悪役令嬢諸国漫遊記

清水裕

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閑話 平民主人公、過去を振り返る。

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「「ミス・メニーナ、王妃訓練を始めるザマ――「コンフュージョン!」――さあ、始めるザマスよ~~!!」」
 バンと力強くわたしに宛がわれてる部屋の扉が開けられ、オークやゴブリンのようにブサイクな顔をした意地悪なオバサン達が中へと入ってくる。
 だけどそんなオバサン達に対して、わたしは手を向けると同時に魔法を唱えた。
 今回は混乱の魔法にしておいた。すると混乱した意地悪オバサン達は互いの手をとってその場でダンスをし始めた。
 うっわ、気色悪いわね。
「はっ、誰がそんな面倒な勉強なんて受けますかっての! わたしは何もせずにムフェル様の隣に居たら何でもかんでも上手く行くんだから!!」
 気味の悪いダンスをするオバサン達を無視して、わたしは何時も通りムフェル様の元へと駆ける。
 ヒロインが恋人の隣に立っているのは、ゲームでは当たり前の事なんだから!!
 何時も通りムフェル様の執務室の前に立つと、力強く扉を開ける。すると、室内にやっぱり居た執事と文官のクソジジイどもがこちらを見たけれど、間髪いれずに先ほどと同じ混乱の魔法を使用した。
「コンフュージョン!! ムフェル様、迎えに来ました~♥」
「おお、待っていたぞシェーン! さあ、遊びに行こうか!!」
「はい♥」
 両手を広げながら喜ぶムフェル様へと抱きつくと、彼はわたしを抱きしめてグルグルと回り始めた。
 あはは、と言われたのでうふふと返し、しばらく二人の空間を創っていたけれどわたし達は遊びに出かけた。
 ちなみにムフェル様の執務室ではクソジジイどもが絶賛混乱中で、最後に見た時はこんな感じだった。
 執事のジジイはお茶を何処彼処にも淹れ始めていた。
「むほほ~~い、お茶ですぞ~~。美味しいお茶ですぞ~~~~!」
 文官のジジイは、積み上げられた紙をバッサバッサと倒していた。
「うががががーーーーっ!! 書類しょるいしょるいーーーーっ! 書類仕事ぉぉぉぉぉぉっ!!」
 色々と頭が可哀想な人にしか見えないわー。
 ま、わたしには関係ないけどね! それに、物語の主人公の恋路を邪魔をするからこうなるのよ!!

 ●

 わたし、シェーン・メニーナは生まれる前の記憶を持っている。
 シェーンとして生まれる前のわたしは、此処とは違う世界にある『地球』という惑星の日本という国に住んでいた。
 名前は覚えていないけれど、そこでわたしは高校生だった事は覚えている……なので、16か17辺りかな?
 まあ、兎も角……わたしの前世は眼鏡と髪がボサボサという地味で冴えない、パッとしない女の子だった。
 言いたい事もまったく言えず、周囲からはオタクと馬鹿にされて、家族にも趣味が理解されないでいたけれど……そんなのはどうでも良かった。
 わたしはわたしが楽しければそれで良いし、趣味を理解して欲しいとも思っていなかった。
 趣味、それはゲームをプレイする事だった。それも女性が主人公で男性を攻略して行くという乙女ゲームをだ。
「はぁ~、ムフェル様カッコよすぎだよ~。知的なリッチ君や、力が強いし悪役令嬢の家族なのに主人公には優しいフォース様も素敵だよ~~♪」
『シェーン、キミは俺が護る。だから俺に、全てをくれないか?』
『ふふっ、シェーンさん。どんなに金貨を積んだとしても、君を買い取ることなどできないだろうね』
『シェーン! 辛い事があったらオレに言えよ! 元々は家の馬鹿な妹が原因なんだからよ!!』
 今も人気がある声優が演じるイケメンボイスがスピーカーから流れ、24インチの液晶テレビには超人気イラストレーターが描いたイケメンな攻略対象達が笑いかけ、主人公とともに結ばれる幸せなハッピーエンドのイベントスチルが表示される。
「はぁ~、何週したとしても……『ドキ★キン』は最高よね~♥ わたしはハッズ国の攻略対象が一番好きだわ~」
 通称『ドキ★キン』こと『ドキドキ★ハーレムキングダム』はケイオスカンパニーが売り出した乙女ゲームのひとつで、この作品を皮切りにそのゲーム会社は色んな乙女ゲームを発売していった。
「『燃え♥ハン』も『キュン♪シス』も『チャン†ブシ』も面白かったけど、やっぱり初めの作品こそ至高だってわたしは思うのよね。うん」
 誰に言われたというわけでもないけれど、ひとり納得しながらうんうん頷く。
 ちなみにそれらはゲームの愛称でファンにはそれで伝わる。
 それなのに、ネットでは『ドキ★キン』はクソゲーだの、システム最悪だの、方向性がブレブレだの、悪役令嬢のほうが美人だのと色々とうるっさいのよね! こんなにも最高すぎるゲームだっていうのに!!
「もういっその事、わたしがシェーンになってハーレム主人公をやりたいってくらいよ!」
『良いね。だったら、新しい世界を楽しんでもらおうかっ!!』
「えっ!? だ、だれっ!? ――きゃっ!?」
 突如響いた声、そして眩い光に視界が潰された時、わたしは狭い個室……ネカフェのブースほどのサイズの部屋に居た。
 ただでさえ狭い部屋だというのに、部屋の真ん中には小さな机が置かれている。
 えっ、えっ? なに、なにこれ、いったいどういうことっ!?
『ようこそ、選ばれし者よ……ってね!』
「えっ? あんた、誰?」
 何時の間にか机に対面するように美少年(ここ重要)が座っていて、戸惑うわたしだったけれど……その美少年はニカッと歯を見せながら笑う。
 美少年の笑顔って、偉大よね。
『僕は神様さ!』
「は、はあ……神様?」
 正直胡散臭い、詐欺師の父親に変な感じに育てられた頭のおかしな美少年なのかしら?
『頭のおかしな、は余計だよ。ま、美少年な見た目だというのは認めるけどね!』
「っ!? こ、心を読んだッ!?」
『そうさ。あ、時間がないから手短に説明をするよ。おめでとう、君は選ばれた!』
 言いながら美少年な神様(暫定)は両手を挙げる。すると、何処からかパンパカパーンとファンファーレが鳴り響いた。
 突然の音にわたしはギョッとするけれど、そんなわたしの心境などお構い無しといわんばかりに話が進んでいく。
『これから君は異世界に旅立ち、第二の人生を送ってもらう事となる。何に転生するかは運任せだけど、基本的には人間に生まれるよ!』
「え、え、転生? え、ネット小説でお馴染みのっ!?」
『どんな世界かはこちらもよく分からない。だけど、君にはとっても楽しい世界かも知れないよ! それじゃあね~~!!』
 突然の言葉に戸惑いつつも、現実では起きない事を耳にし、わたしは興奮する。
 が、そんなわたしの心境をやっぱりお構いなしに、美少年神様は言うだけ言うと足元に穴を開けた。
「きゃ――きゃあああああああああ~~~~っ!!?」
 急に開いた真っ暗な穴に、わたしは悲鳴を上げながら真っ逆さまに落ちていく。
 そして『あ、死んだな……』と思った瞬間、わたしは産声を上げた。

「シェーン、可愛いわね~♪」
「きゃっきゃ、あぶあぶ♥」
「お、シェーンが笑ったぞ。ほ~ら、お父さんだぞ~~!」
 わたしがこの世界に産まれてから半年が経ち、赤ん坊だからかそれとも転生特典というやつなのか、聞こえてくるにわたしは毎日が幸せだった。
 当たり前だ。シェーンという名前、そしてハッズ王国という言葉……つまりは『ドキ★キン』の舞台にわたしは転生したのだ!
 しかも、シェーン……つまりは主人公。栄光の未来は待ったなし!!
 そんな喜びに満ちながら、わたしは段々と成長していった。
 元々のゲームの設定であったように、わたしは魔法の才能があったから簡単に魔法を使えるようにもなった。
 一度、覚えたての火魔法で森を燃やしてしまったけれどこんな子供に森を燃やせるわけがないという理由で、容疑者からは外された。
 現在の攻略対象の好感度を教えてくれるキャラクターとも友達となった。
 本人は会いに行く度に「誰が見知らぬお前と友人だ」と言っているけれど、照れ隠しよね♪
 そして14歳になると、魔法の才能を見込まれて平民として貴族達の通う学校に通えるようになったのでゲーム本編が始まったと理解した!
 とりあえず授業内容や色々は口煩い教師達が煩かったので、偶然を装った……所謂ゲームの出会いイベント風に出会ったムフェル様とのラブラブな日常ばかりを堪能した。
 その輪の中にリッチ君とフォース様も入って更に楽しくなったし、わたしのファンクラブが出来たりもした。
 その一方で、ムフェル様に会いに城のほうに向かうと、悪役令嬢であるパナセアが何時もわたしの邪魔をして、その度にムフェル様に会った時にこんな事をされたと報告をした。
 同じように報告を聞いたリッチ君とフォース様もわたしの為にと張り切って証拠を集め始めてくれて、無ければ創ればいいとも言ってくれた! 嬉しい♥
「ふふっ、もうすぐ……もうすぐ悪役令嬢が居なくなって、わたしとムフェル様、それにみんなとの楽しい毎日が始まるし、未来のハッズ国王妃になれる! あぁ~、本当楽しみだわ♪」
 みんなの前で捌かれ、狼狽するパナセアの顔が目に浮かぶわ!
 でも、気になる事があるのよね……。
 悪役令嬢のパナセアって、あんな地味で残念な体型だったかなぁ?
 それに、ミドルネームも……『S』だった? 違った気がするけど……、ま、別にいっか! パナセアはここで退場するんだからねっ!
 そう思いながら、わたしはもうすぐ来るハッズ王国ハーレムルートが確定するイベントを今か今かと待ちながら眠りについた。
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