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帰還

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 最古のダンジョンに王手をかける迄、一年かかってしまった。

ダンジョン内での転移が出来ないので、手間を食って仕方がない、高校生勇者の6人が加わってくれたので助かったが。


その間に3つの神殿は完成した。

何もしていないくせに、ストロベルタ神聖国家が神殿を管理させろとねじ込んで来たが、奴隷に偏見を持っているので俺は気に食わない。

もちろん、お断りした。エメリューズ様はセシルに、姉のフォルティ様はボルチスカ王国に、ネイオン様は各国の代表の神官で管理する事になった。

砂の民達も少しずつ集まって来た、嬉しかったのはセシルの両親が居た事だ。

最初、セシルは戸惑っていたが、そのうち精神的なキズも癒え記憶を取り戻すだろう。想像した通り、小さい頃に盗賊に拐われたそうだ。


ダンジョンに行くと高校生勇者達が待っていた。

「おはよう御座います」

「おはよう、また地下59階まで行かなければ、と思うとうんざりだな」

「そう言わずに、今回入るので最後にしましょう」
「そうですよ、アキさん」

『高校生達は元気ね』
『アキとたいして年は変わらないがな』

と言っても、このダンジョンは定期的に造りが変わるので、飽きる事は無い。

今では高校生達だけで問題無く進む、たまに罠をハッカーが教える位で、俺は荷物係だ。

2日で地下59階にたどり着いた。考えれば楽勝か?

60階に降りる、この階が最下階なのは前回に調査済みだ。

部屋が1つで階段は無い。

「部屋の中に階段が有ったりして」
「変なフラグ立てないでよ」

「何が出て来るかな?」
「悪魔だったりして」

「また、フラグを立てるんだから。止めなさいって」

「ここはアキさん、先頭でお願いします」

「お、おう、任せろ。じゃ、開けるぞ」
「はい」

皆、身構える。

部屋の中には誰も居ない。宝物がポツンと有るだけだ。

「罠?」

『いや、かかって無いぞ』
「開けると罠?」

「いや、大丈夫そうだ」

「入ると転移とか?」
「ちょっと男子、誰か入りなさいよ」

「何でだよ、もう」


俺が入って見る、何も起こらない。

「大丈夫だ。開けるぞ」

中には"緋色がね"で出来た直径10㎝のメダルが有った。

表面に目が4つ有る蛇が彫ってある、蛇は尻尾を咥え横に8の字を描いている。いわゆる、"無限"の記号の形だ。


本に記述されている物に間違い無い。

「俺はダンジョンに入る度に考えるんだ。アイテムや魔道具は誰が造ったのかって、何で使い方が解っているのかって、ね」

「それは僕達も思います」

『理屈で言えば、過去に使った奴がいるって事になるな』

「不思議ね」
「まっ、考えても意味が無いがな」

「確かに」

「さあ、戻ろう」
「「「「はい」」」」



ーー

「とうとう手に入れたのだな」

出迎えてくれたのは"烈風の牙"のメルクさんだ、久々に会う。


「メルクさん、お久しぶりです。前にお屋敷に行った時は、お留守で会えなくて残念でした」

「ああ、依頼が入ってしまってな。勇者の話は色々聞いたぞ」

「そうですか、言えない事も有ったのですいません。他のみんなも来てるのですか?」

「もちろん。買い出しに行っている。所で、最近はアキのお情けを頂戴するのが流行っているそうだが、私も貰らえるのか?」

「え、ええ。メルクさんさえ宜しかったら」

「そうか、じゃ明日な」
「は、はい」

『解って言っているのかしら?』
『そりゃそうだろう』


「それより、これを完成させないと」


高校生達とミストガの家に行く。風呂に入ってもらいゆっくりしてもらおう、食事の支度はセシルとリンツに任せれば良い。

俺はその間に本を読み直す。取り合えず必要な魔方陣だけ床に書いておくか。後は、食事を取ってからにしよう。

みんなが見つめる中、魔方陣の真ん中に蛇のメダルを置き、メダルを中心にして十字の形で四方に宝珠を置いた。

「トランスクライブ!」

これで良いはずだが。見た所、変わった様子がない。

『起動用の魔法陣がなければ作動しないんだから、魔力を流して見たら』

「OK」

蛇のメダルを握って、魔力を流す。すると瞬時に蛇の目が紅く輝き出した。

「成功ですよね?アキさん」
「そうだね」

「帰れる可能性がで出来た」
「ワクワクします」

「起動魔法陣を書く場所なんだが、フェデスさんの研究室にしたいんだけど、いいかな?」

「異議なし」「私も」
「問題無しです」


「ありがとう。みんな」


その後の打ち合わせで、蛇のメダルを試す日を決める事にした。

成功すればこの世界から居なくなる、それまでに関わって来た人達に話をしなくてならない。


「俺はここに残るよ。ロザンヌとここで暮らしたいんだ」

「そうですか、それも1局の人生ですね」
「ああ、ありがとう」


「お兄さん幸せそうでしたね」
「男は女で変わるからな」

「アキさんも?」
「まあね」

「羨ましい」

「バカ男子、男が良いから女が頑張るの」
「そうですよね、アキさん?」

「ふふ、どうかな。それより、みんな行きたい所はないか?今の内だぞ」

「はい、お願いします」



         ☆☆☆☆☆



「フェデスさん、お世話になりました」

指輪を含めて、ここから持ち出した物は全て元に戻す。

宝物や今まで得た物全て置いて行く。

今思えば懐かしいな。

『皆が待っているぞ』
「分かった」


部屋を出て、ダンジョンに出る前の広場に行く。俺が魔法を練習した場所だ。跡を見るとこれもまた懐かしい。


「魔法陣は出来ています」
「ありがとう、じゃ始めるか」

「アキ」「ご主人様」

「心配するな、直ぐ帰って来るよ」
「はい、待っています」

高校生達と俺は魔法陣の中に入る。

蛇のメダルに魔力を流して、念じる。

【ディファレントスペース!】

「行ってしまいましたね」
「ええ、行ってしまわれた」


         ☆☆☆☆☆


「アキさん、ここは?」
「時空間だよ」

「これから、どうするんです?」
「時の神を呼ぶ」

俺はネイオン神から受け取った感覚を思い出して、感じるままに念じる。

頭の中に声が響く。

〈人が私を呼び出すとは、どこでその力を手に入れた!〉

『ネイオン様より授かりました』

〈何、ネイオンがか。ふむ、して何を望む〉
『元の世界に戻りたいのです』

〈では、戻りたい場所を強く思い描くがよい〉

「みんな、戻る場所を決めなくてはいけない」
「え~と、あの教室ではどうです」

「あの時、あの場所だね」
「よし、みんな強く思い描くんだ」

「「「「「「はい」」」」」」

〈時空間移動する、ではな〉


周りの空間が歪み、高校生達の姿が1本の線になって、やがて何も見えなくなった。

先に明かりが見えたと思った次の瞬間、急に視野がひろがった。


「きゃっ!」 「いてぇ!」

「どうしたんだ、彬樒?」

ここは教室か?天海、大山。

「悪い、わざとじゃない……」
「解ってるよ、お前はそんな事しないさ」

はっ、高校生達は?慌てて教室を見回す、6人全員いた。みんな、顔を見合って頷きあっている、俺も頷く。

「お客さんはあの6人だけか?」
「ああ、そうだぞ」

最初っから居ない事になっているのか。

大山がアナウンスを始めた。

「本日、最後の上映になります。それでは開始いたします、タイトルはハンフリー・ボガートの"3つ数えろ"です」

天海が教室の電気を消して映画が始まった。

暗い教室の中で、俺は握りしめていた左手をゆっくり開くと、4つの蛇の目が妖しく真紅に光っていた。
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