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ドナられたんだけど
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宰相っぽい容姿に妙にムカついて髭を毟ったことのある宰相が嬉しそうにスッとでてきて言うにはこうだ。
帝国は美と愛の神を崇拝する国。その価値観に基づいて長らく閉鎖的な皇室を維持していたが、どうも身体の弱い皇族が増えてきてしまった。ここらで新しい血をいれよう。
都合の良い神の加護を持っている王族がいい。おや、いつでもひねり潰せそうな隣国があるではないか。さらに、お誂え向きの神を崇拝しており、そこには年頃の王女がいて珍しいことに神の寵児らしい。よし、嫁にしよう。
わかりやすく噛み砕かれて幼児でもわかるように頭の良さそうな宰相は頭の悪い帝国の話をし始めた。
疲れる。美と愛の国はわかったけれど、少し知の国と仲良くなるべきだ。人の価値にこれといった決め手はないが、頭の悪さや性格の悪さで簡単に失われるんだぞ。
しかし、私にもよくわかった。帝国の嫁としては、私は適任だということが。
私の転生先の世界で住んでいる国は健康の国。
王政なので健康王国という。
糞ダセェ……。今も国名を聞くだけで強い虚脱感と微かな怒りを感じる。
とにかく風呂がありそうだ。
これでも切実な層の根強い人気から建国以来斃れていないため、大陸で最も歴史がある。要するに、入国するだけで寿命が延びる、と、主に己の肉体に限界感じている老人に人気の国だ。
そして、私は健康の神の寵児。産まれてこの方風邪の一つもひいたことがない神がかった健康優良児だったし、実際に神の手によるものだ。
あ、私は現代日本からの転生者だ。トラック仕事したチートきた神の寵愛きた、と思ったら、健康の神の寵児だった。
またの名を、健康の乙女。
あまりの二つ名のダサさにグレ気味の私は健康であることへの限界を乳児の砌より試していた。
不死ではないが、とにかく死なない。強い。
筋力にこれといった特徴はないのだが、転生者として幼少の頃より健康であることへの挑戦をしていたら高い身体能力を得ることができた。
しかし、健康の国は健康であることに全力でとてつもなく平和だ。平和すぎるので自分の国の騎士をどつくぐらいしか己を試す方法がなかった。おかげで騎士団から蛇蝎の如く嫌われている。
いいじゃん。戦闘訓練だと思ってよ。
国家的事業としてドナドナされた私は拘束具をつけられたまま移送された。仮にも一国の王女の輿入れに荷馬車を使うとはどういうことだ。頑丈そうな荷馬車の床に人質のように転がされた私はゴムタイヤではない車輪の振動を感じてムカついていた。
愛とか恋とかに反射的に鳥肌がたつ身で本能的に美と愛の国への嫌悪感がすごいことに気がついたのは国境に近づいてからだ。
私はスポーツ的な爽やかさを求めていたんだ。それが、耽美な空間に放り込まれたらどうなる。精神が崩壊しそうだ。健康の神の寵児として備わっている第六感が隣国はやばいやつだと告げていた。
今更過ぎるだろう。
猿ぐつわを噛まされて十日であることも影響しているかもしれない。なんと神の加護で食べなくても健康に全く問題のない私は美と愛の国との国境を越えたところで精神だけ崩壊した。
「鳥肌がすごい、助けて欲しい」
もうこの空気が性に合わない。シクシク泣く私に構うことなくドナる輿入れの隊列は、美と愛の国からの迎えと落ち合ったようだ。馬車の外が騒がしいと思ったら荷馬車のドアが開き、私は異常値を感じて理解した。
「どういうことだ」
あまりの美声に鼓膜が悦んでいる、なんて思いつくと同時に美しすぎる時空に死んだ。
美の国のトップと即座にわかった。なぜなら目が潰れたから。
きっと私は白眼を剥いて泡を吹いていただろう。紛れもない、てんかんの症状だ。
これが、私の夫となる神聖ヴュータンズ帝国皇帝ビザテリオス様との出会いだった。
帝国は美と愛の神を崇拝する国。その価値観に基づいて長らく閉鎖的な皇室を維持していたが、どうも身体の弱い皇族が増えてきてしまった。ここらで新しい血をいれよう。
都合の良い神の加護を持っている王族がいい。おや、いつでもひねり潰せそうな隣国があるではないか。さらに、お誂え向きの神を崇拝しており、そこには年頃の王女がいて珍しいことに神の寵児らしい。よし、嫁にしよう。
わかりやすく噛み砕かれて幼児でもわかるように頭の良さそうな宰相は頭の悪い帝国の話をし始めた。
疲れる。美と愛の国はわかったけれど、少し知の国と仲良くなるべきだ。人の価値にこれといった決め手はないが、頭の悪さや性格の悪さで簡単に失われるんだぞ。
しかし、私にもよくわかった。帝国の嫁としては、私は適任だということが。
私の転生先の世界で住んでいる国は健康の国。
王政なので健康王国という。
糞ダセェ……。今も国名を聞くだけで強い虚脱感と微かな怒りを感じる。
とにかく風呂がありそうだ。
これでも切実な層の根強い人気から建国以来斃れていないため、大陸で最も歴史がある。要するに、入国するだけで寿命が延びる、と、主に己の肉体に限界感じている老人に人気の国だ。
そして、私は健康の神の寵児。産まれてこの方風邪の一つもひいたことがない神がかった健康優良児だったし、実際に神の手によるものだ。
あ、私は現代日本からの転生者だ。トラック仕事したチートきた神の寵愛きた、と思ったら、健康の神の寵児だった。
またの名を、健康の乙女。
あまりの二つ名のダサさにグレ気味の私は健康であることへの限界を乳児の砌より試していた。
不死ではないが、とにかく死なない。強い。
筋力にこれといった特徴はないのだが、転生者として幼少の頃より健康であることへの挑戦をしていたら高い身体能力を得ることができた。
しかし、健康の国は健康であることに全力でとてつもなく平和だ。平和すぎるので自分の国の騎士をどつくぐらいしか己を試す方法がなかった。おかげで騎士団から蛇蝎の如く嫌われている。
いいじゃん。戦闘訓練だと思ってよ。
国家的事業としてドナドナされた私は拘束具をつけられたまま移送された。仮にも一国の王女の輿入れに荷馬車を使うとはどういうことだ。頑丈そうな荷馬車の床に人質のように転がされた私はゴムタイヤではない車輪の振動を感じてムカついていた。
愛とか恋とかに反射的に鳥肌がたつ身で本能的に美と愛の国への嫌悪感がすごいことに気がついたのは国境に近づいてからだ。
私はスポーツ的な爽やかさを求めていたんだ。それが、耽美な空間に放り込まれたらどうなる。精神が崩壊しそうだ。健康の神の寵児として備わっている第六感が隣国はやばいやつだと告げていた。
今更過ぎるだろう。
猿ぐつわを噛まされて十日であることも影響しているかもしれない。なんと神の加護で食べなくても健康に全く問題のない私は美と愛の国との国境を越えたところで精神だけ崩壊した。
「鳥肌がすごい、助けて欲しい」
もうこの空気が性に合わない。シクシク泣く私に構うことなくドナる輿入れの隊列は、美と愛の国からの迎えと落ち合ったようだ。馬車の外が騒がしいと思ったら荷馬車のドアが開き、私は異常値を感じて理解した。
「どういうことだ」
あまりの美声に鼓膜が悦んでいる、なんて思いつくと同時に美しすぎる時空に死んだ。
美の国のトップと即座にわかった。なぜなら目が潰れたから。
きっと私は白眼を剥いて泡を吹いていただろう。紛れもない、てんかんの症状だ。
これが、私の夫となる神聖ヴュータンズ帝国皇帝ビザテリオス様との出会いだった。
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