十の加護を持つ元王妃は製菓に勤しむ

水瀬 立乃

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ブライトマン一家

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騎士学校の夏休みが終わり、ルフナも家に帰って来た。
ルフナが家にいる生活に戻って嬉しいけれど、入隊試験の準備で朝も早く帰りも遅いので少し寂しい。
でも軍に入れば、彼は家を出て寮で生活をすることになる。
来年の春には一人暮らしになるのだから、私にとっても良い準備期間かも知れない。
今日もいつも通りに店を開け、閉店時間が近づいて来た頃。
ひと月ぶりにブライトマン様が来店した。
いつもお一人でご来店されるのだけれど、今日はとても綺麗な女性と、彼女によく似た男の子を連れていた。
ブライトマン様とお二人は似ていないから、兄妹というより奥さんと息子さんだろうか。
ご家族の話をしないので独身かと思っていたけれど、こんなに素敵なご家族がいらっしゃったのね。

「いらっしゃいませ、ブライトマン様。今日もありがとうございます。そちらの方は、奥様とご子息でいらっしゃいますか?」

是非紹介していただきたくて微笑みかけると、彼は何故か動揺し始めた。
初めて家族を連れてきたから、照れくさいのだろうか。
はっきりそうだと言えない彼の代わりに、女性がずいと前に出てくる。

「ええ、彼の妻です!初めまして、ホワンの店主さん」
「まあ、やはりそうでしたか。とてもお綺麗で素敵な奥様ですね。お会いできて嬉しいです」
「ありがとう。ここのシフォンとパイがお気に入りで、いつも夫に買ってきてもらっていたの」
「気に入ってくださってとても嬉しいです。いつもご贔屓にしていただいてありがとうございます」
「今日は実際にお店を見てみたくなって、連れてきてもらったのよ。ねえ、あなた?」
「は、ハイ…ソウデス、ネ…」

彼女がにっこり笑いかけると、彼は片言になって返事をした。
はっきり受け答えをする男性の印象があったので意外だったけれど、もしかしたらこれが本来の彼の姿なのかも知れない。
組紐をお渡しした時の反応を思い出してみても、子どものように人懐こくなったり、見てわかるように落ち込んだり。
本当は気が弱くて奥様に頭が上がらないのに、人前ではできる男を一生懸命演じていたのかと思うと、なんだか可愛らしく思えてきた。
堪えきれずに微笑むと、途端に彼は顔色を青くして「ちょっと失礼」と言って二人を店の隅に連れて行き、こそこそと何やら話を始めた。

「ちょっと…!何という嘘をおっしゃるのですかっ!こんなことが知れたら僕は不敬罪で打ち首です!彼女も絶対に誤解しましたよ…ううう」
「もう。こんなことぐらいで泣かないの、情けないわね。あなたを夫役にするなんて、今更初めてじゃないんだから」
「ですが使用人でもよかったはずでしょう…!私の気持ち知っていますよね?!」
「知っているわよ。でもあの方には大きなお子さんがいらっしゃるのでしょう?そうとは見えない、若くて器量良しな方ね。その上、商才も兼ね備えていて。あんな魅力的な女性を手放す男なんていないわよ。あなたじゃ絶対無理。今までの人生をやり直しても無理。諦めなさい」
「手厳しいっ」
「それに、この前あなたに夫役をやらせていると言ったら彼、笑っていたわよ。だから打ち首の心配もないわ」
「な、な…!既にお話しに…?!」
「安心しなよ。今日までこうして生きているだろう?殺すつもりならとっくに殺されてるよ、|ブライトマン(おとうさま)」
「ひぃぃぃ~~!!殿下っ!それは冗談でもお止めください!」
「そうじゃないだろ。息子の名前も忘れたの?『セリウス』だよ、|お父様(・・・)」
「ああぁぁぁ…!セリウス!後生ですから…!」

カウンターから三人の様子を伺っていると、ブライトマン様がどんどん涙目になっている気がする。
花粉症だろうか?
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