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本編
希未・第2話
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埃だらけの一軒家を一人で掃除するのは思っていた以上に重労働で時間がかかってしまった。
でも早く水城のマンションを出たい一心で頑張っていたら、なんとか住める程度には片付けることができた。
就職活動も数社と面接するところまで進んだ。
水城は私に家にいて欲しそうだったから、仕事を探していることも黙っていた。
必要な書類は全部実家で準備した。
面接をする会社の1つが少し遠くて、約束の時間も18時だったから水城にばれてしまわないかとドキドキしていたけど、運よく出張へ行くことになってほっとした。
万が一早く帰ってきて私がいなかったらきっと怪しまれてしまうと思ったから。
水城は前に言っていたとおりたった一度を除いてはどんなに遅くなっても家に帰って来た。
彼は冷蔵庫に入れておいた夕食を自分で温めて食べ、どんな料理でもにこにこと嬉しそうに食べてくれる。
それはとても嬉しくて幸せなんだけど、どうして捺月さんと食べないんだろう?
毎日仕事帰りに捺月さんの家に寄っているなら一緒に食べて来ればいいのに。
(これじゃあ二股だよ…。水城の考えていることがわからない…)
彼女との関係を知ってしまったら、好きと言われてもキスをされても喜べなくなってしまった。
こんなどっちつかずのことをされても水城への気持ちは変わらないから、嬉しくないわけではないけど複雑だった。
(もしかしたら捺月さんも同じ気持ちなのかも)
水城が恋愛的に好きなのは捺月さんだけだし、2人のために早く仕事を決めて出ていこう。
きっと彼も心のどこかでそれを望んでいるはず。
コアラが木の幹に抱きつくような格好で眠る水城の呼吸を背中に感じながら、私は決意を固めていた。
1社目の面接を終えて帰る途中、間の悪いことに駅の近くで国原さんとすれ違った。
知らないふりをできたならよかったけど、目が合ってしまって彼も私に気が付いたからそういうわけにもいかない。
軽く会釈をして別れようと思っていたら、何故かお茶に誘われてしまった。
また別れるように言われるのだろうかと思うと気が重くなる。
彼に忠告されなくても私はもう水城の求婚を断ろうと決めているし、そもそも私達は付き合っているわけじゃない。
もしその話題になったらそのつもりだと言って話を切り上げればいいかと考えて、彼の誘いに乗った。
だけど話をしているうちに彼の態度が軟化して、意外にも励まされてしまった。
国原さんは水城も捺月さんと復縁したがっていることを知らないようだったから勘違いしているのだろう。
(水城が本気で私を好きだなんて、ありえないのに…)
それを証明するように、捺月さんから〈今日から5日間水城と一緒〉というメッセージと写真が届いていた。
それから2日後にはもう1社の面接を受けた。
一度実家に寄ってスーツから普段着に着替え、水城のマンションに戻る途中で怪しい男性に待ち伏せをされた。
その男はマスクをして帽子をかぶり、顔は見えなかったけど声の感じから若い男の子のように感じた。
彼は突然襲い掛かってきて、私の首を絞めた。
「死にたくなかったら男と縁を切れ」
そう言って脅してくる彼の目は残忍に笑っていて、身が竦み上がる程に恐ろしかった。
得体の知れないものに自由を奪われる恐怖から香山君のことがフラッシュバックして、パニック発作を起こしてしまった。
様子がおかしいことに気付いたその人は逃げていったけど、私は苦しくてこのまま死んでしまうんじゃないかと思った。
道路にしゃがみこんで必死に呼吸を整えた。
やっとの思いで心を落ち着けて空を見上げたら、綺麗な夕焼け色がそこにあった。
(誰…どうして…)
いったい彼は何者だったんだろう。
もしかしたら私の知らないところで付け回されているのかも知れない。
安全だと思っていたマンションの周辺に危険が潜んでいると思うと、怖くて仕方がなかった。
水城に傍にいて欲しかったけど出張中でいないし、電話をかけるのも仕事中だから迷惑になると思うとできなかった。
寝る前には彼から電話をくれるからそれまで待とうと思って待っていたけど、今夜はこなかった。
(水城から連絡がないことがこんなに落ち着かないなんて…まるで依存しているみたい)
無意識のうちに水城にまた助けてもらえると思っていることに気が付いた私は恐くなった。
これからまた一人で暮らしていくのだから、心細くなることがあっても一人で解決していかなくてはいけない。
(都合のいい時だけ水城に頼って…嫌な女)
その夜はなかなか寝付けずベッドの隅に座って眠気を待っていると、日付が変わった頃にスマホが震えた。
通知を確認してみると捺月さんからだった。
一瞬でも水城かと思って心が躍ったことに自己嫌悪する。
出張へ行った日から彼女からの連絡は頻繁になっていて、時間構わずメッセージが届いていた。
彼女が水城と一緒に食事をしている時の写真や、廊下を歩く水城の背中の写真が送られてきていた。
でも今日はそれだけじゃなくて、私はスマホを手に戦慄した。
〈私達もう一度やり直すことになったの〉
〈久しぶりだったから何度もしちゃった♡〉
〈もう邪魔しないでね〉
そんなメッセージと共に送られてきた画像を目にした瞬間、胸が潰れそうになった。
水城の寝顔やはだけた体。
男女が裸になってベッドで絡み合っている肢体。
水城の胸にしなだれている捺月さんの顔。
行為をしている最中を思わせる卑猥な写真。
それが全部香山君に盗撮されたものとだぶって見えて、気が付いたら抱きしめていた枕で何度も頭を打ち付けていた。
脳裏にこびりついている記憶を消し去りたくて、でも消せなくて、衝動的に自分を傷つけたくなったけどできなかった。
家の中を歩き回りながら泣いて、泣いて、いつの間にか床に蹲っていた。
(どうして私こんなところにいるんだろう…)
だんだんと空が白んでいくのを見ていくうちに、目が覚めていくような心地がした。
(私にはここ以外に帰れる家がある。水城と結婚しないなら、嫌な記憶も思い出すなら、ここじゃなくてもいい…)
私はすぐに引っ越し業者を依頼して水城のマンションを出た。
一枚の書置きだけを残して。
でも早く水城のマンションを出たい一心で頑張っていたら、なんとか住める程度には片付けることができた。
就職活動も数社と面接するところまで進んだ。
水城は私に家にいて欲しそうだったから、仕事を探していることも黙っていた。
必要な書類は全部実家で準備した。
面接をする会社の1つが少し遠くて、約束の時間も18時だったから水城にばれてしまわないかとドキドキしていたけど、運よく出張へ行くことになってほっとした。
万が一早く帰ってきて私がいなかったらきっと怪しまれてしまうと思ったから。
水城は前に言っていたとおりたった一度を除いてはどんなに遅くなっても家に帰って来た。
彼は冷蔵庫に入れておいた夕食を自分で温めて食べ、どんな料理でもにこにこと嬉しそうに食べてくれる。
それはとても嬉しくて幸せなんだけど、どうして捺月さんと食べないんだろう?
毎日仕事帰りに捺月さんの家に寄っているなら一緒に食べて来ればいいのに。
(これじゃあ二股だよ…。水城の考えていることがわからない…)
彼女との関係を知ってしまったら、好きと言われてもキスをされても喜べなくなってしまった。
こんなどっちつかずのことをされても水城への気持ちは変わらないから、嬉しくないわけではないけど複雑だった。
(もしかしたら捺月さんも同じ気持ちなのかも)
水城が恋愛的に好きなのは捺月さんだけだし、2人のために早く仕事を決めて出ていこう。
きっと彼も心のどこかでそれを望んでいるはず。
コアラが木の幹に抱きつくような格好で眠る水城の呼吸を背中に感じながら、私は決意を固めていた。
1社目の面接を終えて帰る途中、間の悪いことに駅の近くで国原さんとすれ違った。
知らないふりをできたならよかったけど、目が合ってしまって彼も私に気が付いたからそういうわけにもいかない。
軽く会釈をして別れようと思っていたら、何故かお茶に誘われてしまった。
また別れるように言われるのだろうかと思うと気が重くなる。
彼に忠告されなくても私はもう水城の求婚を断ろうと決めているし、そもそも私達は付き合っているわけじゃない。
もしその話題になったらそのつもりだと言って話を切り上げればいいかと考えて、彼の誘いに乗った。
だけど話をしているうちに彼の態度が軟化して、意外にも励まされてしまった。
国原さんは水城も捺月さんと復縁したがっていることを知らないようだったから勘違いしているのだろう。
(水城が本気で私を好きだなんて、ありえないのに…)
それを証明するように、捺月さんから〈今日から5日間水城と一緒〉というメッセージと写真が届いていた。
それから2日後にはもう1社の面接を受けた。
一度実家に寄ってスーツから普段着に着替え、水城のマンションに戻る途中で怪しい男性に待ち伏せをされた。
その男はマスクをして帽子をかぶり、顔は見えなかったけど声の感じから若い男の子のように感じた。
彼は突然襲い掛かってきて、私の首を絞めた。
「死にたくなかったら男と縁を切れ」
そう言って脅してくる彼の目は残忍に笑っていて、身が竦み上がる程に恐ろしかった。
得体の知れないものに自由を奪われる恐怖から香山君のことがフラッシュバックして、パニック発作を起こしてしまった。
様子がおかしいことに気付いたその人は逃げていったけど、私は苦しくてこのまま死んでしまうんじゃないかと思った。
道路にしゃがみこんで必死に呼吸を整えた。
やっとの思いで心を落ち着けて空を見上げたら、綺麗な夕焼け色がそこにあった。
(誰…どうして…)
いったい彼は何者だったんだろう。
もしかしたら私の知らないところで付け回されているのかも知れない。
安全だと思っていたマンションの周辺に危険が潜んでいると思うと、怖くて仕方がなかった。
水城に傍にいて欲しかったけど出張中でいないし、電話をかけるのも仕事中だから迷惑になると思うとできなかった。
寝る前には彼から電話をくれるからそれまで待とうと思って待っていたけど、今夜はこなかった。
(水城から連絡がないことがこんなに落ち着かないなんて…まるで依存しているみたい)
無意識のうちに水城にまた助けてもらえると思っていることに気が付いた私は恐くなった。
これからまた一人で暮らしていくのだから、心細くなることがあっても一人で解決していかなくてはいけない。
(都合のいい時だけ水城に頼って…嫌な女)
その夜はなかなか寝付けずベッドの隅に座って眠気を待っていると、日付が変わった頃にスマホが震えた。
通知を確認してみると捺月さんからだった。
一瞬でも水城かと思って心が躍ったことに自己嫌悪する。
出張へ行った日から彼女からの連絡は頻繁になっていて、時間構わずメッセージが届いていた。
彼女が水城と一緒に食事をしている時の写真や、廊下を歩く水城の背中の写真が送られてきていた。
でも今日はそれだけじゃなくて、私はスマホを手に戦慄した。
〈私達もう一度やり直すことになったの〉
〈久しぶりだったから何度もしちゃった♡〉
〈もう邪魔しないでね〉
そんなメッセージと共に送られてきた画像を目にした瞬間、胸が潰れそうになった。
水城の寝顔やはだけた体。
男女が裸になってベッドで絡み合っている肢体。
水城の胸にしなだれている捺月さんの顔。
行為をしている最中を思わせる卑猥な写真。
それが全部香山君に盗撮されたものとだぶって見えて、気が付いたら抱きしめていた枕で何度も頭を打ち付けていた。
脳裏にこびりついている記憶を消し去りたくて、でも消せなくて、衝動的に自分を傷つけたくなったけどできなかった。
家の中を歩き回りながら泣いて、泣いて、いつの間にか床に蹲っていた。
(どうして私こんなところにいるんだろう…)
だんだんと空が白んでいくのを見ていくうちに、目が覚めていくような心地がした。
(私にはここ以外に帰れる家がある。水城と結婚しないなら、嫌な記憶も思い出すなら、ここじゃなくてもいい…)
私はすぐに引っ越し業者を依頼して水城のマンションを出た。
一枚の書置きだけを残して。
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