交際0日の略奪婚~エリート営業マンは傷心の幼馴染を逃さない~

水瀬 立乃

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本編

第8話

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翌日、俺は捺月に付き添って自宅近くの交番に行き被害届を提出した。
それから毎日退社時間を合わせて彼女を自宅まで送り届けた。
だから当然帰り時間も遅くなるわけで、俺はその理由を仕事が忙しくなってきたからだということにした。

「水城は自分の仕事以外にも任されることたくさんあるだろうから大変だよね。私のことは気にしなくていいから、ご飯もお外で食べてきてね。あんまり遅い時間に食べると体によくないから…」

希未の気遣いが嬉しいのと同時に嘘を吐いていることが心苦しくて、俺は表情を誤魔化すために抱きしめた。
捺月がストーカー被害に遭っていることを話せないから仕方ないとはいえ、俺を信じようとしてくれている希未に些細なことでも騙している事実が後ろ暗い。

「好き…希未。晩ご飯はお前の顔を見て食べたいから、帰って食べるよ」
「…先に寝ているかも知れないよ?」
「それでもいいよ。お前がいる家で食べたいんだ」

ちゅっと耳にキスをすると、希未は恥ずかしがって真っ赤になった。
心臓が凄くドキドキしている。
希未が家で帰りを待っていてくれるだけでも十二分に幸せだけど、俺はできれば今までのように2人でキッチンに立ってご飯を作りたい。
作った食事を同じテーブルで一緒に食べて、今日あったことを話して、食後はお揃いのカップでコーヒーを飲みながらテレビを見て笑う。
特別なことは何もないけど、俺にとっては希未と2人で過ごす時間は何にも代えがたい大切なものだ。
早いところ捺月の件を解決して、家にまっすぐ帰れるようにしよう。

そう決意したばかりだというのに、事件は解決しないまま一ヶ月が過ぎた。
捺月が付け回されているのは本当のようで、最寄りの駅から家までの間に不審な気配を何度か感じたから間違いはない。
警察も周辺を頻繁に巡回してくれるようになって解決は近いような気もしていたのだが、事態は悪い方に転がった。
今度は郵便受けに悪戯をされて、届いていた郵便物が開封された状態で入っていた。
中も探られたような状態だったという。

「昨日の今日で怖いの…。お願い、今夜だけでいいから泊まってくれない?」

目に涙を浮かべて懇願してくる捺月を突き放すことができなくて、困った時の癖で頭を掻いた。
彼女のマンションの前で悩みに悩んだ末に、俺は「今日だけな…」と返事をしていた。
それは捺月に同情したからではなく、家の前で香山に待ち伏せされて恐ろしい思いをした希未のことを無意識のうちに彼女に投影していたからだった。
自覚があったなら絶対に家に上がることはしなかった。
これは浮気も同然だ。
希未にもし知られたら、同じ部屋にいただけで何もなかったと言っても説得しきれる気がしない。
万が一わかっても「絶対に過ちはなかった」と自信を持って言えるようにしたくて、俺は頑なに玄関から先へは行かなかった。
床に座り込んで動かない俺をリビングへ招き入れることを諦めた捺月は、ブランケットを一枚持ってきて中に引っ込んだ。

〈ごめん。トラブルがあって今日は会社に泊まる〉

そうして俺は、希未にまた嘘を重ねた。


週末は仕事が休みだから捺月に時間を取られることもなく希未と一緒に過ごせるのに、一週間の疲労が出て家でだらけてばかりいた。
さすがの俺も国原に愚痴をこぼしたくなったが、被害に遭っている捺月に俺がサポートを止めたいと思っていることが伝わると思うと罰が悪くて言えなかった。
そんな不満は顔色にも表れて、希未に余計な心配をさせてしまった。

「すごく疲れた顔してるよ。今日は出かけるの止めよう?」
「いや、大丈夫だよ。いつまでもシングルに2人で寝てたら希未も落ち着かないだろ。ベッド買いに行こう」
「うん…」

ソファでだらだらしていたらあっという間に15時を過ぎてしまった。
気合を入れて起き上がって、俺の顔を覗き込んでいた希未の頭をよしよしする。
不安げな顔をさせているのが申し訳なくて、俺も彼女の体温に慰められたくて腕に抱きしめた。
柔らかい髪に頬ずりして、頭のてっぺんに何度もキスをする。
下から恥ずかしそうな抗議の声が上がったが、無視してぎゅっと抱き込んだ。
今日車で1時間近く走ったところの大型家具店に行くことは、数日前から希未と相談して決めていた。
一週間ぶりに車を出して希未とドライブする。
音楽を聴きながら景色を眺める彼女が楽しそうな顔をしてくれるから、俺も自然と笑顔になった。

ベッドの種類は意外とたくさんあって、2人であれこれ悩んだ。
希未は慎ましくセミダブルでも十分だと主張していたが、結局反対を押し切って収納付きのクイーンサイズベッドに決めた。
「大は小を兼ねるって言うだろ?」と冗談めかして笑うと、彼女は困ったように眉を下げながらも微笑んで頷いてくれた。
希未は倹約家なのか物欲がないのか、あまり自分から新しい物を買いたがらない。
家具もそうだが洋服も靴もあるもので足りているからと言って、ショッピングモール内で洋服店の前を通っても立ち止まりもしない。
大学時代に国原と捺月と3人でよく買い物に行ったりもしたが、その時捺月は目移りするようにいろんな店に立ち寄っていたように思う。
女性の買い物は長いという教訓は彼女に教わった。
だから希未も例に漏れずそうだと思っていたから最初は俺の方が戸惑った。
『遠慮しているのか?』と聞いてみると、彼女は不思議そうな顔で首を振った。

『欲しいものがないだけだよ』
『でもこういうところに来たら色々見たくなるものじゃないか?服とか、アクセサリーとか…』
『見ていて可愛いなとは思うけど、必要じゃないから買わないよ』
『買わなくても見て楽しんだりしないのか?ウィンドーショッピングって言うだろ』
『水城はそうするの?私よりずっと女の子っぽいね』

追及していったら変な誤解をされてくすくす笑われてしまった。
すぐに『違う』と反論したが『水城も私に遠慮しなくていいんだよ。寄りたいところがあったら言ってね』と笑顔で言われてしまって言葉が続かなかった。
その時の悪戯っ子な希未の顔がもの凄く可愛かったから。

ベッドの支払いと配送手続きを終えると、一通り店内を見て回ってから車に戻った。
スマホを確認すると一件通知が来ていたのでメッセージを開く。
着信は国原からで、数分前に送られてきていた。

〈いま久々に埠頭まで来てる。クロダイ釣れた〉

魚の写真も一緒に送られてきている。
国原は釣り好きで、学生時代はよく一緒に海釣りに行ったし社会人になってからも誘われれば時々付き合っていた。
俺はあることを思いついて、国原に返信した。

〈結構大きいの釣れたな。俺はいま家具屋に来てる。折角だから晩ご飯一緒に食べないか?〉
〈彼女と一緒なんだろ。俺はいいよ。仲良く二人で食べて帰りな〉
〈こういう機会でもないと会わないだろ。希未に俺の友達を紹介したいし。一度だけでいいから〉
〈わかったよ。会おう。店どこにする?〉

国原から了承の返事がきてほっとした。
捺月は希未のことを知っているけど、国原には写真を見せたこともない。
一番の友達に希未を紹介したくてこれまでも何度か提案したけど、何故か「いいよ」と言われて断られていた。
今日もダメかと思ったけど、会おうと言ってもらえて嬉しい。
前に3人で飲んだ時に希未のことを誤解しているような感じがしたし、これをきっかけに良い方に印象が変わることを願った。

「ごめん、希未。寄りたいとこができたんだけどいい?」

スマホに文字を打ち込みながら尋ねる。
返事がないので助手席の方を見てみると、彼女も自分のスマホの画面をじっと見ていた。
もう一度「希未?」と呼びかけると、やっと声に気付いた様子でぱっと顔を上げて俺を見た。

「どうかしたか?」
「ううん、なんでもない…。いま何か言った?ごめんね、ぼうっとしてて…」
「会わせたい人がいるんだ」
「…会わせたいひと…?」
「うん。俺の大学からの友達で、国原貴士って言うんだけど」
「この前ホテルで結婚式を挙げたひとだよね」
「そう。お前を紹介したいって言ったら、いいよって。これから一緒に食事しても構わないか?」
「それは構わないけど…」
「よかった!ここから1時間くらいかかるから、すぐ向かうな」

困った顔をする希未の肩を抱き寄せて額にキスをする。
すると彼女はきょろきょろと周囲に視線を走らせて、人影がないことを確認すると咎めるような視線で見上げてきた。

「お家じゃないんだよ…?」
「誰も見てなかっただろ?」
「もう…恥ずかしいから外でするのはやめて」
「わかったよ」

言いながら彼女の右手を取り上げて指先に口付けると、白い頬がサッと朱に染まった。
その反応が可愛くて抱きしめたい衝動に駆られたが、これ以上すると嫌われてしまいそうなので諦める。

(家に帰るまでおあずけか…)

心の中で呟きながら、俺は車を発進させた。

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