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覚めぬ夢、
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「……菅元、俺たちのスケジュールってどうなったの?」
「え、あ……。鳴海ちゃんが過労で倒れてることにしてあるから、今週一杯はお仕事キャンセルになってるよ」
「────社長。今回のこと、公にはしなかったんですか」
「ええ。だって、出来るわけがないでしょ? 喧嘩して、殺人未遂なんて――ゴシップ記事を書く記者を喜ばせるようなネタなんかほいほいあげてられますか」
そういう社長の気遣いに俺はきっと今まで何度も助けられて来たんだろう。この件を揉み消すだけの力は、多分うちの事務所だけのものじゃないはずだ。
「土屋真幸……ですか?」
「え!」
「そう、だよね。彼が二年の空白の後に本格的に活動再開させる仕事相手が不祥事起こしたら、むこうに取っても迷惑な話だし」
「な、鳴海ちゃん……っ、なに言ってるのぉ。土屋先生は、」
「――そうよ」
「社長!!」
菅元が社長を宥めようと立ち上がる。けれど、社長は菅元と入れ替わるように椅子に腰を下ろし、俺の目をじっと見据えた。
「あの日、私と菅元は土屋先生を接待していたわ。これから一緒に仕事をするんだもの、本当は鳴海にも奈義にも参加して欲しかった。でも、奈義は昔の因縁があったし、鳴海は昼間土屋先生とぶつかったし、誘わなかったの。それで、夜……奈義から電話があったとき、土屋先生もいたのよ」
一人だけ下戸で酒を飲んでいなかった土屋真幸が車を出して奈義と俺のアパートに向かったという。ぐったりした俺をタオルケットに包んで、奈義が抱き抱えて車に乗り、土屋真幸の運転でこの病院に運ばれたらしい。
「……奈義くんも、そうとう顔色悪かったのに、鳴海ちゃんに、もうすぐ着くから頑張れ、ってずっと言ってたんだよ……」
菅元が鼻をすする。俺はいたたまれずに、視線を落とした。
「この病院は、土屋先生の知り合いの方もいるらしくて、プライバシーも守ってくれるし、腕のいい医者もいるって、土屋先生が紹介してくれたのよ。本当に……先生にはお世話になりっぱなしだわ」
ギュッと俺の手を握り、社長が子どもに言い聞かせる母親のような顔をする。
「鳴海。今、結論を出せとは言わない。でも、どちらにしても土屋先生はあんたとの仕事を熱望してるから、これ以上、引き延ばすわけにはいかなくなってるの。あんたがいくら先生を嫌っても、ね」
「俺は別に土屋真幸が嫌いなわけじゃない。……苦手なだけだ」
「それでも、先生はあんたと――あの子を、重ねてるから……」
そこまで話して、社長は何かから逃れるように立ち上がり、頭を振った。
「――社長、あの子って」
「……気にしないでちょうだい。菅元! 先生も心配なさってたから、鳴海が起きたって連絡して。それから、奈義にも」
「は、はぁい! 土屋先生と奈義くんに連絡ですね、今すぐ!」
────あの子を重ねてるから。
社長はさっきの失言をなかったことにしようとしている。ばたばたと部屋を出て行く菅元の後ろ姿を見送りながら、俺はなんだか少しわかってきたような気がした。
「社長……」
「今週一杯はジゼルの活動は休みだから。今のうちにしっから体を休めておくことね。休みが明けたら、忙しくなるわよ」
「―――アリタユズル」
「!!?」
俺の口から彼の名前が出たことが信じられないというように、社長は目を丸くした。
「奈義が、あの日言ったんだ。土屋真幸はアリタユズルを壊した、って」
「――そう。なら、これ以上隠すのも……鳴海のためにはならないわね。そうよ。土屋先生は、あんたと有田謙を重ねてる。だから、あっちから仕事の話を持ち込んで来たのよ」
「有田、謙って、誰なの」
「……二年前まで、土屋兄弟と一緒に組んでいた子よ。HELL BLANDのヴォーカルだった」
どくん、と心臓が跳ねた。
――なんでコピーで満足してんの、お前。
いつかの奈義のことを思い出す。
(────もしかしたら)
血の気が引いていく。吐き気を堪えながら、俺は社長の話を聞いていた。
(奈義、もしかしたら俺って……あんたにとんでもなく酷いことをしてきてたんじゃないのか?)
それでも本当のところを俺たちは避けて、避けて、触れないできてしまった。
「え、あ……。鳴海ちゃんが過労で倒れてることにしてあるから、今週一杯はお仕事キャンセルになってるよ」
「────社長。今回のこと、公にはしなかったんですか」
「ええ。だって、出来るわけがないでしょ? 喧嘩して、殺人未遂なんて――ゴシップ記事を書く記者を喜ばせるようなネタなんかほいほいあげてられますか」
そういう社長の気遣いに俺はきっと今まで何度も助けられて来たんだろう。この件を揉み消すだけの力は、多分うちの事務所だけのものじゃないはずだ。
「土屋真幸……ですか?」
「え!」
「そう、だよね。彼が二年の空白の後に本格的に活動再開させる仕事相手が不祥事起こしたら、むこうに取っても迷惑な話だし」
「な、鳴海ちゃん……っ、なに言ってるのぉ。土屋先生は、」
「――そうよ」
「社長!!」
菅元が社長を宥めようと立ち上がる。けれど、社長は菅元と入れ替わるように椅子に腰を下ろし、俺の目をじっと見据えた。
「あの日、私と菅元は土屋先生を接待していたわ。これから一緒に仕事をするんだもの、本当は鳴海にも奈義にも参加して欲しかった。でも、奈義は昔の因縁があったし、鳴海は昼間土屋先生とぶつかったし、誘わなかったの。それで、夜……奈義から電話があったとき、土屋先生もいたのよ」
一人だけ下戸で酒を飲んでいなかった土屋真幸が車を出して奈義と俺のアパートに向かったという。ぐったりした俺をタオルケットに包んで、奈義が抱き抱えて車に乗り、土屋真幸の運転でこの病院に運ばれたらしい。
「……奈義くんも、そうとう顔色悪かったのに、鳴海ちゃんに、もうすぐ着くから頑張れ、ってずっと言ってたんだよ……」
菅元が鼻をすする。俺はいたたまれずに、視線を落とした。
「この病院は、土屋先生の知り合いの方もいるらしくて、プライバシーも守ってくれるし、腕のいい医者もいるって、土屋先生が紹介してくれたのよ。本当に……先生にはお世話になりっぱなしだわ」
ギュッと俺の手を握り、社長が子どもに言い聞かせる母親のような顔をする。
「鳴海。今、結論を出せとは言わない。でも、どちらにしても土屋先生はあんたとの仕事を熱望してるから、これ以上、引き延ばすわけにはいかなくなってるの。あんたがいくら先生を嫌っても、ね」
「俺は別に土屋真幸が嫌いなわけじゃない。……苦手なだけだ」
「それでも、先生はあんたと――あの子を、重ねてるから……」
そこまで話して、社長は何かから逃れるように立ち上がり、頭を振った。
「――社長、あの子って」
「……気にしないでちょうだい。菅元! 先生も心配なさってたから、鳴海が起きたって連絡して。それから、奈義にも」
「は、はぁい! 土屋先生と奈義くんに連絡ですね、今すぐ!」
────あの子を重ねてるから。
社長はさっきの失言をなかったことにしようとしている。ばたばたと部屋を出て行く菅元の後ろ姿を見送りながら、俺はなんだか少しわかってきたような気がした。
「社長……」
「今週一杯はジゼルの活動は休みだから。今のうちにしっから体を休めておくことね。休みが明けたら、忙しくなるわよ」
「―――アリタユズル」
「!!?」
俺の口から彼の名前が出たことが信じられないというように、社長は目を丸くした。
「奈義が、あの日言ったんだ。土屋真幸はアリタユズルを壊した、って」
「――そう。なら、これ以上隠すのも……鳴海のためにはならないわね。そうよ。土屋先生は、あんたと有田謙を重ねてる。だから、あっちから仕事の話を持ち込んで来たのよ」
「有田、謙って、誰なの」
「……二年前まで、土屋兄弟と一緒に組んでいた子よ。HELL BLANDのヴォーカルだった」
どくん、と心臓が跳ねた。
――なんでコピーで満足してんの、お前。
いつかの奈義のことを思い出す。
(────もしかしたら)
血の気が引いていく。吐き気を堪えながら、俺は社長の話を聞いていた。
(奈義、もしかしたら俺って……あんたにとんでもなく酷いことをしてきてたんじゃないのか?)
それでも本当のところを俺たちは避けて、避けて、触れないできてしまった。
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