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進級試験③(ルフナ視点)
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俺の正面、三人にとっては後方の約500m先に複数の人の気配と足音、頭上には魔物の影がちらついている。
呑気に仲間割れをしている場合ではなくなってきた。
周囲に気を取られている内に隙を突かれ、右の太腿を鋭いレイピアが掠めて血が噴き出る。
傷も痛みもそれほどではないが、流れ出た血の匂いは消せない。
間もなくして上空で身を潜めていた魔物達が餌を求めて一斉に降下してきた。
俺は慌てて鞘から剣を引き抜き、間一髪で顔面に迫る鳥獣の鉤爪を弾いた。
「いい眺めだなァ、農民!そのままオルスバァルの餌食になれ!」
俺が必死に攻防している傍らで、さっきまで憤気をまき散らしていた碧眼の高笑いが聞こえる。
だが俺を襲っていた人食い鳥・オルスバァル達の意識が自分達にも向いたことに気が付くと、一気に余裕を失くして走り出した。
オルスバァルは逃げるものを追う習性があるから、囲まれた時はゆっくりと後退しながら戦うのが基本だ。
「背を向けて走るな!追いかけてくるぞ!」
俺の声は半乱狂になって叫ぶ声と魔物の鳴き声とでかき消されて、三人には届かない。
群がってきていた最後の一匹を斬り捨てて後を追ったが、間に合わなかった。
碧眼を庇って背後から嘴で突かれた銀眼鏡は地面に倒れ伏した。
血塗れの仲間を助けようと立ちはだかった青髪は、胸元を爪で抉られてバランスを崩し、倒れた先にあった木の幹に頭部を強打して昏倒する。
残った碧眼は震えながらも剣を構え、我武者羅に振り回した。
「くそおぉぉっ!!くるな!!くるなあああっ!!!」
不規則な剣の動きは目の前にいるオルスバァル達をその場に留めたが、運の悪いことに彼の背後には別の――鹿のような角を持つ魔物・ハーツハーディが迫っていた。
俺にも聞こえるくらい大きな蹄の音が響いているのだが、碧眼は全く気付いていないようだ。
咄嗟に突進するハーツハーディ目掛けて狩猟用ナイフを投げる。
狙い通り、二本とも前足と胴体の付け根にざっくりと突き刺さった。
鹿角の魔物は前に進む勢いがついた中で関節が動かせず、投げ飛ばされたような形になって背中から倒れた。
「散れ!」
オルスバァルに向かって一喝すれば、仲間の死骸を見て無駄な戦いと悟ったのか大人しく飛び去っていった。
同時に地面にへたり込む碧眼の横を通り過ぎて、四本の足を空に向けてバタつかせている魔物に止めを刺す。
そこへ、さっき感じた複数の気配が到着した。
「ルフナ?!大丈夫か?!」
やってきたのは、セインのいるチームの生徒達だった。
呑気に仲間割れをしている場合ではなくなってきた。
周囲に気を取られている内に隙を突かれ、右の太腿を鋭いレイピアが掠めて血が噴き出る。
傷も痛みもそれほどではないが、流れ出た血の匂いは消せない。
間もなくして上空で身を潜めていた魔物達が餌を求めて一斉に降下してきた。
俺は慌てて鞘から剣を引き抜き、間一髪で顔面に迫る鳥獣の鉤爪を弾いた。
「いい眺めだなァ、農民!そのままオルスバァルの餌食になれ!」
俺が必死に攻防している傍らで、さっきまで憤気をまき散らしていた碧眼の高笑いが聞こえる。
だが俺を襲っていた人食い鳥・オルスバァル達の意識が自分達にも向いたことに気が付くと、一気に余裕を失くして走り出した。
オルスバァルは逃げるものを追う習性があるから、囲まれた時はゆっくりと後退しながら戦うのが基本だ。
「背を向けて走るな!追いかけてくるぞ!」
俺の声は半乱狂になって叫ぶ声と魔物の鳴き声とでかき消されて、三人には届かない。
群がってきていた最後の一匹を斬り捨てて後を追ったが、間に合わなかった。
碧眼を庇って背後から嘴で突かれた銀眼鏡は地面に倒れ伏した。
血塗れの仲間を助けようと立ちはだかった青髪は、胸元を爪で抉られてバランスを崩し、倒れた先にあった木の幹に頭部を強打して昏倒する。
残った碧眼は震えながらも剣を構え、我武者羅に振り回した。
「くそおぉぉっ!!くるな!!くるなあああっ!!!」
不規則な剣の動きは目の前にいるオルスバァル達をその場に留めたが、運の悪いことに彼の背後には別の――鹿のような角を持つ魔物・ハーツハーディが迫っていた。
俺にも聞こえるくらい大きな蹄の音が響いているのだが、碧眼は全く気付いていないようだ。
咄嗟に突進するハーツハーディ目掛けて狩猟用ナイフを投げる。
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「散れ!」
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同時に地面にへたり込む碧眼の横を通り過ぎて、四本の足を空に向けてバタつかせている魔物に止めを刺す。
そこへ、さっき感じた複数の気配が到着した。
「ルフナ?!大丈夫か?!」
やってきたのは、セインのいるチームの生徒達だった。
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