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番外編 密林の再会02
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リチャードとグレイスが出て行ったのを確かめると、ゼノンは目を開けた。
「何だよ、あのお嬢様。いい子じゃねえか」
今までリチャードに近づく女たちの、ゼノンに対する反応は、取り入ろうとするか邪魔者扱いするかの二つに一つだった。それもひとりの例外もなく、かれの無作法に眉をひそめるのだ。
当然、そんな女たちはことごとく追い払った。リチャードと自分の絆の深さを見せつければ、大半の女は勝手に身をひく。女とは、自分が一番愛されないと気が済まないものだから。引かない場合は脅して退去させてきた。
その度に、お前の評判を落とすようなことするんじゃない、とリチャードに叱られたが、自分が何と言われようと、どうでもよかった。
リチャードが、女たちに辟易しているのを知っていたから。役に立てるのなら、自分の評判などどうなろうが構わなかった。
グレイスのことも、そういう女たちと同類に違いないと、決めてかかっていた。リチャードは騙されているのだ。だから結婚式もぶち壊してやる、と喚いたら、頭を冷やしてこいと任務を与えられて放り出された(それがファティマの監視だったのだが)。
ところがグレイスときたら、初対面のときから彼の態度に全く引かないので驚いた。
嫉妬させてやろうと、彼女の知らないリチャードとの思い出話ばかりしたら、ただ嬉しそうに聞いている。女たちを追い払った話をしたのは、下心があるのなら同じ目に合わすぞ、という牽制だったが、リチャードのモテぶりに動揺していただけだった。
トドメが最後の発言だ。
リチャードとゼノンの絆をずっと見ていたい、とあのご令嬢は言った。羨ましいでも、自分も入りたいでもなく、見ていたいと。ゼノンとリチャードの歴史を尊重したのだ。
「ったく、なんだよそれ・・・」
そんなことを言ったのは、今までユリアーナ王妃だけだった。ユリアーナは、ゼノンがリチャードにまとわりつくのを、いつも静かに微笑んで見ていた。だからゼノンは、ユリアーナのことも好きだった。
全くタイプは違うが、ユリアーナとグレイスは、本質的なところで似ているのかもしれない。さすがはリチャードが選んだだけある。
もう邪魔はすまい、とゼノンは思うしかなかった。それでも自分がリチャードを慕う気持ちは変わらないから、まとわりつくのをやめる気はなかったが。あのお嬢様なら笑ってゆるしてくれるだろう。
「まったくあやつは、子どもみたいで困る。申し訳ないな、グレイス殿」
ファティマ様が謝る。ゼノン様のことになると、あの高慢だったファティマ様が謝ってばかりなのが、微笑ましい。私は、お気になさらずと伝えたけれど、ファティマ様はまだ何か言いたそうだ。
「ファティマ様、どうかなさいましたか?」
私が問うと、ファティマ様は、心を決めたように口を開いた。
「グレイス殿、その節は申し訳なかった!謝って済むことではないと思うが」
謝られると思っていなかったので、びっくりしてしまった。私の中では、もう終わったことだったから。
「気にしていませんわ、ファティマ様。私は幸せですし、あなたが変わられたのは一目でわかりましたもの。努力なさったのでしょうし、良い方に巡り会えたのですね」
ファティマ様は驚いて、大きく目を見開く。
「・・・さすがじゃな。あんなことをした相手を赦し、あまつさえ祝福するのか、お主は。だからリチャード王にも愛されるのじゃな」
やだ、あ、愛だなんて・・・いやいや、ここで照れてる場合ではないわ。ファティマ様に白々しいと思われてしまう。
「ファティマ様もゼノン様に愛されておいでではないですか。あの疾風ゼノンを虜にするなんて、ファティマ様にしかできませんわ」
私は本心から言ったのだけれど、ファティマ様は伏し目がちになってしまった。
「虜になんぞしておらん。あやつがわたくしと結婚したのは、ほとんど勢いじゃからな。ゼノンが一番愛しておるのは、リチャード王じゃ。王がやって来ると聞くやはしゃぎまわって、待ちきれずに迎えに行く始末じゃからの」
そう言ってファティマ様は、しまった、という顔をした。どうなさったのかしら?ゼノン様がリチャード様を好きでしかたないのは、誰が見てもわかるわよね。
「そんなことございませんわ。ゼノン様がファティマ様のことをお話しされるとき、とても誇らしげですもの。それに、ああいう出迎えをなさったのも、ファティマ様の為だったと思いますよ」
「わたくしのため?」
「ええ。ゼノン様が大騒ぎしてくださったおかげで、気まずさを感じる暇もありませんでしたもの。ゼノン様は、あなたが気を楽にして私たちと対面できるよう、お考えになったのだと思いますわ」
「・・・?!?!」
ファティマ様が目を白黒させている。本当にゼノン様のことがお好きなのだわ。
「自信をお持ちください。ゼノン様は幼いころ苦労なさったそうですから、警戒心は強い方だと思います。そんな方が、あなたを側に置くと決められたのですから。愛と信頼がなければあり得ませんわ」
「・・・なるほどな」
しばらく間をおいて、ファティマ様が答えた。静かな表情だったけれど、先ほどまでの落ち込んだ顔ではなくなっていて、ほっとする。
「お主は、ときどき人の本質を突く。当人さえ気づいておらぬような、な。そして自然に受け入れる。まさしく王妃の器じゃな」
独り言のように呟くと、晴れ晴れとした表情になって、ファティマ様が言った。
「ありがとう、グレイス殿。おかげで吹っ切れた。お礼と言ってはなんだが、お主らの部屋の湯殿を準備させよう。ゆるりと過ごされるがよいぞ」
「何だよ、あのお嬢様。いい子じゃねえか」
今までリチャードに近づく女たちの、ゼノンに対する反応は、取り入ろうとするか邪魔者扱いするかの二つに一つだった。それもひとりの例外もなく、かれの無作法に眉をひそめるのだ。
当然、そんな女たちはことごとく追い払った。リチャードと自分の絆の深さを見せつければ、大半の女は勝手に身をひく。女とは、自分が一番愛されないと気が済まないものだから。引かない場合は脅して退去させてきた。
その度に、お前の評判を落とすようなことするんじゃない、とリチャードに叱られたが、自分が何と言われようと、どうでもよかった。
リチャードが、女たちに辟易しているのを知っていたから。役に立てるのなら、自分の評判などどうなろうが構わなかった。
グレイスのことも、そういう女たちと同類に違いないと、決めてかかっていた。リチャードは騙されているのだ。だから結婚式もぶち壊してやる、と喚いたら、頭を冷やしてこいと任務を与えられて放り出された(それがファティマの監視だったのだが)。
ところがグレイスときたら、初対面のときから彼の態度に全く引かないので驚いた。
嫉妬させてやろうと、彼女の知らないリチャードとの思い出話ばかりしたら、ただ嬉しそうに聞いている。女たちを追い払った話をしたのは、下心があるのなら同じ目に合わすぞ、という牽制だったが、リチャードのモテぶりに動揺していただけだった。
トドメが最後の発言だ。
リチャードとゼノンの絆をずっと見ていたい、とあのご令嬢は言った。羨ましいでも、自分も入りたいでもなく、見ていたいと。ゼノンとリチャードの歴史を尊重したのだ。
「ったく、なんだよそれ・・・」
そんなことを言ったのは、今までユリアーナ王妃だけだった。ユリアーナは、ゼノンがリチャードにまとわりつくのを、いつも静かに微笑んで見ていた。だからゼノンは、ユリアーナのことも好きだった。
全くタイプは違うが、ユリアーナとグレイスは、本質的なところで似ているのかもしれない。さすがはリチャードが選んだだけある。
もう邪魔はすまい、とゼノンは思うしかなかった。それでも自分がリチャードを慕う気持ちは変わらないから、まとわりつくのをやめる気はなかったが。あのお嬢様なら笑ってゆるしてくれるだろう。
「まったくあやつは、子どもみたいで困る。申し訳ないな、グレイス殿」
ファティマ様が謝る。ゼノン様のことになると、あの高慢だったファティマ様が謝ってばかりなのが、微笑ましい。私は、お気になさらずと伝えたけれど、ファティマ様はまだ何か言いたそうだ。
「ファティマ様、どうかなさいましたか?」
私が問うと、ファティマ様は、心を決めたように口を開いた。
「グレイス殿、その節は申し訳なかった!謝って済むことではないと思うが」
謝られると思っていなかったので、びっくりしてしまった。私の中では、もう終わったことだったから。
「気にしていませんわ、ファティマ様。私は幸せですし、あなたが変わられたのは一目でわかりましたもの。努力なさったのでしょうし、良い方に巡り会えたのですね」
ファティマ様は驚いて、大きく目を見開く。
「・・・さすがじゃな。あんなことをした相手を赦し、あまつさえ祝福するのか、お主は。だからリチャード王にも愛されるのじゃな」
やだ、あ、愛だなんて・・・いやいや、ここで照れてる場合ではないわ。ファティマ様に白々しいと思われてしまう。
「ファティマ様もゼノン様に愛されておいでではないですか。あの疾風ゼノンを虜にするなんて、ファティマ様にしかできませんわ」
私は本心から言ったのだけれど、ファティマ様は伏し目がちになってしまった。
「虜になんぞしておらん。あやつがわたくしと結婚したのは、ほとんど勢いじゃからな。ゼノンが一番愛しておるのは、リチャード王じゃ。王がやって来ると聞くやはしゃぎまわって、待ちきれずに迎えに行く始末じゃからの」
そう言ってファティマ様は、しまった、という顔をした。どうなさったのかしら?ゼノン様がリチャード様を好きでしかたないのは、誰が見てもわかるわよね。
「そんなことございませんわ。ゼノン様がファティマ様のことをお話しされるとき、とても誇らしげですもの。それに、ああいう出迎えをなさったのも、ファティマ様の為だったと思いますよ」
「わたくしのため?」
「ええ。ゼノン様が大騒ぎしてくださったおかげで、気まずさを感じる暇もありませんでしたもの。ゼノン様は、あなたが気を楽にして私たちと対面できるよう、お考えになったのだと思いますわ」
「・・・?!?!」
ファティマ様が目を白黒させている。本当にゼノン様のことがお好きなのだわ。
「自信をお持ちください。ゼノン様は幼いころ苦労なさったそうですから、警戒心は強い方だと思います。そんな方が、あなたを側に置くと決められたのですから。愛と信頼がなければあり得ませんわ」
「・・・なるほどな」
しばらく間をおいて、ファティマ様が答えた。静かな表情だったけれど、先ほどまでの落ち込んだ顔ではなくなっていて、ほっとする。
「お主は、ときどき人の本質を突く。当人さえ気づいておらぬような、な。そして自然に受け入れる。まさしく王妃の器じゃな」
独り言のように呟くと、晴れ晴れとした表情になって、ファティマ様が言った。
「ありがとう、グレイス殿。おかげで吹っ切れた。お礼と言ってはなんだが、お主らの部屋の湯殿を準備させよう。ゆるりと過ごされるがよいぞ」
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