婚約破棄したら、憧れのイケメン国王陛下と相思相愛、熱烈年の差婚?!

Narian

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16決戦のとき

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「城門に火の手!」

リチャード王率いる王国軍とアルザス族は、山間に築かれた第二城門の上から、ムン族の猛攻に応戦していた。

「リチャード陛下、救援いたみいります。無事住民の避難が終わりましたぞ」

アルザス族の族長がリチャード王に声をかける。今朝、第四・第三城門を続けて突破され、あわや大殺戮というところに、ロザーヌ王国軍が到着し、どうにか住民たちを避難させることができたのだった。

「間に合ってよかった」

リチャードはそう言いながら、後ろから飛んできた矢を剣でなぎ落とす。かなりのスピードだったのだが、一瞥もくれずに払い落としたその妙技に、族長が感嘆の声をもらした。

「弓槍が雨あられと降り注ぐ中を、駆け巡ったこともある。一矢払い落とすくらい、たいしたことではないよ」

リチャード王は事も無げに言うが、簡単にできることではない。
この王は優しげな外見に似合わず、歴戦の勇者なのだ。
そしてひとたび陣頭に立てば、的確な指示で兵を動かし、悠然と佇むその姿はまるで古の軍神の如くだ。ロザーヌ軍が絶対的な忠誠を誓うのも頷ける。

加えて、この美しさだ。
リチャード王がアルザス族を訪ねてくるたび、村の娘たちが色めき立つ。亡くなった王妃様に愛を捧げている、というのも、娘たちの心を惹きつけてやまないらしい。
今までリチャード王は、そんな娘たちからの誘いをかわし続けていたが、王妃様が亡くなってもう6年だ。そろそろ、独り寝の寂しさが身に染みているのではないか。

「陛下も連日の行軍でお疲れでしょう。じきに夜、敵も大人しくなりまする。私どもで凌ぎますので、どうぞお休みください。娘がお世話をさせていただきますので」

族長の娘は17歳、村一番の美女と評判だ。かねてからリチャード王に恋しているし、父親として最上の良縁を決めてやりたいところだ。

「いや、我々は敵を叩いて来る。今夜は満月。まさか敵も、我々が明るい中打って出るとは思わず、油断しているだろうから」

やんわりと、だが確実に拒絶された。やれやれ、リチャード陛下はまだ、後添えをもらわれる気はないらしい。無理強いはかえって逆効果と知っている族長は、それ以上話を進めようとはしなかった。

「打って出ると?しかし、城門から出れば忽ち彼奴等の弓の餌食になりますぞ」

「城門右うしろの崖を登り、敵の頭上から攻め込む」

「なんと?!」

件の崖は今いる第二城門の右手にあり、確かにそこを登れば、ムン族の上に出ることができる。ムン族から死角にもなっているのだが、武者返しの崖と言われる難所だ。この地に住むアルザス族でも登ることはない。

「大丈夫。それができるだけの準備はしてある。貴殿たちには、敵の目を逸らす役をお願いしたい。そして我々の攻撃が始まったら、同時攻撃を。一気に決着をつけよう」

こうしてリチャード王は、自ら精鋭を率いて出て行った。族長は、何も王自ら出動しなくてもと止めたが、危険な役ほど率先してやらねば兵はついて来ない、と言って。
全く大したお方だ、と族長は感嘆する。娘を娶っていただけたら、と思うのだが、王にその気がないのだから仕方がない。



「やれやれ、危なかった」

急峻な崖を登りながら、リチャード王はため息をついた。独り身になってから、やれ娘を後添えにだの姪をお側にだの、女性を勧められることばかりだ。一歩王宮を出れば、寝所に潜り込まれることなど枚挙にいとまがない。

既成事実を作ってしまえば、と考えているのがあからさまで、色気を全開にして迫って来られる。自分も男だから、ある程度反応してしまうのは仕方がないのだが、地位と権力のために近寄って来る女性などまっぴらだ。その度にひっそりと追い返すのだが、中には有力貴族の子女などもいて、心底骨が折れる。

皆、王妃や愛妾になりたいようだが、王の妃や愛妾のどこがそんなによいのか。しきたりばかりうるさく、常に衆目にさらされ、心休まる時がない。王妃は、グレイスほどの資質がないととても務まるものではない。
彼女はあまり自覚がないようだが、作法やしきたりなどは完璧に身についているし、歴史や地理に明るく語学にも堪能。加えて輝く金髪に美しく映える白い肌。誰からも愛される明るさ。王妃の資質として申し分ない。

早くグレイスに会いたい、とリチャード王は思った。無垢で、包み込むように明るくて、まるで愛の女神のようだ。彼女といると、心に陽が射すような気持ちになる。

グレイスのことを考えているうちに、頂上に到達した。武者返しの崖と言われるだけあって、なかなかの難所だったが、もともとここを登ることを想定して準備していた。リチャード王にとって、そう難しいことではなかった。

王に続けとばかりに、次々と兵士たちが上がって来る。危機には率先して飛び込んでいく彼らの王を、兵士たちは心底崇拝しているのだ。

「揃ったね。さあ、行くよ」

ひっそりと、王が告げた。
決戦の時は近い。
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