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第一章エピローグ 聖女、再会する。
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さわさわと爽やかな風が吹く中、私は何時もの様にガゼボの前に立っていました。
ボロボロになったガゼボ……。
つい先日、私は意識を取り戻した肉親にここで殺されかけた。
激しい憎しみの炎と共に放たれた聞くに耐えない罵詈雑言。彼女の口から出たそれはとても悲しかった。
そんな彼女を私は救うことが出来なかった。それでも、それでも私は聖女である事を世界へと宣言した。
そして私は本当の、世界が、神が認める聖女へと成った。
けれどその結果、彼女は聖女を殺害しようとした罪で連れて行かれ……町の広場で様々な感情を周囲に撒き散らしながら処刑された。
「私は……貴女に何もする事が出来なかったのかな……?」
風に搔き消えるように呟いた言葉は消えるけれども、心に重く圧し掛かる。
そんな中、がさりと足音がし……振り返ると彼が立っていた。
「探したよ。聖女様」
「シュヴァルツ様……」
肩下まである黒い髪を紐で結わえ、黒曜石のように黒い瞳を私へと向ける……軍服に身を包んだ男性。
彼は数年前、傷ついて転移してきた所を私が助けた男性で記憶を失っていた彼を私は見た目からクロと呼んでいた。
けれどもその正体はこの国の王族の末弟であり、邪悪な存在の器として育てられていたのです。
記憶を取り戻した彼は自身の運命に葛藤し、私の前から去ろうとしました。
ですが、私はそんな決められた人生なんて違う、自分で決めるのが人生だと諭し、彼がどうしたいのかを問いかけた。
そして彼は私達と……いえ、どちらかというと私と一緒に居たいと声に出して言いました。つ、つまりは……愛の告白でした。
それを思い出していると少し拗ねたようにシュヴァルツ様は拗ねた表情を浮かべました。
「聖女様、二人きりの時はその名前では呼ばないで欲しいな」
「だったら、私のことも聖女様って呼ばないでくれるかな? まだ呼ばれ慣れていないんだから」
「ははっ、ごめんごめん。じゃあ……セージョ。ここでどうしたんだ?」
シュヴァルツ様と同じように私もちょっと拗ねるように頬を膨らませながら、仰々しく呼ばないでと言うと彼は軽く笑ってから私の名前を呼んだ。
そんな風に呼ばれて嬉しさを感じながら、呼び慣れた彼の名前を口にする。
「うん、今日でこの町とはクロと一緒に離れるでしょ? だから、最後のお別れに来たの」
「ああ……そうだね。その、私を選んでくれて……本当にありがとう、セージョ」
「ううん、私は貴方じゃないとダメなの。だから、私の前に現れてくれて……ありがとう」
今日、私はクロと共にこの国の城へと向かう。
アージョが起こした騒動の結果、王族は彼を除いて精神に異常を来したり、なくなった物ばかりなのだ。
だから継承権が残っている彼が次の王へと選ばれ、それに私は付いていく。
その為、気軽にこの町に来ることは出来なくなってしまう。……だから、これは私にとってのケジメなのだ。
「……パナセア様、私はここを離れます。今まで本当にありがとうございました……」
でも、最後に……貴女に会いたかった。
そう思いながら視線をガゼボへと向けていると、声が聞こえた。
――けて。助けてください……!
「え?」
「セージョ? どうしたんだ?」
「いま、声が……」
「声? 私には聞こえなかったが……」
私の言葉にクロは首を傾げる。その様子から本当に聞こえなかったのだと理解しているとガゼボから光が放たれた。
「――っ! なんだ! セージョ、私の後ろに!!」
突然の光を前にクロが私の前へと躍り出て警戒をする。けれど私は光の中に見えるものに目が行っていた。
何故なら……。
「あれは……、ああ、そういうことだったんだ」
「セージョ?」
「クロ、ちょっと私……行ってきます。心配しないでください」
「セ、セージョ!! 待つんだ!!」
光の中へと見える扉へと、私は進みます。
背後からクロが呼び止める声がしたけれど、これはやらなければいけないことだから。
そう思いながら、私はあの日見た扉を開けた。
「大丈夫、助けます。私が――絶対に!」
●
扉を抜けると、あの頃の私がポカンとした表情で私を見ており……「きれい……」と呟いていた。
そしてその先には、会いたかった人が青ざめた表情で倒れていました。
ああ、ああ、こんな風に倒れていたんだ……。
グッと泣きそうになるのを堪えながら、私はパナセア様に向けて最上級の回復魔法を放つ。
白銀の光がパナセア様を包み、青ざめていた顔に赤身が差し込み……命の危機から脱却します。
その事にホッと安堵しつつも、私は聖女が扱える神が与えし杖を顕現させると地面を付きました。
シャンシャンと金環が擦れるように鳴り響き、視界に映る闇を見ます。
『ああ、パナセア様ともっと話をしたい。待ってるって、来てくださいって言いたい……。でも、時間が無い。時間が無いんだ……』
ギュウと杖を握りしめ、私は町に向けて駆け出すと神から与えられた靴で空中を踏み締める。
すると空を駆けるように私は進み、教会に近づくと浄化の光を放った。
光は空から地上へと落ちるように沈み、町を覆い尽くそうとしていた澱みの闇を浄化して行く。
澱みの闇、それは聖女が代々封じる物であり……人の妬み怨みや欲が溜まり続けて形となってしまった物。
それを聖女に選ばれた存在が定期的に浄化を行い、噴出するのを抑えるのが私達聖女となった者の使命だった。
同時にクロはそれを体に溜め込まれて最悪な存在にさせられる所でもあったのだけれど、今は語る必要は無いので割愛します。
『だけど、アージョが先走ったから……これが起きた』
小さく呟きながら教会内を歩いていく。周囲には澱みの闇に沈み、その影響で自身の中にあった欲を抜かれた者達が呆けた表情で床に座っているのが見えた。
そして最奥へと到達すると、聖女の扉の前でモワモワと澱みの闇が蠢いているのが見え、その闇の中にはアージョと彼女の後見としていたシュヴァイン枢機卿が居ました。
『アージョ……、もし貴女がこの扉を開かなかったら……いえ、もしもの言葉なんて、語ってもどうにもなりませんよね……』
闇の中で狂気の笑みを浮かべるアージョを見ながら、私は浄化の光を放った。
その瞬間、室内が光に包み込まれ、アージョ達の心の中にある闇は浄化され……彼女達はパタリと倒れた。
『私は、貴女に改心してほしかったのかも知れません……。さようなら、アージョ。私の……家族』
倒れた彼女を見てから、私は開かれたままの扉へと入ります。そして、中から扉を閉めて……元の時代へと帰ろうとします。
そんな中、閉ざされる扉の先に若き日の私が見えたので、これから先……頑張ってほしいと意味を込めて小さく手を振りました。
「セージョ! 大丈夫だったか!? いったい、何が……」
「クロ……。懐かしい、懐かしい思い出に入ってました。けれど、いま私が居るのはここです。ここなんです……」
「セージョ……。何があったのかは知らないけれど、悲しいときは悲しんでくれ……」
「はい、はい……っ」
心配そうに私へと近づいたクロへとしがみ付くように抱きつくと、その体に自らの体を寄せます。
温かいぬくもり……。ここが私にとっての居場所なんだと理解すると同時に、ようやく前へと進める気がしました。
そんな私の耳に、声が聞こえました。
「あるじー、はやくはやくー!」
「――、あまりお嬢様に迷惑をかけないでください」
「めいわくなんてかけてないもーん!」
懐かしい声が聞こえた。もしかして、でも……そんな考えが頭に浮かぶ中、ガサリと草を踏む足音が聞こえました。
そしてそちらを見ると……、
「あ……あ……っ」
「お久しぶりです。大きくなりましたね、セージョさん」
そう言って、あの人が私へと微笑んでくれました。
そして――、
「あの時の約束、果たしに来ましたよ。さあ、お茶にしましょう」
「は、はいっ!」
彼女の言葉に、私は笑顔で答えた。
ボロボロになったガゼボ……。
つい先日、私は意識を取り戻した肉親にここで殺されかけた。
激しい憎しみの炎と共に放たれた聞くに耐えない罵詈雑言。彼女の口から出たそれはとても悲しかった。
そんな彼女を私は救うことが出来なかった。それでも、それでも私は聖女である事を世界へと宣言した。
そして私は本当の、世界が、神が認める聖女へと成った。
けれどその結果、彼女は聖女を殺害しようとした罪で連れて行かれ……町の広場で様々な感情を周囲に撒き散らしながら処刑された。
「私は……貴女に何もする事が出来なかったのかな……?」
風に搔き消えるように呟いた言葉は消えるけれども、心に重く圧し掛かる。
そんな中、がさりと足音がし……振り返ると彼が立っていた。
「探したよ。聖女様」
「シュヴァルツ様……」
肩下まである黒い髪を紐で結わえ、黒曜石のように黒い瞳を私へと向ける……軍服に身を包んだ男性。
彼は数年前、傷ついて転移してきた所を私が助けた男性で記憶を失っていた彼を私は見た目からクロと呼んでいた。
けれどもその正体はこの国の王族の末弟であり、邪悪な存在の器として育てられていたのです。
記憶を取り戻した彼は自身の運命に葛藤し、私の前から去ろうとしました。
ですが、私はそんな決められた人生なんて違う、自分で決めるのが人生だと諭し、彼がどうしたいのかを問いかけた。
そして彼は私達と……いえ、どちらかというと私と一緒に居たいと声に出して言いました。つ、つまりは……愛の告白でした。
それを思い出していると少し拗ねたようにシュヴァルツ様は拗ねた表情を浮かべました。
「聖女様、二人きりの時はその名前では呼ばないで欲しいな」
「だったら、私のことも聖女様って呼ばないでくれるかな? まだ呼ばれ慣れていないんだから」
「ははっ、ごめんごめん。じゃあ……セージョ。ここでどうしたんだ?」
シュヴァルツ様と同じように私もちょっと拗ねるように頬を膨らませながら、仰々しく呼ばないでと言うと彼は軽く笑ってから私の名前を呼んだ。
そんな風に呼ばれて嬉しさを感じながら、呼び慣れた彼の名前を口にする。
「うん、今日でこの町とはクロと一緒に離れるでしょ? だから、最後のお別れに来たの」
「ああ……そうだね。その、私を選んでくれて……本当にありがとう、セージョ」
「ううん、私は貴方じゃないとダメなの。だから、私の前に現れてくれて……ありがとう」
今日、私はクロと共にこの国の城へと向かう。
アージョが起こした騒動の結果、王族は彼を除いて精神に異常を来したり、なくなった物ばかりなのだ。
だから継承権が残っている彼が次の王へと選ばれ、それに私は付いていく。
その為、気軽にこの町に来ることは出来なくなってしまう。……だから、これは私にとってのケジメなのだ。
「……パナセア様、私はここを離れます。今まで本当にありがとうございました……」
でも、最後に……貴女に会いたかった。
そう思いながら視線をガゼボへと向けていると、声が聞こえた。
――けて。助けてください……!
「え?」
「セージョ? どうしたんだ?」
「いま、声が……」
「声? 私には聞こえなかったが……」
私の言葉にクロは首を傾げる。その様子から本当に聞こえなかったのだと理解しているとガゼボから光が放たれた。
「――っ! なんだ! セージョ、私の後ろに!!」
突然の光を前にクロが私の前へと躍り出て警戒をする。けれど私は光の中に見えるものに目が行っていた。
何故なら……。
「あれは……、ああ、そういうことだったんだ」
「セージョ?」
「クロ、ちょっと私……行ってきます。心配しないでください」
「セ、セージョ!! 待つんだ!!」
光の中へと見える扉へと、私は進みます。
背後からクロが呼び止める声がしたけれど、これはやらなければいけないことだから。
そう思いながら、私はあの日見た扉を開けた。
「大丈夫、助けます。私が――絶対に!」
●
扉を抜けると、あの頃の私がポカンとした表情で私を見ており……「きれい……」と呟いていた。
そしてその先には、会いたかった人が青ざめた表情で倒れていました。
ああ、ああ、こんな風に倒れていたんだ……。
グッと泣きそうになるのを堪えながら、私はパナセア様に向けて最上級の回復魔法を放つ。
白銀の光がパナセア様を包み、青ざめていた顔に赤身が差し込み……命の危機から脱却します。
その事にホッと安堵しつつも、私は聖女が扱える神が与えし杖を顕現させると地面を付きました。
シャンシャンと金環が擦れるように鳴り響き、視界に映る闇を見ます。
『ああ、パナセア様ともっと話をしたい。待ってるって、来てくださいって言いたい……。でも、時間が無い。時間が無いんだ……』
ギュウと杖を握りしめ、私は町に向けて駆け出すと神から与えられた靴で空中を踏み締める。
すると空を駆けるように私は進み、教会に近づくと浄化の光を放った。
光は空から地上へと落ちるように沈み、町を覆い尽くそうとしていた澱みの闇を浄化して行く。
澱みの闇、それは聖女が代々封じる物であり……人の妬み怨みや欲が溜まり続けて形となってしまった物。
それを聖女に選ばれた存在が定期的に浄化を行い、噴出するのを抑えるのが私達聖女となった者の使命だった。
同時にクロはそれを体に溜め込まれて最悪な存在にさせられる所でもあったのだけれど、今は語る必要は無いので割愛します。
『だけど、アージョが先走ったから……これが起きた』
小さく呟きながら教会内を歩いていく。周囲には澱みの闇に沈み、その影響で自身の中にあった欲を抜かれた者達が呆けた表情で床に座っているのが見えた。
そして最奥へと到達すると、聖女の扉の前でモワモワと澱みの闇が蠢いているのが見え、その闇の中にはアージョと彼女の後見としていたシュヴァイン枢機卿が居ました。
『アージョ……、もし貴女がこの扉を開かなかったら……いえ、もしもの言葉なんて、語ってもどうにもなりませんよね……』
闇の中で狂気の笑みを浮かべるアージョを見ながら、私は浄化の光を放った。
その瞬間、室内が光に包み込まれ、アージョ達の心の中にある闇は浄化され……彼女達はパタリと倒れた。
『私は、貴女に改心してほしかったのかも知れません……。さようなら、アージョ。私の……家族』
倒れた彼女を見てから、私は開かれたままの扉へと入ります。そして、中から扉を閉めて……元の時代へと帰ろうとします。
そんな中、閉ざされる扉の先に若き日の私が見えたので、これから先……頑張ってほしいと意味を込めて小さく手を振りました。
「セージョ! 大丈夫だったか!? いったい、何が……」
「クロ……。懐かしい、懐かしい思い出に入ってました。けれど、いま私が居るのはここです。ここなんです……」
「セージョ……。何があったのかは知らないけれど、悲しいときは悲しんでくれ……」
「はい、はい……っ」
心配そうに私へと近づいたクロへとしがみ付くように抱きつくと、その体に自らの体を寄せます。
温かいぬくもり……。ここが私にとっての居場所なんだと理解すると同時に、ようやく前へと進める気がしました。
そんな私の耳に、声が聞こえました。
「あるじー、はやくはやくー!」
「――、あまりお嬢様に迷惑をかけないでください」
「めいわくなんてかけてないもーん!」
懐かしい声が聞こえた。もしかして、でも……そんな考えが頭に浮かぶ中、ガサリと草を踏む足音が聞こえました。
そしてそちらを見ると……、
「あ……あ……っ」
「お久しぶりです。大きくなりましたね、セージョさん」
そう言って、あの人が私へと微笑んでくれました。
そして――、
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