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出生の秘密(ルフナ視点)
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家を離れていたこの七日間は、なかなかに濃い日々だった。
アバッサムの森で奇妙な体験をして魔物と戦い、試験を棄権になって窃盗容疑をかけられ、連行された先で母様がこの国の元王妃だったことを知り、国王陛下に挨拶した。
約束どおり母様が過去の話をしてくれたけど、なんとなく予想はついていたから驚きはなかった。
俺はあの人の――国王陛下の息子だったのか。
高貴なお方だからじっくり顔を見るのは憚られたけど、陛下の顔の形とか瞳の色は俺と似ていたような気がする。
それよりもまさか母様が聖女だったとは思わなかった。
貴族の生まれかも知れないと疑ってはいたけど、王妃だったとわかった時は信じられなかった。
血縁上は王弟のグレイル様が母様のことを「姉上」と呼んで慕う姿を見たから納得できたけど、そうじゃなかったら何かのお芝居か夢なんじゃないかと疑い続けていたと思う。
だって貴族出身で聖女で王妃だった女性が、身分を隠して平民になってお菓子を作っているだなんて誰も想像できない。
そうなったいきさつも全部聞いたけど、俺には腑に落ちないところがいくつかあった。
母様が毒殺されそうになって一時的に領地に移り住んだ間に第二妃と仲良くなったというのは本当なんだろう。
邪魔になった母様を追い返したというのも、腹は立つけど納得はできる。
だけど馬車の事故を装って殺そうとしたというのは母様の勘違いなんじゃないかと思った。
陛下が母様を本当に殺そうとしたんだとしたら、馬車に乗るのをあそこまで必死になって止めるだろうか。
それに彼は始終おかしな言動をしていた。
母様の顔を見るなり感極まって抱きつこうとしたり、拒絶されて人形みたいに固まったりしていた。
君主らしい態度をしていた時もあったが、母様と会話を交わす彼はどこにでもいる一人の男のようだった。
それになんだか異常に母様に執着していたようにも見えた。
いくら母様の見た目が若いからって、どう見ても学生の俺と恋仲だと思って嫉妬するなんてありえないだろう。
俺が他の男との間にできた子どもだと疑って、浮気を詰った時の凄み方も尋常じゃなかった。
指を切り落とすとか目を抉るとか……正直に言ってしまうと普通じゃない。
あれほど全身で母様への愛を語っているのに二十年前は亡き者にしようとしたんだと言われても、そんな陛下の姿は想像できなかった。
あんなにわかりやすい態度をされていて気が付かない母様も鈍い。
母様は自分では気が付いていないみたいだけど、きっとまだ陛下のことが好きだ。
ふとした時に見惚れたり意地を張って拗ねたりする母様は完全に女の顔をしていたし、認めはしないだろうけど少なからず未練があると俺は感じた。
陛下にはもう妃が二人もいるし、今更母様もよりを戻そうとは思っていないだろうけど、この違和感は気になるから解消したいとは思う。
そのためには俺は陛下ともっとよく話をする必要がある。
彼が父親だという実感は、まだないけれど。
アバッサムの森で奇妙な体験をして魔物と戦い、試験を棄権になって窃盗容疑をかけられ、連行された先で母様がこの国の元王妃だったことを知り、国王陛下に挨拶した。
約束どおり母様が過去の話をしてくれたけど、なんとなく予想はついていたから驚きはなかった。
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それよりもまさか母様が聖女だったとは思わなかった。
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彼が父親だという実感は、まだないけれど。
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