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プロローグ
それはよくある悲劇で世界にとってありふれた些細な出来事で……
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「やべえ、はやくしねえと!ノルマが!ノルマが!!!!」
トラックのアクセルを踏み込み呟く男。
その男は一休みの為に入ったコンビニで寝過ごしてしまい焦っていた。
そうして、最短の道をひた走る。
朝の住宅街をトラックの駆け抜ける音が響いていた。
朝6時、今日から夏休みに入った妹にせがまれて俺は小学校6年になった妹と手を繋いで近所の公園に向かっていた。
「あたーらしーいーあーさがきたっきーぼーうのーあーさーがー♪」
ラジオ体操の歌を口ずさみながら繋いだ手を元気良く振って歩く妹。
秋風楓、黒い髪を腰辺りまで伸ばしてツインテールにした彼女は頭はそこそこだが運動が非常に得意である。
学校体育で行う種目は全て5の成績をとり、俺の影響で始めた剣道や空手、柔道では全国で負け知らずの年代別の覇者である。
そんな妹であるが、本人は天真爛漫で可愛いただの12歳、人を傷つけるような趣味もない。
12年前、おじさん夫婦が事故により他界したときに0歳だった彼女が打ちに引き取られてきてからずっと一緒に育ってきた可愛い妹である。
そんな彼女と共に歩いている俺は秋風駆、今年20になる大学生である。
両親が2年前に他界しているためたった一人の家族である楓と共に住んでいて、友人達からは筋金入りのシスコンと言われている。
あいつらいい奴だけど口が悪くて楓に対する俺の態度のことをひかr
「気持ちいい朝だね!駆にい!」
「おう、そうだな!」
眩しい笑顔で話しかけられて心が和む、おっといけない、つい頭を撫でてしまった。
「歩き難いよー」
「おお、すまんすまん」
そう笑いながらじゃれて歩いていたら目的地の公園が視界に入ってくる。
「あ、令ちゃんだ!おーい!おっはよー!」
そう叫びながら手を振り大声で挨拶をする楓、向こうも気がついたのか手を振り替えしてくれている。
そして楓にひっぱられながら歩いていくのだが、あれ?令ちゃんの表情がおかしい?え?うしろ?うしろになにが?
振り返った俺の視界には猛然と迫ったトラックの姿以外は見えなかった。
痛い……
寒い……
あれからどうなったんだろう。
迫るトラックから逃げられないと悟った俺は楓だけでも助けようと突き飛ばそうとしたのだが、逆に引っ張られて突き飛ばせなかった。
せめて盾になろうと抱きしめたところから記憶がない。
動かない身体に鞭を打って、無理やり視界を動かす。
そして楓の姿を見つける。
胸元に顔を埋めるようにしていた彼女がゆっくりと顔をあげる。
その時、俺の心は凍りついた。
肌が真っ白と言っていいほど血の気が失せた表情の楓の顔はどうみても無事ではなかったことが分かるのだ。
しかし目が合った楓は微笑む。
「お、にい、ちゃん、ありが、とう」
「ご、、、ん、ふ、、、い、、にで」
途切れ途切れの楓の言葉に返そうとするが、口を動かしても満足に言葉が出てこない。
不甲斐なさに歯噛みをするが、彼女は微笑む。
「そん、な、こと、ない、よ、たすけ、よう、と、して、くれ、たの、わか、るもん」
「ご、、な、、めん、」
謝る俺に彼女は首を振って言葉を紡ぐ
「ずっ、と、いえ、なか、った、けど、おに、い、ちゃん、だい、すき、だよ」
白みがかってきた視界の中で彼女が動く。
俺も言葉を返そう、そうしたとき、唇に柔らかい感触を感じる
それを最後に意識が消えていく。
「ああ、おれもだ」
その言葉を必死に紡ごうとするが、言葉にならず、俺の意識は空に散っていった。
微笑む彼女の温もりだけを感じながら。
「さ~ノルマ達成だ!今夜はのむぶげら!!??!?」
「何がノルマ達成よ!あんな事しでかしておいて!!!」
いい仕事したぜという表情のトラック野郎が白い長衣を着た美女の右ストレートで回転しながら吹き飛び、コンクリートの壁に頭から刺さる。
「私が言ったのは、世の中に絶望している身寄りのない若者を転生させなさいってことよ!なんであんなに幸せそうな義兄妹の幸せをぶち壊さなきゃならないのよ!あんなのじゃ皆から袋叩きにされるにきまってるじゃない!!!」
そう怒鳴りつけるが足がぴくぴくしているだけで反応がない。
「ああ、もう、これからあの子達を幸せになるようにセッティングしないと、ああ、あの世界しか空きがないわね。」
そうボヤキながら空間に縦1メートル横2メートルくらいのディスプレイとキーボードのようなものを手元に浮かべ操作を始める。
「あの子はこの世界のことは……うん、知ってるわね、妹ちゃんは知らないか。」
そういいながら操作を続ける。
「うげ、魂の固定されてないのここだけ?これだと、うーん……仕方ないか、こうするしかないわね!」
そういって操作を進め、操作系に切り取った髪の毛を乗せて祈りの言葉を紡ぐ。
「凄く難しいし、埋め合わせにならないけど、これでなんとか幸せになってね、お願い!」
そういって一つ強く操作盤を叩くとそれを消して天を仰ぐ。
「願わくば最良の結果を彼らが得られますように」
そう願いの形を取る姿は女神といって、誰も否定しない美しさであった。
こうして、傍迷惑な親父に巻き込まれた兄妹の仲は引き裂かれた。
それを紡ぎなおす手掛りだけは残せたが、それがどうなるか、それは誰にも分からない。
ただ、それを望む者がいて、その思いがそれを成す手助けをする。
そうして物語は幕を開ける。
トラックのアクセルを踏み込み呟く男。
その男は一休みの為に入ったコンビニで寝過ごしてしまい焦っていた。
そうして、最短の道をひた走る。
朝の住宅街をトラックの駆け抜ける音が響いていた。
朝6時、今日から夏休みに入った妹にせがまれて俺は小学校6年になった妹と手を繋いで近所の公園に向かっていた。
「あたーらしーいーあーさがきたっきーぼーうのーあーさーがー♪」
ラジオ体操の歌を口ずさみながら繋いだ手を元気良く振って歩く妹。
秋風楓、黒い髪を腰辺りまで伸ばしてツインテールにした彼女は頭はそこそこだが運動が非常に得意である。
学校体育で行う種目は全て5の成績をとり、俺の影響で始めた剣道や空手、柔道では全国で負け知らずの年代別の覇者である。
そんな妹であるが、本人は天真爛漫で可愛いただの12歳、人を傷つけるような趣味もない。
12年前、おじさん夫婦が事故により他界したときに0歳だった彼女が打ちに引き取られてきてからずっと一緒に育ってきた可愛い妹である。
そんな彼女と共に歩いている俺は秋風駆、今年20になる大学生である。
両親が2年前に他界しているためたった一人の家族である楓と共に住んでいて、友人達からは筋金入りのシスコンと言われている。
あいつらいい奴だけど口が悪くて楓に対する俺の態度のことをひかr
「気持ちいい朝だね!駆にい!」
「おう、そうだな!」
眩しい笑顔で話しかけられて心が和む、おっといけない、つい頭を撫でてしまった。
「歩き難いよー」
「おお、すまんすまん」
そう笑いながらじゃれて歩いていたら目的地の公園が視界に入ってくる。
「あ、令ちゃんだ!おーい!おっはよー!」
そう叫びながら手を振り大声で挨拶をする楓、向こうも気がついたのか手を振り替えしてくれている。
そして楓にひっぱられながら歩いていくのだが、あれ?令ちゃんの表情がおかしい?え?うしろ?うしろになにが?
振り返った俺の視界には猛然と迫ったトラックの姿以外は見えなかった。
痛い……
寒い……
あれからどうなったんだろう。
迫るトラックから逃げられないと悟った俺は楓だけでも助けようと突き飛ばそうとしたのだが、逆に引っ張られて突き飛ばせなかった。
せめて盾になろうと抱きしめたところから記憶がない。
動かない身体に鞭を打って、無理やり視界を動かす。
そして楓の姿を見つける。
胸元に顔を埋めるようにしていた彼女がゆっくりと顔をあげる。
その時、俺の心は凍りついた。
肌が真っ白と言っていいほど血の気が失せた表情の楓の顔はどうみても無事ではなかったことが分かるのだ。
しかし目が合った楓は微笑む。
「お、にい、ちゃん、ありが、とう」
「ご、、、ん、ふ、、、い、、にで」
途切れ途切れの楓の言葉に返そうとするが、口を動かしても満足に言葉が出てこない。
不甲斐なさに歯噛みをするが、彼女は微笑む。
「そん、な、こと、ない、よ、たすけ、よう、と、して、くれ、たの、わか、るもん」
「ご、、な、、めん、」
謝る俺に彼女は首を振って言葉を紡ぐ
「ずっ、と、いえ、なか、った、けど、おに、い、ちゃん、だい、すき、だよ」
白みがかってきた視界の中で彼女が動く。
俺も言葉を返そう、そうしたとき、唇に柔らかい感触を感じる
それを最後に意識が消えていく。
「ああ、おれもだ」
その言葉を必死に紡ごうとするが、言葉にならず、俺の意識は空に散っていった。
微笑む彼女の温もりだけを感じながら。
「さ~ノルマ達成だ!今夜はのむぶげら!!??!?」
「何がノルマ達成よ!あんな事しでかしておいて!!!」
いい仕事したぜという表情のトラック野郎が白い長衣を着た美女の右ストレートで回転しながら吹き飛び、コンクリートの壁に頭から刺さる。
「私が言ったのは、世の中に絶望している身寄りのない若者を転生させなさいってことよ!なんであんなに幸せそうな義兄妹の幸せをぶち壊さなきゃならないのよ!あんなのじゃ皆から袋叩きにされるにきまってるじゃない!!!」
そう怒鳴りつけるが足がぴくぴくしているだけで反応がない。
「ああ、もう、これからあの子達を幸せになるようにセッティングしないと、ああ、あの世界しか空きがないわね。」
そうボヤキながら空間に縦1メートル横2メートルくらいのディスプレイとキーボードのようなものを手元に浮かべ操作を始める。
「あの子はこの世界のことは……うん、知ってるわね、妹ちゃんは知らないか。」
そういいながら操作を続ける。
「うげ、魂の固定されてないのここだけ?これだと、うーん……仕方ないか、こうするしかないわね!」
そういって操作を進め、操作系に切り取った髪の毛を乗せて祈りの言葉を紡ぐ。
「凄く難しいし、埋め合わせにならないけど、これでなんとか幸せになってね、お願い!」
そういって一つ強く操作盤を叩くとそれを消して天を仰ぐ。
「願わくば最良の結果を彼らが得られますように」
そう願いの形を取る姿は女神といって、誰も否定しない美しさであった。
こうして、傍迷惑な親父に巻き込まれた兄妹の仲は引き裂かれた。
それを紡ぎなおす手掛りだけは残せたが、それがどうなるか、それは誰にも分からない。
ただ、それを望む者がいて、その思いがそれを成す手助けをする。
そうして物語は幕を開ける。
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