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第十話 悪役令嬢、お話をする。
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「言い辛い事でもあるのですか? それとも、聖女さまがこんな廃れた孤児院から出たなどと言われるのが恥ずかしいと言われてお偉いさんが黙るように言いましたか?」
「それは……」
どうやらそう言われたようですね。わたくしがそう尋ねた瞬間、彼女はわたくしから目線を外したのが見えました。
こういう時は後ろめたい事も含まれているでしょうね。
彼ら権力を持っている駄目な人間がやりそうな事を挙げていきましょうか。
「……黙っている代償として、しばらくは孤児院の維持を約束すると言われた」
「っ!」
「しばらくは約束通り、維持をする為の資金が提供された。けれども、聖女さまが有名になるに連れて提供される金額が減ってきた。もしくは間隔が空くようになってきた」
「…………」
「一度、いえ何度か教会に赴いたけれど追い返された事が度々あると同時に、孤児達が乞食のような事をするようになってきた」
「…………~~~~っ!!」
孤児院を、孤児達を如何にか支える為に頑張っていたシスターですけれど、徐々に状況は悪くなっていくばかり。それでも彼女は頑張っていたのでしょうね。
そう思いながら、孤児院が抱えているであろう問題を上げて行くに連れてシスターはプルプルと震え出し、目には涙を浮かべ始めていました。
これは……ちょっと言い過ぎたでしょうか?
「うっ、うぅっ、どうしろっていうんですかぁ~~っ! アージョがこの孤児院に住んでいたっていうのを黙れと言われて、初めは嫌だと言いましたよ? でも、この子達を養う為のお金が必要でしたから、仕方なくも頷きましたよ! でも、少しずつお金が渡されなくなって変だなって思いつつも、教会に訊ねに言ったら「私は渡したぞ」と言ってて、仕舞いには「そんな約束などしたかなぁ?」ですよ? わたし達に何の恨みがあるっていうんですかぁ~~!!」
今まで頑張っていたのに報われなかったからでしょうか、シスターシスはボロボロと涙を流しながら全力で泣き始めました。
……なんと言いますか、お母様と近い年齢の女性が全力で机に突っ伏して泣くというのは……凄いものですね。
あと、何をしているのですかというカエデの視線が地味に痛いです。
「はぁ……、仕方ありません。顔を上げてくださいシスター」
「ぐしゅ……、バ、バナゼアざばぁ……!」
「働く女性の顔が台無しですわよ。さあ、涙を拭いてくださいな」
言いながらわたくしは出来る限り優しく微笑みながら、取り出したハンカチでシスターシスの涙を拭います。
グシュグシュと鼻水を啜りながら、彼女は涙を拭かれていき……こちらを見続けてきますので、慰めて差し上げましょう。
「シスター、いえ此処はあえてシスさんと呼ばせていただきましょう。貴女は頑張っていますわ。教わるべき人が居ない中、手探りで一歩ずつ進んでいって頑張って孤児達を育てているのですから」
「パ、パナセアさまぁ……。そんな事を言われたの、初めてですぅ……!」
「ええ、貴女の頑張りを理解しようとしていない者達が多いのです。けれど、貴女は精一杯頑張っていますよ。あの子達が悪事に手を染めないでいるのも貴女の頑張りがあってです」
わたくしの言葉にシスさんは再度ボロボロと涙を流しますが、彼女を褒めてあげます。
けれど、本当の事ですよね。ちゃんと孤児に愛情を持っていたから、スリや泥棒といった酷い行動に出る事はなかったのでしょうから。
そう言いながら再度わたくしはシスさんの涙を拭います。
「そ、そう言っていただけるど……、うっ、うれじいですぅぅぅ!」
「あらあら、泣き止んでください。貴女がこうだと他の子が心配しますわよ?」
もう一度涙を拭うと、シスさんはまるで神様を見るかのようにうっとりとした表情でわたくしを見始めました。
……まるで、わたくしに信仰を鞍替えしたかのように見えますね。いえ、シスターですから神に仕えているのですよね?
「パ、パナセア様、本当は……本当は言うべきではないと思うのです。ですが、ですがわたしは迷っています……どうすれば良いかを」
「言われた通りに従うべきか、それを無視してわたくしに包み隠さず話すべきかをですか?」
「はい、もしわたしが隠していた事を言ってしまえば、アージョの立場が悪くなるのではと思って……」
「別に良いのでは?」
「え……」
心配そうに語るシスさんを見ながら、わたくしはキッパリと答えます。
その返答にポカンとした表情でこちらを見てきますが、思っていた事をそのまま伝える事にしましょう。
「正直、貴女が護ろうとしていたとしても、向こうが先に仕掛けてきたのです。ですから、やられたらやり返せ、とはいきませんが向こうが先に裏切ったのですから黙っている必要なんてもうないと思いますよ?」
「……そう、ですね。わたしも、はっきりするべきでした。教会からも一方的に裏切られて、アージョもここには未練がない……いえ、どちらかというと潰したいようですから、あの子にはもう思い入れがないのだという事を」
シスさんは悲しそうに呟きながら下を向きましたが……、少しすると顔を上げてきました。
その顔は既に悩んでいる様子はなく、少しすっきりしているように感じられます。
「パナセア様、お話します。あの子達がここにやって来てからの事を」
「あの子達、というとセージョさんとアージョさんですね?」
わたくしの問いかけに、シスさんはこくりと頷きました。
さてさて、どんな話が聞けるでしょうか。内心ワクワクしながら話を聞きます。
「二人は、ある冬の日にこの孤児院の前に布に包まれた状態で捨てられていました。
赤ん坊の泣き声に気づいたシスターになる前のわたしと一緒に居た孤児達がそれを見つけて、神父様が何時ものようにうちで育てようと言いました。その頃から孤児は大勢居て生活が苦しかったけど、神父様は優しかったし教会からの助成金があったから……」
きっと優しい神父様だったのでしょうね。でも、ちょっとばかり優しすぎた……というところでしょうか?
そう思いながら彼女を見ていると……。
「二人はすくすくと元気に育って行きました。ですが、アージョは何と言うか……我侭な性格の上に、言ってる事がおかしかったんです」
「おかしかった……ですか?」
「はい、まだ当時は2歳だったにも関わらず、まるで世界のすべてを知っているといった感じの事を口にしたり……ちょっとわたし達にはよく分からない言葉を度々口にしていました。そして……」
昔を懐かしむようにシスさんは呟いていましたが、徐々にその表情は暗くなっていきます。
どうしたのでしょうか? いえ、多分聖女さまのロクでもない過去を思い出してでしょう。
「あの子は……ちゃんと血縁関係があるかは分かりませんけど、見た目からわたし達が双子だと思っているセージョに対してよく暴言を吐いていました。『お前は何も出来ないし、やれる事がない』とか『最後に選ばれるのはアタシなの! だからあんたは初めから要らないわけ!』と彼女の存在をバカにして否定し続けていました。
その度にセージョはぐすぐすとひとりで泣いていました」
「その結果、セージョさんは本当は頭は良いけれど自ら前に出る事もなければ、声も小さく話すのが上手くない、しかも強く言われると自分の意見は折れてしまう……内気過ぎる子供になってしまったわけですね?」
わたくしの言葉に、シスさんは頷きます。
「わたしと神父様が気づいた時には彼女は自分からは意見を出そうとはしない、友達の輪にも入らない……いえ、入れなくなっていました。この時ばかりは何時も温厚だった神父様も怒ってアージョを叱り付けたのですが、彼女は……」
「多分ですが、『アタシはしょうらいのせいじょなの! だから、アタシがなにをいってもいいの!』って言ったんじゃないのですか?」
「……あの、パナセア様は職業が預言者とか占い師なのですか? 言ってる事が本当に同じなんですけど……」
わたくしの言葉に驚いた表情を向けてくるシスさんですが、彼曰く『主人公になれなかった者は、自分がその場所を奪いたがる』らしいですからそう予想しただけです。
なので……。
「生憎とわたくしはその様な職業ではありません。ただ予想をしただけですよ」
「そ、そう、なのですか?」
「はい、ですので次の展開を予想させて頂きますが……、もしかして元々年老いていた神父様がお亡くなりになられるまではアージョさんは鳴りを潜めていたけれど、神父様が亡くなった途端にこの孤児院を抜け出していて、気づけば教会の方で聖女として崇められていたといったところでしょうか?」
「は、はいっ! なんでそこまで分かるんですかっ!? 神父様が亡くなられてしばらくしてから、わたし達全員で居なくなったアージョを捜しても全然見つからなくて……ですが、ある日突然教会から使者が現れたんです」
それで先ほどの話に繋がった。という事ですか。
そして彼女は自分がこの国が見とめた次期聖女だと周りに認めさせる事が出来たのでしょうから、お金を握らせて黙らせていた孤児院はもう無くても良い……というよりもあったら聖女さまが孤児だったと醜聞が残るでしょうし、消えて貰ったほうが速いですよね。
だとすれば次に仕掛けてくる可能性が高いのは……。そして、わたくしを見た聖女さまがどのような行動に移るかを短絡的な彼女達の思考を予測するならば……。
「あの、パナセア様……?」
「……シスさん、しばらくこの孤児院で寝泊りさせていただけ無いでしょうか?」
「え、ええぇ!? な、何故ですかぁ!? パナセア様は貴族ですから、このような所で寝泊りなどしなくても……」
わたくしの言葉に驚いたのか、シスさんはギョッとした表情でわたくしを見てきます。
まあ、本人が言う程に廃墟な感じにボロボロの建物に住まわせるのは気が引けるでしょうね。
当然後ろに控えていたカエデも信じられないとばかりにこちらを見ます。が、言葉を発するよりも先に黙っている様に後ろに回した手を動かし指示をします。
「多分ですが、ここ以外に泊まれる場所は既にないと思いますよ。聖女さまはわたくしを此処から追い出したいと思うでしょうし」
「えっ!? す、すみません。アージョが、本当にすみませんっ!!」
どういう意味か完全に理解していない、けれども彼女が関わっているという時点で謝るしかないと考えたのでしょうか、シスさんは勢い良く頭を下げてきます。
ちなみに教会の手引きで多分ですが、わたくしの宿泊は拒否するように仕向けているでしょうね。そこまで知能はありそうには見えなかったので、聖女さま(笑)ではなく別の側近とかが行っているでしょうが。
カオス商会の方は関係が無いようにしているので、問題はありません。というか、わたくしが会頭だとわかるのは余程の大物ぐらいでしょう。
「謝る必要はありません。貴女がたも彼女には迷惑を被っているのですから」
「パナセア様……」
「しばらくの間ですから、どうかよろしくお願いいたしします」
「わかりました。でしたら、神父様の部屋を使ってください。そこなら一番壊れていませんし、休めると思えます」
そう言って、シスさんは頭を下げて来ました。
そんな彼女へとわたくしも頭を下げます。礼節はやはり大事ですからね。
「ありがとうございます。このお礼は何時か返させていただきます」
お礼なんて、と申し訳なさそうにシスさんは言いますが問題が解決してからの最低限の保障はさせていただきますからね。
そんな事を思っていると、視線を感じ……そちらを向くと大人二人で話をしているのを不安そうに見る孤児達が居ました。
どうやら食べ物を食べるだけ食べれたようですね。そして、数名ほどはわたくしを警戒していますが当たり前ですよね。
だって、声は聞こえ難くても保護者が何度も頭を申し訳なさそうに頭を下げているのですから。
わたくしがチラリと孤児達を見ている事に気づいたのか、シスさんも同じように見ました。
「あの子達。みんな、パナセア様に食べ物を貰ったお礼を言いましたか?」
彼女の言葉にハッとしたのか、年長組が前へと進み出ると勢い良く頭を下げてきました。
彼らの真似をするように年少組も頭を下げてきます。
『『『あ、ありがとうございました。貴族様っ!!』』』
『『ありあとーございました。きぞくさま?』』
「どういたしまして。ですが、これからは自分達で稼ぐ為に働かないと行けないと思いますから頑張ってくださいね」
それを思い出したのか、孤児達の反応は様々だった。
面倒だと思う者、頑張ろうと意欲を出す者、なるようになれと思っている者、といったところでしょう。
けれど、働かないといけないという事を彼らは理解しないといけませんよ。
これからのシスターへの負担を減らす為に。
そう思っていると、突如ドンドンと力強く入口の扉が叩かれました。同時に……、
『もしも~し、そちらが貸した金を返してもらえませんかね~~?』
という声が聞こえて来ました。
借金取り、ですか?
「それは……」
どうやらそう言われたようですね。わたくしがそう尋ねた瞬間、彼女はわたくしから目線を外したのが見えました。
こういう時は後ろめたい事も含まれているでしょうね。
彼ら権力を持っている駄目な人間がやりそうな事を挙げていきましょうか。
「……黙っている代償として、しばらくは孤児院の維持を約束すると言われた」
「っ!」
「しばらくは約束通り、維持をする為の資金が提供された。けれども、聖女さまが有名になるに連れて提供される金額が減ってきた。もしくは間隔が空くようになってきた」
「…………」
「一度、いえ何度か教会に赴いたけれど追い返された事が度々あると同時に、孤児達が乞食のような事をするようになってきた」
「…………~~~~っ!!」
孤児院を、孤児達を如何にか支える為に頑張っていたシスターですけれど、徐々に状況は悪くなっていくばかり。それでも彼女は頑張っていたのでしょうね。
そう思いながら、孤児院が抱えているであろう問題を上げて行くに連れてシスターはプルプルと震え出し、目には涙を浮かべ始めていました。
これは……ちょっと言い過ぎたでしょうか?
「うっ、うぅっ、どうしろっていうんですかぁ~~っ! アージョがこの孤児院に住んでいたっていうのを黙れと言われて、初めは嫌だと言いましたよ? でも、この子達を養う為のお金が必要でしたから、仕方なくも頷きましたよ! でも、少しずつお金が渡されなくなって変だなって思いつつも、教会に訊ねに言ったら「私は渡したぞ」と言ってて、仕舞いには「そんな約束などしたかなぁ?」ですよ? わたし達に何の恨みがあるっていうんですかぁ~~!!」
今まで頑張っていたのに報われなかったからでしょうか、シスターシスはボロボロと涙を流しながら全力で泣き始めました。
……なんと言いますか、お母様と近い年齢の女性が全力で机に突っ伏して泣くというのは……凄いものですね。
あと、何をしているのですかというカエデの視線が地味に痛いです。
「はぁ……、仕方ありません。顔を上げてくださいシスター」
「ぐしゅ……、バ、バナゼアざばぁ……!」
「働く女性の顔が台無しですわよ。さあ、涙を拭いてくださいな」
言いながらわたくしは出来る限り優しく微笑みながら、取り出したハンカチでシスターシスの涙を拭います。
グシュグシュと鼻水を啜りながら、彼女は涙を拭かれていき……こちらを見続けてきますので、慰めて差し上げましょう。
「シスター、いえ此処はあえてシスさんと呼ばせていただきましょう。貴女は頑張っていますわ。教わるべき人が居ない中、手探りで一歩ずつ進んでいって頑張って孤児達を育てているのですから」
「パ、パナセアさまぁ……。そんな事を言われたの、初めてですぅ……!」
「ええ、貴女の頑張りを理解しようとしていない者達が多いのです。けれど、貴女は精一杯頑張っていますよ。あの子達が悪事に手を染めないでいるのも貴女の頑張りがあってです」
わたくしの言葉にシスさんは再度ボロボロと涙を流しますが、彼女を褒めてあげます。
けれど、本当の事ですよね。ちゃんと孤児に愛情を持っていたから、スリや泥棒といった酷い行動に出る事はなかったのでしょうから。
そう言いながら再度わたくしはシスさんの涙を拭います。
「そ、そう言っていただけるど……、うっ、うれじいですぅぅぅ!」
「あらあら、泣き止んでください。貴女がこうだと他の子が心配しますわよ?」
もう一度涙を拭うと、シスさんはまるで神様を見るかのようにうっとりとした表情でわたくしを見始めました。
……まるで、わたくしに信仰を鞍替えしたかのように見えますね。いえ、シスターですから神に仕えているのですよね?
「パ、パナセア様、本当は……本当は言うべきではないと思うのです。ですが、ですがわたしは迷っています……どうすれば良いかを」
「言われた通りに従うべきか、それを無視してわたくしに包み隠さず話すべきかをですか?」
「はい、もしわたしが隠していた事を言ってしまえば、アージョの立場が悪くなるのではと思って……」
「別に良いのでは?」
「え……」
心配そうに語るシスさんを見ながら、わたくしはキッパリと答えます。
その返答にポカンとした表情でこちらを見てきますが、思っていた事をそのまま伝える事にしましょう。
「正直、貴女が護ろうとしていたとしても、向こうが先に仕掛けてきたのです。ですから、やられたらやり返せ、とはいきませんが向こうが先に裏切ったのですから黙っている必要なんてもうないと思いますよ?」
「……そう、ですね。わたしも、はっきりするべきでした。教会からも一方的に裏切られて、アージョもここには未練がない……いえ、どちらかというと潰したいようですから、あの子にはもう思い入れがないのだという事を」
シスさんは悲しそうに呟きながら下を向きましたが……、少しすると顔を上げてきました。
その顔は既に悩んでいる様子はなく、少しすっきりしているように感じられます。
「パナセア様、お話します。あの子達がここにやって来てからの事を」
「あの子達、というとセージョさんとアージョさんですね?」
わたくしの問いかけに、シスさんはこくりと頷きました。
さてさて、どんな話が聞けるでしょうか。内心ワクワクしながら話を聞きます。
「二人は、ある冬の日にこの孤児院の前に布に包まれた状態で捨てられていました。
赤ん坊の泣き声に気づいたシスターになる前のわたしと一緒に居た孤児達がそれを見つけて、神父様が何時ものようにうちで育てようと言いました。その頃から孤児は大勢居て生活が苦しかったけど、神父様は優しかったし教会からの助成金があったから……」
きっと優しい神父様だったのでしょうね。でも、ちょっとばかり優しすぎた……というところでしょうか?
そう思いながら彼女を見ていると……。
「二人はすくすくと元気に育って行きました。ですが、アージョは何と言うか……我侭な性格の上に、言ってる事がおかしかったんです」
「おかしかった……ですか?」
「はい、まだ当時は2歳だったにも関わらず、まるで世界のすべてを知っているといった感じの事を口にしたり……ちょっとわたし達にはよく分からない言葉を度々口にしていました。そして……」
昔を懐かしむようにシスさんは呟いていましたが、徐々にその表情は暗くなっていきます。
どうしたのでしょうか? いえ、多分聖女さまのロクでもない過去を思い出してでしょう。
「あの子は……ちゃんと血縁関係があるかは分かりませんけど、見た目からわたし達が双子だと思っているセージョに対してよく暴言を吐いていました。『お前は何も出来ないし、やれる事がない』とか『最後に選ばれるのはアタシなの! だからあんたは初めから要らないわけ!』と彼女の存在をバカにして否定し続けていました。
その度にセージョはぐすぐすとひとりで泣いていました」
「その結果、セージョさんは本当は頭は良いけれど自ら前に出る事もなければ、声も小さく話すのが上手くない、しかも強く言われると自分の意見は折れてしまう……内気過ぎる子供になってしまったわけですね?」
わたくしの言葉に、シスさんは頷きます。
「わたしと神父様が気づいた時には彼女は自分からは意見を出そうとはしない、友達の輪にも入らない……いえ、入れなくなっていました。この時ばかりは何時も温厚だった神父様も怒ってアージョを叱り付けたのですが、彼女は……」
「多分ですが、『アタシはしょうらいのせいじょなの! だから、アタシがなにをいってもいいの!』って言ったんじゃないのですか?」
「……あの、パナセア様は職業が預言者とか占い師なのですか? 言ってる事が本当に同じなんですけど……」
わたくしの言葉に驚いた表情を向けてくるシスさんですが、彼曰く『主人公になれなかった者は、自分がその場所を奪いたがる』らしいですからそう予想しただけです。
なので……。
「生憎とわたくしはその様な職業ではありません。ただ予想をしただけですよ」
「そ、そう、なのですか?」
「はい、ですので次の展開を予想させて頂きますが……、もしかして元々年老いていた神父様がお亡くなりになられるまではアージョさんは鳴りを潜めていたけれど、神父様が亡くなった途端にこの孤児院を抜け出していて、気づけば教会の方で聖女として崇められていたといったところでしょうか?」
「は、はいっ! なんでそこまで分かるんですかっ!? 神父様が亡くなられてしばらくしてから、わたし達全員で居なくなったアージョを捜しても全然見つからなくて……ですが、ある日突然教会から使者が現れたんです」
それで先ほどの話に繋がった。という事ですか。
そして彼女は自分がこの国が見とめた次期聖女だと周りに認めさせる事が出来たのでしょうから、お金を握らせて黙らせていた孤児院はもう無くても良い……というよりもあったら聖女さまが孤児だったと醜聞が残るでしょうし、消えて貰ったほうが速いですよね。
だとすれば次に仕掛けてくる可能性が高いのは……。そして、わたくしを見た聖女さまがどのような行動に移るかを短絡的な彼女達の思考を予測するならば……。
「あの、パナセア様……?」
「……シスさん、しばらくこの孤児院で寝泊りさせていただけ無いでしょうか?」
「え、ええぇ!? な、何故ですかぁ!? パナセア様は貴族ですから、このような所で寝泊りなどしなくても……」
わたくしの言葉に驚いたのか、シスさんはギョッとした表情でわたくしを見てきます。
まあ、本人が言う程に廃墟な感じにボロボロの建物に住まわせるのは気が引けるでしょうね。
当然後ろに控えていたカエデも信じられないとばかりにこちらを見ます。が、言葉を発するよりも先に黙っている様に後ろに回した手を動かし指示をします。
「多分ですが、ここ以外に泊まれる場所は既にないと思いますよ。聖女さまはわたくしを此処から追い出したいと思うでしょうし」
「えっ!? す、すみません。アージョが、本当にすみませんっ!!」
どういう意味か完全に理解していない、けれども彼女が関わっているという時点で謝るしかないと考えたのでしょうか、シスさんは勢い良く頭を下げてきます。
ちなみに教会の手引きで多分ですが、わたくしの宿泊は拒否するように仕向けているでしょうね。そこまで知能はありそうには見えなかったので、聖女さま(笑)ではなく別の側近とかが行っているでしょうが。
カオス商会の方は関係が無いようにしているので、問題はありません。というか、わたくしが会頭だとわかるのは余程の大物ぐらいでしょう。
「謝る必要はありません。貴女がたも彼女には迷惑を被っているのですから」
「パナセア様……」
「しばらくの間ですから、どうかよろしくお願いいたしします」
「わかりました。でしたら、神父様の部屋を使ってください。そこなら一番壊れていませんし、休めると思えます」
そう言って、シスさんは頭を下げて来ました。
そんな彼女へとわたくしも頭を下げます。礼節はやはり大事ですからね。
「ありがとうございます。このお礼は何時か返させていただきます」
お礼なんて、と申し訳なさそうにシスさんは言いますが問題が解決してからの最低限の保障はさせていただきますからね。
そんな事を思っていると、視線を感じ……そちらを向くと大人二人で話をしているのを不安そうに見る孤児達が居ました。
どうやら食べ物を食べるだけ食べれたようですね。そして、数名ほどはわたくしを警戒していますが当たり前ですよね。
だって、声は聞こえ難くても保護者が何度も頭を申し訳なさそうに頭を下げているのですから。
わたくしがチラリと孤児達を見ている事に気づいたのか、シスさんも同じように見ました。
「あの子達。みんな、パナセア様に食べ物を貰ったお礼を言いましたか?」
彼女の言葉にハッとしたのか、年長組が前へと進み出ると勢い良く頭を下げてきました。
彼らの真似をするように年少組も頭を下げてきます。
『『『あ、ありがとうございました。貴族様っ!!』』』
『『ありあとーございました。きぞくさま?』』
「どういたしまして。ですが、これからは自分達で稼ぐ為に働かないと行けないと思いますから頑張ってくださいね」
それを思い出したのか、孤児達の反応は様々だった。
面倒だと思う者、頑張ろうと意欲を出す者、なるようになれと思っている者、といったところでしょう。
けれど、働かないといけないという事を彼らは理解しないといけませんよ。
これからのシスターへの負担を減らす為に。
そう思っていると、突如ドンドンと力強く入口の扉が叩かれました。同時に……、
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