顔をして歩き出した。

「これ、お願いします。」

ゲートの係員さんにチケットを渡すと半券をちぎり渡してくれた。

「可愛らしい弟さんですね、どうぞ楽しんでいってください。」

「おとっ、おとうと...?」

弟に間違えられたのがショックだったのか双葉は弟という言葉を垂れ流していた。

しかしそれは思い違いだったようで、すぐに双葉は 弟と間違えられるくらい光輝さんとお似合いってこと? と謎のポジティブシンキングを発揮していた。

双葉は魚を見るのが好きらしく、水族館に入ってからというものそれはそれは凄まじい勢いでいろいろな魚を見て回っていた。

「光輝さんこれすごいよ!!!」

「お、めっちゃきれいな魚だ、なんだろう。」

「このお魚すごい間抜けな顔してる!」

息つく暇もない。

「サカバンバスピ...うっ頭が...」

俺は間抜けな顔をした魚を見るとなにかよくわからない文字列が頭の中に流れ込んでくるような感覚がした。

無視することにした。

「光輝さん、次クラゲ見に行こう?」

「いいよ、俺水族館の中でクラゲが1番好き。」

「ほんと?僕とぜんぜん違うね!」

「あ、違うの。そこ多分一緒なときにテンション上げると思うんだけど。」

「僕は好きな人が自分と同じような人だったらやだな、だって好きになれなさそうじゃん。」

「なんかわかるかも、じゃなくて双葉ほんとに12歳?」

「そーだよ、もうこの話はいいじゃん!クラゲ見よ、クラゲ!」

「そうだね、ごめん。」


「うわあああ、ちょっとキモい!!」

ちょうどクラゲの真裏が見えてしまい双葉が絶叫する。

一方の俺はと言うと...

「あ、へークラゲの裏ってこんな感じなんだ。」

と、良くも悪くも大人な反応をしてしまった。

「ねぇ光輝さん、次行こ?ね?」

「はいはい、」

そうして次に向かったのはアザラシを始めとした寒い地域の生き物たちのゾーン。

「アザラシでか!」

(双葉楽しそうだなぁ)

「ラッコふわふわ!」

(あとで双葉にラッコのぬいぐるみでも買ってあげよう...)

「ホッキョクグマこえーー!」

(わかるよ、怖いなら抱きしめてあげようか?)

「ペンギン泳ぐの早っ!」

(いつか一緒にプール行こうね...)

(あー双葉かわいっ!!!)

双葉の可愛い反応に合いの手を入れるように俺は心のなかで双葉の可愛さを語っていた。

そして時刻はお昼ごろ、正直俺は全くお腹が空いていない。

「双葉、もうお昼だけどどうする?俺は別にいらないけど。」

「僕も要らないや、お腹すいてないし。」

「じゃあ後で甘いものでも食べに行こうか?」

「いく!」

「じゃあ次は俺が行きたいところ行っても良い?」

「もちろん!」

俺はこの水族館の隠れ名物だと勝手に思っているエビやカニ、ウニや貝類などのミニ水槽を見に行くことにした。

「うわ、すげえ。貝が泳いでる!!」

双葉も割りとこういうとこ好きなんだな。

「ね、意外と早く進むよね。」

「いつまでもみてられそー...」

その言葉通り双葉と俺はこのゾーンだけで1時間以上も潰していた。

「...光輝さん、そろそろ次行こ?」

「あ、あぁごめん。行こうか。」

「その前に喉乾いた!」

「じゃあ水族館の中のカフェ行く?」

「行く!」

カフェに着いて注文を済ませた。

俺は相変わらずの珈琲と気分でバニラアイス、双葉はレモネードとチーズケーキにした。

5分くらい待つとすべて揃ったので食べることにした。

「どう双葉、おいしい?」

「うん!美味しいよ、光輝さんもちょっと食べる?」

「じゃあひと口貰おうかな?」

「うん、いいよー。はい、あーん」

「へ?」

「いいからあーんしてってば。」

「あ、あー」

「はい、どうぞ。」

そう言われ俺の口の中にはチーズケーキが入れられた。

なんとも恥ずかしいが幸せな気分になる。

「おいしい?」

「うん、おいしいよ。双葉もアイス食べる?」

「うん食べる!」

「じゃ、双葉。あーんして?」

「あーん」

かわいい口の中が恥ずかしげもなくさらされている。

思わず見惚れそうになったが社会人の根性と忍耐力で耐え、アイスを口の中に放り込んだ。

「んー、おいしい!!」

「よかった、珈琲飲む?バニラアイスと結構合うんだよ。」

「うん、飲む!」

双葉のかわいい唇に挟まれるストローに目が行く...

「やっぱり苦い!でも前よりは苦くない、飲める!」

「お、よかったじゃん。でもそれ以上は俺の分がなくなるからだめー」

2口目、3口目を飲もうとしていた双葉を制し珈琲を奪還する。

「えーまだ飲みたかったのに、」

「後でまた珈琲分けてあげるから、帰り道に俺飲むし。」

「約束だよ?」

「はいはい、」

そうして俺達はカフェを出てイルカショーを楽しんだり大きな魚を見たりして楽しんだ。

最後にはもちろんお土産も買って帰った。

俺は自販機で買った珈琲とお土産を両手に、双葉はラッコのぬいぐるみとペンギンのぬいぐるみを大事そうに両手で持っていた。

自分にお金を使うのは億劫だがかわいい恋人に使うのなら話は別だ、普段使わない分を存分に双葉の想い出へとつぎ込んだ。

帰りの車の中では双葉は珈琲を飲んでいたにも関わらずぐっすりと眠っていた。

飲んでいた、と言っても昼頃の分と合わせても5口くらいしか飲ませてないが。

小さい頃のカフェインってあんまりよくなさそうだしね。

そんなこんなで俺達の初デートは幕を下ろした。



「...光輝しゃ、だいすき」

そんな可愛らしい寝言が聞こえたもんだから俺も返しておいた。

「俺も大好きだよ、双葉。」
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