32 / 43
第一章 賢者と賢者の家族
第31話 ディック、せいいっぱいのゆうき。
しおりを挟む
「はなせっ! はなせよぉっ!!」
「はいはい、少しは黙っていましょうねクソガキ」
アランに胴体を掴まれたディックはジタバタと暴れながら、必死に叫ぶ。
けれど、肉体を保護する魔法が掛かっていようと……所詮は子供の力が大人に叶うわけも無く涼しい顔をしながらアランはディックを連れて悠々とベルの家の階段を歩く。
『や――やだぁぁぁぁっ! たすけてぇ! でぃっくおにちゃん! ベルママァ! ベルママァーー!!』
「うふふぅ、そんなにアバれないでホしいわぁ。けど、イきがイいのはサイコウねぇ♪」
『いたいっ! いたいよぉ! いたいのやだぁぁ~~!!』
そんな彼の背後から……、彼らがついさっきまで隠れていた部屋の中から、助けを求めるクラリスの悲鳴染みた思念と愉しそうに嗤うラーウネの声が聞こえた。
その声を聞いて、ディックはビクリと震えた……体が恐怖を感じているのだ。だが、同時にベルが言った言葉を思い出した。
『――きみよりも少し前に私の家族になった子よ。……所謂、お兄ちゃんって所かしら』
『おぉ~、よろしく、でぃっくおにちゃん!』
あのとき、眩しいほどの笑顔をクラリスは自分へと向けてくれた。
家族、それがどんな物であるのか上手く分からず実感なんてものは出来なかった。
だけど、だけど、自分をおにちゃんと……兄と呼んでくれていたクラリス――妹が泣き叫んでる。
そう思うと、怖い気持ちがあるけれど、それに対する震えが止まった。
(気絶しましたか。だったら、とっととこんな所からはオサラバするのが良いでしょうねぇ)
そんな止まった震えをアランは恐怖で失神した。そう思ったのだろう。だから、油断した。
ぽつり、とディックはか細く……小さく呟いた。
「――――な、せ……」
「は? 今なんて言った? というよりも気絶してたんじゃ――」
それが気のせいだろう。と思った瞬間――ディックは力の限り叫んだ。
「は……なせ……! はなせぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」
「う――うおっ!? ク、クソガキ! テメェ!!」
「うわあああああああああああッッ!!」
ディックが叫んだ瞬間、まるで彼の周囲に見えない障壁でもあるかのようにアランの体を弾き飛ばした。
突然のことで油断していたアランは驚きの声を上げながらディックを手放してしまったが、再びディックを捕らえようと手を伸ばす。
だが、ディックは叫び声を上げながら先ほど担がれて降りた階段を駆け上り、クラリスの元へと駆けた。
……そして、辿り着いた部屋の中ではクラリスが棘の付いた蔓を両腕に巻き付けられた状態で吊るされており、蔓を鞭のようにして甚振られていたのか、着ていた真っ白な服がボロボロになっており血が滲んで赤く染まっていた。
足音で気づいたのか、ラーウネが妖艶な視線をディックへと向ける。
その視線に気づいたのか、弱弱しくクラリスも入口のほうへと視線を向けた。
『でぃ、っく……おに、ちゃん…………?』
「あらぁ? アランってば、このコにニゲられちゃったのぉ? ダメねぇ」
「ク、クラリスを……、クラリスをはなせぇぇぇぇーーっ!!」
「うふふ、おバカさんねぇ。ジブンからツカまりにクるだなんてぇ」
一直線で飛び込んでくるディックを嘲笑いながらラーウネは自慢の蔓を伸ばし、彼を捕らえようとする。
だが――、見えない障壁によって彼へと巻き付くはずだった蔓は弾かれ、別の方向へと滑って行った。
「え、ええっ!? ど、どういうコトよぉ!? ――ぎゃっ!!」
「――――ぁ、う……!」
何が起きたのか分からず戸惑うラーウネへとディックが渾身の体当たりを放った、その体当たりは見た目とは裏腹に強力な力が込められていた。
そのため、ラーウネはクラリスを縛り上げていた蔓を緩めてしまい、幼いクラリスの体は床へと放り出された。
床へと放り出されたクラリスは短い呻き声を上げ、ピクリとも体を動かさない。
その様子にディックは不安に掻き立てられながらも、立ち上がるのももどかしいのか床を這いながらクラリスの元へと近づいた。
「ク、クラリスッ! クラリス……! へ、返事……してくれよ……クラリスッ!!」
『…………で、お……ちゃ……』
「よ……かった。は、はやく……ここからにげ――――うぐっ!?」
心配するディックがクラリスに呼びかけると、数度の呼びかけで彼女は痛みを堪えるようにしながら笑顔を作った。
彼女の様子を見て助けることが遅れたことを後悔しつつも、助けることが出来たことにホッと息を吐く。だがすぐに彼女を連れて逃げることを決意する。
が、入口へと顔を向けた瞬間、ディックの目に飛び込んできたのは……拳だった。
力が込められた拳はディックの顔面へと命中し、彼の体は何かが破壊される感覚と共に床へと倒れた。
顔面……殴られた鼻っ面が熱を持っているのか熱く感じ、力いっぱい床に倒れ込んだ背中はヒリヒリと痛みを放っていた。
そして、いったい何が起きたのかと混乱しつつ起き上がろうとするディックだったが、それよりも前に腹へと足が乗せられた。
「か――っ!?」
「おいおいクソガキィ、テメェ……逃げられると思っているのか? ワタシたちが優しくしてやってるのはテメェを生かして連れて来いって言われたからだぞ?」
「ぐ……ぅ…………!」
「聞いてんのかっ!? このクソガキがぁ!!」
たかがガキ、そう思って舐めていた結果、アランは恥をかいた。いや、賢者の件と合わせると恥の上塗りだ。
だから、その怒りを発散するように彼はディックを生かしはするが、気が済むまで甚振ることに決めた。
手始めに逃げられると思っていたディックの振り向いた顔面を殴り付けた。
すると、アランの拳に何かが砕ける感触が伝わったが……今度は弾かれることは無かった。
だから顔面を殴り付けた。そして何が起きたのか分からないまま起き上がろうとしていた彼の腹を踏んで動けなくした。
そして返事が出来ないことを知りながら、さも相手が悪いと言うように罵声を浴びせながら踏んでいた腹から足を浮かせると――即座に横腹を蹴り上げた!
「――――がふっ!?」
靴の爪先がディックの横腹に突き刺さると彼の体は球のように蹴り飛ばされ、室内の壁へと叩き付けられた。
そして、叩き付けられた拍子に彼の腕から抜け落ちたクラリスは再びラーウネに捕獲されてしまい、妖艶さに嗜虐的な笑みを混ぜ合わせた表情を浮かべる彼女が何をするのかを物語っていた。
「おいおい、ラーウネ。苗床にするって言ってるけど、そんな幼いので良いのが育つんですか?」
「あらぁ、オサナいからこそイいのよぉ。ワカさをチカラにして、サイコウのコがソダつのよぉ、うふふぅ♪」
「や、めろ……! クラ、リ、ス……を、は……せ…………――うっ!!」
「うるせぇよクソガキが、テメェは後回しにしてや――お、そうだ。おいラーウネ、このメスガキが見ている前でそのガキを苗床にしてやるっていうのはどうだ?」
「えぇ? わたくしまだまだ、このコをイタブりたいですわぁ。そのほうが、ヨくソダってくれますからぁ。……それと、クチョウがモドっていますわよアラン?」
「んなの別に良いだろ? ワタシはこのクソガキが絶望するさまを今すぐに見たいんだ……じゃなくて、ですよ」
唐突な思い付きを語るアランに文句を言うラーウネ。
それを聞いたディックは顔を青くし、彼女の凶行を止めるようにそちらへと手を伸ばそうとする――が。
「うぐっ!?」
「はいはい、クソガキ。テメェはここで大人しく見ていやがれ、そんでもって絶望したままあの豚姫の下に帰るんだよ」
手を伸ばそうとするディックをアランが足で踏みつけると、まるで壁に磔にでもするかのように力強く押し込んだ。
結果、圧迫された腹から空気が洩れ、ディックは魚のように口をパクパクすることしか出来なくなっていた。
そして、アランの言葉にまだまだ楽しみたかったという雰囲気を出しながら……渋々ラーウネが動き出し、されるがままに吊るされたクラリスの体へと蔓を伸ばす。
それを見ながら、ディックは何も出来ないこの状況に涙を流し始め、必死に助けを心から求める。
(だれか……だれか! お願いだ……お願いしますっ! クラリスを……、おれのいもうとを助けてくださいっ!! お願いします……お願いしますっ!!)
わざと恐怖心と絶望を与えるためなのか、ラーウネの蔓はクラリスの体を螺旋状に巻きながら上へ上へと上がっていく。
きっと、口の中に届くと……終わりなんだ。子供ながらそうディックは直感する。
だからだろうか、いや……心の中では理解していただろうが、口にしなかったものを彼は口にした。
「たす……けてくれよ……ベ、ル……! みすてないなら……たすけてくれよぉ!!」
「あぁ? テメェ、うるせぇぞ! ほら、ラーウネ! 速くそのメスガキを苗床にしちまえよ!!」
「ワかっているわよぉ。ホントウはもっとイロんなカオをミたかったけど、シカタナいわよねぇ」
アランの言葉に文句を言いながら、ラーウネはクラリスの小さな口へと蔓を押し込もうとした。
だがその瞬間――シャンッと鈴なりのような音が聞こえ、蔓が斬られた。
そして、何が起きたのかを確認するよりも先に……まるで家から追い出されるようにして4人は外へと吹き飛ばされていた。
アランとラーウネの驚くような悲鳴が聞こえる中で、ディックは宙に飛ばされ意識を朦朧とさせる。
(いったい……なに、が……? おれ、しぬの……? くらりす、も……?)
「……死なないわ。だって、私が助けに来たんですもの」
「…………え?」
耳元に声が聞こえ、そちらを見ると優しく微笑むベルが居た。
彼女は落ちようとしていたディックとクラリスを優しく抱きとめ、地上へと降りた。
抱き抱えられたディックはきょとんとした表情をベルへと向け、唇を震わせながら口を開いた……。
「ベ、ル……?」
「ええ、私よ。大丈夫だったかしら?」
「だい……じょう、ぶ……」
「……大体のことは分かってるから、無理して喋らなくても良いわよ。……クラリスを護ろうとしたのね、偉いわよディック。流石はお兄ちゃんね」
そう優しくディックへと言いながらベルは2人に向けて回復魔法をかける。
すると温かい光がディックとクラリスを包み、殴られた痛みが引いていくのを感じた。
彼らに付けられた傷が、再生しているのだ。
……そしてゆっくりとクラリスの瞼が開かれ、虚ろな瞳がディックとベルを捉えた。
『でぃ、っく……おに、ちゃん……? あ、ベルママだぁ……』
「クラリス! よ、よかった……!」
『くる、しいよ……でぃっくおに、ちゃん……』
瞳を開けたクラリスにディックは喜び、抱き締める。
突然のことで眼を白黒させながらも、クラリスは嬉しそうに笑う。
その様子をベルは微笑ましく見ていたが、視線をアランたちへと向ける。
「さてと、ディックとクラリスが世話になったわね。……お前たち、準備は出来ているかしら?」
温かさを感じない絶対零度の瞳を向けながら、ベルはそう告げた。
――――――――――
17/07/08 一部修正。
「はいはい、少しは黙っていましょうねクソガキ」
アランに胴体を掴まれたディックはジタバタと暴れながら、必死に叫ぶ。
けれど、肉体を保護する魔法が掛かっていようと……所詮は子供の力が大人に叶うわけも無く涼しい顔をしながらアランはディックを連れて悠々とベルの家の階段を歩く。
『や――やだぁぁぁぁっ! たすけてぇ! でぃっくおにちゃん! ベルママァ! ベルママァーー!!』
「うふふぅ、そんなにアバれないでホしいわぁ。けど、イきがイいのはサイコウねぇ♪」
『いたいっ! いたいよぉ! いたいのやだぁぁ~~!!』
そんな彼の背後から……、彼らがついさっきまで隠れていた部屋の中から、助けを求めるクラリスの悲鳴染みた思念と愉しそうに嗤うラーウネの声が聞こえた。
その声を聞いて、ディックはビクリと震えた……体が恐怖を感じているのだ。だが、同時にベルが言った言葉を思い出した。
『――きみよりも少し前に私の家族になった子よ。……所謂、お兄ちゃんって所かしら』
『おぉ~、よろしく、でぃっくおにちゃん!』
あのとき、眩しいほどの笑顔をクラリスは自分へと向けてくれた。
家族、それがどんな物であるのか上手く分からず実感なんてものは出来なかった。
だけど、だけど、自分をおにちゃんと……兄と呼んでくれていたクラリス――妹が泣き叫んでる。
そう思うと、怖い気持ちがあるけれど、それに対する震えが止まった。
(気絶しましたか。だったら、とっととこんな所からはオサラバするのが良いでしょうねぇ)
そんな止まった震えをアランは恐怖で失神した。そう思ったのだろう。だから、油断した。
ぽつり、とディックはか細く……小さく呟いた。
「――――な、せ……」
「は? 今なんて言った? というよりも気絶してたんじゃ――」
それが気のせいだろう。と思った瞬間――ディックは力の限り叫んだ。
「は……なせ……! はなせぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」
「う――うおっ!? ク、クソガキ! テメェ!!」
「うわあああああああああああッッ!!」
ディックが叫んだ瞬間、まるで彼の周囲に見えない障壁でもあるかのようにアランの体を弾き飛ばした。
突然のことで油断していたアランは驚きの声を上げながらディックを手放してしまったが、再びディックを捕らえようと手を伸ばす。
だが、ディックは叫び声を上げながら先ほど担がれて降りた階段を駆け上り、クラリスの元へと駆けた。
……そして、辿り着いた部屋の中ではクラリスが棘の付いた蔓を両腕に巻き付けられた状態で吊るされており、蔓を鞭のようにして甚振られていたのか、着ていた真っ白な服がボロボロになっており血が滲んで赤く染まっていた。
足音で気づいたのか、ラーウネが妖艶な視線をディックへと向ける。
その視線に気づいたのか、弱弱しくクラリスも入口のほうへと視線を向けた。
『でぃ、っく……おに、ちゃん…………?』
「あらぁ? アランってば、このコにニゲられちゃったのぉ? ダメねぇ」
「ク、クラリスを……、クラリスをはなせぇぇぇぇーーっ!!」
「うふふ、おバカさんねぇ。ジブンからツカまりにクるだなんてぇ」
一直線で飛び込んでくるディックを嘲笑いながらラーウネは自慢の蔓を伸ばし、彼を捕らえようとする。
だが――、見えない障壁によって彼へと巻き付くはずだった蔓は弾かれ、別の方向へと滑って行った。
「え、ええっ!? ど、どういうコトよぉ!? ――ぎゃっ!!」
「――――ぁ、う……!」
何が起きたのか分からず戸惑うラーウネへとディックが渾身の体当たりを放った、その体当たりは見た目とは裏腹に強力な力が込められていた。
そのため、ラーウネはクラリスを縛り上げていた蔓を緩めてしまい、幼いクラリスの体は床へと放り出された。
床へと放り出されたクラリスは短い呻き声を上げ、ピクリとも体を動かさない。
その様子にディックは不安に掻き立てられながらも、立ち上がるのももどかしいのか床を這いながらクラリスの元へと近づいた。
「ク、クラリスッ! クラリス……! へ、返事……してくれよ……クラリスッ!!」
『…………で、お……ちゃ……』
「よ……かった。は、はやく……ここからにげ――――うぐっ!?」
心配するディックがクラリスに呼びかけると、数度の呼びかけで彼女は痛みを堪えるようにしながら笑顔を作った。
彼女の様子を見て助けることが遅れたことを後悔しつつも、助けることが出来たことにホッと息を吐く。だがすぐに彼女を連れて逃げることを決意する。
が、入口へと顔を向けた瞬間、ディックの目に飛び込んできたのは……拳だった。
力が込められた拳はディックの顔面へと命中し、彼の体は何かが破壊される感覚と共に床へと倒れた。
顔面……殴られた鼻っ面が熱を持っているのか熱く感じ、力いっぱい床に倒れ込んだ背中はヒリヒリと痛みを放っていた。
そして、いったい何が起きたのかと混乱しつつ起き上がろうとするディックだったが、それよりも前に腹へと足が乗せられた。
「か――っ!?」
「おいおいクソガキィ、テメェ……逃げられると思っているのか? ワタシたちが優しくしてやってるのはテメェを生かして連れて来いって言われたからだぞ?」
「ぐ……ぅ…………!」
「聞いてんのかっ!? このクソガキがぁ!!」
たかがガキ、そう思って舐めていた結果、アランは恥をかいた。いや、賢者の件と合わせると恥の上塗りだ。
だから、その怒りを発散するように彼はディックを生かしはするが、気が済むまで甚振ることに決めた。
手始めに逃げられると思っていたディックの振り向いた顔面を殴り付けた。
すると、アランの拳に何かが砕ける感触が伝わったが……今度は弾かれることは無かった。
だから顔面を殴り付けた。そして何が起きたのか分からないまま起き上がろうとしていた彼の腹を踏んで動けなくした。
そして返事が出来ないことを知りながら、さも相手が悪いと言うように罵声を浴びせながら踏んでいた腹から足を浮かせると――即座に横腹を蹴り上げた!
「――――がふっ!?」
靴の爪先がディックの横腹に突き刺さると彼の体は球のように蹴り飛ばされ、室内の壁へと叩き付けられた。
そして、叩き付けられた拍子に彼の腕から抜け落ちたクラリスは再びラーウネに捕獲されてしまい、妖艶さに嗜虐的な笑みを混ぜ合わせた表情を浮かべる彼女が何をするのかを物語っていた。
「おいおい、ラーウネ。苗床にするって言ってるけど、そんな幼いので良いのが育つんですか?」
「あらぁ、オサナいからこそイいのよぉ。ワカさをチカラにして、サイコウのコがソダつのよぉ、うふふぅ♪」
「や、めろ……! クラ、リ、ス……を、は……せ…………――うっ!!」
「うるせぇよクソガキが、テメェは後回しにしてや――お、そうだ。おいラーウネ、このメスガキが見ている前でそのガキを苗床にしてやるっていうのはどうだ?」
「えぇ? わたくしまだまだ、このコをイタブりたいですわぁ。そのほうが、ヨくソダってくれますからぁ。……それと、クチョウがモドっていますわよアラン?」
「んなの別に良いだろ? ワタシはこのクソガキが絶望するさまを今すぐに見たいんだ……じゃなくて、ですよ」
唐突な思い付きを語るアランに文句を言うラーウネ。
それを聞いたディックは顔を青くし、彼女の凶行を止めるようにそちらへと手を伸ばそうとする――が。
「うぐっ!?」
「はいはい、クソガキ。テメェはここで大人しく見ていやがれ、そんでもって絶望したままあの豚姫の下に帰るんだよ」
手を伸ばそうとするディックをアランが足で踏みつけると、まるで壁に磔にでもするかのように力強く押し込んだ。
結果、圧迫された腹から空気が洩れ、ディックは魚のように口をパクパクすることしか出来なくなっていた。
そして、アランの言葉にまだまだ楽しみたかったという雰囲気を出しながら……渋々ラーウネが動き出し、されるがままに吊るされたクラリスの体へと蔓を伸ばす。
それを見ながら、ディックは何も出来ないこの状況に涙を流し始め、必死に助けを心から求める。
(だれか……だれか! お願いだ……お願いしますっ! クラリスを……、おれのいもうとを助けてくださいっ!! お願いします……お願いしますっ!!)
わざと恐怖心と絶望を与えるためなのか、ラーウネの蔓はクラリスの体を螺旋状に巻きながら上へ上へと上がっていく。
きっと、口の中に届くと……終わりなんだ。子供ながらそうディックは直感する。
だからだろうか、いや……心の中では理解していただろうが、口にしなかったものを彼は口にした。
「たす……けてくれよ……ベ、ル……! みすてないなら……たすけてくれよぉ!!」
「あぁ? テメェ、うるせぇぞ! ほら、ラーウネ! 速くそのメスガキを苗床にしちまえよ!!」
「ワかっているわよぉ。ホントウはもっとイロんなカオをミたかったけど、シカタナいわよねぇ」
アランの言葉に文句を言いながら、ラーウネはクラリスの小さな口へと蔓を押し込もうとした。
だがその瞬間――シャンッと鈴なりのような音が聞こえ、蔓が斬られた。
そして、何が起きたのかを確認するよりも先に……まるで家から追い出されるようにして4人は外へと吹き飛ばされていた。
アランとラーウネの驚くような悲鳴が聞こえる中で、ディックは宙に飛ばされ意識を朦朧とさせる。
(いったい……なに、が……? おれ、しぬの……? くらりす、も……?)
「……死なないわ。だって、私が助けに来たんですもの」
「…………え?」
耳元に声が聞こえ、そちらを見ると優しく微笑むベルが居た。
彼女は落ちようとしていたディックとクラリスを優しく抱きとめ、地上へと降りた。
抱き抱えられたディックはきょとんとした表情をベルへと向け、唇を震わせながら口を開いた……。
「ベ、ル……?」
「ええ、私よ。大丈夫だったかしら?」
「だい……じょう、ぶ……」
「……大体のことは分かってるから、無理して喋らなくても良いわよ。……クラリスを護ろうとしたのね、偉いわよディック。流石はお兄ちゃんね」
そう優しくディックへと言いながらベルは2人に向けて回復魔法をかける。
すると温かい光がディックとクラリスを包み、殴られた痛みが引いていくのを感じた。
彼らに付けられた傷が、再生しているのだ。
……そしてゆっくりとクラリスの瞼が開かれ、虚ろな瞳がディックとベルを捉えた。
『でぃ、っく……おに、ちゃん……? あ、ベルママだぁ……』
「クラリス! よ、よかった……!」
『くる、しいよ……でぃっくおに、ちゃん……』
瞳を開けたクラリスにディックは喜び、抱き締める。
突然のことで眼を白黒させながらも、クラリスは嬉しそうに笑う。
その様子をベルは微笑ましく見ていたが、視線をアランたちへと向ける。
「さてと、ディックとクラリスが世話になったわね。……お前たち、準備は出来ているかしら?」
温かさを感じない絶対零度の瞳を向けながら、ベルはそう告げた。
――――――――――
17/07/08 一部修正。
0
あなたにおすすめの小説
レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった
あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。
戦闘能力ゼロ、初期レベル1。
冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、
新人向けの雑用クエストしか回ってこない。
しかしそのスキルは、
ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する”
という、とんでもない能力だった。
生き残るために始めた地味な探索が、
やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。
これは、
戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。
同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。
彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。
王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。
夫と婚姻してから三年という長い時間。
その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。
※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる