上 下
260 / 298
終章 いつも楽しく面白く

第53話 獣耳キャラは、人間の耳を髪の毛で隠す法則

しおりを挟む
 瞬く間にパラス兵に囲まれる猫師匠。

「おにょれパティ、フィー! よくもこのあたしを石ころ扱いしてくれたニャ! 帰ったら絶対ぶっ飛ばしてやるニャ!」

 パラス兵のひとりが、猫師匠の正体に気付く。

「こ、こいつ! よく見たらグレールのシャル女王じゃないか⁉︎」
「本当だ! シャル女王だ!」
「ようやく気付いたかニャ⁉︎ だったら死にたくない奴はさっさと帰るニャ! あたしは早く帰ってお昼寝の続きをしたいニャ! いちいちお前達の相手をしてられないニャ!」

 そのまま帰ろうとする猫師匠の前に、パラス兵が立ちはだかる。

「何のつもりニャ?」
「グレールの女王を討ち取ったとなれば、その功績は大きい!」
「名を挙げるチャンスだ!」
「黙って帰れば見逃してやったものを……愚かニャ」
「かかれえええ‼︎」

 パラス兵が一斉に襲いかかるが、風魔法で全て吹き飛ばす猫師匠。

「ぐわあっ‼︎」
「ひ、怯むな‼︎ 続け! 続けえっ‼︎」
「うおおおお‼︎」

 まるで踊るようにパラス兵の攻撃を紙一重で次々かわして行く猫師匠。

「こ、攻撃が当たらない⁉︎」
「何をやっている‼︎ 魔道士部隊! 援護射撃‼︎」
「ハ、ハイ‼︎」

 部隊長に言われ、遠距離から魔法弾を放つ魔道士部隊。
 それを近くに居たパラス兵を掴んで盾にする猫師匠。

「ぐあっ‼︎」
「ひ、酷え! 人を盾代わりにしやがった⁉︎」
「外道だ!」
「あれが一国の王のやる事か⁉︎」
「うるさいニャ! 別に食らっても痛くもかゆくもないけど、汚れるのがイヤなんニャ!」

 その後も全く猫師匠に歯が立たないのを見た部隊長が、方針を変える。

「ぐっ! 1班から3班はこのままシャル女王と交戦‼︎ それ以外はシェーレ城へ進行だ‼︎」
「了解‼︎」

 3分の1の兵士を残し、他の兵はシェーレ城への進行を再開しようとする。

「散々あたしの事を化け物だの外道だの美し過ぎるだの言っておきながら……」
「美しいは言ってねぇ!」
「逃げられると思うニャア‼︎」

 猫師匠が胸のペンダントを引くと、両腕にまるで猫の手のような小手が装着される。

「グランドウォール‼︎」

 猫師匠が足下の地面を殴ると、シェーレ城に進行していたパラス兵の前の地面がせり上がり、高さ5メートル程の巨大な土の壁が現れる。

「何だ⁉︎ 急に壁が⁉︎」
「くそっ! 上だ! 上を乗り越えて行くんだ!」
「ハシゴをかけろ!」

 攻城用のハシゴをかけて、壁を乗り越えようとするパラス兵。

「そうはいかの一夜干しニャ! ほ~らこっちニャ~、こっち来るニャ~」

 壁にかけられたハシゴに向かって、まるで招き猫のように手を丸めて宙をかくと、ハシゴが何かに引っ張られるように起き上がり、そして次々に倒れて行く。

「うわああ‼︎ ハシゴがああ‼︎」
「何やってる⁉︎ ちゃんと支えてろ‼︎」
「そ、それが、何か物凄い力で引っ張られています‼︎」
「支えきれません‼︎」
「何だと⁉︎ ま、まさかシャル女王の仕業か⁉︎」

 その間にも次々に猫師匠に襲いかかるが、師匠が丸めた手をあちらこちらへ動かす度に、まるで操り人形のように体の自由を奪われ同士討ちをさせられるパラス兵。

「ぐわっ‼︎」
「か、体が勝手に⁉︎」
「こ、この! 妖術使いめっ!」
「何が妖術ニャ⁉︎ こんな物はただ風魔法を見えなくして操ってるだけニャ! そんな事も分からないなんて、やっぱりパラス軍は力ばっかりでバカの集まりニャ!」

「たったひとりに何を手こずっている⁉︎ さっさと仕留めろ‼︎」
「お前がさっきからうるさいニャ!」

 色々指示を出していた部隊長に向けて宙をかくと、爪先から風の刃が飛んで行き、部隊長を切り裂く。

「ぐはあっ‼︎」
「隊長⁉︎」
「た、隊長がやられた‼︎」
「雑魚共も、あたしに刃を向けた事を後悔しながら逝くニャ! ミーティア‼︎」

 無数の流星群が空から降って来て、パラス兵を次々と押し潰して行く。

「うわああ‼︎ い、岩がああ‼︎」
「に、逃げろおおお‼︎」
「ぐぎゃあっ‼︎」

 その流星群は、本陣に居たカオスの目にも止まっていた。

「流星群……パティ? いや、シャルの奴か?」

 少し遅れて、兵より状況報告が入る。

「報告‼︎ 南門の攻撃部隊が、わずか1名の敵により足止めされているもよう‼︎」
「そいつはどんな奴だ?」
「頭に動物の耳を付けた妙な女との事です‼︎」
「やはりシャルか……」

 嬉しそうにニヤリと笑うカオス。

「早々にシャルが出て来たのなら、むしろ好都合だ。ヘクトルに進軍命令を出せ」
「ハッ‼︎」

 カオスよりの命令が、シェーレ城の東側を包囲しているヘクトルに伝えられる。

「了解した。ヘクトル隊‼︎ 全軍進め‼︎」
「おお~‼︎」

 その様子はすぐさまパティ達に伝えられる。

「報告‼︎ 東側に展開していたパラス軍がこちらに進軍を開始しました‼︎」
「では次は誰を飛ばしましょうか?」
「やめてください」

 東側のバルコニーから双眼鏡を使い、進軍して来るパラス兵の様子を見るパティ達。

「あ、あの方は! ナンバージャックのヘクトルさんですわ!」
「ランバージャック⁉︎ デスマッチね!」
「ランバージャックではなくてナンバージャックですわ! フェイスカードのひとり、ナンバージャックのヘクトルさんですわ!」

「そうか……ならば私が行こう」

 フェイスカードと聞いて、スッと名乗りを上げるアイバーン。

「アイバーン様が行くなら僕も行きます!」
「当然俺様も行くぞ‼︎」

 続いてメルクとブレンも名乗りを上げるが、それを制止するアイバーン。

「待てお前達。相手は格上と言われているフェイスカードだ、行くのは私だけでいい。お前達は城の守りを頼む」
「いいえ! だからこそですよ!」
「何⁉︎」
「俺様達が雑魚の相手をしてやる! お前はジャックと心置きなく戦え!」

 隣でコクリと頷くメルク。

「お前達……ふむ、分かった! ならば雑魚の相手は任せたぞ!」
「ハイ‼︎ お任せください‼︎」
「おう‼︎ 腕が燃えるぜ~‼︎」
 
「了解しました。では3人分の投石機を準備しますね」
「いや、普通に歩いて行きますから‼︎」

 






しおりを挟む

処理中です...