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情けは人の為ならず

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 ご馳走に囲まれてセシルは幸せそうだ。 

「どうだアキ、面白い本はあったかな?」
「はい、参考になりました」

「そうか、それは良かったな。それで次は何処に行くのだ?」

「エルフの国のダンジョンに行こうと思っています」

「リッカフェにか」
「お父様」

「おお、そうであった。アンリが改めて、礼を言いたいそうだ」

「先日は助けて頂きありがとう御座います」
「何事も無くって良かったです」

「あの時は失礼な事を言いまして、申し訳御座いません」

「気にしないで下さい」

「甘やかしたせいで、じゃじゃ馬になってしまって困っておるのだ」

「お、お父様!もう、恥ずかしい……」

「怒って行ってしまったか?ふむ、どうやら他にもアキと話しをしたい者がたくさんいるみたいだな、ではまたな」


それから多くの貴族達が立ち替わりダンジョンの話しを聞きに来るので相手するのが大変だった。

その夜は、お城に泊まり翌日、挨拶を済ませ城を出たのは、昼の少し前だった。

「なんだかんだで結構かかったな」
『人気者だったわね』

「お陰で料理が食べれなかったよ」
「とても美味しかったですよ」

「うう、腹が減った。良し、カニとエビだ」

昼飯を食べてから、セラヴィ行の馬車の時間を見に行った。

明日の朝8時発があったので予約しておく。

「じいさんギルドに戻ってるかな?」

『戻ってると思うぞ。じいさんにも悪魔の本、聞いて見たらどうだ?』

「そう言えば本屋だったな」

ギルドにじいさんは戻っていた。


「明日の朝にここを出るので挨拶に来ました」

「そうか。魔石は取られたとは言え、世話になったな」

「お世話になったのはこっちですよ。所でじいさんの店に悪魔に関する本は無いの?」

「悪魔の本か?ある事はあるが鑑定出来なかったし読めんぞ」

「どこで手に入れたんです?」

「昔、冒険者がダンジョンで手に入れたが、使い方が解からないと言って売りに来たんじゃ」

「それってこんなやつですか?」

「おっ、どこでこんな物。ん、似ているがちょっと違うな」

「良ければ売って下さい」

「お前にやるよ。店の奥の二重になっている棚の後ろにある、持っていけ。これが鍵の呪文じゃ」

「ありがとう御座います。それでは」
「おう、たまには顔を見せに来い」

「分かりました」

ーー

「楽しみだな」
『読めなければ意味無いがな』


セラヴィ行の馬車に乗ったのは俺達2人と以前パン屋で会った若い冒険者の4人だ。


この子達の会話を聞いていると、漫才を観ている様で楽しい。

お陰で退屈しない。パラッシュを出て6日目になる、馬車もツボルタの街を出てもうすぐアイガの街に着く。

「そんたらおかしな事は言ってねえべさ」

「プッ」
「ほら、また笑われた」

セシルも楽しそうだ。

『アキ、久しぶりに来たみたいよ』
『どうやら手下を連れてきたな』

馬が殺気を感じて馬車は止まってしまった。

「どうしたのかしら?」
「魔物か?」

「君達は手を出さないで、身を守っていなさい」

「えっ」

外に出ると護衛の冒険者達は既に倒されていた。

『まだ死んではい無いわ』

「動くと後ろの4人の命は無いぞ」

体格のいい男だ。

「ダンチしっかりして!」

『こっちも大丈夫よ』

「狙いは俺だろ、それでよく神と呼ばれし者などと言っているな」

「ふん、我ら一族以外の者は全て我ら神に等しい者の糧になればいいのだ」

『セシルは雑魚を頼むね』
『はい、ご主人様』

『卑弥呼さんはみんなの治療を』
『任せて』

「あなた達の糧ですか?」
「宝珠を渡して貴様も我らの糧になりなさい」

『魔力場発生、ダークバレット!』

[シュパーン]

「ぐふっ、なっ」

「動かない方が良いですよ。お腹から、はらわたが出ちゃいますよ。ほら、手で早く押さえないと」

「貴様、ぐぅ」

「神に等しい様な事を言って、再生能力も無いのですか?」

「なにを、この……」

「ジェロスに約束したんだ。寂しく無いように一族全員送ってやると」

「み、皆の者、全員殺してしまえ。えっ、そんな……馬鹿な」

「お前達の勝手な理屈を聞いていると、さすがにイラッっとしてくる。もういい。燃え尽きろダークヘルファイアー!」

「ありがとう。セシル、卑弥呼さん」

『「ノープロブレム」』

「君達、すまなかったね。奴らの狙いは俺ななんだ」

「いいえ、ダンチを助けてくれてありがとう」

「セシル、俺は外に出るから4人の冒険者を中に。このポーションを飲ませてあげて」

「はい、ご主人様」

「御者さん、隣に座っていいですか?」
「は、はい」

「もうこんな舐めた真似はさせませんから安心して下さい」

「分かりました、では出発します」

『しかし馬車で移動中に関係の無い人が傷つくのはしゃくだな』

『そうだな』
『いっそ自分の馬車を作ったら?』

『いいね。でも馬車はアイテムBOXに入るけど馬は無理だ。海を渡る時に困る』

『そうね』
『良し、これからは馬車は俺達だけ貸し切りだ』

『よっ、太っ腹』
『そのうちゴーレムで動く馬車でも作るさ』


1時間程度でアイガの街に着いた。御者にチップを渡して冒険者は治療院に運んでもらった。

「アキさんだったのですね。会えて嬉しいです」
「俺のせいですまなかった」
「気にしないで下さい」

「ダンジョンの話しを聞きたかったで御座る」
「ホントだべさ」

「じゃあな」

気のいい連中と別れて、セラヴィ行の馬車を貸し切りにし、出発までは時間があるので街をぶらつく事にした。

一通り観て馬車に戻ると若い男2人と御者が言い争いをしている。

「頼むから乗せてくれ」

「だから言ってるでしょ、この馬車は貸し切り何です」

「どうしたんです?」

「あ、良い所に、この人が分かってくれないんです」

「あんたか?頼む明日までにセラヴィに行かなくてはいけないんだ」

『アキ、話し聞いてあげたら』

「落ち着いて。まず理由を話して下さい」

「ああ、すまない、悪かった。実は明日までにセラヴィに戻らないと父の商会が、他の商人に取られてしまうんだ」

出発の時間なので馬車の中で話を聞く事にする。

詳しく話しを聞くと。どうやら、若者達の父親は上手くハメられたらしい。

「アイガの西のペルパ村で胡椒を仕入れて戻る途中に盗賊に襲われて。護衛の冒険者の人達が逃がしてくれたんです」

「ここまで何とか2人で来たんです」

「君達2人で、この胡椒の入った大きな袋を担いでかい?」

「そうです。この胡椒には俺達の夢がかかってる」

「諦める訳にはいかない」

『たいした根性だな』
『アキ、どうやらお客さんよ』

「卑弥呼さん、1人は残しておいて、話を聞きたい」

『了解』

乗り掛かった船だ、最後までやってみるか。

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