R15恋愛小説【創作男女】

涼しい秋風

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【創作男女・ファンタジー】この国で1番強い女騎士は国王と夜を共にする【※性的表現あり】

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 草木も休まるほど平和な国、エルンドゥリッヒ王国には代々語り継がれ行われてきた掟がある。
 その国で最も強い女騎士と国王が夜の関係を結ばないといけないというものだ。
 エルンドゥリッヒ王国十五代目ヘレス国王陛下と相手をしなくてはならない、エルンドゥリッヒ王国騎士団第十五代目女総長エルフリーン女騎士はこの掟と事態に良い顔をしていなかった。
エル「はぁ…。」
 修練場の控室にて大きく溜息をつくと横に居た同僚が話しかけてくる。
「エルフリーン様、大丈夫ですか。」
 同僚といっても、エルフリーンは誰よりも格上の為、周りの全員が敬語を使ってくる。
エル「いや、あまり大丈夫ではない。どうしてこうなった…。」
 私、エルフリーンはずっと『二番手』で居たかった。二番手は楽だ。一番になるプレッシャーも無い、一番で居続けるプレッシャーも無い、比較的自由奔放に振る舞える。金色よりも銀色が好き。私は二番が好きだ。
 しかし、私の周りの者達は正直、全員弱かった。
エル「まさか自分が一番になってしまうなんて…。」
 そんな事をぶつぶつと呟きながら修練場控室を後にする。

ーーー

 夕刻、自宅で休んでいると城からの従者が数人やって来た。
「エルンドゥリッヒ王国騎士団女総長エルフリーン様でいらっしゃいますか。」
エル「はい、私がエルフリーンで御座います。」
「国王様との面会の夜となります故…御準備なさって下さい。」
エル「はい…。」
 なるべく顔に『嫌だ』と出さない様に私は荷物をまとめ、城へ向かう荷馬車へと乗り込んだ。
 ガタゴトと揺れる荷馬車の振動を感じながらまるで”ドナドナ”の様だと、肩を下ろす。
 城下町のそこそこ良い物件に住んでおり、城も近いのだから、徒歩で行っても良かったんだけどな。と考えつつも、そうもいかないか。と考え直す。
 荷馬車は直ぐに城の中へと入って行く。
 辿り着いた私は荷馬車から降り、地下の聖水室で手や顔、口を濯いでから化粧室へと向かわされた。
 化粧室では専門家がメイクアップしてくれるそうだ。今までメイクをするよりかは、土に塗れて修行をする方が多かったので変な感じがする。
 そんな事をあれこれ考えている内にメイクが完成したとの事だ。これが私の顔か。毛穴が目立たなくなっている気がする。皇室勤務のメイクアップアーティストともなると相当腕が良い…のだろう。私にはよく分からないが。
 その後は簡単な服に着替えさせられた。これは…綺麗な寝巻きの様だ。
「国王様は、本日の事をとても気にされていたのですよ。」
エル「…ええと、どんな感じで…ですか?」
 実の事を言うと私は国王陛下のお姿をあまり見たことが無い。そんな事を言ったら重罪になりかねないので口が裂けても言えないが。
 ただ思い返す記憶の中の国王は、私より一、二歳年下の男性で、黒髪、成人済みだ。
「国王様はエルフリーン様の事をとても良く思っていらっしゃるご様子で。とても…ソワソワした様な動きをされていました。」
 国王が。ソワソワ。へぇ…。
 何だかその返答がとても面白く思えた。これから一国を担おうという国王が。私を見てソワソワとな。
 ずっと気鬱だった国王との面会が少し楽しみになった自分が居て、はっと驚いた。
「さぁ、三階で国王様がお待ちです。」
 私は長めで綺麗な寝巻きの裾を踏まない様に膝下まで持ち上げて三階まで階段を登った。
 従者の女性が私のその姿をみて笑顔になる。
 静かな廊下を少し歩いて行く。柱と柱の間の窓から月明かりが差し込んでいる。
「此方のお部屋になります。」
 コンコン。
「国王様、失礼致します。エルフリーン様がいらっしゃいました。」
 私は薄暗い部屋の中へと入って行く。
「それでは、ごゆっくり…。」
 パタン。とドアが閉まる。
エル「国王陛下、この度はお招き頂き有難う御座います。」
 ヘレス国王陛下は立ち上がる。
ヘレス「これはエルフリーン殿、よくぞ参られた。どうぞこちらへお掛けになって下さい。」
 私と国王はフカフカのソファーへと座る。
 やはり私が思っていた通り、少し年下、もしくは同い年位の物腰柔らかそうな男性だ。黒髪で、国王になったばかりの初々しさも感じる。
 …腰掛けた私達の距離はやや近い。
ヘレス「ええと…。」
エル「はい。」
 少しの沈黙が流れる。
ヘレス「その…何をお話したら良いか、分からず…。」
エル「はぁ。」
 国王は人見知りなのか?いやしかし、以前より外交も行っていた筈だ。口下手な訳ではないと思うが…。
エル「…国王様は本日の事を大変気にされていたと。お聞きしましたが。」
ヘレス「えっ?!?!そ、そんな…もう!従者の噂ですね?全く…。」
エル「言わない方が良かったですか。」
ヘレス「あ、いえ…重罰にする訳ではないので構いませんが…いや、構わなくはないな…。」
エル「国王様は、私の姿を見掛けた事があるとお伺いしました。」
ヘレス「あ、はい。闘技場で勝ち抜いた際の試合等を拝見させて頂きました。…とってもお強いのですね。僕も稽古しているのですがあんなに猛々しくは…。あっ!すみません、今のは失言でした。」
 急に話し始めた国王を見て私は思わず笑顔を浮かべてしまう。
エル「構いませんよ。どんどん話して下さい。」
ヘレス「はい。」
 …何だかこれでは私が国王へ面会するのではなく、国王のカウンセリングを私がしているみたいだ。
ヘレス「実はその…エルフリーン殿は、私と会う事にあまり気が向かないのではないかと思っていたのです。」
エル「ん!んんー…まぁ…えーっと…。」
ヘレス「いえ、その反応が正しいと私は思っています。だって、おかしいでしょう?国で一番になった女性を娶るなんて。お相手の人権が無い。」
 …ほぉ、国王様もそんな事を考えていたのか。私は思わず感心する。国王の権力を活かしたお見合いだとばかり思っていた私は不意をつかれた。
ヘレス「国王に呼ばれたら、お相手は絶対に逆らえないでしょう?この制度がある国は、この国以外にも存在しているようですが、中には望まぬ妊娠をした方や、自己防衛しようとして国王を誤って殺してしまった挙句、身元が不明になった方もいらっしゃるそうです。私は、この掟を廃止する王になりたい。」
 ふと、王がハッ!とする。
ヘレス「あ!すみません、僕…僕の事しか考えていない様な話をしてしまって…。」
エル「いいえ、構いません。お話が面白いので。私だったら、絶対にそんなヘマはしません。」
ヘレス「ヘマ?」
エル「先ず望まない妊娠へは持ち込みません。しっかり断ります。人権を主張します。自己防衛もしっかりします。でも、相手を間違えて殺す様な不器用な事はしません。身元も不明になりません。追手は全て退却させます。この国で一番強い私が全力を尽くすので。」
 国王は驚いた表情で此方を見る。
ヘレス「しっかり…していらっしゃるのですね…。」
エル「そうでしょうか?自身の身を守る為です。」
 この国に警護団や騎士団は存在するが、王の命令には逆らえない。ならば自分で何とかするしかないのだ。
ヘレス「しっかり、というか…堂々としていらっしゃる。こんな方には初めてお会いしました。」
エル「私はこの国で一番強い騎士です。ですが、同時に一人の人間でもあります。私は、国王陛下の事を国王様だとも思っていますが、同時に一人の人間だとも思っています。偶々産まれたのが皇室であったというだけで。…この話は不愉快でしたか?」
ヘレス「…いいえ。」
 国王は驚き続けながら私に同意を向けてくれた。
エル「でも何と言うか…歳が近いから話しやすい感じがありますね。これで歳の離れた小太りのおじさんだったら亡命していたかもしれません。」
ヘレス「わ…気を付けないと。」
 ……。…体型の事か?
エル「運動していれば問題ありませんよ。というか陛下、そんなに気が多いのですか。」
ヘレス「ちっ!違いますよぉ!」
 私は思わず吹き出し笑ってしまう。
エル「ハハハ!フフフ…。」
 陛下はやはり歳下の男の子だ。国王という立場でありながらも就任したてで、覚束ない、頼りない、しかし、そこが良い。話しやすい。
エル「陛下が話しやすくて助かります。」
ヘレス「そうですか?…エルフリーン殿が気さく過ぎるのです。僕は、一応国王なのですよ。」
エル「失礼致しました。」
ヘレス「構いませんが…。」
 少しの間無音の空気が流れる。
ヘレス「エルフリーン殿は夜を共に過ごすのは嫌ですか?」
エル「最初は…かなり気後れしました。この国の大半が人生の中で直接お会いする事などほぼ無い方とそのような事を、と。」
ヘレス「今も、嫌ですか。」
エル「今は…嫌、とまでは言いません。話していて楽しいですし。ですが、交わるのには、抵抗があります。」
ヘレス「交わる、という言い方は…何と言うか、えっち…ですね。」
エル「えっち。」
 えっち。
エル「えっち…ですか。えっち…。」
ヘレス「さ、三回も言わないで下さい。」
 ふと陛下の方を見てみると、国王の耳と頬が真っ赤になっていた。
 私はその時に、理解をした。
 ああ、この国王は性経験が乏しいのだ、と。
 私はふと、この頼りない国王を揶揄いたくなってしまった。
エル「陛下は私の事を好きでいらっしゃるのですか。」
ヘレス「す…へえっ?!」
 私は挙動を見守る様にじっと陛下を見る。
ヘレス「……。」
 長い沈黙が部屋を流れる。初めは薄暗いと感じた部屋も目が慣れてきた。うっすらとカーテンから漏れる月明かりが入り、ぼんやりと広い空間が見える。整った清潔な部屋だ。私は丁重に迎えられた事になる。
ヘレス「本当の事を申し上げても…。」
エル「はい。」
ヘレス「私は、確かにエルフリーン殿の事が好きなのだと思います。戦っているお姿も、今日この服装で来て頂いたお姿も、とても強く、逞しく、それでいて凛々しく、可愛い、とも。」
 “かわいい”?!私は慣れない単語に心の中で驚く。
ヘレス「是非とも、夜を共にしたいと…想像した事もあります。しかし、立場が違う事もありますし、だからといってこの様に掟というものを使って呼び出すのも、自分の中で納得がいかないのです。」
エル「陛下は…真面目過ぎませんか?」
ヘレス「よく言われます。」
エル「では…逆に考えてみては如何でしょう?」
ヘレス「逆に…とは?」
エル「掟を執行する為に、私が全力を尽くしたと。つまり私が陛下を娶る為に。」
 調子に乗って座っている陛下の正面にのし掛かる様に座る。
ヘレス「え、エルフリーン殿。」
エル「陛下、胸を触った事は?」
ヘレス「は…」
エル「私はあります。」
 と、国王の胸元を触ってみる。少しの振動が心臓へ近づく度に大きくなっていく。動悸が激しくとても緊張している様だ。
ヘレス「エルフリーン殿…。」
エル「エルフリーンという名前、長くて呼び難いのでは?エル、で構いません。」
ヘレス「エル…殿。」
 ごくり、と唾を飲み込むと王は言う。
ヘレス「エル殿は少し、その、積極的過ぎます。急に色々するのは、その…。あ!」
 私はもっと調子に乗って陛下の下半身に触れてみた。
ヘレス「エル殿!…いけません、これでは…その…でも、はぁ。」
 緊張して喋れない国王を前に、私はふと触れるのを止めてみる。
 …実を言うと、ここまで誘惑しておきながらも、私自身も性行為には乏しいので、ここからどうするかは考えていなかった。
 相手がどうにも可愛く思えてきたので、思わず調子に乗ってしまった。
ヘレス「エル殿…もう少し…触れていただいても…宜しいでしょうか…。」
エル「陛下、では私にご教示下さい。私にして欲しい事を、教えて下さい。」
ヘレス「…。」
 ふと無言の空間が生まれる。
ヘレス「分か…りません…。」
エル「じ、実を言うと…私も…。」
ヘレス「ええっ?!こんなに誘っておいてですか!?」
エル「すみません、陛下が可愛くてつい…。」
ヘレス「…馬鹿にしていらっしゃるのですか。」
エル「そんな事はありません。」
 私は「違います」と強く訴える様に返事をする。
エル「陛下は可愛過ぎるのです、いつどんな者に襲われてもおかしくはありません。」
 私は何を口走っているのだろうか?やや暴走気味の感情に後からじわじわと自己嫌悪がやって来る。
エル「いえ、すみません。ちょっと…今日の私はおかしいのです。頭を冷やしてきます。」
 陛下の前から立ち上がり部屋を後にしようとした私の手を陛下が掴む。
ヘレス「待ちなさい。」
 陛下がとても真剣な顔で引き留めたと思ったら「はっ」とした顔で手を離す。
ヘレス「あ…すみません。」
エル「いえ…私こそ図に乗りました。申し訳ありません。」
 気不味い空気が二人の周りを包む。お互いに顔を合わせたくない様な、そんなオーラがお互いから出ている。
 そこのオーラを断ち切ったのはヘレス国王の方だった。
ヘレス「エル殿、私は、やはりあなたの事を好いている、しかし、突然色々な事をするのは気後れします。だから、何度か此処へ遊びに来てはもらえませんか。」
エル「国王陛下の命令であるのなら断れませんね…。」
ヘレス「国王…としてでもあるのですが、私個人としてのお願いでもあります…。」
エル「好きな女の子と話がしたいと。」
 国王は顔を赤くして答える。
ヘレス「そういう、事になりますね…。」
エル「ふふふふふ。」
エル「陛下、可愛いですよ。私は…実は今日、とても嫌々此処へ参りました。しかし陛下と話して気が変わりました。陛下は愛おしい。この掟は国の呪いだとすら思っていました。でも絶好の巡り合わせとも言えます。これは御縁です。」
 私は思わず目を輝かせて話してしまう。陛下はそれを驚いた様に見ている。
エル「陛下がお望みであれば、此処へと参りましょう。」
ヘレス「本当ですか。」
エル「ええ。」
 国王陛下の顔がみるみるうちに驚きと喜びへと変わる。
ヘレス「ありがとう、ございます。」
エル「陛下、一つ提言を。」
ヘレス「?」
エル「私達は、おそらく両思いなのでしょう。それを、お忘れなく…。」
 ヘレス国王は顔を赤くしながらも、真剣な眼差しで此方を見ている。
ヘレス「はい。」
 凛とした返事が心に響く。
エル「えーっと、それでは、私は…これからどうすれば。」
ヘレス「ええと…もう夜も更けておりますので、城へ泊まられてはどうでしょう。私は自分の部屋で眠りますので。」
エル「それでは従者の方に白い目で見られるのでは?」
ヘレス「う…言われてみれば確かに…。」
エル「では、この部屋でお泊りしましょうよ。二人で。」
ヘレス「お泊まりというか私はこの城が自宅なのですが。」
エル「そこ…?」
  二人で他愛無い話をしながら布団へ寝転ぶ。
 私達は、掟により人生を破壊され、掟により関係が生まれた。
 これは悲しむ事か、喜ぶ事か、それを決めるのは至って本人達のみである事を、我々は悟った。
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