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第一章 賢者と賢者の家族
第41話 告白。
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今回は短めです。
――――――――――
夜。
静寂に包まれた森の中、どこからともなくベルが現れ……地面へと足を付ける。
「……ふう。久しぶりにどす黒い本音を出したけど……、やっぱり開放的でありながら嫌なものですね。自分自身がいやになるって感じで……」
軽い溜息の後に、彼女は先ほどの自分を思い出す。
狂気に満ちた……壊れ果てた自分を。
(今のこの私も私ですし、あの私も私。だというのは分かっているつもりです……ですが、これが本当に正しいことか、それは私自身にももう分からないんですよね……)
「…………何ですか?」
思考の海に沈みかけていた彼女だったが、不意に近づいてくる気配を感じ……その方向を見ながら問いかける。
すると、静寂に包まれていた森の中に2つの光が灯る。
2つの光はベルへと近づきはじめ、その姿を露わとした。
それは巨大な狼のモンスター、グレートウルフリーダーだった。
『傷は治った……いや、治したようだな?』
「やっぱり、あなたでしたか。こんばんわ、リーダー」
『何がやっぱりだ? 貴様は儂の存在にも気づいておっただろう? だから、そこから動かなかったのだろうが』
「そうですけどね。ですけど、それっぽいことを言いたいじゃないですか」
『まあ、貴様だからな……』
ベルのその言葉に、グレートウルフリーダーは呆れながら溜息のようなものを吐く。
だが、グレートウルフリーダーが話したいのはそんなことではないようで、改めてベルへと鋭い視線を送る。
『…………で、貴様は謝るつもりはあるのか?』
「謝る? ……ああ、あなたに苦労を掛けたようですね。すみませんでした」
『儂に謝るのではない。というよりも、貴様の謝りなんぞ何の役にも立たんわ。……儂が言いたいのは、子供らに謝るつもりはあるのか、ということだ』
グレートウルフリーダーはそう言って、ぺこりと頭を下げるベルの謝罪を払い除ける。
そして、無駄だろうと諦めつつも言った。本当に彼女が謝罪するべき者たちのことを……。
目の前のグレートウルフリーダーがそう言っていることを理解しているベルは、何処か自分を卑下するように笑みを浮かべると口を開けた……。
「……ありませんね。私のとって、あの子たちは……これから増えるであろう子たちも、国を創るために育てるんです。ですから、私にとっては必要なことです。ですから、私は謝りません」
『そうか……』
「ただ……、ただ……、私だって彼らを騙すのは割り切ってるはずなのに、辛いのも事実ですよ」
ベルの言葉に呆れ果てた様子のグレートウルフリーダーだったが、続けてか細い声で呟いた言葉にピクッと耳を動かし反応した。
そして改めてベルを見ると、何処か儚げな様子を感じられた。
「今はまだ、あの子たちも……これから迎えるであろう子供たちも騙します。ですが、あの子たちが大きくなり、国を創り……私から離れていくとき、私は全てを告白します」
『……賢者よ。そうなれば、お前は……』
「はい、きっとあの子たちの中には許さない子も居るでしょう。そのときに何を言われたとしても、何をされたとしても……私は受け入れます。
――だって、それが私が罪であり、贖罪となるのですから」
そう言って、ベルはグレートウルフリーダーへと笑って見せた。
ずっと昔に出会い、この森に移り住み……時折話を交わしていた賢者。
あの時と変わらぬ容姿と揺るがぬ精神を持ち、ドロドロとした黒いものを腹の中に溜め込んだ存在。
そんな彼女が時折見せていた笑顔。……それは何処か、悲しんでいるようにも見えた。
だが、それを面と言えるわけでもなく、グレートウルフリーダーは押し黙った。
『…………そうか。ならば本当に何も言うまい。では、儂はもう行くぞ』
「待ってください」
クルリと翻り、グレートウルフリーダーはその場から離れようと歩き出す。だが、それをベルが止めた。
『なんだ?』
「ディックに手を貸したのですから、ディックを鍛えるときにはあなたも協力をお願いしますね」
『……本気か?』
「本気です。私には出来ない野生の戦いかた。それはあなたに任せたいと思っていますので」
信じられない。そんな雰囲気を醸し出しながら、グレートウルフリーダーは問いかける。
その問いかけに、ベルはそう言って答えた。
野生の戦いかた。それは野生の動物もしくはモンスターに聞くのが一番だろう。
「それで、どうですか?」
『……考えておく。考えておくだけだから、手伝わない可能性もあると思え』
「分かりました。では、また会いましょう」
搾り出すように答えた返事を聞き、言いたいことを言い終えたベルはグレートウルフリーダーに向けて手を振る。
手を振るベルの姿を見ないまま、グレートウルフリーダーは何も言わずに森の中へと消えて行った。
「私も帰りましょうか……、明日からが大変ですからね」
それを見届け、ベルもクルリと回ると自らの家へと歩き出した。
……こうして、慌しい一日は終わりを告げたのだった。
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夜。
静寂に包まれた森の中、どこからともなくベルが現れ……地面へと足を付ける。
「……ふう。久しぶりにどす黒い本音を出したけど……、やっぱり開放的でありながら嫌なものですね。自分自身がいやになるって感じで……」
軽い溜息の後に、彼女は先ほどの自分を思い出す。
狂気に満ちた……壊れ果てた自分を。
(今のこの私も私ですし、あの私も私。だというのは分かっているつもりです……ですが、これが本当に正しいことか、それは私自身にももう分からないんですよね……)
「…………何ですか?」
思考の海に沈みかけていた彼女だったが、不意に近づいてくる気配を感じ……その方向を見ながら問いかける。
すると、静寂に包まれていた森の中に2つの光が灯る。
2つの光はベルへと近づきはじめ、その姿を露わとした。
それは巨大な狼のモンスター、グレートウルフリーダーだった。
『傷は治った……いや、治したようだな?』
「やっぱり、あなたでしたか。こんばんわ、リーダー」
『何がやっぱりだ? 貴様は儂の存在にも気づいておっただろう? だから、そこから動かなかったのだろうが』
「そうですけどね。ですけど、それっぽいことを言いたいじゃないですか」
『まあ、貴様だからな……』
ベルのその言葉に、グレートウルフリーダーは呆れながら溜息のようなものを吐く。
だが、グレートウルフリーダーが話したいのはそんなことではないようで、改めてベルへと鋭い視線を送る。
『…………で、貴様は謝るつもりはあるのか?』
「謝る? ……ああ、あなたに苦労を掛けたようですね。すみませんでした」
『儂に謝るのではない。というよりも、貴様の謝りなんぞ何の役にも立たんわ。……儂が言いたいのは、子供らに謝るつもりはあるのか、ということだ』
グレートウルフリーダーはそう言って、ぺこりと頭を下げるベルの謝罪を払い除ける。
そして、無駄だろうと諦めつつも言った。本当に彼女が謝罪するべき者たちのことを……。
目の前のグレートウルフリーダーがそう言っていることを理解しているベルは、何処か自分を卑下するように笑みを浮かべると口を開けた……。
「……ありませんね。私のとって、あの子たちは……これから増えるであろう子たちも、国を創るために育てるんです。ですから、私にとっては必要なことです。ですから、私は謝りません」
『そうか……』
「ただ……、ただ……、私だって彼らを騙すのは割り切ってるはずなのに、辛いのも事実ですよ」
ベルの言葉に呆れ果てた様子のグレートウルフリーダーだったが、続けてか細い声で呟いた言葉にピクッと耳を動かし反応した。
そして改めてベルを見ると、何処か儚げな様子を感じられた。
「今はまだ、あの子たちも……これから迎えるであろう子供たちも騙します。ですが、あの子たちが大きくなり、国を創り……私から離れていくとき、私は全てを告白します」
『……賢者よ。そうなれば、お前は……』
「はい、きっとあの子たちの中には許さない子も居るでしょう。そのときに何を言われたとしても、何をされたとしても……私は受け入れます。
――だって、それが私が罪であり、贖罪となるのですから」
そう言って、ベルはグレートウルフリーダーへと笑って見せた。
ずっと昔に出会い、この森に移り住み……時折話を交わしていた賢者。
あの時と変わらぬ容姿と揺るがぬ精神を持ち、ドロドロとした黒いものを腹の中に溜め込んだ存在。
そんな彼女が時折見せていた笑顔。……それは何処か、悲しんでいるようにも見えた。
だが、それを面と言えるわけでもなく、グレートウルフリーダーは押し黙った。
『…………そうか。ならば本当に何も言うまい。では、儂はもう行くぞ』
「待ってください」
クルリと翻り、グレートウルフリーダーはその場から離れようと歩き出す。だが、それをベルが止めた。
『なんだ?』
「ディックに手を貸したのですから、ディックを鍛えるときにはあなたも協力をお願いしますね」
『……本気か?』
「本気です。私には出来ない野生の戦いかた。それはあなたに任せたいと思っていますので」
信じられない。そんな雰囲気を醸し出しながら、グレートウルフリーダーは問いかける。
その問いかけに、ベルはそう言って答えた。
野生の戦いかた。それは野生の動物もしくはモンスターに聞くのが一番だろう。
「それで、どうですか?」
『……考えておく。考えておくだけだから、手伝わない可能性もあると思え』
「分かりました。では、また会いましょう」
搾り出すように答えた返事を聞き、言いたいことを言い終えたベルはグレートウルフリーダーに向けて手を振る。
手を振るベルの姿を見ないまま、グレートウルフリーダーは何も言わずに森の中へと消えて行った。
「私も帰りましょうか……、明日からが大変ですからね」
それを見届け、ベルもクルリと回ると自らの家へと歩き出した。
……こうして、慌しい一日は終わりを告げたのだった。
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