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07陛下のお悩み
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ああぁ。今日はなんて日かしら。
陛下にはきっと、品がない上に滑稽で、破廉恥な娘だと思われたに違いないわ。
家庭教師失格だと言われるかも・・・。
でも、慕ってくださるリア様とタクト様のために、ここで負けるわけには行かないわ。
陛下とお話ししよう。
幸い初伺候のときに、何かあればいつでも訪ねてほしい、とおっしゃっていたし。
その夜、緊張で倒れそうになりながら、私は初めて陛下の私室を訪ねることにしたのだった。
「どうぞ」
扉をノックすると、中から陛下の声がして、緊張はピークになった。
衛兵に取り次いでもらったから、私の来訪だとおわかりのはず。
「失礼いたします」
声は震えたけど、裏返らずに言えたわ。
よし、この調子。
「グレイス、よく来てくれたね。ハーブティーを用意させよう。さあ、ソファへどうぞ」
よかった、いつもの陛下だわ。
優しくて、穏やかで、大人で。
それにしても、夜の陛下もなんてセクシーなのかしら。
黒のシャツを一枚、やっぱりラフに着こなして、捲し上げた袖から覗く腕のたくましさといったら・・・。
「グレイス?」
はっ、いけない。
何しに来たの、私ったら。
「あ、あの、本日はお見苦しい姿をお見せして、誠に申し訳ございませんでした・・・」
「ん?見苦しい?・・・はははっ、あれか、あははははっ!」
きょとんとした顔をされた陛下だったけれど、一瞬の間を置いて、突然大笑いを始め、止まらなくなった。
え、ええっ、なんなの?
こんな陛下、初めて見たわ・・・。
「いやいや、失礼。子どもたちも楽しそうだったし、僕もめったに見られないものを見せてもらったからね。むしろお礼を言いたいくらいだよ」
「へ、陛下」
何てお心の広い方なのかしら。
ふつうの貴族や王族の方なら、貴族としての良識に欠ける、品性が欠如している、と咎めるものなのに。
「あなたが来てくれて、子どもたちは本当に楽しそうだ。感謝しているよ。
あらためてお礼を言わせていただく。
ありがとう、グレイス」
「そっ、そんな!私のほうこそ、毎日夢みたいに楽しくて幸せで。
お礼を申し上げるのは、私のほうですわ!」
「そうか、それは嬉しいな」
そう言うと、陛下はにっこりと微笑まれた。
ひと笑みだけで、宮廷中の貴婦人が卒倒する、と言われる笑顔だ。
ああもう、だめっ!
溶けてしまうわ。
「グレイス?」
「あっ、も、申し訳ございません」
「話はそれだけかい?この際だ、何でも言ってごらん」
はっ、そうだった。
大事なことを忘れるところだった。
というか、こっちのほうが本題なのに。
「陛下、あの、リア様がおっしゃったことですが・・・夕食の前に」
「えっ、あっ?ああ」
突然、陛下が驚いたというか、狼狽えたような顔をされた。
どうなさったのかしら?
やっぱり、貴族の娘が口にするような話題ではない、と思っておいでなのかしら?
でも、言わなくちゃ。リア様のためにも。
「リア様がご不安そうにお尋ねになったんです。恐れ多いことなのですけれど、私が陛下をあまり好きではないのではないか、って」
「えっ?!」
「陛下がおいでのとき、私がいつも無口ですしし、笑いもしないから、って。
ですから私、リア様に、野生馬に出会った時に喩えてお話ししたのです」
「や、野生馬?」
「はい。草原でとても美しい野生馬に出会った時、近づいたり触れたりしたくなるけれど、できないでしょう?と。
近づけば逃げてしまいますもの。
いつまでも見ていたいから、ひっそり息を潜めて見つめるだけ。
そういうことなんですよ、と」
「そ、そうなんだ」
「はい・・・。
リア様を悩ませてしまうなんて、家庭教師失格ですわ。
ですから、陛下にご報告しないといけないと。
本当に申し訳ございません」
私は一気に言い終え、頭を下げた。
私だって公爵令嬢だもの。社交の場は数えきれないくらい経験しているし、学院のディベートの授業ではいつも主席だった。
心を決めれば、このくらいは言える。
王宮に来てからは、どもったりつまったりばかりだったけれど。
「い、いや、いいんだよ。
むしろ、リアの繊細さを理解してくれてありがたい。やっぱり、あの子たちの家庭教師はあなたしかいないな」
陛下がこともなげにおっしゃったので、私は安心した。
よかった、まだ私、リア様とタクト様のお側にいられるみたい。
「ありがとうございます、陛下。
これからは、できるだけ陛下と楽しくお話できるよう、緊張を克服いたしますわ。
ご無礼がありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」
そう言って、にっこりと笑う。
ふと陛下を見ると、なぜかお顔が真っ赤になっていた。
どうなさったのかしら?
私が珍しく流暢に話したから、驚かれたのかしら?
「あ、そうか・・・うん、ありがとう。
これからもよろしくたのむよ」
「はい、喜んで」
夜も更けてきたし、目的は達成できたので、そこで退出することにした。
しかし。
陛下にスラスラとお話しできたことと、家庭教師として認めていただけたことに満足した私は、気づいていなかった。
陛下を野生馬に喩えて、美しいと評したこと。
近づきたくて触れたいけれど、去ってしまうのが怖くて遠くから見つめることしかできない、と、真正面から告げてしまったことに。
「・・・勘弁してくれ・・・」
グレイスが去った後の部屋では、リチャードが、独り言をつぶやいたり頭を抱えたりしていた。
彼女は気づいていないのか?
僕を美しいと、僕に触れたい、と告げたことに。
いや、それとも、単に国王たる者への敬意なのか・・・?
それに、あの笑顔の破壊力ときたら!
思わず全て投げ打って、抱きしめてしまいそうだった。
つっこみを入れてくれる秘書官がいないため、英明たる国王陛下はその夜、明け方まで悶々と悩み続けたのだった。
陛下にはきっと、品がない上に滑稽で、破廉恥な娘だと思われたに違いないわ。
家庭教師失格だと言われるかも・・・。
でも、慕ってくださるリア様とタクト様のために、ここで負けるわけには行かないわ。
陛下とお話ししよう。
幸い初伺候のときに、何かあればいつでも訪ねてほしい、とおっしゃっていたし。
その夜、緊張で倒れそうになりながら、私は初めて陛下の私室を訪ねることにしたのだった。
「どうぞ」
扉をノックすると、中から陛下の声がして、緊張はピークになった。
衛兵に取り次いでもらったから、私の来訪だとおわかりのはず。
「失礼いたします」
声は震えたけど、裏返らずに言えたわ。
よし、この調子。
「グレイス、よく来てくれたね。ハーブティーを用意させよう。さあ、ソファへどうぞ」
よかった、いつもの陛下だわ。
優しくて、穏やかで、大人で。
それにしても、夜の陛下もなんてセクシーなのかしら。
黒のシャツを一枚、やっぱりラフに着こなして、捲し上げた袖から覗く腕のたくましさといったら・・・。
「グレイス?」
はっ、いけない。
何しに来たの、私ったら。
「あ、あの、本日はお見苦しい姿をお見せして、誠に申し訳ございませんでした・・・」
「ん?見苦しい?・・・はははっ、あれか、あははははっ!」
きょとんとした顔をされた陛下だったけれど、一瞬の間を置いて、突然大笑いを始め、止まらなくなった。
え、ええっ、なんなの?
こんな陛下、初めて見たわ・・・。
「いやいや、失礼。子どもたちも楽しそうだったし、僕もめったに見られないものを見せてもらったからね。むしろお礼を言いたいくらいだよ」
「へ、陛下」
何てお心の広い方なのかしら。
ふつうの貴族や王族の方なら、貴族としての良識に欠ける、品性が欠如している、と咎めるものなのに。
「あなたが来てくれて、子どもたちは本当に楽しそうだ。感謝しているよ。
あらためてお礼を言わせていただく。
ありがとう、グレイス」
「そっ、そんな!私のほうこそ、毎日夢みたいに楽しくて幸せで。
お礼を申し上げるのは、私のほうですわ!」
「そうか、それは嬉しいな」
そう言うと、陛下はにっこりと微笑まれた。
ひと笑みだけで、宮廷中の貴婦人が卒倒する、と言われる笑顔だ。
ああもう、だめっ!
溶けてしまうわ。
「グレイス?」
「あっ、も、申し訳ございません」
「話はそれだけかい?この際だ、何でも言ってごらん」
はっ、そうだった。
大事なことを忘れるところだった。
というか、こっちのほうが本題なのに。
「陛下、あの、リア様がおっしゃったことですが・・・夕食の前に」
「えっ、あっ?ああ」
突然、陛下が驚いたというか、狼狽えたような顔をされた。
どうなさったのかしら?
やっぱり、貴族の娘が口にするような話題ではない、と思っておいでなのかしら?
でも、言わなくちゃ。リア様のためにも。
「リア様がご不安そうにお尋ねになったんです。恐れ多いことなのですけれど、私が陛下をあまり好きではないのではないか、って」
「えっ?!」
「陛下がおいでのとき、私がいつも無口ですしし、笑いもしないから、って。
ですから私、リア様に、野生馬に出会った時に喩えてお話ししたのです」
「や、野生馬?」
「はい。草原でとても美しい野生馬に出会った時、近づいたり触れたりしたくなるけれど、できないでしょう?と。
近づけば逃げてしまいますもの。
いつまでも見ていたいから、ひっそり息を潜めて見つめるだけ。
そういうことなんですよ、と」
「そ、そうなんだ」
「はい・・・。
リア様を悩ませてしまうなんて、家庭教師失格ですわ。
ですから、陛下にご報告しないといけないと。
本当に申し訳ございません」
私は一気に言い終え、頭を下げた。
私だって公爵令嬢だもの。社交の場は数えきれないくらい経験しているし、学院のディベートの授業ではいつも主席だった。
心を決めれば、このくらいは言える。
王宮に来てからは、どもったりつまったりばかりだったけれど。
「い、いや、いいんだよ。
むしろ、リアの繊細さを理解してくれてありがたい。やっぱり、あの子たちの家庭教師はあなたしかいないな」
陛下がこともなげにおっしゃったので、私は安心した。
よかった、まだ私、リア様とタクト様のお側にいられるみたい。
「ありがとうございます、陛下。
これからは、できるだけ陛下と楽しくお話できるよう、緊張を克服いたしますわ。
ご無礼がありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」
そう言って、にっこりと笑う。
ふと陛下を見ると、なぜかお顔が真っ赤になっていた。
どうなさったのかしら?
私が珍しく流暢に話したから、驚かれたのかしら?
「あ、そうか・・・うん、ありがとう。
これからもよろしくたのむよ」
「はい、喜んで」
夜も更けてきたし、目的は達成できたので、そこで退出することにした。
しかし。
陛下にスラスラとお話しできたことと、家庭教師として認めていただけたことに満足した私は、気づいていなかった。
陛下を野生馬に喩えて、美しいと評したこと。
近づきたくて触れたいけれど、去ってしまうのが怖くて遠くから見つめることしかできない、と、真正面から告げてしまったことに。
「・・・勘弁してくれ・・・」
グレイスが去った後の部屋では、リチャードが、独り言をつぶやいたり頭を抱えたりしていた。
彼女は気づいていないのか?
僕を美しいと、僕に触れたい、と告げたことに。
いや、それとも、単に国王たる者への敬意なのか・・・?
それに、あの笑顔の破壊力ときたら!
思わず全て投げ打って、抱きしめてしまいそうだった。
つっこみを入れてくれる秘書官がいないため、英明たる国王陛下はその夜、明け方まで悶々と悩み続けたのだった。
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