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4 お約束の展開ってやつ
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街に到着したのは村を出てから二日目の夕方だった。
街の名はモルドー。
街全体をぐるりと囲んでいる、戦争の傷跡が色濃ゆく残る防壁は、戦争が終結した現在、その役目は防御から観光資源に成り代わっていた。
「これからどうするかだけど、とりあえず晩飯だよな」
街の人に声をかけ、酒場宿の場所を教えてもらう。
しかし、訪れた先では――、
「あんたナメてんの? こんなはした金じゃ水もやれないよ。出ていきな。シッシッ!」
とか――、
「嫌がらせですか? もしかして最近話題の迷惑系冒険者の方でしょうか? いま衛兵をお呼びしますので、そこにお掛けになってお待ちください」
とか。
とりあえず、生活費を稼ぐためにも明日から仕事を探すとしてだ。
今晩はどこで寝ようか。腹も減った。
眠れそうな場所を探して街中をさまよっていると、壁に挟まれた薄暗い石畳の坂道の向こうで、男のわめき声が聞こえてきた。
路地裏に入って、声のする方へ進むと声がはっきりとしてきた。
「調子にのんなよ! いい加減あきらめて、坊っちゃんの女になれってんだよ!」
「お断りよ! 何度も言ってるでしょ!」
(なんかおだやかじゃないな。それにこの声は――)
湊は胸の高鳴りを覚えつつ、駆け出す。
(あそこか――)
坂を登りきった先に彼らはいた。
壁際に追いつめられた外套に身を包んだ女を三人の男が取り囲んでいた。
フードとフェイスヴェールに隠れて女の顔はよくわからない。
野次馬は誰もその女を助けようとはしない。
湊はまっすぐ女の方へ歩いていった。
§
「どうします、坊っちゃん?」
ヘビ柄シャツを着た、いかにもガラの悪い男が、真ん中でふんぞり返っている恰幅のいい若い男に問いかける。
「いつまでも、そんなこと言ってていいのか。んん? 死にそうなお前を助けてあげたのはこのボクだぞ? そのボクに恩を仇で返すのか?」
坊っちゃんはそう言って、女性が手にしていた籠からリンゴを奪って、ガブっとかじる。
「あ! それはお店の! ひどい……」
「うっさいな。ホレ」
坊っちゃんは懐から銀貨を一枚取り出すと、そいつをそのままぽいっと女に向かって投げ捨てる。
女は転がる銀貨には目もくれず、ニタニタと笑っている男を睨めつけた。
「サイッテー」
「うひょー、その強気な態度、ボクちゃん大好物! なあ、お前らもそう思うだろ?」
「いやあ、もう坊っちゃんの言うとおり!」
ヘビ柄シャツの男が坊っちゃんに即答する。
「アッシは、熟女でボチャっとしたのがいいっす」と、もうひとりの取り巻き。
「お前の好みなんてどーでもいいのっ! それより女! いつまでもボクの言うこと聞かないと、父上に頼んでこの街から追い出しちゃうぞ。いいのか? それか、お前が働いている店を潰しちゃってもいいんだぞ?」
「……バッカじゃないの? 女の子に拒否られたからって大げさすぎ。なんでも自分の思いどおりになると思ったら大間違いなんだから。そんなことより早くそこをどきなさいよ!」
「おい! いまボクのことバカにしたな? 謝罪しろ!」
「どうしてアタシが? 意味わかんない――って、え?」
女は坊っちゃんから目をそらした。
「どうやらまたお仕置きが必要みたいだな。よし、決めたぞ! お前をこれからお仕置きしてやる! お前ら、この女を僕んちに連れていけ!」
返事がない。
「おいどうした? 連れていけ!」
すると――、
「なにお仕置きって?」
「は? いつもやってるだろ……って誰だキサマー!」
そこにいたのは、ヘビ柄シャツの男ではなく湊だった。
「ヘビィは? どこいった?」
キョロキョロと坊っちゃんが見回すと、
「のわっ! ローング! お前までぇえ!」
ヘビィとローングは口から泡を吹いて倒れていた。
「きっさまー! この街でボクに逆らうとはいい度胸だな! 何者だ?」
「何者? ……あ。衛兵でーす」
湊はヘビィとローングから奪った短剣を品定めしながら、適当に答える。
「んなわけあるか! どこからどう見ても平民じゃないか! 平民の分際でボクに楯突くとどうなるか教えてやる!」
「へー、突くとどうなんの? ぜひ教えてくれよ」
湊は鞘から短剣を抜き出すと、くるりと持ち替えて坊っちゃんに切っ先を向けた。
「うぐ……」
急に坊っちゃんは駆け出し、じゅうぶん離れたところで、
「今日のところは見逃してやる! だけど明日からはこの街を平然と歩けると思うなよ!」
威勢はいいが、声がどんどん遠のいていく。
ヘビィとローングの二人を残したまま、坊っちゃんは視界から消えていった。
§
「すっげぇ小物臭。あんなセリフ言うやつ、本当にいるんだな」
湊は短剣を鞘にしまい込む。
見た感じ、高く売れそうなので質屋でもあれば買い取ってもらおう。
こっちの世界に質屋なんてあるのか知らないけど。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう。そっちこそ怪我しなかった?」
「ないよ。心配してくれてありがとな。そんなことよりも――」
湊は女のまわりをぐるっと一周して、最後に顔をのぞいてみる。
フードとフェイスヴェールのせいで、目のあたりしかわからないが、
(薄く化粧してるっぽいけど、目も似ている……)
「え? いきなりなに? どうしたの?」
「その声……もしかして舞か?」
「え? どうしてアタシの名前知ってんの? もしかしてアタシ、キミと前にお店かどこかで会ったことあった?」
「おいおいどうしたんだ? ずっと一緒だっただろ。って舞、もしかしてアレか。冗談かましてんの? それとも記憶喪失ってやつか?」
少しあきれたようすで、女が片眉をあげる。
「とにかくお礼がしたいから、ウチのお店にこない?」
街の名はモルドー。
街全体をぐるりと囲んでいる、戦争の傷跡が色濃ゆく残る防壁は、戦争が終結した現在、その役目は防御から観光資源に成り代わっていた。
「これからどうするかだけど、とりあえず晩飯だよな」
街の人に声をかけ、酒場宿の場所を教えてもらう。
しかし、訪れた先では――、
「あんたナメてんの? こんなはした金じゃ水もやれないよ。出ていきな。シッシッ!」
とか――、
「嫌がらせですか? もしかして最近話題の迷惑系冒険者の方でしょうか? いま衛兵をお呼びしますので、そこにお掛けになってお待ちください」
とか。
とりあえず、生活費を稼ぐためにも明日から仕事を探すとしてだ。
今晩はどこで寝ようか。腹も減った。
眠れそうな場所を探して街中をさまよっていると、壁に挟まれた薄暗い石畳の坂道の向こうで、男のわめき声が聞こえてきた。
路地裏に入って、声のする方へ進むと声がはっきりとしてきた。
「調子にのんなよ! いい加減あきらめて、坊っちゃんの女になれってんだよ!」
「お断りよ! 何度も言ってるでしょ!」
(なんかおだやかじゃないな。それにこの声は――)
湊は胸の高鳴りを覚えつつ、駆け出す。
(あそこか――)
坂を登りきった先に彼らはいた。
壁際に追いつめられた外套に身を包んだ女を三人の男が取り囲んでいた。
フードとフェイスヴェールに隠れて女の顔はよくわからない。
野次馬は誰もその女を助けようとはしない。
湊はまっすぐ女の方へ歩いていった。
§
「どうします、坊っちゃん?」
ヘビ柄シャツを着た、いかにもガラの悪い男が、真ん中でふんぞり返っている恰幅のいい若い男に問いかける。
「いつまでも、そんなこと言ってていいのか。んん? 死にそうなお前を助けてあげたのはこのボクだぞ? そのボクに恩を仇で返すのか?」
坊っちゃんはそう言って、女性が手にしていた籠からリンゴを奪って、ガブっとかじる。
「あ! それはお店の! ひどい……」
「うっさいな。ホレ」
坊っちゃんは懐から銀貨を一枚取り出すと、そいつをそのままぽいっと女に向かって投げ捨てる。
女は転がる銀貨には目もくれず、ニタニタと笑っている男を睨めつけた。
「サイッテー」
「うひょー、その強気な態度、ボクちゃん大好物! なあ、お前らもそう思うだろ?」
「いやあ、もう坊っちゃんの言うとおり!」
ヘビ柄シャツの男が坊っちゃんに即答する。
「アッシは、熟女でボチャっとしたのがいいっす」と、もうひとりの取り巻き。
「お前の好みなんてどーでもいいのっ! それより女! いつまでもボクの言うこと聞かないと、父上に頼んでこの街から追い出しちゃうぞ。いいのか? それか、お前が働いている店を潰しちゃってもいいんだぞ?」
「……バッカじゃないの? 女の子に拒否られたからって大げさすぎ。なんでも自分の思いどおりになると思ったら大間違いなんだから。そんなことより早くそこをどきなさいよ!」
「おい! いまボクのことバカにしたな? 謝罪しろ!」
「どうしてアタシが? 意味わかんない――って、え?」
女は坊っちゃんから目をそらした。
「どうやらまたお仕置きが必要みたいだな。よし、決めたぞ! お前をこれからお仕置きしてやる! お前ら、この女を僕んちに連れていけ!」
返事がない。
「おいどうした? 連れていけ!」
すると――、
「なにお仕置きって?」
「は? いつもやってるだろ……って誰だキサマー!」
そこにいたのは、ヘビ柄シャツの男ではなく湊だった。
「ヘビィは? どこいった?」
キョロキョロと坊っちゃんが見回すと、
「のわっ! ローング! お前までぇえ!」
ヘビィとローングは口から泡を吹いて倒れていた。
「きっさまー! この街でボクに逆らうとはいい度胸だな! 何者だ?」
「何者? ……あ。衛兵でーす」
湊はヘビィとローングから奪った短剣を品定めしながら、適当に答える。
「んなわけあるか! どこからどう見ても平民じゃないか! 平民の分際でボクに楯突くとどうなるか教えてやる!」
「へー、突くとどうなんの? ぜひ教えてくれよ」
湊は鞘から短剣を抜き出すと、くるりと持ち替えて坊っちゃんに切っ先を向けた。
「うぐ……」
急に坊っちゃんは駆け出し、じゅうぶん離れたところで、
「今日のところは見逃してやる! だけど明日からはこの街を平然と歩けると思うなよ!」
威勢はいいが、声がどんどん遠のいていく。
ヘビィとローングの二人を残したまま、坊っちゃんは視界から消えていった。
§
「すっげぇ小物臭。あんなセリフ言うやつ、本当にいるんだな」
湊は短剣を鞘にしまい込む。
見た感じ、高く売れそうなので質屋でもあれば買い取ってもらおう。
こっちの世界に質屋なんてあるのか知らないけど。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう。そっちこそ怪我しなかった?」
「ないよ。心配してくれてありがとな。そんなことよりも――」
湊は女のまわりをぐるっと一周して、最後に顔をのぞいてみる。
フードとフェイスヴェールのせいで、目のあたりしかわからないが、
(薄く化粧してるっぽいけど、目も似ている……)
「え? いきなりなに? どうしたの?」
「その声……もしかして舞か?」
「え? どうしてアタシの名前知ってんの? もしかしてアタシ、キミと前にお店かどこかで会ったことあった?」
「おいおいどうしたんだ? ずっと一緒だっただろ。って舞、もしかしてアレか。冗談かましてんの? それとも記憶喪失ってやつか?」
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