ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第1章1節 学園生活/始まりの一学期

第14話 対立と不安定

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 そうして今日も放課後がやってきた。夕焼けが生徒達を労うように空を包む。


「アーサー、今日もお疲れ様。初めての本格的な授業だったけど、どうだった?」
「色々あった」
「もしかしてまたイザーク?」
「……」

「なんていうか……賑やかだよね」
「……ふん」



 ホームルームが終わった後、当のイザークはとっくに寮に戻り、カタリナは課外活動のため早く教室を出ていっていた。アーサーとエリスは教室を出ずに会話をしていたのだが、


 そんな何でもないはずの時間の最中、騒ぎが起こる――



「……あれ? 何かあったのかな?」


 教室の生徒達が次々と外に出ていく。開きっ放しの扉からは、人だかりができているのが僅かに見えた。


「行くぞ。状況を確認する」
「ワン!」
「……うん」





 教室から出ると、そこには既に人の壁ができており、先を見通すことを困難にさせていた。


 二人は背伸びをしながら人壁の向こうを観察する――するとその光景が見えた。



「おい、何か言えよ」
「……」
「何か言えって言ってんだろ!!!」


 大柄な生徒がもう一人の生徒に蹴りかかかった。すでに地面に倒れていた生徒は苦しそうに息を吐き、ナイトメアと思われる屈強なオーガに押し倒されている。


「お前知らないのか? 一年生は魔術昇降機を使っちゃいけねえんだよ。使っていいのは二年生だけだ、わかってんのか!!!」
「す、すみま、せん……」
「すみませんだあ? 本当にわかってんのかてめえ!!!」


 大声を荒らげ、生徒に殴りかかる。野次馬の生徒達は何かする前に身体が動かなくなり、ただ二人の様子を眺めていることしかできなかった。




「……行かなきゃ、アーサー。誰かが言わないとこのままじゃ……!」
「……」


 エリスの言葉を聞くと、


 アーサーはすぐに腰の鞘に手をかける。


「――待って! そうじゃないの! 実力行使じゃなくって他の方法で……!」
「武力には武力を持って制する。あんたはあいつを助けたいんだろう。それなら他にどんな手段がある」
「それじゃあ何も解決しないの!」


 エリスは力を込めて、剣を取ろうとする手を抑える。


「剣で物事を語るのは最後の手段だよ。最初から剣に頼ってばっかりじゃ……だめなの……」
「……オレの戦ってきた連中はそういう奴らばかりだった」



 アーサーはそう言って、抑え込む手を払い退けた。


 静然と、だが毅然としてエリスを見つめ、そして語る。



「最初から話し合おうともせず、武器で突き刺してくる連中。武力でしか物事を計れない連中。今の奴もそれと変わりなはい」
「……違う! ここは戦場じゃないの! 彼ともわかりあえるはず……」
「……」


 アーサーはエリスの瞳を見つめ、ゆっくりと手を降ろす。


「……どうしてそんな苦しい顔をしているんだ」
「だって、だって……わたしとアーサーの考えていること、全く違うから……」
「……オレのせいだというのか?」
「……そうなのかな。そうなっちゃうのかな。わたしはそんなつもりないんだけどな。でも……」
「オレの、せい……」



 すると、アーサーの呼吸がどんどん荒くなっていく。



「……え?」


 だんだんとよろめき始め、終いには壁にもたれかかって肩で息をし始める。


「……アーサー?」
「騎士は主君の人形、主君の僕、主君の苦しみを抹殺する者、それが、それが――騎士自身であるならば――、そんな騎士は――」
「ねえ、何言っているの、アーサー――」


 肉体には徐々に、様々な色に光る紋様が現れ、さながら彼を縛り付けているのかのよう。

 足元にいるカヴァスも苦しそうにその場にうずくまっている。




 その光景をエリスが飲み込めないでいると、状況は変わる――突然階全体に、冷たい声が響き渡った。




小夜曲を贈ろう、セラニス・静謐なる水の神よマーシイ――」



 その声の詠唱が終わった途端、生徒の頭上から大粒の雨が降り出した。

 突然の雨に殴っていた生徒はたじろぎ、殴るのを止める。

 殴られていた生徒も呆然として周囲を見回していた。



「なっ、何だこれはぁぁぁ……!?」


 騒ぎを起こしていた生徒の前に、三階に続く階段から別の生徒が降りてきた。

 黒い髪を七三に分け、これまた黒い眼鏡をかけた生徒である。そして暗い青色の瞳が鈍く輝き、生徒を見下す。


「フォルス・ガンド。聞いていた通りの獰猛な奴だな」



 生徒の腕には赤い腕章がついており、そこには校章が刻まれている。誰もがその腕章を見れば、ほっと一息つくか不味いことになったと青褪めるかのどちらかだ。



「て、てめえ……一年生か!? 一年生が俺に命令するんじゃねえ!」
「それ以前に俺は生徒会なんでな。いいか、魔術昇降機は生徒が快適に移動するという目的で設置されている。上級生が下級生に威張り散らすための道具ではない。自分勝手な決め事を押し付けるな」
「言わせておけばっ……!」


 フォルスは腕章の生徒に殴りかかろうとする。

 その瞬間、生徒は右手に持っていた杖を素早く横に振り――水の壁を形成した。



 一年生と彼は名乗っていたが、そうとは思えないぐらいに鮮やかだ。恐らく入学前に何かしらの手ほどきを受けている。

 フォルスはそれに、下級生が作った完璧な魔法に跳ね返され、壁に背中を打ち付けた。



「……ヴィクトール君!」



 騒ぎの途中またしても階段から生徒が降りてきた。とんがり帽子を被った茶髪で低めのツインテールの生徒であり、彼女もまた腕章をつけている。その色は色は赤ではなく橙だった。



「リリアン先輩。悪党は始末しました」
「ヴィクトール君……! ああもう! 言いたいことは山程あるけどそれは後!」


 リリアンはフォルスに駆け寄り、ごてごてした彼の顔を見つめながら話す。


「フォルス君、また下級生に暴力を振るったのね。もうわかっていると思うけど、一回生徒会室に連れて行くね。その後は先生方が何とかしてくれるから――」
「あ、あいつが……悪……」
「言いたいことは生徒会室で聞くわ。ねえアッシュ、そっちの生徒はどう?」
「こっぴどく殴られているね。でも僕の完璧な魔法で何とか持ち直したよ」


 リリアンが被っていたとんがり帽子が、いつの間にか生徒に覆い被さっており、

 それは黄緑と白い光で生徒を覆い、痛みを和らげていた。


「そっか、それならよかった。一応保健室に連れていって診てもらいましょう。ヴィクトール君、頼める?」
「はい。シャドウ、頼む」


 ヴィクトールの影からにゅるりと人間が出てくる。


 それはヴィクトールと瓜二つの姿をしているが、はっきりとわかる違いとして、眼鏡をかけていなかった。


「あ、ありがとう……」
「生徒会の責務をこなしたまでだ」




 騒動の原因になっていた生徒がいなくなったのを皮切りに野次馬達も散らばっていく。




「よかった。本当に……よかった」
「……」
「……大丈夫?」
「ああ」


 アーサーはすっかり持ち直し、しっかりと両足で立ち、呼吸も正常になっている。カヴァスも同様に彼の足元を走り回っていた。


「……帰ろうか」
「……」


 そうしてエリスが鞄を持ってくるまで、アーサーは誰もいなくなった廊下をじっと見つめているのだった。
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