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第一章
1話 世界の始まり
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【 】は死を望んだ。
不幸だ。この不幸は生きている限り、終わらない。
だから、死にたかった。
死を以て、この不幸を終わらせたかった。
―――――――――――――――
この高い塔の上から身を投げ出せば、死ぬことが出来るだろうか。
辺り一面緑一色の森の中に佇むレンガの塔。名前もないその塔の上に一人の黒髪の青年がいた。
その男は今、塔から飛び降りた。重力に従って加速し続ける身体は空気の抵抗を受けながら、数秒経った後、土の地面に叩き付けられた。
身体中のあらゆる骨が折れ血で地面を赤く染めた。
だが、それはまだ生きていた。
臓器が破裂し歪に骨が折れて醜く痛々しい姿をしているが、心臓はまだ止まらない。意識を失うこともなかった。
時間と共にに痛みが和らいでいくのを感じながら、その事実に男は絶望した。
動けるような状態ではない身体でも力を振り絞って立ち上がり、塔の頂上を目指し歩き出した。
男は死を諦めてはいなかった。
男はまた塔の外へ足を運ぶ。そこには何もなく、あるのは遥か下に固い地面だけだ。
そして再び落ちていき、傷ひとつ無い身体が破壊される。破壊されて、破壊された。
また落ちて、呻き声のような声を上げながら塔の階段に足を掛けた。
何度もこの行為は繰り返された。地に叩き付けられた直後の見るに耐えない姿は、塔を登った時には何もかもが元通りになっていた。血が広がった地面は彼が立ち上がる頃には既に赤色は見当たらなかった。
どれだけ怪我をしても治っていく。折れた骨や潰れた臓器は正常な形に治っていく様は、異常としか言えない。
異常が正常に働いている男は死を望んでいた。だがその歪んだ願いを優しく包み込むように異常は死を遠ざけ続けた。
幾度と繰り返される死の拒絶、望んでいないのにも関わらず受け入れられる生。その結果、男の望みは強く確実なものとなる。
死にたい。
誰か、殺してくれ。
純粋な願いが否定され続ける変わることない結果に嘆くこともなく、ただひたすら強く死を願った。
ただひたすらに、ずっと。
何度も何度も、数え切れなくなる程に飛び降り続けた。
そんな歪な願いを叶えるかのように、突如として世界に変化がもたらされた。
重力に身を委ね視線が下を向いたその時、男は違和感を覚えた。その違和感の正体、それは水だった。
変わらなかった土の地面に眩い光を放つ水面が現れた。白く光る丸い円。水溜まりのようなそれの大きさは半径1mほどだった。
落下地点の場所にあるその水に引き寄せられるように男の身体は落ちていく。徐々に加速しながら水面へと。
5メートル。
4メートル。
3メートル。
2メートル。
1メートル。
0。
大きな水飛沫を上げながら身体は水中に沈んだ。
天変地異が起きたかのような光景の変化に目を大きく開き驚く。
底が見えない程に深い水中で、身体ごと下を向いていた男の正面にはもうひとつの光る円があった。
まるで誰かに呼ばれるかの如く身体は落ちるようにその円に引き寄せられた。
黒髪の青年はその円へまた落ちていった。
変わらない世界から、男は抜け出した。
これは、死を望む物語。
不幸だ。この不幸は生きている限り、終わらない。
だから、死にたかった。
死を以て、この不幸を終わらせたかった。
―――――――――――――――
この高い塔の上から身を投げ出せば、死ぬことが出来るだろうか。
辺り一面緑一色の森の中に佇むレンガの塔。名前もないその塔の上に一人の黒髪の青年がいた。
その男は今、塔から飛び降りた。重力に従って加速し続ける身体は空気の抵抗を受けながら、数秒経った後、土の地面に叩き付けられた。
身体中のあらゆる骨が折れ血で地面を赤く染めた。
だが、それはまだ生きていた。
臓器が破裂し歪に骨が折れて醜く痛々しい姿をしているが、心臓はまだ止まらない。意識を失うこともなかった。
時間と共にに痛みが和らいでいくのを感じながら、その事実に男は絶望した。
動けるような状態ではない身体でも力を振り絞って立ち上がり、塔の頂上を目指し歩き出した。
男は死を諦めてはいなかった。
男はまた塔の外へ足を運ぶ。そこには何もなく、あるのは遥か下に固い地面だけだ。
そして再び落ちていき、傷ひとつ無い身体が破壊される。破壊されて、破壊された。
また落ちて、呻き声のような声を上げながら塔の階段に足を掛けた。
何度もこの行為は繰り返された。地に叩き付けられた直後の見るに耐えない姿は、塔を登った時には何もかもが元通りになっていた。血が広がった地面は彼が立ち上がる頃には既に赤色は見当たらなかった。
どれだけ怪我をしても治っていく。折れた骨や潰れた臓器は正常な形に治っていく様は、異常としか言えない。
異常が正常に働いている男は死を望んでいた。だがその歪んだ願いを優しく包み込むように異常は死を遠ざけ続けた。
幾度と繰り返される死の拒絶、望んでいないのにも関わらず受け入れられる生。その結果、男の望みは強く確実なものとなる。
死にたい。
誰か、殺してくれ。
純粋な願いが否定され続ける変わることない結果に嘆くこともなく、ただひたすら強く死を願った。
ただひたすらに、ずっと。
何度も何度も、数え切れなくなる程に飛び降り続けた。
そんな歪な願いを叶えるかのように、突如として世界に変化がもたらされた。
重力に身を委ね視線が下を向いたその時、男は違和感を覚えた。その違和感の正体、それは水だった。
変わらなかった土の地面に眩い光を放つ水面が現れた。白く光る丸い円。水溜まりのようなそれの大きさは半径1mほどだった。
落下地点の場所にあるその水に引き寄せられるように男の身体は落ちていく。徐々に加速しながら水面へと。
5メートル。
4メートル。
3メートル。
2メートル。
1メートル。
0。
大きな水飛沫を上げながら身体は水中に沈んだ。
天変地異が起きたかのような光景の変化に目を大きく開き驚く。
底が見えない程に深い水中で、身体ごと下を向いていた男の正面にはもうひとつの光る円があった。
まるで誰かに呼ばれるかの如く身体は落ちるようにその円に引き寄せられた。
黒髪の青年はその円へまた落ちていった。
変わらない世界から、男は抜け出した。
これは、死を望む物語。
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