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第一章 賢者と賢者の家族
第20話 ベル、掃除をする。
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森の木々の合間から陽射しが差込み、過ごし易そうな雰囲気を出した森の中。
そんな森の中をパタタッと小鳥たちは木々の合間を羽ばたき、木に止まった鳥たちがチュンチュンと可愛らしい鳴き声を上げていく。
その森は普通に狩りを行ったり薬草を採取する者たちには平穏な森なのだが、森の奥に住まう賢者に害を成そうとする者たちがこの森に入ると平穏な森は豹変する。
そんな森の中を、様子が一変したことに気づかない3人の黒尽くめの格好に身を包んだ男たちが周囲を注意しながら歩いていた。
「なあ、この道でいいのか?」
「そのはずだぞ? あの男の情報通りなら……な」
「けどよぉ、さっきからずっと同じ場所をグルグルと回っているような気がするんだけど?」
「気のせいじゃねぇのか? ほら、さっさと行くぞ!」
口元を隠す布越しに話し合う男たちは、不安そうに言う仲間の言葉を無視して歩みを止めない。
ここで不安そうに言った男の言ったように周囲を注意深く観察したら分かっただろう……、彼らが一本の大樹の周辺をグルグルと回っているだけだということに……。
彼らは知らないだろうが、この大樹は導樹と呼ばれる樹であり、道に迷った心根が正しい者がこの樹に近づいたならば、正しい道へと導くのだが……心根が正しくない者が樹に近づいたら自らの過ちに気づくまで道に迷わせるという特性を持っていた。
そんなことを知らない男たちは、賢者――ベルの家へと向かっていると思っていた。
「けど、ボスに黙って来て良かったのか?」
「別に良いだろ? 俺たちだけで、混人のガキを連れて来たら組織内での株が上がるってもんだ!」
「それにあの男も言ってただろ? 今の賢者はただの搾りかすだってよ」
「そりゃ、そうだけど……」
「何だ? 怖気付いたって言うのか? 別におめぇが居なくても俺たちは良いんだぜ? 何しろ、3人で報酬を山分けするのが2人になるんだからよぉ」
「!? そ、そうだよな……。アレだけの金が俺たちの物になるなら、ボスに黙って出るぐらいは……」
強気な男の言葉に、及び腰だった男が息を呑み込み……あの夜の取引の後に男が3人だけに見せたお金を思い出していた。
それほどまでに男の主は混人の少年にご執心なのだろう。
「その意気込みだ。賢者を殺してガキを奪う。それで十分だ」
「そうだな……、それに……あの男も賢者の力を無効化する物を寄越して来たんだし、大丈夫だよな?」
「ああ、数もこっちのほうが多いんだ。だからなんとでもなる」
意気込みを見せながら、男たちは賢者の家へと向かうために歩き続ける。……実際は、導樹の周囲をグルグルと回っているだけだが……。
そして平穏な森から危険な森へと豹変した結果、小鳥などの囀りは無くなり其処彼処から獰猛な獣の唸り声が聞こえ始めた。
平穏な森では彼らは静かに暮らしている。だが、狩っても良い人間が入り込んだら彼らは容赦しない。
つまりは導樹の周囲をグルグルと回っている3人の男たちは狩っても良いのだ。
「……これは、囲まれてるのか?」
「みたいだな……。一人どれだけやれる?」
「囲んでるのが何匹かによるな……」
「多くないことを祈るばかりだ」
口々にそう言いながら、男たちは自らの獲物を取り出す。
獲物を出すのを待っていたとでも言うように、彼らの前へと獣たちは姿を現した。
巨大なオオカミ……グレートウルフの大群が。
直後――、男たちは逃げ出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「くっ、くそっ! グレートウルフってなんだよ!? ベビーウルフしかいないって話じゃなかったのかよ!?」
「知るかよ! 叫んでいる暇があったら速く走れ! 追いつかれるぞっ!!」
「こ、こんなことなら受けるのをやめときゃ良かったよっ!!」
逃げ出した男たちは口々に叫びながら必死に手足を動かし、森の中を疾走する。
だが……。
「ひぃ!? な、何で先にこいつらがいるんだよっ!?」
「ま、まさか他にもいたってのか!?」
「た、助けてくれぇぇぇぇぇぇ~~~~!!」
何度もいうが、3人は同じ導樹の周囲を走り回っているだけだった。
だからそれを知っているグレートウルフたちは追いかける者たちと待ち構える者たちに別れて行動していた。
その結果、男たちにはこの森には複数のグレートウルフがいると認識してしまっていた。
そんなことも分からない男たちは絶体絶命と感じているのか、生まれたての子鹿のように足をガクガクとさせてしまっていた。
……こんななりでも裏の世界の住人のはずだが、3人の経験は低いのだろう。
「そ、そうだ! あの男が渡してきたアレを使えば!」
「あ、あれは賢者にしか使うなって言われてるだろっ!?」
「馬鹿! そんな状況じゃねぇだろ!! ほら、早く出せよ!」
「うわああああああああ~~~~っ!!」
「おい、聞いてるのかよ!?」
――グルルルルルルルルッ
「「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」」」
グレートウルフたちの唸り声が響き、男たちの情けない悲鳴が上がった瞬間――グレートウルフたちは一斉に飛び掛る。
……はずだった。
――グルルルル…………。
「ご苦労様、良い感じに疲れさせてくれたわね」
「「「……え?」」」
唸り声が小さくなると同時にグレートウルフたちが自ら道を開けた先には、杖を持ったひとりの少女が立っていた。
その少女を男たちはポカンとした表情で見ており、少女はそんな彼らをジッと見ながら……。
「貴方たちはいったい何の用があってこの森に入ったのかしら? まあ、この様子からして真っ当なことをしに来たわけじゃないでしょうけどね」
「――っ!? ま、まさかこいつが……」
「け、賢者か!?」
「に、にげ――――ひっ!?」
少女――ベルが男たちを敵と認識した瞬間、周囲の空気が凍り付き……男たちは逃げようとするが、足が震えて動くことが出来なかった。
いや、足だけじゃない……手も震えている。布で覆われた口の歯もカチカチと鳴っている。
恐怖……そう、彼らは目の前の少女としか言いようが無いそれに恐怖を抱いているのだ。
「逃がす、と思いますか? ああ、抵抗はしないほうが良いですよ? 万が一体が動いて抵抗なんてしたら本気で押さえます。その際、全身の骨がグチャグチャになったとしても、体が炎によって焼かれて炭になってしまっても責任は持ちませんから」
「骨が……ぐちゃぐちゃ……」
「体が、炭……?」
「い、いやだ……いやだぁぁぁぁぁぁ!! 死にたくねぇ! 死にたくねぇぇぇぇ~~~~~~!!」
「出すのが遅いだろっ!?」
「って、待てよ! こんなすぐ近くで使おうとするんじゃねぇ!!」
脅しを込めながら、ゆっくりとベルが男たちに近づくのだが……恐怖の臨界点を突破したのか、男の一人は叫びながら懐から何かを取り出した。
それは、綺麗な丸みを帯びた水晶玉だった。……ただし、中は透明ではなく真っ黒であったが。
出されたそれをベルは怪訝な表情で見つめていたが、何を思ったのか男はベルに向けて投げようとした……が、手汗で滑ったのか、水晶玉は手から零れ落ちて自らの足元に落としてしまっていた。
「「「あ」」」
パリンッ、と水晶球が割れる音が周囲に響いた直後、男たちの足元に黒い煙が立ち込めるのをベルは見た。
「なっ!? なんだよこれっ!? ――ぐがっ!?」
「うわっ!! は、離れろっ! 離れ――ぐげ!?」
「うわ、うわわ……うわぁぁあぁぁぁーー――ごぐっ!?」
巻き上がった黒い煙は男たちの体に纏わりつき、口に入り込んでいった。
直後、男たちの体が痙攣し始め、穴という穴から大量の血を噴出した。
噴出した血が地面を赤で穢し、その時点で絶命してしまっているであろう男たちの体がグズグズと崩れ始めるのが見えたが、それ以上にベルは未だ消えない黒い煙を注視していた。
(大量の血を噴出して絶命、更に死んだ死体は次の呪いの材料となる…これは典型的な呪殺魔法ね……。しかもこれって、所々形式が変わっているけど魔人族が主に使ってたものよね……。何処かに純潔の生き残りが居た? それとも、地底から遂に出てきた?)
――グルルルルルルルルルルルルッ!
黒い煙が害悪と判断しているのかグレートウルフたちが唸り声を上げて、攻撃を行おうとしているのにベルは気づき、それを静止させた。
「これは危険だからあなたたちは下がっていてちょうだい。これは巻き込まれただけでも、貴方たちでも命が無いほど危険だから」
――クゥン…………。
「うん、良い子たちね。それじゃあ、巻き込まれないように離れていてちょうだい」
唸り声を上げて威嚇していたグレートウルフたちだったが、ベルの言葉に従い不本意ながらという様子でその場から離れて行った。
それを見届け、ベルは黒い煙を見るが……呪殺魔法の本体である黒い煙は男たちの体を分解しているのか先程よりも大きさを増していた。
きっともう少ししたら、近くにいる生物を呪殺し、新たな栄養として更に拡大するだろう。それを何度も繰り返し、森の中の生物を全て呪殺したならば、この森は完全に死ぬだろう。
人も動物も入ることが出来ない死の森となって……。
「あの男たちの言うことが正しかったら、本当は私に使うつもりだったみたいだけど……当てが外れたわね。聞いてる? お前が使い魔を放っているのも気づいているし、その呪殺魔法を通して私を見ているのも気づいているのよ?」
静かにベルは独り言のように周囲に向けて言う。
だが返事は無い。というよりも無くてもかまわない。
「ああ、返事は期待していないから。お前が今誰の従者をしているのかは分かってるつもりよ。……けど私を狙って、ディックを連れ去ろうとしていたのはいただけないわ。だから、お前にはしばらく地獄を味わってもらうわね」
そう言った瞬間、ベルは空間から全身に釘が刺さった痛々しい人形を取り出し、拡大を終えて新たな獲物であるベルを狙うために動き出した黒い煙へと投げつけた。
『グゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ!!』
瞬間、黒い煙は人形に纏わりついた。すると人形の顔が浮かび上がり、気味の悪い笑い声を上げて黒い煙を吸い込み始めた。
黒い煙を吸い込み始めるにつれて、人形の体は膨れ始め……全て吸い切ると、パンパンに膨らんでいた。
「……お前はお前の呪いで痛み苦しみなさい。大丈夫、死にはしないわ。死ぬほど痛いけどね」
『ギョエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーーーーーーッッ!!』
ベルが静かにそう言った瞬間、人形は断末魔のような悲鳴を上げパンッと人形は弾け飛んだ。
だが人形が弾け飛んだ場所には人形の残骸も無く、ましてや呪殺魔法の黒い煙さえも無かった。
あるのは、3人の男たちが垂らした大量の血だけだ。
「流石あの子が作った魔道具ね……。見事に呪い返しが発動しているわ。……はぁ、それにしても厄介な者を飼ってるって自覚あるのかしら、あの馬鹿姫は」
呆れながら溜息を吐き、ベルは自宅がある方向を見る。
「とりあえず、自衛を出来るようにはしておきたいけど……どうなるかしらね。まあ、なるようになれ……って所かしらね。っとと、そろそろ戻らないといけないわね」
静かに呟き、ベルは初めからそこに居なかったようにその場から姿を消した。
そんな森の中をパタタッと小鳥たちは木々の合間を羽ばたき、木に止まった鳥たちがチュンチュンと可愛らしい鳴き声を上げていく。
その森は普通に狩りを行ったり薬草を採取する者たちには平穏な森なのだが、森の奥に住まう賢者に害を成そうとする者たちがこの森に入ると平穏な森は豹変する。
そんな森の中を、様子が一変したことに気づかない3人の黒尽くめの格好に身を包んだ男たちが周囲を注意しながら歩いていた。
「なあ、この道でいいのか?」
「そのはずだぞ? あの男の情報通りなら……な」
「けどよぉ、さっきからずっと同じ場所をグルグルと回っているような気がするんだけど?」
「気のせいじゃねぇのか? ほら、さっさと行くぞ!」
口元を隠す布越しに話し合う男たちは、不安そうに言う仲間の言葉を無視して歩みを止めない。
ここで不安そうに言った男の言ったように周囲を注意深く観察したら分かっただろう……、彼らが一本の大樹の周辺をグルグルと回っているだけだということに……。
彼らは知らないだろうが、この大樹は導樹と呼ばれる樹であり、道に迷った心根が正しい者がこの樹に近づいたならば、正しい道へと導くのだが……心根が正しくない者が樹に近づいたら自らの過ちに気づくまで道に迷わせるという特性を持っていた。
そんなことを知らない男たちは、賢者――ベルの家へと向かっていると思っていた。
「けど、ボスに黙って来て良かったのか?」
「別に良いだろ? 俺たちだけで、混人のガキを連れて来たら組織内での株が上がるってもんだ!」
「それにあの男も言ってただろ? 今の賢者はただの搾りかすだってよ」
「そりゃ、そうだけど……」
「何だ? 怖気付いたって言うのか? 別におめぇが居なくても俺たちは良いんだぜ? 何しろ、3人で報酬を山分けするのが2人になるんだからよぉ」
「!? そ、そうだよな……。アレだけの金が俺たちの物になるなら、ボスに黙って出るぐらいは……」
強気な男の言葉に、及び腰だった男が息を呑み込み……あの夜の取引の後に男が3人だけに見せたお金を思い出していた。
それほどまでに男の主は混人の少年にご執心なのだろう。
「その意気込みだ。賢者を殺してガキを奪う。それで十分だ」
「そうだな……、それに……あの男も賢者の力を無効化する物を寄越して来たんだし、大丈夫だよな?」
「ああ、数もこっちのほうが多いんだ。だからなんとでもなる」
意気込みを見せながら、男たちは賢者の家へと向かうために歩き続ける。……実際は、導樹の周囲をグルグルと回っているだけだが……。
そして平穏な森から危険な森へと豹変した結果、小鳥などの囀りは無くなり其処彼処から獰猛な獣の唸り声が聞こえ始めた。
平穏な森では彼らは静かに暮らしている。だが、狩っても良い人間が入り込んだら彼らは容赦しない。
つまりは導樹の周囲をグルグルと回っている3人の男たちは狩っても良いのだ。
「……これは、囲まれてるのか?」
「みたいだな……。一人どれだけやれる?」
「囲んでるのが何匹かによるな……」
「多くないことを祈るばかりだ」
口々にそう言いながら、男たちは自らの獲物を取り出す。
獲物を出すのを待っていたとでも言うように、彼らの前へと獣たちは姿を現した。
巨大なオオカミ……グレートウルフの大群が。
直後――、男たちは逃げ出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「くっ、くそっ! グレートウルフってなんだよ!? ベビーウルフしかいないって話じゃなかったのかよ!?」
「知るかよ! 叫んでいる暇があったら速く走れ! 追いつかれるぞっ!!」
「こ、こんなことなら受けるのをやめときゃ良かったよっ!!」
逃げ出した男たちは口々に叫びながら必死に手足を動かし、森の中を疾走する。
だが……。
「ひぃ!? な、何で先にこいつらがいるんだよっ!?」
「ま、まさか他にもいたってのか!?」
「た、助けてくれぇぇぇぇぇぇ~~~~!!」
何度もいうが、3人は同じ導樹の周囲を走り回っているだけだった。
だからそれを知っているグレートウルフたちは追いかける者たちと待ち構える者たちに別れて行動していた。
その結果、男たちにはこの森には複数のグレートウルフがいると認識してしまっていた。
そんなことも分からない男たちは絶体絶命と感じているのか、生まれたての子鹿のように足をガクガクとさせてしまっていた。
……こんななりでも裏の世界の住人のはずだが、3人の経験は低いのだろう。
「そ、そうだ! あの男が渡してきたアレを使えば!」
「あ、あれは賢者にしか使うなって言われてるだろっ!?」
「馬鹿! そんな状況じゃねぇだろ!! ほら、早く出せよ!」
「うわああああああああ~~~~っ!!」
「おい、聞いてるのかよ!?」
――グルルルルルルルルッ
「「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」」」
グレートウルフたちの唸り声が響き、男たちの情けない悲鳴が上がった瞬間――グレートウルフたちは一斉に飛び掛る。
……はずだった。
――グルルルル…………。
「ご苦労様、良い感じに疲れさせてくれたわね」
「「「……え?」」」
唸り声が小さくなると同時にグレートウルフたちが自ら道を開けた先には、杖を持ったひとりの少女が立っていた。
その少女を男たちはポカンとした表情で見ており、少女はそんな彼らをジッと見ながら……。
「貴方たちはいったい何の用があってこの森に入ったのかしら? まあ、この様子からして真っ当なことをしに来たわけじゃないでしょうけどね」
「――っ!? ま、まさかこいつが……」
「け、賢者か!?」
「に、にげ――――ひっ!?」
少女――ベルが男たちを敵と認識した瞬間、周囲の空気が凍り付き……男たちは逃げようとするが、足が震えて動くことが出来なかった。
いや、足だけじゃない……手も震えている。布で覆われた口の歯もカチカチと鳴っている。
恐怖……そう、彼らは目の前の少女としか言いようが無いそれに恐怖を抱いているのだ。
「逃がす、と思いますか? ああ、抵抗はしないほうが良いですよ? 万が一体が動いて抵抗なんてしたら本気で押さえます。その際、全身の骨がグチャグチャになったとしても、体が炎によって焼かれて炭になってしまっても責任は持ちませんから」
「骨が……ぐちゃぐちゃ……」
「体が、炭……?」
「い、いやだ……いやだぁぁぁぁぁぁ!! 死にたくねぇ! 死にたくねぇぇぇぇ~~~~~~!!」
「出すのが遅いだろっ!?」
「って、待てよ! こんなすぐ近くで使おうとするんじゃねぇ!!」
脅しを込めながら、ゆっくりとベルが男たちに近づくのだが……恐怖の臨界点を突破したのか、男の一人は叫びながら懐から何かを取り出した。
それは、綺麗な丸みを帯びた水晶玉だった。……ただし、中は透明ではなく真っ黒であったが。
出されたそれをベルは怪訝な表情で見つめていたが、何を思ったのか男はベルに向けて投げようとした……が、手汗で滑ったのか、水晶玉は手から零れ落ちて自らの足元に落としてしまっていた。
「「「あ」」」
パリンッ、と水晶球が割れる音が周囲に響いた直後、男たちの足元に黒い煙が立ち込めるのをベルは見た。
「なっ!? なんだよこれっ!? ――ぐがっ!?」
「うわっ!! は、離れろっ! 離れ――ぐげ!?」
「うわ、うわわ……うわぁぁあぁぁぁーー――ごぐっ!?」
巻き上がった黒い煙は男たちの体に纏わりつき、口に入り込んでいった。
直後、男たちの体が痙攣し始め、穴という穴から大量の血を噴出した。
噴出した血が地面を赤で穢し、その時点で絶命してしまっているであろう男たちの体がグズグズと崩れ始めるのが見えたが、それ以上にベルは未だ消えない黒い煙を注視していた。
(大量の血を噴出して絶命、更に死んだ死体は次の呪いの材料となる…これは典型的な呪殺魔法ね……。しかもこれって、所々形式が変わっているけど魔人族が主に使ってたものよね……。何処かに純潔の生き残りが居た? それとも、地底から遂に出てきた?)
――グルルルルルルルルルルルルッ!
黒い煙が害悪と判断しているのかグレートウルフたちが唸り声を上げて、攻撃を行おうとしているのにベルは気づき、それを静止させた。
「これは危険だからあなたたちは下がっていてちょうだい。これは巻き込まれただけでも、貴方たちでも命が無いほど危険だから」
――クゥン…………。
「うん、良い子たちね。それじゃあ、巻き込まれないように離れていてちょうだい」
唸り声を上げて威嚇していたグレートウルフたちだったが、ベルの言葉に従い不本意ながらという様子でその場から離れて行った。
それを見届け、ベルは黒い煙を見るが……呪殺魔法の本体である黒い煙は男たちの体を分解しているのか先程よりも大きさを増していた。
きっともう少ししたら、近くにいる生物を呪殺し、新たな栄養として更に拡大するだろう。それを何度も繰り返し、森の中の生物を全て呪殺したならば、この森は完全に死ぬだろう。
人も動物も入ることが出来ない死の森となって……。
「あの男たちの言うことが正しかったら、本当は私に使うつもりだったみたいだけど……当てが外れたわね。聞いてる? お前が使い魔を放っているのも気づいているし、その呪殺魔法を通して私を見ているのも気づいているのよ?」
静かにベルは独り言のように周囲に向けて言う。
だが返事は無い。というよりも無くてもかまわない。
「ああ、返事は期待していないから。お前が今誰の従者をしているのかは分かってるつもりよ。……けど私を狙って、ディックを連れ去ろうとしていたのはいただけないわ。だから、お前にはしばらく地獄を味わってもらうわね」
そう言った瞬間、ベルは空間から全身に釘が刺さった痛々しい人形を取り出し、拡大を終えて新たな獲物であるベルを狙うために動き出した黒い煙へと投げつけた。
『グゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ!!』
瞬間、黒い煙は人形に纏わりついた。すると人形の顔が浮かび上がり、気味の悪い笑い声を上げて黒い煙を吸い込み始めた。
黒い煙を吸い込み始めるにつれて、人形の体は膨れ始め……全て吸い切ると、パンパンに膨らんでいた。
「……お前はお前の呪いで痛み苦しみなさい。大丈夫、死にはしないわ。死ぬほど痛いけどね」
『ギョエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーーーーーーッッ!!』
ベルが静かにそう言った瞬間、人形は断末魔のような悲鳴を上げパンッと人形は弾け飛んだ。
だが人形が弾け飛んだ場所には人形の残骸も無く、ましてや呪殺魔法の黒い煙さえも無かった。
あるのは、3人の男たちが垂らした大量の血だけだ。
「流石あの子が作った魔道具ね……。見事に呪い返しが発動しているわ。……はぁ、それにしても厄介な者を飼ってるって自覚あるのかしら、あの馬鹿姫は」
呆れながら溜息を吐き、ベルは自宅がある方向を見る。
「とりあえず、自衛を出来るようにはしておきたいけど……どうなるかしらね。まあ、なるようになれ……って所かしらね。っとと、そろそろ戻らないといけないわね」
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