続きを書かない物語

日八日夜八夜

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閑かなる午後

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 ころり、ころり。
 玉はマイペースに転がって行く。

 わたしはそれを追って呑気に歩いていた。
 閑かな午後である。道の両側には限りなく青田が広がっている。

 閑か過ぎる午後である。全く人気がない。
 虫や鳥すら鳴いていない。

 やや嫌な予感がして、前方に視線を戻したならば。
 案の定、玉はピタリと静止していた。

 わたしは頭を抱えて屈みこむ。
(せっかくしばらく楽できると思ったのにッッ!)

 人が死にかけても助けもしないくせに、何だって運命は休む間もなく難題をふっかけてくるんだ!!

 頭の中にほほ、と優雅に口に手をあて笑う細目の女が浮かぶ。

 よもやあの女、わたしと結婚するのが嫌さに全て仕組んでいるのではなかろうな。
 疑惑がむくむく湧いてくる。

 恨めしくじっとり玉をめつけてやったが、やはり効果はなく静止したままだ。

 ああ、また普通の人間では手に負えそうもない化け物が現れるのか。
 極めて普通の、何なら数年前まで死病を患っていた普通より体力のないわたしが徒手空拳でなんとかしなければならないのか。

 玉の後をついて歩き、既に死地に陥ること三度。
 いい加減、運良く生き延びた自分の命を目一杯いたわる頃合いではなかろうか。
 しかし、始めたら終わらせねばならない儀式であるとは、散々言われたことである。

 吐息しか出てこない。

相も変わらず、日の燦々と降り注ぐ午後である。
 やれやれと立ち上がる。
 
 人は見当たらないから、何が出てくるものやら情報収集は望めない。
 ものによっては夜まで待つ羽目になるかもしれない。

 動かなくなった玉を懐に入れてぶらぶら歩き出す。
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