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活きの良い王女
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攻め滅ぼされたくなければ貴国の活きの良い王女を嫁として差し出せ。
活きの良いは王女にかかる修飾じゃありません。主に魚です。
この脅迫状を見せられた時、私はこの文章を書いた奴を〆落とそうと決意した。
金箔が捺されたお洒落な羊皮紙に書かれた文面は山賊からの要求みたいな内容だけれど、隣国であらせられる帝国からの正式な文書である。
もっと角の立たないワードのチョイスあっただろう?
センスに欠ける文書作成者の襟元をぎゅっと引っ張るイメージを絶対ない。できることなら片手で持ち上げてやる。
誰だ。相手国の宰相か? 覚えてろよ。
もっと貴国の美しい王女をいただきたいとか書いておけば王女自身やる気になっただろう。
変にハードルあげてくれるな、と思う可能性もあっただろうけれど、活きの良いはないだろう。その活きの良い王女こと私、ヘーゼル・ド・ヘルシオスは怒っていた。
健康的な亜麻色の髪に日焼けした肌、金の瞳に唇だけが色素の薄い薄桃色。子鹿のような美しい脚、性格故に良く露出されるボディラインは見事で容姿は美しい、と賞されていた。控えめに言って国の宝だろう。私は。
それが、容姿は、という留保はなんだ。少し元気なだけだ。私の礼儀作法の先生がストレスから髪が抜け落ちて箔がついたとしてもだ。まず人の内面を褒めるべきで、容姿だけを褒めるのは良くない。
今日も良い天気だ朝メシを食べようと思ったら侍女とメイドに縛り上げられたのだ。私の護衛騎士も手伝っていた。
おまえ、護衛って言葉知ってる? って話しかけたら、王女って女なんですよ? って返された。
どういう意味だよ。
絶対にいつか闇討ちにする。そう決意したのに廊下の外にでたら騎士団が武装していて、スムーズに父上に謁見室に引き立てられた。これが実の娘にすることかよ。
こうして活きの良い私は父上に罪人並みに後ろ手に縛られながら、そのムカつく羊皮紙を見せられたのだ。
「そういうわけだから、嫁ってこい」
そのいってこいの読み方が許されるなら、嫁ぐとかいてイグになるだろう。なんだその前世の男性向けエロ本みたいな濁音は。そこで私は縛られていない下半身を生かして父に向かって走り込んで脚をあげた。
跳び蹴りって奴だ。
そこで国のために、すまない、とでも言ってくれれば私も慈しみ育ててくれた父であり一国の主である国王陛下に踵落としを試みるようなことはなかっただろう。
警戒態勢をとっていた手練れの近衛騎士に阻まれて脚を捕まれた。床にたたきつけられるかと思ったら、フワッと抱っこされた。
姫に対する態度としては悪くない。父上は見習って欲しい。その顔面が憎々しげに歪んでいたとしても体面というのはそういうところで保たれていくのです。わかりましたか?
「ヘーゼル様のお怒りはごもっともなのですが、どうか、この国のためです……。お願いいたします」
舌打ちしながらも国を守ろうとする近衛は立派だ。あとで顔面が正直だった分は殴ってやる。
「脚を縛っておくべきだった。しまったな」
後悔するところ圧倒的に違うんですけど。流石に手を縛られていて筋肉達磨に程近い近衛騎士に拘束されてはどうにもならない。
「地獄に落ちろよこのモガッ」
少し悲しそうな近衛のイケメンに口を塞がれて罵声は手袋の中に阻まれた。もう少し儚げな王女殿下だったら、騎士として国よりも王女を守ろうか考えたかも、とかどういう意味だ。
そういうわけで、私の嫁入りは強制的に決まったのだった。
活きの良いは王女にかかる修飾じゃありません。主に魚です。
この脅迫状を見せられた時、私はこの文章を書いた奴を〆落とそうと決意した。
金箔が捺されたお洒落な羊皮紙に書かれた文面は山賊からの要求みたいな内容だけれど、隣国であらせられる帝国からの正式な文書である。
もっと角の立たないワードのチョイスあっただろう?
センスに欠ける文書作成者の襟元をぎゅっと引っ張るイメージを絶対ない。できることなら片手で持ち上げてやる。
誰だ。相手国の宰相か? 覚えてろよ。
もっと貴国の美しい王女をいただきたいとか書いておけば王女自身やる気になっただろう。
変にハードルあげてくれるな、と思う可能性もあっただろうけれど、活きの良いはないだろう。その活きの良い王女こと私、ヘーゼル・ド・ヘルシオスは怒っていた。
健康的な亜麻色の髪に日焼けした肌、金の瞳に唇だけが色素の薄い薄桃色。子鹿のような美しい脚、性格故に良く露出されるボディラインは見事で容姿は美しい、と賞されていた。控えめに言って国の宝だろう。私は。
それが、容姿は、という留保はなんだ。少し元気なだけだ。私の礼儀作法の先生がストレスから髪が抜け落ちて箔がついたとしてもだ。まず人の内面を褒めるべきで、容姿だけを褒めるのは良くない。
今日も良い天気だ朝メシを食べようと思ったら侍女とメイドに縛り上げられたのだ。私の護衛騎士も手伝っていた。
おまえ、護衛って言葉知ってる? って話しかけたら、王女って女なんですよ? って返された。
どういう意味だよ。
絶対にいつか闇討ちにする。そう決意したのに廊下の外にでたら騎士団が武装していて、スムーズに父上に謁見室に引き立てられた。これが実の娘にすることかよ。
こうして活きの良い私は父上に罪人並みに後ろ手に縛られながら、そのムカつく羊皮紙を見せられたのだ。
「そういうわけだから、嫁ってこい」
そのいってこいの読み方が許されるなら、嫁ぐとかいてイグになるだろう。なんだその前世の男性向けエロ本みたいな濁音は。そこで私は縛られていない下半身を生かして父に向かって走り込んで脚をあげた。
跳び蹴りって奴だ。
そこで国のために、すまない、とでも言ってくれれば私も慈しみ育ててくれた父であり一国の主である国王陛下に踵落としを試みるようなことはなかっただろう。
警戒態勢をとっていた手練れの近衛騎士に阻まれて脚を捕まれた。床にたたきつけられるかと思ったら、フワッと抱っこされた。
姫に対する態度としては悪くない。父上は見習って欲しい。その顔面が憎々しげに歪んでいたとしても体面というのはそういうところで保たれていくのです。わかりましたか?
「ヘーゼル様のお怒りはごもっともなのですが、どうか、この国のためです……。お願いいたします」
舌打ちしながらも国を守ろうとする近衛は立派だ。あとで顔面が正直だった分は殴ってやる。
「脚を縛っておくべきだった。しまったな」
後悔するところ圧倒的に違うんですけど。流石に手を縛られていて筋肉達磨に程近い近衛騎士に拘束されてはどうにもならない。
「地獄に落ちろよこのモガッ」
少し悲しそうな近衛のイケメンに口を塞がれて罵声は手袋の中に阻まれた。もう少し儚げな王女殿下だったら、騎士として国よりも王女を守ろうか考えたかも、とかどういう意味だ。
そういうわけで、私の嫁入りは強制的に決まったのだった。
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