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第一章 賢者と賢者の家族
第10話 ベル、商会へ赴く。
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眩い光と一瞬の浮遊感がディックを襲うが、すぐにトンッと足が地面に着いたのを感じた。
転移をする際に目を開けていた影響か、彼の視界は白に覆われ周りがどんな状況か分からないでいた。
けれど、此処は部屋の一室なのかも知れないし、そうでもないのかも知れない。
ただ言えることは、ディックの耳には扉の先でガヤガヤと言う人々の営みの声が聞こえていた。
「あらら、ごめんなさいねディック。転移するときには目を閉じていることを勧めるべきだったわね」
「べ……、べつにどうってことないし……! それに、しばらくしたら目ももとにもどるんだろ?」
「ええ、そうね。それじゃあ、目をパチパチってさせて少しでも速く戻るようにしましょう」
申し訳無さそうな声が聞こえたからか、それとも強がりだったのかは分からないがディックがそう言うと、ベルは優しく微笑みアドバイスをする。
そのアドバイスに従って、ディックは目をパチパチとさせる。すると、段々と彼の視界に色が戻り始めていった。
色が戻った視界で周囲を見たディックは、自分の予想していた考えが当たっていたことを知った。
「ここは……部屋のなか?」
「ええ、此処は全世界に流通しているアキンドー商会の一般には知られていない本店の一室よ。商会の人間以外は来るのがとっても難しいって評判のね。けど、今は何組か居るみたいね」
「あきんどー商会……? あ…………っ」
初めて聞く名前に……いや、昔あの王女がその名前を口にしていたと、ディックは思い出す。
あの悪魔のような王女の姿と笑い顔を思い出し、彼は顔を曇らせ体を震わせたが……そんな彼の思いを察しているのか、ベルが優しくディックの体を抱き締めた。
突然のことで、ディックは驚き戸惑いを隠せず顔を真っ赤にした。
「っ!? な、なな……?!」
「……大丈夫よディック。これからはきみは私の家族だから、あの豚王女にも……どんな害悪からも、私がきみを護ってみせるから……だから、悲しい顔をして怯えないで」
「う……あ…………っ?!」
優しくディックに言いながらベルは、彼の背中をトントンと叩く。
その度に動揺しているのかディックの体も尻尾も挙動不審な動作を行っていた。
しかも顔は先ほど以上に真っ赤だ。
……きっと怖い思いをしてきたのだから、こういうのに慣れておらずまた照れているのだろう。そうベルは考える。
……だが、彼女は気づいていない。
ベルは母親のような年上の貫禄としての行動を行っているつもりなのだろうが、彼女の見た目が自分と同年代にしか見えないディックにはどう反応すれば良いのかまったく分からず、しかも女性特有の甘い香りに何だか良く分からない感情が芽生えて頭の中が混乱していると言う事実に。
そんな彼の心境にまったく気づかないまま、ベルはゆっくりと抱き締めていたディックから離れて優しく微笑んだ。
「もう大丈夫かしら? それじゃあ、部屋の外に出ましょうか」
「う……ん……」
熱くなる顔を下に向けながら、返事を返すディックを見つつベルはドアのほうへと歩いていくのだが……扉のノブに括りつけるように結ばれた手紙があることに気づいた。
掛けられた手紙を取ると、封を切って中身を確認し出し……彼女は納得したように頷く。
「あら、これって……。ああ、もうこんな季節なのね。……というか、感良すぎでしょ…………」
「えっと……なんだ、それ?」
「これ? ちょっとしたサプライズイベントの招待状よ♪」
「???」
「まあ、見てのお楽しみ、かしら? でも、ちょっときみに幻滅されちゃうかも知れないなぁ……、うん……ディックはちょっと扉の前でジッとしててね」
クスリと笑うベルに対し、ディックはまったく理解出来ずに首を傾げるだけだった。
そんな彼を見つつ、ベルは空間からロッドを取り出すと詠唱を始める。
「とりあえず……前々回は老婆で、前回は幼女だったから……今度の見た目は年齢は30前後ってところで、それじゃあ……『メタモルフォーゼ』!」
ぶつぶつと何かを呟き、何かを決めるとベルはサッとロッドを振るった。
すると、彼女の立っている床に魔方陣が描かれ、眩い光が彼女を包み込んだ。
「うわっ!? な、なにが……? …………え? えぇっ!?」
突然の光だったが、ディックは咄嗟に手で顔を覆うことが出来た。
その結果、先ほどのように目が見えなくなることは無く……光が徐々に弱まっていくのを手の隙間から見ることが出来たので、何が起きたのかを見るとそこには……。
「ふう……、こんな感じかしら? ……どうしたの、ディック?」
「あ、え……え? こ、これって……? お、おまえ、なのか……?」
少しだけ気だるげに長い緑銀色の髪をかきあげる見た目30歳ほどの色気を放つ巨乳の女性が、ディックの言葉にピクリと耳を動かすと、彼の前で腰を曲げると注意をし始めた。
その際、彼女が着用している薄手のローブの胸元で重力に逆らうこと無くたわわな果実が軽く揺れたが、これは仕方の無いことだ。
そして偶然的にそれが見えてしまったディックの顔が、真っ赤になって視線を反らしたのも仕方ないことだろう。
「こーら、ディック。お前、っていうのは失礼でしょ?」
「あ、う……ご、ごめん。……じゃ、じゃなくて! お、おまえ、その……ベ、ベル……で良い、のか?」
「ええそうよ。今私が唱えてた魔法は見た目を変態させる魔法で色んな姿に変わることが出来るわ。それで今はこんな風に変わっているの」
顔を真っ赤にしながら、視線を彷徨わせるディックへとベルは説明をする。
戸惑っているディックの反応は当たり前だろう。もしくは、少年にはたわわに実った二つの揺れる果実が過激すぎるのか……。
というか、何故いきなり変態したのか。それがまったく分からないだろうが……これからのことに必要なのだ。
「さ、それじゃあ、始めるから……入口のほうで待っててちょうだい」
「う、うん……」
部屋の扉に手をかけたベルの言葉にディックは頷くことしか出来ず、扉の近くまで歩いていく。
そして、彼女が部屋から出ると同時に彼は微かに開いた隙間から外の様子を見始めるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ベルが部屋から出るとそこは、左右に連なる広い室内だった。
その長く連なる壁側の左右には、まるで市のように幾つもの店が立ち並んでいた。
武器だけを売っている店、防具だけを売っている店、両方取り揃えてる店だったり。
道具を取り扱っている店、薬を取り扱っている店、下着を取り扱っている店だったり。
他にも各種様々な店が立ち並んでいた。
その店を任せられた店員たちは自分たち店の商品は何がオススメだと近くを歩く者たちへと薦めていく。
そして客の殆どは武具に身を包んだ屈強な冒険者が殆どであった。
(さてさて、問題のお店は何処かしら?)
キョロキョロと周囲を見回していると、ベルの存在を周囲が認識したようで冒険者たちからは口笛が聞こえるのだが視線は侮蔑を感じる物が多い。
対して、店員たちからは畏怖と同時に『ああ、ご愁傷様……』というこれから起こる出来事を憐れむ視線が感じられた。
そんな空気の中、勇気ある……無謀な馬鹿は居るもので、一人の男がベルへと近づいて行った。
「おいおい、何で混人なんかがこんな所に居やがるんだぁ? それにしても良い乳してるじゃねぇかよ! 本当なら蹴り飛ばしてやるところだけど、その乳と体を堪能させたら見逃してや――ぐべっ!?」
「はいはい、少し黙っててくださいね。そういう三下っぽいことを口にしてたら、アキンドー商会本店に来る冒険者の品格を疑いたくなりますからねー?」
ニヤニヤと嗤っていた男は最後まで言い終わること無く、にこりと微笑むベルに顔を掴まれて地面へと叩き伏せられ……気絶した。
それを見た瞬間、男の仲間であろう冒険者たちが武器を構えようとしたのだが……そちらへとベルが微笑むと、まるで怯えたように彼らは身を竦めた。
そんな彼らを見てから、即座に視界を巡らせていくと……怯えた様子で服を売る店の前から動けない兎人の店員が見えた。
「……見つけた」
ポツリと呟くとベルはその店の前へとゆっくりと歩いていく。
一方で店員のほうは段々と近づいてくる彼女に怯えているようで耳が垂れていくのが見えた。
そんな彼女の様子を見つつ、ベルは店の前で立つと店員は怯えつつも客商売を忘れてはいけないと言う精神はあるようで……。
「い、いらっしゃいませ……! な、なにかお探し、でしょうか……?」
何とか絞り出した声でベルにそう言うのを聞きながら、ベルは彼女に優しい笑顔を向ける。
その笑顔は、怯えていた彼女の心を溶かしてくれるようであり、ひょっとしたら良い人なのではと思わせるようであった。
そして、そんな彼女の口から放たれた言葉は……。
「此処から此処まで……というよりも、この店の商品を全て寄越しなさい。当然お金は払う気は無いわ」
「え? ……え?」
転移をする際に目を開けていた影響か、彼の視界は白に覆われ周りがどんな状況か分からないでいた。
けれど、此処は部屋の一室なのかも知れないし、そうでもないのかも知れない。
ただ言えることは、ディックの耳には扉の先でガヤガヤと言う人々の営みの声が聞こえていた。
「あらら、ごめんなさいねディック。転移するときには目を閉じていることを勧めるべきだったわね」
「べ……、べつにどうってことないし……! それに、しばらくしたら目ももとにもどるんだろ?」
「ええ、そうね。それじゃあ、目をパチパチってさせて少しでも速く戻るようにしましょう」
申し訳無さそうな声が聞こえたからか、それとも強がりだったのかは分からないがディックがそう言うと、ベルは優しく微笑みアドバイスをする。
そのアドバイスに従って、ディックは目をパチパチとさせる。すると、段々と彼の視界に色が戻り始めていった。
色が戻った視界で周囲を見たディックは、自分の予想していた考えが当たっていたことを知った。
「ここは……部屋のなか?」
「ええ、此処は全世界に流通しているアキンドー商会の一般には知られていない本店の一室よ。商会の人間以外は来るのがとっても難しいって評判のね。けど、今は何組か居るみたいね」
「あきんどー商会……? あ…………っ」
初めて聞く名前に……いや、昔あの王女がその名前を口にしていたと、ディックは思い出す。
あの悪魔のような王女の姿と笑い顔を思い出し、彼は顔を曇らせ体を震わせたが……そんな彼の思いを察しているのか、ベルが優しくディックの体を抱き締めた。
突然のことで、ディックは驚き戸惑いを隠せず顔を真っ赤にした。
「っ!? な、なな……?!」
「……大丈夫よディック。これからはきみは私の家族だから、あの豚王女にも……どんな害悪からも、私がきみを護ってみせるから……だから、悲しい顔をして怯えないで」
「う……あ…………っ?!」
優しくディックに言いながらベルは、彼の背中をトントンと叩く。
その度に動揺しているのかディックの体も尻尾も挙動不審な動作を行っていた。
しかも顔は先ほど以上に真っ赤だ。
……きっと怖い思いをしてきたのだから、こういうのに慣れておらずまた照れているのだろう。そうベルは考える。
……だが、彼女は気づいていない。
ベルは母親のような年上の貫禄としての行動を行っているつもりなのだろうが、彼女の見た目が自分と同年代にしか見えないディックにはどう反応すれば良いのかまったく分からず、しかも女性特有の甘い香りに何だか良く分からない感情が芽生えて頭の中が混乱していると言う事実に。
そんな彼の心境にまったく気づかないまま、ベルはゆっくりと抱き締めていたディックから離れて優しく微笑んだ。
「もう大丈夫かしら? それじゃあ、部屋の外に出ましょうか」
「う……ん……」
熱くなる顔を下に向けながら、返事を返すディックを見つつベルはドアのほうへと歩いていくのだが……扉のノブに括りつけるように結ばれた手紙があることに気づいた。
掛けられた手紙を取ると、封を切って中身を確認し出し……彼女は納得したように頷く。
「あら、これって……。ああ、もうこんな季節なのね。……というか、感良すぎでしょ…………」
「えっと……なんだ、それ?」
「これ? ちょっとしたサプライズイベントの招待状よ♪」
「???」
「まあ、見てのお楽しみ、かしら? でも、ちょっときみに幻滅されちゃうかも知れないなぁ……、うん……ディックはちょっと扉の前でジッとしててね」
クスリと笑うベルに対し、ディックはまったく理解出来ずに首を傾げるだけだった。
そんな彼を見つつ、ベルは空間からロッドを取り出すと詠唱を始める。
「とりあえず……前々回は老婆で、前回は幼女だったから……今度の見た目は年齢は30前後ってところで、それじゃあ……『メタモルフォーゼ』!」
ぶつぶつと何かを呟き、何かを決めるとベルはサッとロッドを振るった。
すると、彼女の立っている床に魔方陣が描かれ、眩い光が彼女を包み込んだ。
「うわっ!? な、なにが……? …………え? えぇっ!?」
突然の光だったが、ディックは咄嗟に手で顔を覆うことが出来た。
その結果、先ほどのように目が見えなくなることは無く……光が徐々に弱まっていくのを手の隙間から見ることが出来たので、何が起きたのかを見るとそこには……。
「ふう……、こんな感じかしら? ……どうしたの、ディック?」
「あ、え……え? こ、これって……? お、おまえ、なのか……?」
少しだけ気だるげに長い緑銀色の髪をかきあげる見た目30歳ほどの色気を放つ巨乳の女性が、ディックの言葉にピクリと耳を動かすと、彼の前で腰を曲げると注意をし始めた。
その際、彼女が着用している薄手のローブの胸元で重力に逆らうこと無くたわわな果実が軽く揺れたが、これは仕方の無いことだ。
そして偶然的にそれが見えてしまったディックの顔が、真っ赤になって視線を反らしたのも仕方ないことだろう。
「こーら、ディック。お前、っていうのは失礼でしょ?」
「あ、う……ご、ごめん。……じゃ、じゃなくて! お、おまえ、その……ベ、ベル……で良い、のか?」
「ええそうよ。今私が唱えてた魔法は見た目を変態させる魔法で色んな姿に変わることが出来るわ。それで今はこんな風に変わっているの」
顔を真っ赤にしながら、視線を彷徨わせるディックへとベルは説明をする。
戸惑っているディックの反応は当たり前だろう。もしくは、少年にはたわわに実った二つの揺れる果実が過激すぎるのか……。
というか、何故いきなり変態したのか。それがまったく分からないだろうが……これからのことに必要なのだ。
「さ、それじゃあ、始めるから……入口のほうで待っててちょうだい」
「う、うん……」
部屋の扉に手をかけたベルの言葉にディックは頷くことしか出来ず、扉の近くまで歩いていく。
そして、彼女が部屋から出ると同時に彼は微かに開いた隙間から外の様子を見始めるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ベルが部屋から出るとそこは、左右に連なる広い室内だった。
その長く連なる壁側の左右には、まるで市のように幾つもの店が立ち並んでいた。
武器だけを売っている店、防具だけを売っている店、両方取り揃えてる店だったり。
道具を取り扱っている店、薬を取り扱っている店、下着を取り扱っている店だったり。
他にも各種様々な店が立ち並んでいた。
その店を任せられた店員たちは自分たち店の商品は何がオススメだと近くを歩く者たちへと薦めていく。
そして客の殆どは武具に身を包んだ屈強な冒険者が殆どであった。
(さてさて、問題のお店は何処かしら?)
キョロキョロと周囲を見回していると、ベルの存在を周囲が認識したようで冒険者たちからは口笛が聞こえるのだが視線は侮蔑を感じる物が多い。
対して、店員たちからは畏怖と同時に『ああ、ご愁傷様……』というこれから起こる出来事を憐れむ視線が感じられた。
そんな空気の中、勇気ある……無謀な馬鹿は居るもので、一人の男がベルへと近づいて行った。
「おいおい、何で混人なんかがこんな所に居やがるんだぁ? それにしても良い乳してるじゃねぇかよ! 本当なら蹴り飛ばしてやるところだけど、その乳と体を堪能させたら見逃してや――ぐべっ!?」
「はいはい、少し黙っててくださいね。そういう三下っぽいことを口にしてたら、アキンドー商会本店に来る冒険者の品格を疑いたくなりますからねー?」
ニヤニヤと嗤っていた男は最後まで言い終わること無く、にこりと微笑むベルに顔を掴まれて地面へと叩き伏せられ……気絶した。
それを見た瞬間、男の仲間であろう冒険者たちが武器を構えようとしたのだが……そちらへとベルが微笑むと、まるで怯えたように彼らは身を竦めた。
そんな彼らを見てから、即座に視界を巡らせていくと……怯えた様子で服を売る店の前から動けない兎人の店員が見えた。
「……見つけた」
ポツリと呟くとベルはその店の前へとゆっくりと歩いていく。
一方で店員のほうは段々と近づいてくる彼女に怯えているようで耳が垂れていくのが見えた。
そんな彼女の様子を見つつ、ベルは店の前で立つと店員は怯えつつも客商売を忘れてはいけないと言う精神はあるようで……。
「い、いらっしゃいませ……! な、なにかお探し、でしょうか……?」
何とか絞り出した声でベルにそう言うのを聞きながら、ベルは彼女に優しい笑顔を向ける。
その笑顔は、怯えていた彼女の心を溶かしてくれるようであり、ひょっとしたら良い人なのではと思わせるようであった。
そして、そんな彼女の口から放たれた言葉は……。
「此処から此処まで……というよりも、この店の商品を全て寄越しなさい。当然お金は払う気は無いわ」
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