悪役令嬢に転生しましたが、破滅フラグが立ちおわっているので足掻きまくったら魔王になって乙女ゲーを間近で見る事になりました。

幌須 慶治

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死亡フラグ破壊の第一幕

守護者を抜け、決戦の間に迫る時、魔王もまた覚悟を決める

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 騎士達が突入すると共に私達は魔王城の横手にあるほんの小さな守備の隙間を衝いて潜入を成功させる。

 普段なら警備の目が私達を見つけるところなのだが、囮になってくれた騎士達のおかげで警備の意識がそちらに取られた為成功する。

 そして城下を地下水路を使うことで抜け、城の地下室に辿り着く。

 そこから時限式の発火装置を使う事で警備の目を欺き進むが何事にも限界というものはある。

 謁見の間へと続く大階段の入り口に来た時にそれが訪れる。

 周囲には遮蔽物のない空間が20メートル程あり、大階段の前には両開きの扉が閉じられている。

 そしてその前には魔王の守護者と呼ばれる龍人の偉丈夫が目を光らせている。

 身の丈3メートルはあろうかという巨体に強靭な鱗に包まれた肉体。

 そこに弱点を守るように着けられた強固な鎧と3メートルはあろうかというハルバードを握っている。

「シンドラー、補助するわ、正面から」

「分かった!」

 その言葉と共にシンドラーが飛び出す。

「城内が騒がしいと思ったらやはりか!生かしては返さんぞ!」

「蜥蜴風情が何を言うか!わが剣の錆にしてくれよう!」

 そうして轟音を響かせ戦いが始まる。

 その音は城下まで聞こえる程であり、魔族の兵の足をこちらに向ける事になる。

 それでも敵の守護者の膂力と技は凄まじく彼の片手での攻撃にシンドラーは抑えておくだけで手一杯である。

「アリア!これを!」

「はい!」

「どこでも当たればいいわ!当たれば私達の勝ちよ!」

 その言葉にアリアへ注意を向ける守護者。

 だがそれでもアリアにばかり注意を向けることはできない。

「はっ!余所見とは余裕だな!」

「フン、貴様の技等子バエが飛んでいるだけでしかないわ!」

「ほざけ!」

 そういってシンドラーの攻めが勢いを増す。

 それに対応しながらアリアへの注意を切らすわけにはいかない。

 その為両者の間には硬直状態が訪れる。

 互いに剣戟を繰り出すが互いに剣は届かず決め手にかけてしまう。

 じりじりと時間が過ぎていくが互いに注意を切らす事はできない。

 互いが互いに集中しているところで私が動く。

「光よここに!フラッシュ!」

 シンドラーの後ろから目くらましの魔法を放つ。

 目が眩んだ守護者にシンドラーが必殺としている技を放つ。

「ブレイブスラッシュ!!!」

 今まで片手で使っていたハルバードを両手で持ち、受け止める。

「ぐ!だが、甘い!!」

 そうして押し返そうとしたところでアリアの接近に気付く。

 もらった!言葉に出さずに繰り出した攻撃に守護者は目を見開く。

 その短剣での攻撃は吸い込まれるように守護者のわき腹に向かう。

 しかし

「甘いわああああああああああ!!!!」

 魔力を鱗に流す事により一時的且つ局所的に防御力を集中させることでアリアの短剣は刺さることなく弾かれる。

「そんな!!」

 アリアの顔に絶望が、守護者の顔に勝利の笑みが浮かぶ。

 でもそれが私の狙いなのよね。

 音を立てずに近寄った私が魔力を通した球体を笑みの形になり少し開いた守護者の口の中に叩き込む。

「ぐ、ぐぼああああああああああああああああああ!!?!?」

 守護者の口から光が溢れ、続いて勢い良く煙が吹き出る。

 そして悶絶する守護者は一通りのたうち廻り、煙を吐き出すとその身体から力が抜け、その巨体を沈ませる。

「よっしゃ!」

「やりましたねお嬢様!」

「なんとかね、先を急ぐわよ」

 そう言って門を開け、それを潜ると結界を張り足止めにする。

「これで少しは時間を稼げるはず、急ぐわよ」

 そうして私達は階段を駆け上る。






 階段の終わりが見え、5分だけ息を整える為に休憩をとる。

 その休憩が終わったところでシンドラーが口を開く。

「さあいこうか!これが最後の決戦だ!」

 勇者となるべくシンドラーが私に手を差し伸べる。

 その手を取って私は微笑みかける。

「これで貴方は勇者に、私は聖女になれるのですね」

「ああそうだ!そうしてゆくゆくは国を治め安寧の王国を築き上げるのだよ!エリー、ついてきてくれるね?」

「はい、もちろんです。」

 男は笑顔を浮かべ、私もそれに笑顔を返す。

 その男は魔法銀の武具を持ちいかにも騎士という装いをしており、英雄譚に出てくる勇者がそのまま出てきたようなものである。

 祖国の騎士団の装備の中でも最も上位の者に与えられる装備と同等の装備。

 それを私エリザベートの家の財力で整え、この魔王城の深部まで配下の騎士達を囮に辿り着き、今から魔王の玉座の間に踏み込もうというところである。

 この後、私達は年若い魔王を殺し、その後ろにいる怯えた女子供達を虐殺し、全ての首級を揚げて凱旋し、そこで勇者と聖女として認められる。

 しかしその後に待っているのは栄達などではない。

 私達は悪役令嬢チームなのだ。

 このルートはエクストラルートで、真の主人公と聖女は今は隠しダンジョンに篭っている最中。

 その2人が戻ってきたところで私達の状況は一変してしまう。

 その結果、私達が真の魔王として認定され、疲弊した私の実家の騎士団もろとも壊滅させられ、男達は皆殺し、女達は捕縛され、その後のことは語られていないので察する事しかできない。

 しかしそれは容易であろう、見目麗しい女の辿る道等そうはない。

 つまりそういうことになるのだろう。

 そしてこの目の前で得意気な笑みを浮かべる男は私達を裏切る。

 悪役令嬢たる私の洗脳によって利用されていた哀れな操り人形として、贖罪の為に戦いに臨むと綺麗な事をかいてあるが、私達を裏切り、私の弟を殺し、妹を死に追いやるのだ。

 妹の死を知った母もまた……

 それを『識って』いる私の内心を嫌悪感が渦巻く。

 背筋は凍り、鳥肌が立ち、今すぐにこの男を殺してしまいたい。

 その気持ちを抑えて笑顔の仮面を被る。

「大丈夫かいエリー、震えているよ?」

「だ、大丈夫です、これは、武者震いです!!」

「そうかい?それならいいのだけど、私が必ず守るからね、怖がらなくて大丈夫だから」

 そういって握られる手に嫌悪感を隠し微笑みを返す。

「ありがとうございます、もう、大丈夫です、行きましょう」

 無理やり手の震えを抑え先を促す。

 必ずやり遂げる為に。









 魔王城、いつからそう言われているのかは誰もしらないことだが、誰もが知っているこの世界の諸悪の根源とされている魔王の住む城である。

 その中には多くの魔人が住み、これまでに墜ちる事はなく、難攻不落の名を欲しいがままにしている。

 しかしそんな中にも非戦闘員は存在する。

 彼らも『人』なのだから。

 ここは魔王城の奥深く、玉座の間の奥にある広い居住スペースである。

 その中にこの城の非戦闘員である女子供が集められていた。

 そしてその中には年端もいかぬ幼い子供もいる。

 先代の魔王は魔力こそ強かったものの、身体の方はどうにも病弱であった。

 それを幼い時から一緒に育った女性が支え、盛り立てていたのだが、それでも病には勝てず、4人の子供を残したところで帰らぬ人となる。

 そしてその長男である現魔王が王位を継ぐが、戦力の低下は否めず、勇者選定という名の侵略・暗殺計画が企てられる。

 その結果が今、勇者候補と聖女候補と共に公爵の軍勢が攻め入ってきたが為に城内が手薄になり、勇者候補と聖女候補の侵入を許し、もうすぐそこまで来ている。

 そしてそれから起きる事、それがなんとなく空気で察せられる子供達が泣き始める。

 5歳の次女と3歳の次男。

 次男が泣いて次女もそれにつられて大声で泣き始める。

 それを見ても周りの者たちは手を出せず、下を向くばかり。

 わかっているのだ、この後に自分達に何が起こるのかを。

 そしてその結果この子達がどうなるのかまで。

 絶望した目でこの子達を慰めてもこの子達は勘がいいからすぐに分かる。

 そして更に悲しみは募る悪循環になる、それが分かっているから手を出せない。

 そんな時、彼女達の主人が戦う準備を終えて姿を現す。

「兄様!」

「にいたま~!」

 泣きながら兄に突進する2人を魔王カリウスは優しく抱きしめる。

「2人とも、どうした?」

 笑顔を向ける兄に二人は口を開く

「なんか怖いの!」

「みんななきそうなの」

「私達もそれで悲しいから泣いてるの」

「にいたまいかないで!」

 そう口々に訴えてくる兄妹にカリウスは苦笑いを浮かべて話しかける

「ごめんね2人とも、僕はその怖いのを無くす為にいかないといけないんだ、だから傍にはいられない、だけど、クリス」

「はい、お兄様」

 そういって自分の準備を手伝っていた長女である妹クリスティーナに声をかける。

「お姉さまが一緒にいてくれるから安心していてね、絶対大丈夫だから大人しくまっててね。」

 頭をなでながら優しくなだめる。

「うん」

「あい」

「でもにいさま、絶対かえってきてね!」

「いなくなるのやっ!」

 その答えにカリウスは苦笑いを浮かべながら言葉をつづける。

「うん、いい子だね、それじゃクリス、お願い」

 そういってクリスに2人を預ける。

「わかりました、お兄様、語武運をお祈りしています」

 涙目になりながらそう答えるクリスの頭をなでながら

「大丈夫、心配しないで、それじゃいってきます」

 そういいながらカリウスは玉座の間に向かう。

 その姿を全員が深々と頭を下げて見送る。

 そしてその後、魔王カリウスの姿をみたものは誰もいない……これが正史における彼らの魔王カリウスの最後の姿である。
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