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番外編 ファティマ編04
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ゼノンの言うとおり、密林の王国は姫の婚礼を翌日に控え、おおわらわであった。
余談じゃが、この国の女たちは、近隣の国に嫁入りして、女の子が生まれれば故郷に送り、男の子が産まれれば嫁ぎ先で育てるのだそうな。
「布が足らないよ、どこに置いた!?」
「結納の果実は飾りおわったかい?!」
女中や下働きの女たちが、慌ただしく走り回っている。わたくしも支度の品を運んだり、ツヅラに仕舞ったりと大忙しじゃ。
なぜわたくしが、よその姫の婚礼支度を手伝わねばならんのじゃ、と思うが、ゼノンのことを考えずに済むのはありがたい。
荷運びを終えて戻っていると、女たちが大騒ぎしている場面に出会した。あれは確か、姫のお付きの侍女たちじゃ。手違いで、婚礼衣装の刺繍が出来上がっていないのだとか。
なんと出来の悪い侍女じゃ!わたくし付きなら、即罷免しておるぞ。
だか婚礼は明日。責めても始まらん。わたくしは婚礼衣装と刺繍道具を奪い取ると、その場で刺繍を始め・・・数時間後には完成した。侍女たちが歓声を上げる。
刺繍なぞ、皇女として当然の嗜みじゃ。わたくしのような妖艶な美女から、清楚な手刺繍入りの手ぬぐいなんぞ贈られると、男たちはイチコロじゃからの。
とにかくわたくしの手際もあって、婚礼はつつが無く執り行われ、姫は嫁いで行った。
そしてわたくしは刺繍の腕を見込まれ、女王の衣装係に昇格したのじゃ。さすがじゃろう。
「へえ、うまいもんだな。あんた、オトコ以外にも得意分野あったんだな」
「な、なんじゃお主!気配を消して近寄るなと言うておろうが!」
屋外で刺繍しておると、よくゼノンが声をかけてくる。何がオトコ以外にじゃ!わたくしがモテるのは、表に出ぬ数々の努力の結果なのじゃ!
「この赤い花なんかいいじゃん。オレ好きだぜ」
「?!?!」
さらりと言うだけ言って、いつものようにふらっといなくなる。
好き?今、好きって言ったか?!
ふふ、仕方ないな。では特別に、手ぬぐいに刺繍してやろうではないか。
おっと、赤い糸が足らんな。これは染料から集めて来ねばならん。近ごろは材料の採取も糸染めもできるのじゃ。
わたくしはカゴを背負い、密林の中へ分け入る。が、原料の花を摘もうとしたときじゃった。草むらが揺れ、パキッと枯れ枝の踏まれる音がする。
・・・何かいる。今回は、ゼノンではない。もっと大型で、獰猛な生き物の気配じゃ。
ほどなくして「それ」は、茂みの中からゆっくりと姿を表した・・・大型のサーベルタイガー!
わたくしは、後退りすらできずに立ち尽くす。獣は低い唸り声を上げ、わたくしをまっすぐ見据えると・・・ひと呼吸おいて、真正面から飛びかかってきた。
喰いつかれる!そう思った瞬間だった。わたくしの真横を疾風が吹き抜け、タイガーとの間に立ち塞がる。
「伏せろっ!」
(ゼ、ゼノンっ?!)
それがゼノンだと気づいた時には、ゼノンの剣がタイガーの身体を貫いていた。タイガーは咆哮を上げて崩れ落ち、やがて動かなくなる。
何じゃ?今のは。強すぎるだろう?一介の兵士に出来る技ではないぞ?!
「あんたバカか?!ひとりで密林に入るなんて!危険なのは夜だけじゃねえんだぞ!」
ゼノンが怒ってる。だがわたくしは衝撃のあまり、反論すらできない。
「まあいいか、無事だったんだし。何かあったらリチャード様に合わせる顔がないとこだったぜ」
こ、この後に及んでリチャード様か!心配した、の一言もないのか?!さすがに食ってかかろうとしたときだった。
「心配したんたぜ・・・」
そう言ったかと思うと、急にゼノンが崩れ落ちた。気づけば首筋には歯形が付いて血滴り、脇腹からも血が滲み、前半身には爪痕が食い込んでいる。
「お、お主、食いつかれたのか?!おい、おいゼノン!?」
ゼノンは地面に倒れ込み、そのまま意識を失った。
余談じゃが、この国の女たちは、近隣の国に嫁入りして、女の子が生まれれば故郷に送り、男の子が産まれれば嫁ぎ先で育てるのだそうな。
「布が足らないよ、どこに置いた!?」
「結納の果実は飾りおわったかい?!」
女中や下働きの女たちが、慌ただしく走り回っている。わたくしも支度の品を運んだり、ツヅラに仕舞ったりと大忙しじゃ。
なぜわたくしが、よその姫の婚礼支度を手伝わねばならんのじゃ、と思うが、ゼノンのことを考えずに済むのはありがたい。
荷運びを終えて戻っていると、女たちが大騒ぎしている場面に出会した。あれは確か、姫のお付きの侍女たちじゃ。手違いで、婚礼衣装の刺繍が出来上がっていないのだとか。
なんと出来の悪い侍女じゃ!わたくし付きなら、即罷免しておるぞ。
だか婚礼は明日。責めても始まらん。わたくしは婚礼衣装と刺繍道具を奪い取ると、その場で刺繍を始め・・・数時間後には完成した。侍女たちが歓声を上げる。
刺繍なぞ、皇女として当然の嗜みじゃ。わたくしのような妖艶な美女から、清楚な手刺繍入りの手ぬぐいなんぞ贈られると、男たちはイチコロじゃからの。
とにかくわたくしの手際もあって、婚礼はつつが無く執り行われ、姫は嫁いで行った。
そしてわたくしは刺繍の腕を見込まれ、女王の衣装係に昇格したのじゃ。さすがじゃろう。
「へえ、うまいもんだな。あんた、オトコ以外にも得意分野あったんだな」
「な、なんじゃお主!気配を消して近寄るなと言うておろうが!」
屋外で刺繍しておると、よくゼノンが声をかけてくる。何がオトコ以外にじゃ!わたくしがモテるのは、表に出ぬ数々の努力の結果なのじゃ!
「この赤い花なんかいいじゃん。オレ好きだぜ」
「?!?!」
さらりと言うだけ言って、いつものようにふらっといなくなる。
好き?今、好きって言ったか?!
ふふ、仕方ないな。では特別に、手ぬぐいに刺繍してやろうではないか。
おっと、赤い糸が足らんな。これは染料から集めて来ねばならん。近ごろは材料の採取も糸染めもできるのじゃ。
わたくしはカゴを背負い、密林の中へ分け入る。が、原料の花を摘もうとしたときじゃった。草むらが揺れ、パキッと枯れ枝の踏まれる音がする。
・・・何かいる。今回は、ゼノンではない。もっと大型で、獰猛な生き物の気配じゃ。
ほどなくして「それ」は、茂みの中からゆっくりと姿を表した・・・大型のサーベルタイガー!
わたくしは、後退りすらできずに立ち尽くす。獣は低い唸り声を上げ、わたくしをまっすぐ見据えると・・・ひと呼吸おいて、真正面から飛びかかってきた。
喰いつかれる!そう思った瞬間だった。わたくしの真横を疾風が吹き抜け、タイガーとの間に立ち塞がる。
「伏せろっ!」
(ゼ、ゼノンっ?!)
それがゼノンだと気づいた時には、ゼノンの剣がタイガーの身体を貫いていた。タイガーは咆哮を上げて崩れ落ち、やがて動かなくなる。
何じゃ?今のは。強すぎるだろう?一介の兵士に出来る技ではないぞ?!
「あんたバカか?!ひとりで密林に入るなんて!危険なのは夜だけじゃねえんだぞ!」
ゼノンが怒ってる。だがわたくしは衝撃のあまり、反論すらできない。
「まあいいか、無事だったんだし。何かあったらリチャード様に合わせる顔がないとこだったぜ」
こ、この後に及んでリチャード様か!心配した、の一言もないのか?!さすがに食ってかかろうとしたときだった。
「心配したんたぜ・・・」
そう言ったかと思うと、急にゼノンが崩れ落ちた。気づけば首筋には歯形が付いて血滴り、脇腹からも血が滲み、前半身には爪痕が食い込んでいる。
「お、お主、食いつかれたのか?!おい、おいゼノン!?」
ゼノンは地面に倒れ込み、そのまま意識を失った。
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