十の加護を持つ元王妃は製菓に勤しむ

水瀬 立乃

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巡って来た機会(ディブラン視点)

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その日の夕方、私はエリスの部屋を訪れた。
今日の昼前に妃同士で諍いがあったらしく、彼女が怪我をしたと報告を受けたからだ。
血も流れたと言うからどんな激しい喧嘩をしたんだと思ったが、幸いにも頬が浅く切れた程度だった。
クリスティエラがエリスに平手打ちをして、その時指に嵌めていた指輪の台座が少し掠ったのだという。

「全然大したことのない怪我ですから、わざわざいらっしゃらなくても結構でしたのに」
「それでも怪我は怪我だろう。痕が残らないのはよかったな」
「お心遣いに感謝いたします」
「君のおかげであの聖女を大人しくさせる大義名分ができた」
「それじゃあ…」

隣の席に座っていたセヴェリウスが表情を明るくする。

「今回の件を見過ごす気はない。レティーシアの監督責任不行き届きについても合わせて追及するつもりだ」
「では僕があれを叩きのめしても良いのですね?」
「ああ。お前の好きにやって構わない」

珍しく年相応に目を輝かせている息子の頭を撫でながら、先月ここで聞いた話を思い起こす。
エリスが友達になったという洋菓子店の店主の家でレティーシアの話題になった時、店主の息子がこんなことを言ったらしい。

『王女の振る舞いは聞いた限り正気じゃないけど、その言い分をそのまま叶えてしまえる体制が一番問題なんじゃないのかな。王族の権限がどこまでなのかは知らないけど、王様の娘ってだけでそこまでできるなら、他の王族を何人も味方につけて集団で戦えば勝てるって可能性はないの?』

セヴェリウスにとって彼の意見は目から鱗だったようで、それ以来春から通う貴族学校を改新させることに意欲を燃やしている。
貴族学校に関わらず王族至上主義な体制に問題があることは、学校長も他の者もとっくに気が付いているだろう。
だが下位の者が最上位の王族を罰するようなことになれば、貴族社会の根底が揺らいでしまう。
気が付いていても我が身可愛さに行動を起こさず、10代の小娘に振り回されっ放しの愚か者の多さに呆れる。
レティーシアの抑止力に成り得るセヴェリウスが声を上げれば、恐らく良い方向に進んでいくだろう。
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