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忍び寄る影
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第二妃のエリスに傷を負わせたことが原因で軟禁状態にあるクリスティエラは、侍女からある報告を受けて発狂した。
「どういうことなのよ?!」
「く、詳しい経緯は存じ上げないのですが、とにかく陛下が元王妃様の件を再調査すると…」
「もうとっくに終わった話でしょう?!どうして今になってまた?何かあったに違いないわ!」
「公爵様が原因を密かに探っていらっしゃるそうです。王妃殿下には安心してお待ちになるようにと言付かりました」
そうは言われても、彼女が落ち着いていられるはずはなかった。
元王妃に毒を盛ったのも馬車の車軸に細工をしたのも、全て彼女が指示したことだ。
幸いにも嫌疑をかけられることはなかったが、万が一元王妃の死に自分が深く関与していたと知られたらディブランとの関係修復は更に難しくなる。
彼がどう思おうが自分は正妃で、無下にされていたとしても王妃である限り切り捨てられることはないと彼女は思っていた。
このまま時が経てば元王妃への未練も薄れて夫婦仲が深まるとも信じていただけに、再調査の事実は裏切られたような心地がした。
今まで話題に挙げることすら避けていたのに、二十年も経った今になって向き合おうとする彼の心変わりの原因が知りたかった。
クリスティエラには一つ心当たりがあった。
フラッシュ伯爵家の領地から一時戻ってきた元王妃を寝室で出迎え、ディブランとの関係を偽装した。
本当は彼女が不在の間に彼があの部屋を訪れたことはなく、クリスティエラが勝手に居座り、注意を受けないことをいいことに勝手に内装を変え、勝手に王妃の気分に浸っていただけだった。
彼に笑顔を向けられたことも触れられたことすらないのに、あたかも恋仲になったかのように彼女に嘘を言って信じ込ませた。
あの時の二人のやりとりを彼は知らないはずだ。
何かのきっかけでそれを知られたのだとしたら、彼は間違いなく自分を疑い、怒りの矛先を向けるだろう。
今この時にも調査が進められているのかと思うと、彼女は不安で夜も眠れなかった。
それから半月が過ぎた頃、父親であるグリンフィールズ公からの言伝を聞いた彼女は戦慄した。
どういうわけか元王妃が生きていて、何食わぬ顔で王都で暮らしているというのだ。
クリスティエラは今まで必死に守ってきた王妃の台座が足元から崩れ落ちていく心地がした。
恐怖に蝕まれた彼女の心は再び元王妃への嫉妬と憎しみに染まっていく。
(もう一度殺さなければ。今すぐに…)
彼女は布ナプキンに文字を綴ると、ある人物の手元に渡るように密かに侍女に命じた。
ディブランがあの事故の件を再調査し始めたことも、グリンフィールズ公やクリスティエラが元王妃の生存に気が付いたことも知らず、私はいつも通りにホワンの営業を終えた。
改修で一時休業していても客足はほとんど衰えず、ありがたいことにホワンシフォンの売れ行きは右肩上がりになっていた。
閉店後も店に残って仕込みをしていると、ふと店の外が騒めくような感覚を覚えて手を止めた。
―――何かとても嫌な予感がする。
そう思った瞬間に目の前でパチパチと光が弾けて、思わず何度も瞬きをした。
耳の裏にもピリピリと電気が走ったような心地がして、私は直感に従って作業を切り上げた。
後片付けをしている間も黒い靄のようなものが背後から迫ってくるような、妙な緊迫感があった。
つい先程まで晴れていた空は暗い雲に覆われて、バケツをひっくり返したような雨が地面に降り注いでいる。
店の外に出ると雷鳴がはっきりと間近に見えて、私は直感的にそれが神々からの警告だと感じた。
急いで自宅に戻ると少しだけ不穏な気配が和らいだのでほっと息をつく。
それが何だったのかわからないまま時は過ぎて、警戒心も薄れかけてきた頃だった。
もうすぐ日付も変わろうかという夜半に、何者かが家を訪ねてきた。
「どういうことなのよ?!」
「く、詳しい経緯は存じ上げないのですが、とにかく陛下が元王妃様の件を再調査すると…」
「もうとっくに終わった話でしょう?!どうして今になってまた?何かあったに違いないわ!」
「公爵様が原因を密かに探っていらっしゃるそうです。王妃殿下には安心してお待ちになるようにと言付かりました」
そうは言われても、彼女が落ち着いていられるはずはなかった。
元王妃に毒を盛ったのも馬車の車軸に細工をしたのも、全て彼女が指示したことだ。
幸いにも嫌疑をかけられることはなかったが、万が一元王妃の死に自分が深く関与していたと知られたらディブランとの関係修復は更に難しくなる。
彼がどう思おうが自分は正妃で、無下にされていたとしても王妃である限り切り捨てられることはないと彼女は思っていた。
このまま時が経てば元王妃への未練も薄れて夫婦仲が深まるとも信じていただけに、再調査の事実は裏切られたような心地がした。
今まで話題に挙げることすら避けていたのに、二十年も経った今になって向き合おうとする彼の心変わりの原因が知りたかった。
クリスティエラには一つ心当たりがあった。
フラッシュ伯爵家の領地から一時戻ってきた元王妃を寝室で出迎え、ディブランとの関係を偽装した。
本当は彼女が不在の間に彼があの部屋を訪れたことはなく、クリスティエラが勝手に居座り、注意を受けないことをいいことに勝手に内装を変え、勝手に王妃の気分に浸っていただけだった。
彼に笑顔を向けられたことも触れられたことすらないのに、あたかも恋仲になったかのように彼女に嘘を言って信じ込ませた。
あの時の二人のやりとりを彼は知らないはずだ。
何かのきっかけでそれを知られたのだとしたら、彼は間違いなく自分を疑い、怒りの矛先を向けるだろう。
今この時にも調査が進められているのかと思うと、彼女は不安で夜も眠れなかった。
それから半月が過ぎた頃、父親であるグリンフィールズ公からの言伝を聞いた彼女は戦慄した。
どういうわけか元王妃が生きていて、何食わぬ顔で王都で暮らしているというのだ。
クリスティエラは今まで必死に守ってきた王妃の台座が足元から崩れ落ちていく心地がした。
恐怖に蝕まれた彼女の心は再び元王妃への嫉妬と憎しみに染まっていく。
(もう一度殺さなければ。今すぐに…)
彼女は布ナプキンに文字を綴ると、ある人物の手元に渡るように密かに侍女に命じた。
ディブランがあの事故の件を再調査し始めたことも、グリンフィールズ公やクリスティエラが元王妃の生存に気が付いたことも知らず、私はいつも通りにホワンの営業を終えた。
改修で一時休業していても客足はほとんど衰えず、ありがたいことにホワンシフォンの売れ行きは右肩上がりになっていた。
閉店後も店に残って仕込みをしていると、ふと店の外が騒めくような感覚を覚えて手を止めた。
―――何かとても嫌な予感がする。
そう思った瞬間に目の前でパチパチと光が弾けて、思わず何度も瞬きをした。
耳の裏にもピリピリと電気が走ったような心地がして、私は直感に従って作業を切り上げた。
後片付けをしている間も黒い靄のようなものが背後から迫ってくるような、妙な緊迫感があった。
つい先程まで晴れていた空は暗い雲に覆われて、バケツをひっくり返したような雨が地面に降り注いでいる。
店の外に出ると雷鳴がはっきりと間近に見えて、私は直感的にそれが神々からの警告だと感じた。
急いで自宅に戻ると少しだけ不穏な気配が和らいだのでほっと息をつく。
それが何だったのかわからないまま時は過ぎて、警戒心も薄れかけてきた頃だった。
もうすぐ日付も変わろうかという夜半に、何者かが家を訪ねてきた。
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