錆びた指先。~大人なあんたとガキの俺の二重奏~

かたらぎヨシノリ

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崖っぷち、あるいは悪足掻きする大人とガキ。

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 俺と奈義が出会ったのは四年前。
 そして、俺があの人の音楽を知るのもその頃だ。

 真夏の享楽街はまだまだ煩くてネオンの海がぎらつく中、クラゲみたいにふらつく俺は小汚ないアーケードの片隅で行く宛もなく座り込んでいた。学校中退してから親の財布から金をくすねては夜の街に消えて行く俺に愛想つかした親が俺を勘当したから。
 別に家や家族なんてないに等しかったから今更帰る場所がなくなったってかまやしなかった。
 うだるような夏の熱はまだ夜の空気を燻らせていて、じっとしていても汗が流れる。くらくら。ぬるい風呂に頭まで浸かっているような。

 それは逃げ。

 俺は逃げて。
 俺を幾重にも取り巻く不快なヴェールから。
 逃げて逃げて。

 それでも埋め合わせられない底なしの穴に足をすくわれて酒にタバコに女に男にまで手を出した。
 もうなにもかもどうでもよくなってぼろぼろの布切れみたいになって救いようのない俺に降って来たのがあの人の音楽だった。

 ────土屋真幸つちやまさゆき

 その頃、音楽なんかとは全然縁がなかった俺でも、あの人の名前は知っていた。
 ベーシストで音楽プロデューサーで、兄弟で音楽をやって、有名人に楽曲を提供したりして、手掛けたアーティストは必ずヒットさせる音楽屋。
 俺は生まれて十八年にしてあの人と出会った。あの人は俺とたった八つ年上なだけで、俺の手が絶対に届かないはるか高みにいた。

 あの人はベースで歌う。語る。投げ掛ける。
 切り付ける。
 屑な俺に。
 余裕で笑って。

 それは俺が勝手に救われていたにすぎない。そうだ。それは生ではなく、アーケードから見えるファッションビルの巨大テレビジョン向こうの「あっち」のあの人だったから。
 それはあの人が弟と新人のヴォーカリストをひきつれて颯爽と輝かしいステージの上、駆け上がる少し前のことだった。
 たかが三十秒の新作ウォークマンのコマーシャルだ。なのに、俺は、あの人を知ってしまった。
 見上げた空に思いがけず星を見つけた気がした。
 
 俺はあの人がいなくなったテレビジョンを見つめていた。巨大な画面はすぐに別なコマーシャルを流していて、さっきの奇跡のような三十秒なんてもう過去にされていた。
 気がつくと俺のそばにもう一人、なにか黒いケースを肩から下げてぼんやりと突っ立っているやつがいた。
 無精すぎる無精髭の濃い、頬のこけた男。
 そいつは静かに頬を濡らし、俺に気付く。

 それが、俺と垂水奈義たるみなぎとの出会いだった。

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