十の加護を持つ元王妃は製菓に勤しむ

水瀬 立乃

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進む道(ルフナ視点)

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透明だった水晶の中は全部で六色に染まっていた。
俺は青を好む水の神だけではなく、豊穣(黄金)、知恵(薄紅)、時空(黒紫)、月(琥珀)、風(緑)の神達の加護を授かっているようだ。
十の神の加護を持つ母様には及ばないけど、この加護の数も稀らしく司教は目を丸くして水晶を凝視していた。
俺自身も驚いたけど、アバッサムの樹海でイーディアグルに挟み撃ちにされそうになった時、指輪は黒紫色に光っていた。
あの奇妙な出来事は時空の神が時を止めて助けてくれたからだったのかと思うと、意外と冷静に受け入れることができた。
思い返せば暗闇を照らす光も突然現れた暖かい洞窟も、勝手に集まってきた枯れ枝もすべてが神の加護だったのだろう。
月の神のオブジェがあんなに簡単に見つかったのも、俺に月の神の加護があったからかも知れない。
だとすると『神々が導いてくれている』というセインの予想は大当たりだったということか。

「鑑定は終了しました。もう手を離していただいて結構です」

司教に言われた通りに離れると、水晶の中の色は薄れて次第に元の半透明な状態に戻っていった。
加護があると判明したからには俺は『聖者』になるのか?
そうなるとやっぱり騎士にはなれない。
結局俺には縁のない道だったんだなと思うと、一気にこれから先の未来が霧がかったような心地がした。

「ルーフェナハト殿。我々神殿は貴殿に『聖者』の称号を与えます」
「ありがとうございます…」
「聖者となられたからには、すぐにでも任命式を執り行い、聖者としての研鑽を積んでいただきたい…」
「……」
「…と言いたいところですが、国王陛下が貴殿が聖者であることは然るべき時まで秘匿するようにと厳命を下されました」
「!」

思いがけない言葉に顔を上げると、司教は不本意そうにしつつも微笑んで頷いた。
隣にいたグレイル様にぽんと肩を叩かれる。

「つまり君は今まで通りに生活が送れるということだ」
「ですが…」
「君にとってもその方が都合がいいだろう。それに私は君を騎士学校に推薦した男だぞ?陛下も私も…君の母上も、君が将来咲かせる花の芽が摘まれることを望んでいない。安心して鍛錬に励んでくれ」
「いずれ行う任命式までに必要な講義は受けていただきますがね」

笑ってはいるけどグレイル様も司教も本気で言っているようだ。
これは現実なのか?
当人が望む望まないに関わらず、その称号を与えられれば他の道はないと聞いている。
俺は陛下の息子だからといって王子になりたいとも特権が欲しいとも思っていないし、むしろこのままの生活を維持できるならそうしたいと思っていた。
できればセインと一緒に軍に入隊して、この国を守る仕事がしたい。
グレイル様やコストルさんのような国民からも仲間からも慕われる強い騎士になって、いただいた給金で母様に恩返しもしたい。
そんなことが本当に許されるのか?
六もの神の加護を授かっているのに?
彼らの言葉をすぐには信じられなかったけど、二人があまりにも穏やかな目を向けてくれるからじわじわと実感が湧いて来た。

「ありがとうございます…」

今度は心の底から感謝の気持ちを込めて言えた。
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