ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

文字の大きさ
11 / 247
第1章1節 学園生活/始まりの一学期

第10話 基礎学問『帝国語』

しおりを挟む
 ――何事においてもまずは言葉が理解できねば始まらぬ。言葉は神に選ばれた生命のみが扱うことを許された神器。人を死の淵に追いやることも、人を遥かなる頂まで導くこともできる。故に世の真理に触れたいと願うならまずは言葉を理解せよ――

 という誰かさんの格言に従い、グレイスウィルに入学した新入生は最初の一週間で言葉――全世界の共通語である帝国語の基礎をみっちり教えられることになる。



「帝国語にはまず基本文字があって」
「さらに物体や現象を図形化した造形文字がある」
「基本文字は五十一個あって」
「造形文字は現象の数だけ無限にある……」


 今は自習の時間だが、課題の量が膨大な為、どの生徒も真面目に自習をせざるを得なかった。そもそもサボろうという魂胆でいるのが間違いと言ってはならない。


 エリスは椅子を後ろに向け、カタリナの机にプリントを置いて一緒に書き取りをしている。プリントに書かれた文章を読み上げながら、丁寧に課題を進めていく。



「……ふぅ。ちょっと休憩しよう」
「あ、うん、わかった……」
「いやあ、手首が痛い……何か書くのに痛くなることがあるなんて、思いもしなかったな」

「お二方、よろしければわたくしが痛みを和らげる魔法をおかけしましょうぞ」
「お願い、セバスン」
「ありがとっ」



「……ちょっとお二人に訊いてもいいかーい?」


 二人がペンを置いて休んでいると、隣の生徒がプリントを持ってカタリナの机にやってきた。


「あっ、イザーク……イザークだよね?」
「そうそうボクはイザークだよ。名前覚えてくれてアリガトウ! んで本題なんだけどこの文字何て読むの?」

「えっとこれは……造形文字? 何だろう、草とか?」
「……あ、これは覚えてる。花だね」
「花か。じゃあ前後の文脈と合わせて『花が咲いています』か。サンキュー!」




 イザークはプリントを持って自分の椅子――一番先頭に座っているアーサーの正面に動かしてあった椅子に戻り、ドヤ顔を決める。


「ほら訊いてきてやったぞ。ありがたく思え」
「頼んだ覚えがないんだが」
「でもわからなさそうな顔してたじゃん」
「考えていただけだ」
「そんなの同じだ同じ」

「……人の顔を見ている暇があったら、自分の課題を進めたらどうだ」
「おっと突然の話題逸らしー。ボクは寛大だから乗ってやるとしよう……あれ人によって課題の量違うんだぜ。ボクは白紙の羊皮紙一枚でオーケー。オマエはそうじゃないからこうして手伝ってあげているんじゃないか」



 イザークの席では彼の代わりにサイリがペンを走らせていた。取り組んではいるがサボってもいる彼は、実に穴を突いてきやがる。



「成程。だったら今すぐ椅子を自分の席に戻し今後二度とオレに関わるな」
「おっと、今後二度となんてついちゃったら選択肢に入れられないなぁ」
「こいつ……」


 アーサーは妨害射撃を言葉の盾で弾き返しながらペンを走らせている。




「そういや訊きたかったんだけどさ」
「……」
「この白い犬ってオマエのナイトメアだよな?」


「……」
「時に沈黙は肯定を意味する。つまりこの犬はオマエのナイトメアだな」
「勝手に話を進めるな」
「答えないオマエが悪いんだよーん」



 そう言いながらアーサーの足元に座っているカヴァスを見つめるイザーク。


 カヴァスはそれに対抗しているのか、表情を一切変えず見つめ返す。



「いやーそれにしてもすっげーもふもふしてるなあ……」


 イザークが手を近付けると――


「どれどれ……痛ぁっ!?」


 それを待ってたかのように、カヴァスが目の色を変えて噛み付いた。



「どうした」
「ワン! グルルル……」
「……完全にあんたを警戒しているようだ。噛まれたくなかったら二度とオレにかまうな」



「ばぁーっ、ばぁーっ、あー痛ってぇ……いや! 剣で刺されるならまだしも犬だからな! ボクはこれぐらいでは引かないよ!」
「……あぁ」


 アーサーは机の上の左手を頭に置いた。そしてその流れで頭を掻く。





「――あー! もうスゲー疲れたー!」



 その日のホームルームが終わり放課後に入った途端、イザークが叫んだ。他の生徒達は一斉に立ち上がり移動を始めている途中でのことだった。



「……自習の時を振り返ってもそう言えるのか?」
「だって入学してから帝国語ばっかりだぜ? あ、ガイダンスもあったわ。とにかく文字の読み書きを勉強して、施設の使い方とかメモって、そういうことばっかりで疲れるんだよ! やることワンパターンすぎる! そう思わないかい、エリスにカタリナ?」


「うーん……イザークって結構文字読めるみたいだし、そう思うのは仕方ないのかも?」
「で、でも来週から普通に授業始まるから……そしたら魔法とかやるでしょ?」
「それはそうなんだけどさ~。そっちはそっちでまた面倒臭そうなんだよな~」



 エリスとアーサー、イザークとカタリナは立ち上がろうとせず、席に座ったまま会話をしている。


 席が近いこともあり、だんだんとこの四人でまとまる機会が増えてきていた。カヴァスはサイリのことを興味深そうに見ており、セバスンはまたカタリナに抱きしめられている。



(こいつはよくも出会って数日の奴にここまで……)



 最初はアーサーとイザークの二人で話していたのだが、途中からイザークがエリスとカタリナを巻き込み始めた為四人になっていった、ならざるを得なくなってきたというのが真実である。


 イザークが弾丸トークを繰り広げるのに比例して、アーサーの警戒心が加速度的に上がっていく。



「それに今日はあれがあるでしょ。ほら、課外活動」
「……ああ、集会。今日入りたい課外活動を決めて、そこの部集会行って加入届出すんだっけ?」
「そうそう。イザークはどの課外活動に入るの?」
「何か目ぼしいのもねえし、好きでもない活動やるぐらいなら入らないことにしたよ。だからボクは帰宅部」

「そうなんだ。まあそこは自由だよね……カタリナは?」
「え、えっと……手芸部」
「手芸部かあ。手芸部にも興味あったんだけど、わたし家政学で裁縫取るから料理部にしたの」

「そ、そうなんだ、うん……アーサーは?」
「料理部」
「はいボクの予想通り~。アーサーはエリスと同じ活動に入ると思ってました~。賭け金は青銅貨二枚ですぅ~」
「……」



 イザークが差し出した手のひらを無視して、アーサーは彼の頬に平手打ちをかます。



「痛ってぇ! 無言でビンタするんじゃねぇ!」
「時間的にもう行った方がいいだろう。料理部の部室はどこだ」
「えっと、調理室だから……四階だね」

「あ、手芸部は五階の空き教室だから……途中まで一緒だ」
「あーもう! それじゃあボクはさっさと帰って寝るわ。行くぞサイリ!」
「ばいばい、また明日ねー」
「また明日、イザーク」
「はぁ……」




 イザークは立ち上がりってウインクを決め、一回転してからロッカーに向かう。そして鞄をサイリに投げ渡すとそのまま教室を出ていった。




「アーサーどうしたの? 溜息なんかついて」
「いや……何も」
「そっか? アーサーがそう言うならいいけど。それじゃあ行こうか」
「ああ」
「ワンワン!」

「あたし達も行こうか、セバスン」
「了解いたしました、お嬢様」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...