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番外編 ファティマ編02
それから、やれ水汲みだ繕い物だと、毎日馬車馬のように働かされた。おまけに、ちょっと要領を覚えて手を抜くと、どこからともなくゼノンの奴が現れて、鞭を飛ばしてくる。
しかも、やたら楽しそうなのだ。何じゃ、こやつめ!
「っ、貴様!帰ったのではなかったのか?!」
「皇女さまをしっかり監視しろ、とリチャード様から言われてんだよ。あの方の命令は絶対だからな」
見てるなら助ければよかろうに!じゃがこやつは、右肩に重い水桶を担いでいたら、左肩にも乗せるような男じゃ。
「ふん、何がリチャード様じゃ。そのお方のせいで、お前はこんな奥地まで来て、小舅のマネをさせられておるではないか。お前なぞ、リチャード王にうまく使われておるだけじゃ!」
落ち込ませてやろうと思って言うたが、ゼノンは烈火のごとく怒り出した。
「リチャード様を悪く言うな!あの方は本当に素晴らしいいんだぞ!」
な、なんじゃ急に?!
「戦場のリチャード様はな、本当にかっこいいんだ。オレも何度、命を救われたか。あの方のためなら、命を捨てても惜しくない」
いつの間にか怒りは消え、うっとりとした目をしながら語っている。も、もしやこの男・・・。
「念のため聞くが、お前の好きな男というのは・・・」
「リチャード様さ、ほかにいるもんか」
・・・。
「お前のために言うがな、あの王はやめておけ。外見は優しげじゃが、中身はとんでもないぞ。下手に関われば人生を狂わされる」
このわたくしのようにな、とはさすがに口にしたくないが。じゃがゼノンは、まったく迷いのない表情で言い切った。
「そこがいいんだよ。いっそ狂わされたいね」
ダメじゃ、こいつ。もうすっかり狂わされておる。手遅れじゃと判断して、そこで会話を終えた。
それから幾日経ったであろうか。どれだけ待っても、父上の迎えは来ない。
朝から晩まで、身を粉にして働いても、粗末な食事がもらえるだけ。おまけにどれだけ尽くそうが感謝の言葉もない。
もう限界じゃ!こんなところにおられるか!ある日、夜を待ち、わたくしは逃げ出すことにした。
夜の密林は冷える。おまけに夜行性の虫がウヨウヨしていて、気色悪いことこのうえない。月の明かりだけを頼りに彷徨っていると、自分の位置を見失ってしまった。
どうしたらよいのじゃ!途方に暮れていると、背後の草むらからガサッと音がした。
「ひゃっ?!?!」
恐怖で飛び上がったが、聞こえてきたのは聞き慣れた声だった。
「何やってんだよ、お前。夜の密林にひとりで入ってくなんて、死にに行くようなもんだぜ?」
ゼノンだった。なんじゃ、紛らわしいやつめ!こいつを見てホッとした・・・とはぜったいに言うまい。
「やかましい!わたくしは帰るのじゃ!」
「帰る?どこに?」
「どこにじゃと?ザッハールに決まっておろうが!」
帰るといえば母国に決まっておろう。変なことを言うヤツじゃと思ったが、ゼノンは意地悪な笑顔を浮かべると言った。
「ザッハール王は、第一皇女の身分剥奪の上追放、処遇にはいっさい関知しない、と密書に署名したらしいぜ」
「・・・なんじゃと?」
「つまり、お前には帰る場所なんかないってことさ。わかったら大人しく、、ん?」
ゼノンの言葉が終わるのを待たずに、わたくしはスタスタと歩き出した。ゼノンが焦ったように追ってくる。
「ど、どうしたんだよ。お前らしくない」
「・・・うるさい。わたくしが泣いて喚くとでも思ったか?取り乱すとでも思ったか?」
ゼノンは驚いて、言葉をつげないでいる。
「父上は、他の兄弟たちのほうがかわいいからな。わたくしなどいなくても、痛くも痒くもないのじゃ。こんなことだろうと思っておったわ!」
「そ、そんなことないだろう。お前、第一皇女じゃないか」
ゼノンが慌てて取り繕う。
「皇后の娘というだけじゃ。父上はわたくしの母上よりも、身分の低い愛妾のほうをご寵愛じゃからな!」
ゼノンは驚いたような顔をしてわたくしを見ている。そうか、こやつもわたくしのことを、甘やかされて何不自由なく育った姫じゃと思うておったのか。
しかも、やたら楽しそうなのだ。何じゃ、こやつめ!
「っ、貴様!帰ったのではなかったのか?!」
「皇女さまをしっかり監視しろ、とリチャード様から言われてんだよ。あの方の命令は絶対だからな」
見てるなら助ければよかろうに!じゃがこやつは、右肩に重い水桶を担いでいたら、左肩にも乗せるような男じゃ。
「ふん、何がリチャード様じゃ。そのお方のせいで、お前はこんな奥地まで来て、小舅のマネをさせられておるではないか。お前なぞ、リチャード王にうまく使われておるだけじゃ!」
落ち込ませてやろうと思って言うたが、ゼノンは烈火のごとく怒り出した。
「リチャード様を悪く言うな!あの方は本当に素晴らしいいんだぞ!」
な、なんじゃ急に?!
「戦場のリチャード様はな、本当にかっこいいんだ。オレも何度、命を救われたか。あの方のためなら、命を捨てても惜しくない」
いつの間にか怒りは消え、うっとりとした目をしながら語っている。も、もしやこの男・・・。
「念のため聞くが、お前の好きな男というのは・・・」
「リチャード様さ、ほかにいるもんか」
・・・。
「お前のために言うがな、あの王はやめておけ。外見は優しげじゃが、中身はとんでもないぞ。下手に関われば人生を狂わされる」
このわたくしのようにな、とはさすがに口にしたくないが。じゃがゼノンは、まったく迷いのない表情で言い切った。
「そこがいいんだよ。いっそ狂わされたいね」
ダメじゃ、こいつ。もうすっかり狂わされておる。手遅れじゃと判断して、そこで会話を終えた。
それから幾日経ったであろうか。どれだけ待っても、父上の迎えは来ない。
朝から晩まで、身を粉にして働いても、粗末な食事がもらえるだけ。おまけにどれだけ尽くそうが感謝の言葉もない。
もう限界じゃ!こんなところにおられるか!ある日、夜を待ち、わたくしは逃げ出すことにした。
夜の密林は冷える。おまけに夜行性の虫がウヨウヨしていて、気色悪いことこのうえない。月の明かりだけを頼りに彷徨っていると、自分の位置を見失ってしまった。
どうしたらよいのじゃ!途方に暮れていると、背後の草むらからガサッと音がした。
「ひゃっ?!?!」
恐怖で飛び上がったが、聞こえてきたのは聞き慣れた声だった。
「何やってんだよ、お前。夜の密林にひとりで入ってくなんて、死にに行くようなもんだぜ?」
ゼノンだった。なんじゃ、紛らわしいやつめ!こいつを見てホッとした・・・とはぜったいに言うまい。
「やかましい!わたくしは帰るのじゃ!」
「帰る?どこに?」
「どこにじゃと?ザッハールに決まっておろうが!」
帰るといえば母国に決まっておろう。変なことを言うヤツじゃと思ったが、ゼノンは意地悪な笑顔を浮かべると言った。
「ザッハール王は、第一皇女の身分剥奪の上追放、処遇にはいっさい関知しない、と密書に署名したらしいぜ」
「・・・なんじゃと?」
「つまり、お前には帰る場所なんかないってことさ。わかったら大人しく、、ん?」
ゼノンの言葉が終わるのを待たずに、わたくしはスタスタと歩き出した。ゼノンが焦ったように追ってくる。
「ど、どうしたんだよ。お前らしくない」
「・・・うるさい。わたくしが泣いて喚くとでも思ったか?取り乱すとでも思ったか?」
ゼノンは驚いて、言葉をつげないでいる。
「父上は、他の兄弟たちのほうがかわいいからな。わたくしなどいなくても、痛くも痒くもないのじゃ。こんなことだろうと思っておったわ!」
「そ、そんなことないだろう。お前、第一皇女じゃないか」
ゼノンが慌てて取り繕う。
「皇后の娘というだけじゃ。父上はわたくしの母上よりも、身分の低い愛妾のほうをご寵愛じゃからな!」
ゼノンは驚いたような顔をしてわたくしを見ている。そうか、こやつもわたくしのことを、甘やかされて何不自由なく育った姫じゃと思うておったのか。
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