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05完全に片想い

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「グレイス、雨ばっかりでつまらないわ。お外であそびたい」
「おそとであそびたいよぉ」

王宮に来て3ヶ月。
新しい生活にもだいぶ慣れたころ、雨季がやってきた。

庭園に出られない日が続いて、リア王女とタクト皇太子も退屈している。

「そうですね・・・。では、ちょっと体を動かす遊びをしましょうか」

「「ほんと?!」」

遊びと聞いて、パッ、とお二人の顔が輝く。

「その代わり、ちゃんといっしょに後片付けする、って約束してくださったらですよ?」

「「えー」」

「そうですか。じゃあしかたありませんね。
夕方まで、『おうぞくのこころえ10かじょう』の暗唱を、」

「するするっ!おかたづけするわ!」
「おたたづけするから!」

「ふふっ。じゃあ、準備してもらいますから、お待ちくださいね」



30分後、私たち3人は運動着に着替えて、王宮の運動室にいた。

私が考えたのはそう、『枕投げ』!
10個ほどを床のあちこちに置いて、それを拾って、自分以外の人に投げつける。
ただそれだけ。

でも、子どもたちにとってはいい発散になるはず。羽毛の軽い枕だから、痛くないしね。

「さあ、始めますよ!
位置について、よーい、スタート!」

掛け声を発すると、お二人とも歓声を上げながら走り出した。

思いっきり声を出して、好きなだけ走り回って、本当に楽しそう。
この遊びをしてよかった。

しばらく走り回った後、私も参加。

タクト様が満面の笑みをうかべながら、枕の端を両手で持って、私の顔を目掛けて振り回してきた。

きゃー!と言いつつ、わざと自分から枕にぶつかりに行ったのだけど。
パン!という音がしたと思うと、急に視界が真っ白になった。

枕が破れて、羽毛をかぶってしまったみたい・・・。

よし、こうなったら、

「逃げてーっ!羽毛のお化けが捕まえに行きますよーっ!がおーっ」

お化けのポーズで走り出そうとした、その時。
ドン、と、顔から誰かにぶつかった。

ん?この身長、大人の方よね?

「おやおや、もう捕まってしまった。
次は僕が鬼だな。羽毛を被ればいいのかな?」

・・・そっ、そのお声は☆※★!※☆

そこにはなぜか国王陛下が、必死で笑いを堪えながら立っておられた。




「くっ、くっくっくっ、ふ」

グレイスが羽毛を撒き散らしながら、国王リチャードに派手にぶつかった数時間後。

その国王陛下は執務室で、6回目の思い出し笑いの発作に耐えていた。

「楽しそうでいらっしゃいますな、陛下」

年配の秘書官が、冷静に、けれど興味を隠せない様子で言った。
長年仕えているが、こんなリチャードを見るのは初めてだ。

「だって、あのときのグレイスときたら。
扉を開けた途端、頭から羽毛を被った女の子が、お化けのマネをしていたんだよ!
しかも、がおーって。
がおーは怪獣だろう?笑」

陛下は、笑いのツボまで細かいところにお気づきになる、と秘書官は思ったが、口には出さなかった。

「グレイスは本当におもしろいよ。
公爵令嬢らしい完璧な儀礼を見せるかと思えば、まるで街の子供のようにはしゃぐ。
いつ見ても飽きない」

そこまで言ってリチャードは、秘書官が何か言いたそうに、自分を見ていることに気づいた。

「なんだい?何か言いたそうだね」

「最近の陛下は、クォーツ公爵令嬢の話ばかりしてらっしゃいますな」

「な、何を言ってるんだ。彼女は子どもたちの家庭教師なんだから、当然じゃないか」

「先日は、ようやく笑い返してくれるようになった、と喜んでおいででしたね」

「そ、それはそうだろう。シモンズ家の息子と婚約中はいつも無表情だったし、王宮にきたころは緊張して固まってたし」

「つまり、」

秘書官は一瞬ためらったが、心を決めて伝えることにした。
彼の主は人の心の機微に敏感だが、自分のことだけはとことん鈍い。
ここではっきり教えて差し上げねば、おそらく手遅れになるだろう。

「彼女の姿が脳裏から離れず、笑顔を返してくれれば嬉しくて、気がつけば彼女の話ばかりしてしまう、と。
陛下、これはもう、恋です」

「・・・?!?!なっ、君は何を、」

「ご自分の心に正直におなりください。
これは秘書官としてでなく、年寄りの友人としてのご忠告でございます」

書簡を届けに行って参ります、と言い残して、秘書官は部屋を出て行った。

ひとり残されたリチャードは、しばらく口をパクパクさせていたが、やがて頭を抱えてうつむいた。

「なんてことだ・・・」

しばらくして、絞り出すように呟く。

「僕は、17も歳上なんだぞ。
どうやったって見込みないじゃないか・・・」

自分のことにはとことん鈍い、と評されたリチャードは、ようやく恋心を自覚しながら、完全に片想いだと信じて疑わないのであった。
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