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第2話 地球外生命体、襲来
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美紅は英明の目に手をかざすと、彼の瞼をそっと閉じた。
英明くん。 さっきまで私たち両想いだったのに。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
一旦、現状を整理するとこういうことになる。
突然紅い光であたりが包まれて、意識を失ってしまった。
目を覚ますと美紅、鏡花、英明は老化しており英明は既に亡くなっていた。
先程の紅い光に原因があるには違いないのだが、このような光線については
化学が好きな美紅にも雑学好きの鏡花にも全くの無知であった。
放射線? いや放射線は目には見えないはずだし老化するなんて
聞いたこともない。
もしくは紫外線か? 光老化という現象は耳にしたことがある。
でも私たちの肌が老化したというよりも、年齢そのものが老け込んでいるのだ。
では、チェレンコフ光? いや違う。 チェレンコフ光は青色だ。
美紅は暫く思考を巡らせていたが、皆目見当もつかなかった。
すると、それを見かねて鏡花が言った。
「ねえ。とりあえず家に帰らない? ウチのパパとママは仕事に行ってるから
いないんだけどさ。美紅の家にはお母さんがいるでしょ?
あと、テレビとか見てみたらなにか情報が分かるかもしれないじゃん」
「鏡花ちゃん。うん。その通りだね。ここで悩んでいても答えが
見つかるわけじゃないし。いったん帰ろう」
2人は美紅の家まで小走りで急いだつもりであった。
しかし、寄る年波に抗えるものではない。
少なくともいま、2人は老婆なのだ。
実際にはヨボヨボとあちらこちらふらつきながら、家路についた。
美紅の家は住宅街の一角にあるため、帰宅途中に幾つもの家の前を通り過ぎたが
どこの庭の植物も大半が枯れ果てており、犬を飼っている家では
犬小屋の中で老犬たちが静かに息を引き取っていた。
また、野良猫や小鳥たちの遺骸もあちらこちらに散らばっていたが、やはり
そのどれもが老衰による死であることが窺えた。
「もしかして、ウチらだけに起こったことじゃないのかな」
「うん。そうかもしれないね」
美紅は自分の母親が亡くなっているのを発見したときのことを想像すると
不安で堪らず、今にも泣きだしたい心持ちであった。
やっとのことで、2人は美紅の家の前までやってきた。
然しながらそれはもはや、美紅にとって帰るべき場所ではありようもなかった。
正確に言うならば、家そのものは依然と何ら大差ない。
新築の戸建てで十数年ほどしか経っていないためか、未だ真新しい面影を
残してさえいる。
著しく変化しているのは、庭であった。美紅の母親はガーデニングが趣味の
専業主婦であり、暇さえあれば庭いじりに精を出していたものだった。
美しい花々で彩られ、トマトやナスなどの家庭菜園で構成されていた
自分の家の庭が、美紅は大好きだったのだ。
それが、この有り様である。
輝かしい香りとかぐわしい花弁で今朝もお嬢様の気分にさせてくれた薔薇は
無残にも散り散りになり、茶色くくすんだ茨の棘からは痛々しささえも
感じられた。
美紅は家の門の前で立ちすくんでしまった。
お母さんも、もしかして。
嫌な勘というものは、十中八九的中するものなのだ。女の勘という言葉が
示すように、ときに女性の第六感は驚異的な予言能力を発揮することがある。
「さ。中入ろう。ここにいたって何にも始まらないしさ。
大丈夫。美紅のお母さんも呑気に昼寝でもしてるかもしれないよ」
鏡花はそんな美紅を見て一瞬ためらいの色を見せながらも
努めて殊更に朗らかな声で励ましの言葉をかけるのだった。
美紅は、自分と同じ境遇にありながら気丈に振る舞う鏡花の姿に
背中を押されるように門を開いた。
そして、母親の無事を自分に言い聞かせるよう力一杯に鍵を回すと
薄暗い家の中へと入っていった。
リビングへいくと、テレビがつけっぱなしになっていた。
母親の気配は感じられない。
「ちょっと!! 美紅これ見てよ」
カチャカチャとリモコンでチャンネルをいじくり回していた鏡花が
叫ぶように美紅を呼び止めた。
促されるままテレビの画面を見た美紅の視界に、世にも恐ろしい
光景が飛び込んできた。
それは生放送のニュースチャンネルであった。
ニュースキャスターやゲストが半円状に並んで座り、様々なニュースに
ついて下らない議論で時間を空費する、
裕福な専業主婦御用達の暇つぶし番組だ。
キャスターやゲストはたしかに席に座っていた。しかし、それは
先ほどまで呼吸をしていた人間とは思われない、物体であった。
干乾び切ったトカゲのような格好で肢体を投げうった骸を
見た美紅は、思わずその場で嘔吐してしまった。
鏡花が美紅の背中をさすっていると、突然テレビが付かなくなった。
それどころか、リビングの灯りも消えてしまったのだ。
「美紅、大丈夫? 停電かな」
「うん。平気。平気だから。お母さんを探そう」
ただでさえ正気を保っているのがやっとの満身創痍な状態で
母親の遺体に遭遇しようものなら心臓麻痺でも起こすのではないか。
鏡花は少しでも美紅の気を紛らわそうとしたが
以外にも美紅は冷静に、現実的な話を持ち出してきた。
「鏡花ちゃん。さっきのテレビの人たち、かなり老化が進んでたみたいだね。
最近ニュースでやってた、世界最高齢のおばあさんがいたでしょ。
あの人を更に老けさせたような感じだったね」
そう、たしかにテレビの出演者は人間の、生物としての限界に
打ちのめされたように見えたのである。
「あと、さっきテレビだけじゃなく家の灯りも消えたでしょ?
それは多分電力会社のひとも同じような目にあって、死んじゃったんだと
思う。だから電気そのものが止まったんだよ」
美紅がここまで冷静であったのは、先ほど家の門の前で感じた
女の勘が、母親の死に対してのものではなかったことを鋭敏な直感で
感じ取ったからであった。その証拠に、母親がつい直前まで
座っていたであろう椅子からは、生身の人間のぬくもりが残留していたのだ。
お母さんはまだ生きてる。 でもどこに行ったの?
美紅の勘は、やはりある意味ではあたっていた。
外で老婆の叫び声が聞こえる。
「嫌あああ。許してくれべさ。おかっちゃん、おとっちゃん、助けてぇ」
この独特な方言の訛りを私はどこかで聞いたことがある。
そうだ、新学期に地方から転校してきた、春子ちゃんだ。
美紅と鏡花は顔を見合わせ頷きあうと、そっと家の窓から
外の様子をうかがった。
得体のしれない生物が、春子と思わしき老婆の周りを
取り囲んでいたのであった。
英明くん。 さっきまで私たち両想いだったのに。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
一旦、現状を整理するとこういうことになる。
突然紅い光であたりが包まれて、意識を失ってしまった。
目を覚ますと美紅、鏡花、英明は老化しており英明は既に亡くなっていた。
先程の紅い光に原因があるには違いないのだが、このような光線については
化学が好きな美紅にも雑学好きの鏡花にも全くの無知であった。
放射線? いや放射線は目には見えないはずだし老化するなんて
聞いたこともない。
もしくは紫外線か? 光老化という現象は耳にしたことがある。
でも私たちの肌が老化したというよりも、年齢そのものが老け込んでいるのだ。
では、チェレンコフ光? いや違う。 チェレンコフ光は青色だ。
美紅は暫く思考を巡らせていたが、皆目見当もつかなかった。
すると、それを見かねて鏡花が言った。
「ねえ。とりあえず家に帰らない? ウチのパパとママは仕事に行ってるから
いないんだけどさ。美紅の家にはお母さんがいるでしょ?
あと、テレビとか見てみたらなにか情報が分かるかもしれないじゃん」
「鏡花ちゃん。うん。その通りだね。ここで悩んでいても答えが
見つかるわけじゃないし。いったん帰ろう」
2人は美紅の家まで小走りで急いだつもりであった。
しかし、寄る年波に抗えるものではない。
少なくともいま、2人は老婆なのだ。
実際にはヨボヨボとあちらこちらふらつきながら、家路についた。
美紅の家は住宅街の一角にあるため、帰宅途中に幾つもの家の前を通り過ぎたが
どこの庭の植物も大半が枯れ果てており、犬を飼っている家では
犬小屋の中で老犬たちが静かに息を引き取っていた。
また、野良猫や小鳥たちの遺骸もあちらこちらに散らばっていたが、やはり
そのどれもが老衰による死であることが窺えた。
「もしかして、ウチらだけに起こったことじゃないのかな」
「うん。そうかもしれないね」
美紅は自分の母親が亡くなっているのを発見したときのことを想像すると
不安で堪らず、今にも泣きだしたい心持ちであった。
やっとのことで、2人は美紅の家の前までやってきた。
然しながらそれはもはや、美紅にとって帰るべき場所ではありようもなかった。
正確に言うならば、家そのものは依然と何ら大差ない。
新築の戸建てで十数年ほどしか経っていないためか、未だ真新しい面影を
残してさえいる。
著しく変化しているのは、庭であった。美紅の母親はガーデニングが趣味の
専業主婦であり、暇さえあれば庭いじりに精を出していたものだった。
美しい花々で彩られ、トマトやナスなどの家庭菜園で構成されていた
自分の家の庭が、美紅は大好きだったのだ。
それが、この有り様である。
輝かしい香りとかぐわしい花弁で今朝もお嬢様の気分にさせてくれた薔薇は
無残にも散り散りになり、茶色くくすんだ茨の棘からは痛々しささえも
感じられた。
美紅は家の門の前で立ちすくんでしまった。
お母さんも、もしかして。
嫌な勘というものは、十中八九的中するものなのだ。女の勘という言葉が
示すように、ときに女性の第六感は驚異的な予言能力を発揮することがある。
「さ。中入ろう。ここにいたって何にも始まらないしさ。
大丈夫。美紅のお母さんも呑気に昼寝でもしてるかもしれないよ」
鏡花はそんな美紅を見て一瞬ためらいの色を見せながらも
努めて殊更に朗らかな声で励ましの言葉をかけるのだった。
美紅は、自分と同じ境遇にありながら気丈に振る舞う鏡花の姿に
背中を押されるように門を開いた。
そして、母親の無事を自分に言い聞かせるよう力一杯に鍵を回すと
薄暗い家の中へと入っていった。
リビングへいくと、テレビがつけっぱなしになっていた。
母親の気配は感じられない。
「ちょっと!! 美紅これ見てよ」
カチャカチャとリモコンでチャンネルをいじくり回していた鏡花が
叫ぶように美紅を呼び止めた。
促されるままテレビの画面を見た美紅の視界に、世にも恐ろしい
光景が飛び込んできた。
それは生放送のニュースチャンネルであった。
ニュースキャスターやゲストが半円状に並んで座り、様々なニュースに
ついて下らない議論で時間を空費する、
裕福な専業主婦御用達の暇つぶし番組だ。
キャスターやゲストはたしかに席に座っていた。しかし、それは
先ほどまで呼吸をしていた人間とは思われない、物体であった。
干乾び切ったトカゲのような格好で肢体を投げうった骸を
見た美紅は、思わずその場で嘔吐してしまった。
鏡花が美紅の背中をさすっていると、突然テレビが付かなくなった。
それどころか、リビングの灯りも消えてしまったのだ。
「美紅、大丈夫? 停電かな」
「うん。平気。平気だから。お母さんを探そう」
ただでさえ正気を保っているのがやっとの満身創痍な状態で
母親の遺体に遭遇しようものなら心臓麻痺でも起こすのではないか。
鏡花は少しでも美紅の気を紛らわそうとしたが
以外にも美紅は冷静に、現実的な話を持ち出してきた。
「鏡花ちゃん。さっきのテレビの人たち、かなり老化が進んでたみたいだね。
最近ニュースでやってた、世界最高齢のおばあさんがいたでしょ。
あの人を更に老けさせたような感じだったね」
そう、たしかにテレビの出演者は人間の、生物としての限界に
打ちのめされたように見えたのである。
「あと、さっきテレビだけじゃなく家の灯りも消えたでしょ?
それは多分電力会社のひとも同じような目にあって、死んじゃったんだと
思う。だから電気そのものが止まったんだよ」
美紅がここまで冷静であったのは、先ほど家の門の前で感じた
女の勘が、母親の死に対してのものではなかったことを鋭敏な直感で
感じ取ったからであった。その証拠に、母親がつい直前まで
座っていたであろう椅子からは、生身の人間のぬくもりが残留していたのだ。
お母さんはまだ生きてる。 でもどこに行ったの?
美紅の勘は、やはりある意味ではあたっていた。
外で老婆の叫び声が聞こえる。
「嫌あああ。許してくれべさ。おかっちゃん、おとっちゃん、助けてぇ」
この独特な方言の訛りを私はどこかで聞いたことがある。
そうだ、新学期に地方から転校してきた、春子ちゃんだ。
美紅と鏡花は顔を見合わせ頷きあうと、そっと家の窓から
外の様子をうかがった。
得体のしれない生物が、春子と思わしき老婆の周りを
取り囲んでいたのであった。
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