駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

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第74話 ヨシュア、龍の上で剣を掲げる。

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 グングン、グングンと空が近くなり、代わりに地面が遠くなって行くのを見ながら、僕は丸太のように太いファンロンさんの胴体にしがみ付いていた。
 ファンロンさんが乗せてくれるお陰で、僕は戦場に向かうことが出来ている。
 だけど、空を飛ぶという初めての経験のためかビュウビュウと吹いている風に、僕は落ちるんじゃないかとガクガクと震えていた。

「……ヨシュア、大丈夫?」

 そんな僕の様子に気づいているのか、後ろに居るウィスドムさんが聞いてくる。
 ウィスドムさんは僕の様子を見てどんな顔をしてるのだろう? 振り向こうにも怖くて振り向けない。
 それに大丈夫って言いたかったけど、怖くて何も言えなかった。

「とりあえず、怖いなら怖いって言えば良いと思うわよ? 『風』『巻きつき』『固定』」
「わっ?! あ、あれ?? 大丈夫に、なった?」

 ウィスドムさんの声が聞こえた途端、僕の体に風が纏わりつき……その風が鎧みたいに僕の全身を覆うと、ついさっきまでぶれていた体がファンロンさんの体に安定した。
 もしかして、ウィスドムさんが何かをしたのかな? さっき、普通の声とは違うものが聞こえたから……魔法?
 まあ、後で聞いてみよう。そう思っていると街の入口近くの原っぱで激しい爆発音が響いてきた。

「何かが、起きている? ファンロンさん、急いでくれますか?!」
『わかったアルよ、よしゅあ。それじゃあ、ファンロン素早く向かうアル~~!』

 僕の言葉に従ってくれたのかファンロンさんは尻尾を空中を叩くようにすると素早く空を移動していく。
 そして、落ちる心配がなくなり余裕が出来たのか僕は下を見る。
 すると、街の人たちが驚いた顔で僕ら、じゃなくてファンロンさんを指差しているから騒ぎになっているかも知れないと考える。
 ううん、もしかすると……モンスターと間違えられてしまったりしてる?

「ね、ねえ、ファンロンさん。街の人達、何て言ってるのか分かります?」
『う~ん、良く聞こえないアル!』
「うぅ、本当にモンスターの仲間って思われてたらどうしよう……」
「そんなに心配なら剣でも掲げてみたらどう? 昔の勇者は翼の生えた馬に跨って剣を掲げてたみたいだし」

 頭を抱える僕に対して、ウィスドムさんが言う。
 昔の勇者って、翼の生えた馬に跨って剣を掲げてたのかぁ。

 …………やってみようかな?

 そう考えながら、僕は腰に差した剣を掴むと鞘から引き抜いた。
 シャンと鞘に剣が擦れる音が耳に響く中で、おっかなびっくりとしながらも剣を掲げた。
 すると吹き荒れる風の中から太陽の光りが少し射し込み、光りを浴びた剣は綺麗に輝いた。
 それを見ていたと思う街の人達が急にざわめき出し……、大きな歓声となった。

「うわっ!? ど、どうしたの??」
「あー……、これってどう見ても「勇者様だ。あれは勇者様に違いない」って言ってるように見えるわ……」

 聞こえてくる歓声に、ウィスドムさんはしまった。という風に頭を抱えるのが少し首を曲げたら見えた。
 えっと、何か問題あるのかな……?

「ウィスドムさん? 何か問題があったのですか?」
「あー、特にはないけど……いや、まあ、出発するときに盛大に見送られるのは間違いないわ……」
「は、はあ……」
『よしゅあー、戦場着いたらどうするアルー?』

 ウィスドムさんが何を言いたいのか分からずキョトンとする僕へと、ファンロンさんが話しかけてくる。
 戦場着いたらどうするか? とりあえず……モンスターを退治しないといけないよね?

「集まってるモンスターを退治……かな?」
「まあ、普通にそれしかないわね?」
『わかったアルー。それじゃあ、ファンロンブレス吐くアルーーっ!』
「「え?」」

 僕とウィスドムさんが聞き返すよりも先にファンロンさんは勢い良く息を吸い込み始める。
 ぶれす? ぶれすってなに?! いったい何するつもりなのっ!?
 戸惑う僕とは違って、ウィスドムさんのほうはぶれすが何か分かっているようで、「うわ、馬鹿! 止めろ!! 巻き込まれるから!!」って叫んでる。

『それじゃあ、モンスター多いほうに吐くアルー!』
「そう言う問題じゃない!!」
『行くアルーー! テンペストブレーースアルーーーーッ!!』

 そうファンロンさんが大きな声で言った瞬間、ファンロンさんの口からさっき戦場のほうで吹いていた強い風なんかよりも激しい風……ううん、嵐が放たれた。
 ファンロンさんの放った嵐は、戦場となっている原っぱの奥……たぶんモンスターばかりいる場所に放たれ、地面ごとモンスターを呑み込んでいった。
 それが暫く続き、ファンロンさんの口から嵐が収まると緑豊かだった原っぱは無残な抉れた土が剥き出しとなっている場所となっていた。

『ふぅ~、吐いたアル~~! もう限界アル~~』
「え!? ファ、ファンロンさん!?」

 満足した様子のファンロンさんの体が突然輝き出し、グングンと大きさが縮んでいく様な気がした。
 ううん、実際縮んでいる!?

「はふぁ~、戻っちゃったアル~~……」
「やばっ! 『水』『弾力』『地面』!!」

 見慣れたファンロンさんの姿に戻った瞬間、僕らは地面に真っ逆さまに落ちていた。
 あ、あれ? これって、マズいんじゃ……?

「って、落ちるーーーーっ!? ――ふぁふっ!?」
「ギ、ギリギリだけど、間に合ったわ……」
「ボヨンボヨンアル~~」

 地面に当たる寸前に突如現れた水に僕らは落ち、ボヨンとした感触と共に1回2回と跳ねてから……今度こそ地面に落ちてしまった。
 そして、地面に落ちたときに僕は顔から落ちてしまった。

 ……うぅ、い、痛い…………。
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