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本編
希未・第5話
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「普通付き合ってる男が他の女と結婚するために書いた婚姻届に署名はしないだろ?俺とあいつは本当に何もなかったんだよ」
「どうして…。おかしいよ。捺月さんが書くわけない…。丸め込んで書かせたの?」
「鋭いな。そうだよ」
あっさり肯定した水城に驚くのと同時に怒りが湧いた。
(私に先に結婚したいと言ってしまった手間、取り繕おうとして捺月さんの気持ちを利用したの?私と結婚した後も関係を続けるつもりで?結婚はお互いに一生を添い遂げたくてするものだって言ってたのは水城なのに)
私が眉を吊り上げたことに気付いた水城は、気まずそうな顔をするでもなく目を細めた。
よしよしと可愛がるように私の頭を撫でてくる。
「希未は優しいな…。でも俺はあいつのしたことが許せないんだ。俺も国原も長いこと騙されていた。希未もあいつにあることないこと吹き込まれて傷ついただろ?その償いとして署名させたんだ。『許されたければ俺と希未の結婚を祝福しろ』ってな」
先程までの甘やかな雰囲気はなくなり、憎悪すら感じさせるような口調だった。
胸の中で膨らんでいた怒りの風船が萎んでいくのを感じる。
顔色を窺うように背後を振り返るとまた唇にキスをされてしまった。
今度は今の感情をそのままぶつけるような荒々しいキスだった。
「これで信じてくれたか?俺とあいつが付き合っていたのは過去の話で、今じゃない。友達だと思っていたけど、それも違った。あいつはただの顔見知りだ。これからの人生に何の関わりもない他人だよ」
上を向かされて水城の唇を受け止めながら、彼にそう断言させるほどの"何か"が2人の間にあったのだと察した。
水城がさっき言っていたことを思い起こすと、今までは考えもしなかったある可能性が浮上した。
(もしかしたらあの写真が…彼女の方が嘘だったのかも知れない…)
あの写真はどこか不自然だった。
彼女が水城だと言っていたし、荷物も一緒に映り込んでいたからそうだと思い込んでいたけど…肝心の彼の顔が映っていなかった。
そのことに思い当たった瞬間、私の中で完璧だと思われていた汐崎捺月という存在がぶれて歪んでいく。
お互いに口が塞がっているからか自然と息が上がって、零れた吐息に熱が籠った。
数㎝離れただけの距離から見つめ合った時、泣きたくなるくらい心が震えた。
今まで何度もそうしてきたのに、初めてちゃんと彼自身と目を合わせたような心地がした。
これまでかけてくれた言葉や態度は彼の本心だったのだと、なぜか素直に信じることができた。
「みずき…ごめんね…」
「ようやく信じてもらえそう?」
「水城を信じる…。勘違いだなんて言って…今までほんとうにごめんね…」
「いいよ。俺が悪かったんだ。お前に嘘を吐いてたのは本当だから…」
ぎゅっと抱きしめてくる水城の背中に手を回して、私も彼を抱きしめた。
「ずっと抱きしめたかった…。好きだよ、希未。愛してる」
「私も愛してる…水城。ずっとずっと好きでした…」
「うん…あの頃からお前の気持ち、嬉しかったよ」
胸の中に温かいものが流れ込んできて、涙になって目から溢れた。
これまでの私なら『嬉しかった』と言う彼の気持ちを疑っていたけど、今なら彼の言葉をそのまま受け止められる。
頬ずりしてくる水城に私も同じようにやり返したら、びっくりして固まっていた。
驚いた彼の顔を愛おしいと思っていると、突然椅子から抱き上げられてしまった。
「えっ?!な、なに?どうしたの?」
「今のはお前が悪い。俺の気も知らないで…ずっと我慢してたんだからな」
「なんの話…?」
相変わらず心臓はドクドクしているけど、今までとは違う胸の高鳴りがあった。
これから起こることに何となく察しがついて喜びが溢れてくる。
「わかってるのに聞くのか?俺に言わせたいの?お前の顔を見る度にどんなことをしたいと思ってたのか、事細かく教えてやろうか?」
「い、言わなくていい…っ」
「嫌なときは言って。優しくしたいから」
返事の代わりに水城の首に抱きつくと、彼は私を抱え直して寝室のドアを開けた。
あの日買ったクイーンサイズのベッドは一度も使った形跡がないまま部屋の壁側に鎮座していた。
水城は私をゆっくりシーツに降ろしたけど、口を塞いでくる唇は性急だった。
何度も一緒のベッドで眠ったのに、こんなふうに抱きしめ合うのも肌に触れるのも初めてだった。
「希未。俺、今すごく幸せだ。やっと本当の意味で香山からお前を取り戻せた気がする。ずっとこうしたかったんだ…。これからゆっくり、時間をかけて毎日毎日…俺が上書きするからな。お前が他のことを思い出せないくらい俺でいっぱいにして、毎日毎日…幸せにする」
「みずき…」
「希未…愛してる。俺もお前を幸せにするから、お前も俺を幸せにして。俺が死ぬまで傍にいて。俺も、お前が死ぬまで傍にいる。一生大事にするから…もうどこにも行かないで」
縋りつくように抱きしめてきた水城の頬は濡れていた。
ずくんと胸が痛むのと同時に、果てしない歓喜がわき起こるのを感じた。
昨日まで永遠に叶わないと思っていた望みの1つを水城が叶えてくれた。
私を安心させるために、捺月さんに婚姻届の証人欄に署名させた。
私を独占したくて、あの日から名前を出すのも避けていた香山君に嫉妬めいた言葉を吐き出した。
私に傍にいて欲しくて、涙を流して愛を囁いている。
それは捺月さんの気持ちより、水城のプライドより、私の気持ちを一番に優先してくれた結果だった。
嬉し涙で潤んだ視界で、水城の涙を優しく拭う。
「水城…私、名前書くね。水城を幸せにしたいから。朝ご飯食べたら2人で区役所に行こうね…」
顔をくしゃくしゃにして笑う水城の額にキスを落とす。
私達は抱き合って、想いが繋がった喜びを噛み締め合った。
「どうして…。おかしいよ。捺月さんが書くわけない…。丸め込んで書かせたの?」
「鋭いな。そうだよ」
あっさり肯定した水城に驚くのと同時に怒りが湧いた。
(私に先に結婚したいと言ってしまった手間、取り繕おうとして捺月さんの気持ちを利用したの?私と結婚した後も関係を続けるつもりで?結婚はお互いに一生を添い遂げたくてするものだって言ってたのは水城なのに)
私が眉を吊り上げたことに気付いた水城は、気まずそうな顔をするでもなく目を細めた。
よしよしと可愛がるように私の頭を撫でてくる。
「希未は優しいな…。でも俺はあいつのしたことが許せないんだ。俺も国原も長いこと騙されていた。希未もあいつにあることないこと吹き込まれて傷ついただろ?その償いとして署名させたんだ。『許されたければ俺と希未の結婚を祝福しろ』ってな」
先程までの甘やかな雰囲気はなくなり、憎悪すら感じさせるような口調だった。
胸の中で膨らんでいた怒りの風船が萎んでいくのを感じる。
顔色を窺うように背後を振り返るとまた唇にキスをされてしまった。
今度は今の感情をそのままぶつけるような荒々しいキスだった。
「これで信じてくれたか?俺とあいつが付き合っていたのは過去の話で、今じゃない。友達だと思っていたけど、それも違った。あいつはただの顔見知りだ。これからの人生に何の関わりもない他人だよ」
上を向かされて水城の唇を受け止めながら、彼にそう断言させるほどの"何か"が2人の間にあったのだと察した。
水城がさっき言っていたことを思い起こすと、今までは考えもしなかったある可能性が浮上した。
(もしかしたらあの写真が…彼女の方が嘘だったのかも知れない…)
あの写真はどこか不自然だった。
彼女が水城だと言っていたし、荷物も一緒に映り込んでいたからそうだと思い込んでいたけど…肝心の彼の顔が映っていなかった。
そのことに思い当たった瞬間、私の中で完璧だと思われていた汐崎捺月という存在がぶれて歪んでいく。
お互いに口が塞がっているからか自然と息が上がって、零れた吐息に熱が籠った。
数㎝離れただけの距離から見つめ合った時、泣きたくなるくらい心が震えた。
今まで何度もそうしてきたのに、初めてちゃんと彼自身と目を合わせたような心地がした。
これまでかけてくれた言葉や態度は彼の本心だったのだと、なぜか素直に信じることができた。
「みずき…ごめんね…」
「ようやく信じてもらえそう?」
「水城を信じる…。勘違いだなんて言って…今までほんとうにごめんね…」
「いいよ。俺が悪かったんだ。お前に嘘を吐いてたのは本当だから…」
ぎゅっと抱きしめてくる水城の背中に手を回して、私も彼を抱きしめた。
「ずっと抱きしめたかった…。好きだよ、希未。愛してる」
「私も愛してる…水城。ずっとずっと好きでした…」
「うん…あの頃からお前の気持ち、嬉しかったよ」
胸の中に温かいものが流れ込んできて、涙になって目から溢れた。
これまでの私なら『嬉しかった』と言う彼の気持ちを疑っていたけど、今なら彼の言葉をそのまま受け止められる。
頬ずりしてくる水城に私も同じようにやり返したら、びっくりして固まっていた。
驚いた彼の顔を愛おしいと思っていると、突然椅子から抱き上げられてしまった。
「えっ?!な、なに?どうしたの?」
「今のはお前が悪い。俺の気も知らないで…ずっと我慢してたんだからな」
「なんの話…?」
相変わらず心臓はドクドクしているけど、今までとは違う胸の高鳴りがあった。
これから起こることに何となく察しがついて喜びが溢れてくる。
「わかってるのに聞くのか?俺に言わせたいの?お前の顔を見る度にどんなことをしたいと思ってたのか、事細かく教えてやろうか?」
「い、言わなくていい…っ」
「嫌なときは言って。優しくしたいから」
返事の代わりに水城の首に抱きつくと、彼は私を抱え直して寝室のドアを開けた。
あの日買ったクイーンサイズのベッドは一度も使った形跡がないまま部屋の壁側に鎮座していた。
水城は私をゆっくりシーツに降ろしたけど、口を塞いでくる唇は性急だった。
何度も一緒のベッドで眠ったのに、こんなふうに抱きしめ合うのも肌に触れるのも初めてだった。
「希未。俺、今すごく幸せだ。やっと本当の意味で香山からお前を取り戻せた気がする。ずっとこうしたかったんだ…。これからゆっくり、時間をかけて毎日毎日…俺が上書きするからな。お前が他のことを思い出せないくらい俺でいっぱいにして、毎日毎日…幸せにする」
「みずき…」
「希未…愛してる。俺もお前を幸せにするから、お前も俺を幸せにして。俺が死ぬまで傍にいて。俺も、お前が死ぬまで傍にいる。一生大事にするから…もうどこにも行かないで」
縋りつくように抱きしめてきた水城の頬は濡れていた。
ずくんと胸が痛むのと同時に、果てしない歓喜がわき起こるのを感じた。
昨日まで永遠に叶わないと思っていた望みの1つを水城が叶えてくれた。
私を安心させるために、捺月さんに婚姻届の証人欄に署名させた。
私を独占したくて、あの日から名前を出すのも避けていた香山君に嫉妬めいた言葉を吐き出した。
私に傍にいて欲しくて、涙を流して愛を囁いている。
それは捺月さんの気持ちより、水城のプライドより、私の気持ちを一番に優先してくれた結果だった。
嬉し涙で潤んだ視界で、水城の涙を優しく拭う。
「水城…私、名前書くね。水城を幸せにしたいから。朝ご飯食べたら2人で区役所に行こうね…」
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私達は抱き合って、想いが繋がった喜びを噛み締め合った。
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