ベル先生と混人生徒たち

清水裕

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第一章 賢者と賢者の家族

第32話 ベル、圧倒する。

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 絶対零度の瞳を向けられたアラン、ラーウネは背筋にゾクリとした寒さを感じながらも戸惑いを感じさせる声を口から漏らした。

「ね、ねぇ、アラン? あのケンジャはヒャクメがアイテをしているんじゃなかったのかしらぁ?」
「はいはい、ワタシもヒャクメにあの賢者を引き付けておくように言いましたよ? それがどうして此処に居るかと言うと、考えられることはただ一つですね……」
「そ……そうよねぇ?」

 そんな相談をしながら、アランがベルのほうを見ながら声を掛けた。
 ただし、恐怖していると感じさせないためにベルを舐めていると感じさせるような口調でだ。

「おいおい、賢者。テメェ、ヒャクメはどうした? 王都の危機を無視してこのクソガキどもを助けに来たっていうのですかぁ?」
「そんなわけが無いじゃないですか。お前たちの仲間の百目……ああ、名前はヒャクメだったのですね。そのヒャクメは百の眼を潰して殺しましたよ」
「「……は?」」
「それと王都の危機もヒャクメを潰すと同時に解消しましたので、……ああ、後はお前の主である肥え太った豚もと殺――じゃなくて放牧する予定なので、万が一にも私を倒したとしてもゴールドソウルに帰れると思わないことですね」
「た、倒したと言うのか? あのヒャクメを? 無抵抗な住民に賢者を嬲り殺させると意気揚々としていたあいつをっ!?」
「ウ、ウソでしょぉ?」
「本当ですよ。ああ、それと国民に対して行おうとしていた暗示のための羊皮紙も全て燃やさせて貰いましたので。でもそのお陰で魔力が一度すっからかんになりましたよ」

 信じられないとばかりに賢者の言葉を聞く2人だったが、どうやらそれは本当であると言うことが理解出来た。
 何故なら、賢者が今此処に居るのが事実なのだから……。
 だから逃げ場の無い状況に焦るようにアランは叫んだ。

「ラ、ラーウネ! はやくこいつを殺せぇっ!!」
「ワ、ワカってるわよぉ! おマエたち、デバンよぉ!!」

 ベルを指差しながらラーウネを見るアラン、その言葉に従いラーウネは声を上げた。
 直後、彼女の下半身から伸びる蔓の先端が膨らみ始め、それが地面へと突き刺さった。すると、蔓が突き刺さった地面からニョキニョキと緑色の蔓が延び始め……最終的に幾つもの蔓が束ねられて人の形を形成したものが出来上がった。
 そして、その人の形をした蔓の集合体の顔の部分には、それぞれ違った顔が張り付いておりしていたが……そのどれもが苦悶に満ちた表情を浮かべていた。
 それが何体も何体も地面から生えてくるのを見ながら、ベルは呟く。

「なるほど…………人間に種を植え付けて、そのまま急速に発芽させて、その人間の特性をそのまま取り込んだのですね。その場しのぎの急造モンスターを作るのにはオススメの方法ですよね」
「あらぁ、シっていたのねぇ? どうしてかしらぁ?」
「知らないほうが可笑しいじゃないですか、何せ百年ほど前にお前みたいなのを何十体も相手にしてたこともあるんですよ? まあ、そのときの相手は都市丸ごとをそんな風にしてましたけど」
「あらぁ、ステキなことをしてたのねぇ、わたくしのごセンゾサマはぁ♪ じゃあ、ナニをしようとしてるのかワカってるわよねぇ? おマエたちぃ、あのケンジャをコロしなさぁい!」

 ベルの経験を聞きながらうっとりしたラーウネはそう蔓の急造モンスターへと命令を出した。
 すると急造モンスターは呻き声のようなものを上げながら、ベルに向かって一斉に駆け出してきた。
 しかも駆け出したそれらは、手の部分に当たる蔓を武器のように様々な形へと変化させると、ベルに向けて一斉に襲い掛かってきた。

『『オオオオォォオオオオオオォォォオオオオオオオオオオォォォォォォ』』
「あのときは基本的に都市の住民だけが苗床にされてましたけど、暗殺者とかを使うと腕を武器のようにして使うんですね。ありがとうございます、参考になりました」
「ナニをイってるのかしらぁ? シになさぁい!!」

 いったい何に対しての感謝をしているのか。それが分からないまま、ラーウネは急造蔓モンスターに命令を下した。
 その瞬間、蔓モンスターの短剣のように鋭くなった蔓が、鞭のようにしなやかとなった蔓が、爪のように三本の伸びた長い蔓が、槍のように尖らせた長い蔓がベルに向けて一斉に襲い掛かった。
 それをディックが見ていたらしく、背後から彼女を呼ぶ心配そうな声がした。
 だが……、

「ベ、ベルッ!?」
「……心配ないですよ、ディック。こんなモンスターは何百、何千匹いたとしても私に傷を付けることは出来ないから」
「ツヨがっているだけかしらぁ? わたくしにはそんなフウにはミえませんわぁ――――え?」

 くすくすと嗤いながら、ラーウネは目の前で急造蔓モンスターの攻撃を受けていくベルを眺めてた。きっと少ししたら地面が赤く染まる……そう思っていたが、ある事に気づき、固まった。
 燃えている。そう……燃えているのだ。
 ベルを貫こうとした尖った蔓の先端が、ベルを叩こうとしたしなやかな蔓が、ベルを切り裂こうとしていた伸びた三本の長い蔓が、ベルを貫こうとしていた槍のような長い蔓が……彼女の体を攻撃しようとした瞬間、接触した先から塵も残さずに蔓が消え去っていた。
 信じられないと言う表情をしながらラーウネがベルを見ていると、その視線に気づいたベルが笑みを浮かべた。
 その笑みにゾクッとした恐怖を覚えながら、搾り出すようにラーウネはベルに声を掛ける。

「っ! あ、あなた……いったい、ナニをしたのよぉ……?」
「ああ、ようやく気づきましたか。私が何もしないままご自慢の蔓モンスターに殺されるとでも思ってたんですか? そんなわけが無いじゃないですか、私は自分の周りに薄っすらと灼熱の炎を纏わせていたんですよ」

 『バーニングフィールド』――それは使用者が指定した範囲に灼熱の空間を作り出すと言う魔法であり、今回ベルは自身の体に纏わせるようにしてその魔法を展開していた。
 ……だがこの魔法は元々指定した範囲の植物を燃やしたり、氷を溶かしたりするのに有効的なものだ。だから体に纏わせるという行為は一歩間違えれば全身大火傷になる危険なものだった。
 ……しかし、それを平然と出来るのだから賢者としか言いようが無いだろう。だが一歩間違えれば大火傷する代物を使う精神は見習うべきではない。
 そしてそんな危険な行為をしていると言うことをベルの言葉でラーウネも理解したようで、信じられ無いと言わんばかりに目の前の化け物ベルを見る。

「シ、シンじられない……、あなた、バカなのぉ? イッポマチガえば、ジブンのカラダがケシズミになるというのにぃ」
「馬鹿ではありませんよ。それに、危険だと言われていても……このやりかたにも結構な利点と言う物はあるんですよ? 例えば……こういう、ふうに――っ!!」

 驚愕するラーウネとは対照的にベルはクスリと笑い、軽く腕を振るう。
 ブンッと空を切るように軽く振られた腕。ただそれだけの動作だった。だが……その直後、彼女が腕を振るった方向に居た急造蔓モンスターたちの胴体が消滅した。

「「「な、なにっ!?」」」

 胴体を失い、地面へと崩れ落ちる蔓モンスターを見ながら、前後から驚愕の声が聞こえる中、ベルはもう数度自分を取り囲む蔓モンスターに向けて腕を振るう。
 すると腕が振られる度に蔓モンスターの胴体が消え去っていく、それが何度も続き……ドンドンと蔓モンスターはその数を減らしていく。
 だがそのお陰か、何度も続けるベルの動作がいったいなんであるかをようやくアランとラーウネは理解した。

「そ、そうか……。こいつ、自身に纏わせた『バーニングフィールド』を腕を振るうことで一緒に動かして、蔓どもを燃やし尽くしてるんだ!!」
「な、なるほどねぇ……けど、シカケがワかったらコワくなんてないわぁ! さあ、おマエたち、ケンジャのマトうホノオをケシてやりなさぁい!! ほら、アランもタノんだわよぉ!」
「はいはい、分かりましたよっ! それじゃあ、いっちょやりま………………は?」

 ラーウネの合図に残った蔓モンスターがベルを取り囲むように一定の距離を保ちながら、隊形を組む。
 そこから少し離れた位置にアランが立ち強力な一撃を放つつもりなのだろう。
 それを見ながら、ベルはその場から逃げないどころか――、一歩も動かない。
 そんなベルをアランは訝しんだ。

「おいおい、クソッタレの賢者様よぉ。何で逃げようともしないしワタシたちの攻撃に対する防御策も何にもしないんだぁ? まさか死ぬ気なのか?」
「あら、違うに決まってるじゃないですか。これはですね、お前たちがどんな方法で私に傷をつけようとしているのか。それが気になってるんですよ」
「はあ?! この馬鹿賢者様は自殺願望でもあるのか?」
「自殺願望? そんな物あるわけ無いじゃないですか? それとも、お前たちはこれからする攻撃で私を殺す。とでも考えているんですか? だったら速く試してくださいよ。ただし……殺せる物なら、ですけどね」

 にこり、とベルは笑う。だが、眼は全然笑ってはおらず……それどころか、殺しきれなかったら自分たちが殺される。
 そうアランは理解した。だからラーウネへと声を掛ける。

「お、おいっ、ラーウネ! 絶対に何とか出来るんだろうな?! それが何とか出来たらワタシがきちんとやるから本当に出来るんだよな!?」
「ナニをバカなことイってるのかしらぁ? わたくしにフカノウだとイうのぉ? そんなワケがナいじゃなぁい。さあ、おマエたち、ハジめなさぁい!!」

 ラーウネの合図と共にベルを取り囲んでいた蔓モンスターは、一斉に頭と位置づけられている部分を膨らませる。
 そして、膨らませた頭からブシャーーッ!という音が聞こえるほど大量の液体を吐き出した。
 液体はベルの体に当たると同時に強烈な臭いと煙を放ちながら蒸発していき、それをベルは見る。

(この臭い……、毒? 煙を吸わせて毒を吸わせるか……もしくは液体を掛けて『バーニングフィールド』を消そうとしている? もしそうだったら、つまらないとしか言いようが無いけど……)

 モクモクと周囲に蒸発した煙が立ちこめる中、蔓モンスターから吐き出される液体は今だベルへと吐き出されていく。
 煙で上手く見えないけれど、きっと萎んだら別の蔓モンスターが交代して液体を吐き出しているのだろうとベルは判断する。
 ……だが、あまりにも期待出来ない対処法にベルは呆れながら腕を動かそうとした。

「――――え?」

 動かなかった。腕が……いや、腕どころか脚も、体も……。
 一瞬毒が回ったのかと思ったベルだったが、すぐに何故体が動かないのかと言う答えに至った。
 自分の体を取り囲むように粘つく何かが付着しており、それが固まってきているのだ。

「なるほど……、このモンスターの吐き出していた液体……これは粘性を持ってたんですね」
「うふふぅ、そうよぉ♪ そしてぇ、今でもウゴきニクくなってるけど、ジョジョにサメめていけばぁカンペキにカチンコチンになっちゃうのよぉ」

 冷静に判断するベルに優位に立った。と考えたのかラーウネは笑みを浮かべながら言う。
 事実、ベルの周囲に展開されていた『バーニングフィールド』は煙によって何時の間にか冷えていたようで、粘性の液体を蒸発させることが出来ずに硬化し始めていく。

「ベルッ!!」
「しんぱいしないで、でぃ…………っく……………………」
「ベ、ベルーーーーッ!! そ、そんな……」

 背後からディックの声が聞こえる中、ベルは何もしないまま固まってしまった。
 それを見ながら、アランは歓喜の笑いを上げながらそれを粉々にするべく、行動に移す。

「よしよし、よくやったぜ、ラーウネェ! 大口叩いてこの有様か、あばよクソ賢者!!」

 そう言って、ディックはベルに向けて魔法で作り出した岩石を撃ち出した。
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