続きを書かない物語

日八日夜八夜

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対峙

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「ええい、化けるならさっさと化けやがれ!! やるんならさっさとやりやがれ!! いい加減、手順を踏むにも飽き飽きしてるんだ! 
 
 美童が首を傾げる。
「僕は化けないよ。母さまも」

 鵜呑みにはしないが、一応情報収集を試みる。
「じゃあ、父親や兄弟は?」
 相手にする数は確認したいところだ。

 童は目をしばたかせる。
「父親? なに、それ」
 抱えている黒い筒を撫でる。
「姉さんならいるよ。キレイで可愛い姉さん」

「……」
 その筒の中に?

 桐だんすの中から死体を背負った婆さんが出てきたこともあったから否定する気はさらさらないのだが。
 とりあえず、このガキと筒の中の姉と母親か。

「母親はどこに?」
 美童が不思議そうにまじまじとわたしを見つめる。
 
 もう一度辺りを確認するが、紫空の下の湿原で、草がカサカサと風に揺れてすれあうだけである。

「他の人たちは?」
 子どもは答える気配もなく、不満そうに口を尖らせる。
 質問責めが不快だったか。

 わたしはやむなく、機嫌良く答えていた話題に戻る。
「姉さんとは仲良し?」

 相手は分かりやすく、非常に嬉しそうにうなずいた。
 化け物の姿形は当てにならないが、年齢相当の中身に思える。

「いつもなにして遊ぶの? 年は離れてる? 好きなものと嫌いなものは? そんなに綺麗な姉さんなんだ?」

「姉さんはねとっても白くて柔らかくてむにゅむにゅなの。中身は赤くて下は黒くて。触るとさらさら」
 話はつかめんが、子どもが前のめりになってペラペラと喋り始める。しめしめ、そのまま良き情報源となれ。

「それでね、お外が好きでね、何度も何度も言うことを聞かないから母さんにお仕置きされちゃったの。姉さんはとってもとってもよい子になったの、おとなしくて可愛い子になったの。姉さんは黒の箱の中は嫌いなんだけど、とってもおとなしくしてる。もうお話もしてくれない」

「坊やは姉さんが大好きなんだねえ」
 美童は目を煌めかせて答える。
「うん! 僕、姉さん大好き! だって、とってもとっても」
 思い出したように舌なめずりする。
「美味しいんだもの!」

 この先、嫌な展開にしかならない決定打をもらったようだ。
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