悪役令嬢に転生しましたが、破滅フラグが立ちおわっているので足掻きまくったら魔王になって乙女ゲーを間近で見る事になりました。

幌須 慶治

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死亡フラグ破壊の第一幕

突入前に根回しをします

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 時は過ぎ、魔王城へ出陣の時がやってきた。

 魔王城と公爵領の距離は馬で飛ばして5日、行軍するならば10日は掛かる距離である。

 そのなかで途中から100人程の精鋭部隊で魔王城を強襲、そのまま魔王を討伐するというのが今回立てられている作戦である。

 作戦の趣旨を変えたりする事はできない。

 この作戦のために国軍が動員され、各地で陽動をかけているのだ。

 わが公爵家の軍も同様にして正面から魔王城を目指す動きをしている。

 それはライバルとして聖者の洞窟に行くことになっていた主人公達の裏をかいて抜け駆けするようなものであった。

 こんなところも悪役令嬢らしく小賢しいのよね。

 そんな風に自嘲もするが、この流れは止められない。

 でも、止められなくても出来る事はある。

 そう思いアリアには動いてもらっていた。

 そして私は精鋭部隊の面々を集めて彼らと私達のために作戦を練っていた。

 いいえ、作戦というには都合がよすぎますね、彼らの為というのも本心じゃない。

 ただ保身の為、私は彼らの動きに注文をつけました。





「出来るだけ殺さずに搔き回せですか?」

 怪訝そうな顔で精鋭部隊を率いる隊長が言葉を放つ。

「はい、そうしてください」

 その言葉を肯定した私に彼は口を開く。

「理由をお聞かせ頂けますか?」

「分かりました」

 そうして彼らに作戦の主旨を説明する。

 一つ、殺してしまえば相手はそのものを無視するが、生きている限りは生かそうとする為攻撃に大規模な魔法が使えなくなる。

 二つ、負傷者の搬送の為に人手がかかり、その分人数の不利を被らずにすむ。

 三つ、降伏するときに死者がいなければ貴方達の扱いも悪くはならない。

「なるほど、確かにそれは事実でしょう、しかし」

「分かっています、貴方方が誰よりも勇敢で、誰よりも気高いという事位は、子供でも知っていることです」

「その通りです、ですので私達が降伏するときは死ぬよりも意味のある時でしかありません」

「ええ、わかっています、3つめの事態に陥らないように最善は尽くします、ですので貴方達も無駄死にする事なく、生き抜いて下さい、どうか」

「ご配慮感謝致します」

 そう言って深々と礼をした後隊長は下がる。

「わが公爵家の誇り高き騎士達よ!貴方方は我が公爵家の宝です!それゆえ、勝手に死ぬ事は許しません!貴方達の気高さは誰よりもこの私が知っています!その貴方達に私が命じます!無様でも生き抜いて、再びわが公爵領の地をふみ、家族の元に帰還することを!陽動を成功させた後はそれを最優先とし、無様でも生き抜きなさい!それが私への忠義になると信じて!」

 ああ、私は残酷な事をしている。

 命よりも誇りを重んじる彼らにこのような事を命じるのだから。

 忠義の名の下に誇りを捨てよと、本当に悪役らしい傍若無人さね。

 こんな主人には誰もついてこないでしょう。

 そう思いながら下げていた視線を彼らに戻す。

「我ら公爵家精鋭第1騎士隊拝命つかまつります!」

 視線の合った隊長が叫ぶ。

「我らの命は我らの姫の為!」

「逃れられぬその時まで!」

「忠義の為に名を捨てようと生き抜きましょう!」

 隊長の後に99人の騎士隊の合唱が続く。

 その姿に視界が滲む。

「ほんと、バカね貴方達」

 泣き笑いになる私に隊長が笑顔で返す。

「これだけ我らの事を大事に思ってくださる主君の為なら、バカになれるのが我らの誇りにございます」

「ほんと、ばか……」

 アリアからハンカチを受け取り目元を拭う。

「これにて軍議は終了よ、後は打ち合わせの通りに」

「はっ!心得ております!」

 そうして本隊から分隊する前の最後の軍議は終了する。

 シンドラーはどうしたかって?ああ、あいつはお父様の方の本隊側の軍議に出てるわ。

 その後の動きを計算してどう動くかを決める為ですって。

 そんなもの必要ないのにね。

 そうして私達は本隊と離れて馬で駆けて魔王城を目指す。

 想定されている守備軍は3000程。

 そこに100で乗り込むなんて正気の沙汰じゃないわね。

 それでもなんとかするしかないの、何とかなる方法を識っているからなんとかできる。

 そう信じて馬を走らせる。

 そして、その時はやってくる。

「御武運を」

「ええ、貴方達もね、命を惜しみなさい」

「我らが姫の望むがままに」

「期待しているわ」

「ありがたき幸せ!それでは!」

「ええ、任せたわよ!」

「はっ!皆の者!突撃!」

 そうして風の如き素早さで馬を走らせて魔王城に強襲していく。

 賽は投げられた、ここからは時間とタイミングの勝負、気を抜けば全て瓦解して水泡に帰す。

「さあ行くわよ!」

 首肯する2人。

 そうして私達も魔王城へと馬を駆けさせるのであった。
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