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13 鍵だ。もらっとこう
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モルドーの街を出発してから二日目の午後。
曇り空の下、ダームスフィア王国支援部隊は街道に沿って長い列を作っていた。
もう少ししたら、湊がこの世界に降り立って最初に訪れた魔族の村――ポカポッカ村が見えてくるはずだが、なにか様子がおかしい。
黒煙が何本も立ち昇っている。
嫌な予感がした。
「あの村でしばし休憩する!」
前からやって来た正規軍の騎兵が傭兵相手に、偉そうに叫ぶ。
§
湊は愕然とした。村は略奪されていた。
黒煙の正体は全焼した家屋からのものだった。
それだけではない。
中央広場には村人の黒焦げになった死体が山のように積まれていた。
「なんだこれは……?」
「よう! また会ったな」
広場でたたずむ湊に誰かが声をかけてきた。
「あんたは――」
モルドーの街に着く前に出会った行商の男だった。
前回会った時とちがって、革鎧にショートソードを腰に差している。
「兵士だったのか」
「覚えていてくれたか。そうだ、俺は見てのとおり密偵さ。いやあ、お前さんのおかげで作戦は大成功だ」
「……どういうことだ?」
「お前さんの教えてくれた情報のおかげで、誰の犠牲も出すこと無く、この村の魔族全員、殲滅することができた。この地もこれからは俺たちのものとなる」
男の話によれば、行商人になりすましてこの村に入った。
その時、男は湊のことを話したそうだ。
はじめ警戒していた村人たちも、湊の知り合いと聞いて安心したのか、村長は男たちを歓迎し、その晩、男たちは村に泊まった。
そして村人たちが寝静まった頃、男たちは村の外で待機していた別働隊を村の中に招き入れ、全員、皆殺しにしたとのことだった。
「なぜ、そんなことを? 戦争はとっくに終わって、いまは互いに手を取り合っていたんじゃなかったのか?」
「ちょっとこっちへ来い!」
男は驚き、慌て、「ついてこい」とジェスチャーしてみせた。
湊は黙ってついていく。
まわりに兵士の姿が少ない場所に来たところで、男は立ち止まり口を開いた。
「あんな大勢のいる場所でその発言。お前さん、もしかして穏健派の人間か?」
(穏健派だって? なにを言っている――)
「俺はそんなんじゃない」
「そうか。なら、いまの発言が俺で良かったな。もし他のヤツに聞かれていたら、檻の中かその場で処刑されていたぞ」
「わけわらないな。俺はただ、尋ねただけだ」
「尋ねること自体、ありえないんだよ。まあいい……お前さん、どうも異国出身のようだからな。この際だから教えておいてやる。死にたくなかったら覚えておけ」
男は一呼吸おいて続けた。
「いいか。先の大戦『ラストウォー』で、魔族が生きることを許されているのは、神が最後に与えたご慈悲だ。それを魔族どもは、恩を仇で返すかのごとく、繰り返し問題を起こしてきた。そして今回、ミスルムスフィア自治領にてフィオナが反乱を起こした。だから、神は鉄槌をくだした。死の鉄槌だ。これは神のご意志だ。俺たち人間がこれに逆らうことはできない。逆らえば、その人間は異端とみなされる。わかったか?」
「わかったが、気に入らないな」
「まだ、そんなこと言うのか。いいか、俺はお前さんを捕らえたくはない。だから、それ以上、困らせるようなことは言うな!」
「……そうしよう。最後にひとつ、教えてくれないか」
「なんだ?」
「神の鉄槌というからには、ダークプリンセス『フィオナ』も殺されるのか?」
男の仲間らしき、兵の姿が焼けくずれた家屋から姿を現した。
「当然だ。いいか? これからも長生きしたきゃ、神の言葉に寄り添え。忠告したぞ。じゃあな」
§
男と兵士が立ち去ると、湊は村長の家に向かった。
村長の家もまた焼かれ、屋根が半分以上崩れ落ちていたが、中に入れそうだ。
炭化した梁や柱をどかして中に入ると、死体が転がっていた。
ただ、村長らしき人物の姿はなかった。
おそらく、中央広場に積まれた死体の山なのかもしれない。
(ついこの間、訪れた時はみんな、幸せそうに笑っていた。俺といっしょに……)
だからまた、笑顔で会えると、当たり前のように思っていた。
床になにかが落ちていた。
「鍵?」
鍵はとても古く、小さな宝石が随所に散りばめられていた。
博物館にそのまま飾っても違和感ない。
目を凝らしてみると、なにか得体の知れない文字が彫られている。
(まあ、家の鍵ではないよな。となると、宝箱の鍵とか。もしくは儀式用とか)
角笛の音が聞こえてきた。
出発の合図だ。
湊は鍵をポケットにしまう。
部隊はミスルムスフィア自治領へ歩を進めた。
曇り空の下、ダームスフィア王国支援部隊は街道に沿って長い列を作っていた。
もう少ししたら、湊がこの世界に降り立って最初に訪れた魔族の村――ポカポッカ村が見えてくるはずだが、なにか様子がおかしい。
黒煙が何本も立ち昇っている。
嫌な予感がした。
「あの村でしばし休憩する!」
前からやって来た正規軍の騎兵が傭兵相手に、偉そうに叫ぶ。
§
湊は愕然とした。村は略奪されていた。
黒煙の正体は全焼した家屋からのものだった。
それだけではない。
中央広場には村人の黒焦げになった死体が山のように積まれていた。
「なんだこれは……?」
「よう! また会ったな」
広場でたたずむ湊に誰かが声をかけてきた。
「あんたは――」
モルドーの街に着く前に出会った行商の男だった。
前回会った時とちがって、革鎧にショートソードを腰に差している。
「兵士だったのか」
「覚えていてくれたか。そうだ、俺は見てのとおり密偵さ。いやあ、お前さんのおかげで作戦は大成功だ」
「……どういうことだ?」
「お前さんの教えてくれた情報のおかげで、誰の犠牲も出すこと無く、この村の魔族全員、殲滅することができた。この地もこれからは俺たちのものとなる」
男の話によれば、行商人になりすましてこの村に入った。
その時、男は湊のことを話したそうだ。
はじめ警戒していた村人たちも、湊の知り合いと聞いて安心したのか、村長は男たちを歓迎し、その晩、男たちは村に泊まった。
そして村人たちが寝静まった頃、男たちは村の外で待機していた別働隊を村の中に招き入れ、全員、皆殺しにしたとのことだった。
「なぜ、そんなことを? 戦争はとっくに終わって、いまは互いに手を取り合っていたんじゃなかったのか?」
「ちょっとこっちへ来い!」
男は驚き、慌て、「ついてこい」とジェスチャーしてみせた。
湊は黙ってついていく。
まわりに兵士の姿が少ない場所に来たところで、男は立ち止まり口を開いた。
「あんな大勢のいる場所でその発言。お前さん、もしかして穏健派の人間か?」
(穏健派だって? なにを言っている――)
「俺はそんなんじゃない」
「そうか。なら、いまの発言が俺で良かったな。もし他のヤツに聞かれていたら、檻の中かその場で処刑されていたぞ」
「わけわらないな。俺はただ、尋ねただけだ」
「尋ねること自体、ありえないんだよ。まあいい……お前さん、どうも異国出身のようだからな。この際だから教えておいてやる。死にたくなかったら覚えておけ」
男は一呼吸おいて続けた。
「いいか。先の大戦『ラストウォー』で、魔族が生きることを許されているのは、神が最後に与えたご慈悲だ。それを魔族どもは、恩を仇で返すかのごとく、繰り返し問題を起こしてきた。そして今回、ミスルムスフィア自治領にてフィオナが反乱を起こした。だから、神は鉄槌をくだした。死の鉄槌だ。これは神のご意志だ。俺たち人間がこれに逆らうことはできない。逆らえば、その人間は異端とみなされる。わかったか?」
「わかったが、気に入らないな」
「まだ、そんなこと言うのか。いいか、俺はお前さんを捕らえたくはない。だから、それ以上、困らせるようなことは言うな!」
「……そうしよう。最後にひとつ、教えてくれないか」
「なんだ?」
「神の鉄槌というからには、ダークプリンセス『フィオナ』も殺されるのか?」
男の仲間らしき、兵の姿が焼けくずれた家屋から姿を現した。
「当然だ。いいか? これからも長生きしたきゃ、神の言葉に寄り添え。忠告したぞ。じゃあな」
§
男と兵士が立ち去ると、湊は村長の家に向かった。
村長の家もまた焼かれ、屋根が半分以上崩れ落ちていたが、中に入れそうだ。
炭化した梁や柱をどかして中に入ると、死体が転がっていた。
ただ、村長らしき人物の姿はなかった。
おそらく、中央広場に積まれた死体の山なのかもしれない。
(ついこの間、訪れた時はみんな、幸せそうに笑っていた。俺といっしょに……)
だからまた、笑顔で会えると、当たり前のように思っていた。
床になにかが落ちていた。
「鍵?」
鍵はとても古く、小さな宝石が随所に散りばめられていた。
博物館にそのまま飾っても違和感ない。
目を凝らしてみると、なにか得体の知れない文字が彫られている。
(まあ、家の鍵ではないよな。となると、宝箱の鍵とか。もしくは儀式用とか)
角笛の音が聞こえてきた。
出発の合図だ。
湊は鍵をポケットにしまう。
部隊はミスルムスフィア自治領へ歩を進めた。
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