ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

文字の大きさ
58 / 247
第1章1節 学園生活/始まりの一学期

第57話 火の小聖杯

しおりを挟む
 人間と竜族が多く行き交う商店街を横目に見ながら、エリスはルカにある質問をした。


「そういえば気になったんですけど」
「ん、何々?」
「竜族の方の……言葉ってどうなんですか?」


「あーそれね。竜族ってさ、固有の言葉を持たないんだよね。いつもぐるるるーとかがおおおおーとか、そんな叫び声みたいなので意思疎通している」
「そうなんですか。それでさっき、話を聞いてくれなかったんだ……」
「低俗な連中の言葉なんて必要ないと思っているからね。だから意思疎通できなくて喧嘩するなんて、しょっちゅうだよしょっちゅう」



 そうして商店街を歩いていると、

 ルカによく似たピンク色の猫と、魔法学園でも会った黒竜が屋根の上から飛び降りてきた。



「ジャバウォック。よく来た」
「あっチェシャ~。どう? おしゃべりできた?」

「……もしかしてこの猫って」
「うん、あたしのナイトメア。チェシャっていうんだ」
「ニャオ~ン」


 チェシャはルカの肩に乗り喉を鳴らす。挨拶のつもりだろう。


「おお、エリスにアーサーじゃねえか! お前ら何でここに?」
「観光で来たんだ。そこでルカさんに助けてもらって、ルシュドに会ったってわけ」
「そうかそうか。びっくりしたぜ……でも観光なら仕方ないな!」


 ジャバウォックはルシュドの隣に飛んでいく。


「そ、その……」
「ん、どうしたルシュド」
「……言葉……」
「言葉がどうした?」
「……」

「おう、言いたいことがあるなら自分で言えや。俺は待つぞ?」
「ジャバウォック……多分そういうことじゃないと思うよ」


 エリスは、ルシュドの肩をばしばし叩くジャバウォックを嗜める。


「話を元に戻したいけど、それが言い出しにくいんだよね」
「……うん」



 エリスの目を見てこくこくと頷くルシュドだった。



「だーっ、そういう時は話を元に戻すけどって言えばいいんだよ」
「う……」
「それぐらいにしてあげてよ、もう」
「……あんたのその態度。こいつの言葉が関係しているのか?」
「そうだぜ!」


 ジャバウォックはぐるっと宙返りをする。


「前に言った通りだ、俺はこいつに喋る訓練をさせている。ただ理由は口下手だからじゃなくって、帝国語を上手く使えるようにだがな」
「そうなんだ……本当に口下手なんだと思ってた」
「……おれ、帝国語、勉強、してる」
「頑張ってるの伝わってくるよ、これからも精進してね!」





 そんな話を続けながら歩いていると、先頭にいたルカが立ち止まった。

 どうやら目的地に到着した模様。彼女は手を前に出して紹介する。



「さっ、着いたよ。この建物の中に小聖杯があるんだ。皆からは神殿って呼ばれてる」



 その建物は例によって建材は剥き出しで、強いて言えば窓硝子が数枚張られているだけである。



「神殿、ですか……」
「まあ重要なもんがあればそこは神殿よ。見た目がどうであっても。とにかく中に入っちまえ」


 竜賢者に嗜められ、エリス達は神殿に入る。





 神殿の中には上裸の男がいた。男は眼帯をし、筋肉が隆々と革の服からこぼれている。

 客人に気付いた男は後ろを振り向き、ルカと彼女が連れてきた客人達と対面した。



「おお、聖杯を眺めていたら人が来てしまったな」
「やっほーおっちゃん。お客さんだよ。何も観光名所とかないからここに連れてきた」

「……ずばっと言われてしまったな」
「無い方が悪いんだからね。んで、この荒くれみたいなおっちゃんはスミスさん。一応ガラティアの人間側のリーダーだよ」
「一応って……全く。ルカちゃんは言葉を選ばないなあ」
「そんなん面倒臭いし」



 外観に似合うように、室内も小聖杯以外何もない。例によって内装も施されておらず、外に張ってあった窓ガラスがそのまま光を取り込んでいる。



「割と無防備に見えるんですけど、大丈夫なんですか?」
「防犯用の魔術結界は目に見えないんだ。見えたら意味ないからね」
「なるほど……」
「ワオン……」
「……」



 アーサーとカヴァスは限界まで小聖杯に近付く。


 黄金の杯の中で煌々と火が燃え盛っており、横に倒そうものならすぐに火が燃え移ってしまいそうだった。


 殺風景な室内で唯一小聖杯だけが認識できる物体として置かれている。だがそれだけにも関わらず、この建物は一際神秘的な雰囲気を醸し出していた。



「それ以上手を伸ばしたら焼き切られるからな。気を付けろよ」
「……っ」
「じゃあこの辺で……拝むってどうすれば?」
「適当に手を合わせて有難がっとけ」
「そうしよっか。ありがたやーありがたやー」


 エリスは両手を合わせ、目を瞑ってお辞儀をする。アーサーもそれを真似て手を合わせた。




 そうこうしていると、また神殿に誰かが訪れたようだ。


「おやおや、大層賑やかなようで」
「あ、お父さんにお母さん」



 入り口から中を覗いていたユーリスとエリシア、そんな二人に駆け寄るエリス。何時間かぶりになる家族の再会である。



「エリス達もここにいたんだね。僕達は宿に荷物置いて適当にぶらぶらしていた所」
「ここ、宿の人に紹介されたの。街唯一の観光名所だって」

「あーまあ確かにそれは合ってますね。こんにちは、ルカです。街の案内とかやってます。この人はお供の竜賢者様」
「逆だろうが。お前が来たいって言うからお供にしてやってんだろうが」
「あはははははー」



 ルカがやや冗談めいた笑いをする。


 その隣で、ルシュドが興味深そうにエリスに話しかけてきた。



「……誰?」
「わたしのお父さんとお母さんだよ。一緒に旅行に来たんだ――ねえねえ聞いて、この子はルシュド。わたしの友達なんだ」
「へえ! こんな所で会うなんて偶然もあるもんだ。僕はエリスのお父さんでーす」
「あなたねえ……」

「初めまして。おれ、ルシュド」
「おうおう丁寧語はどうしたんだ? 目上の人には何をつけるんだったかなぁ?」
「あ……」


 ルシュドの表情が一気に焦ったようなものになる。それを受けて、すかさずフォローするエリス。


「ルシュドはね、帝国語を勉強中なの。だから言葉が時々おかしい所があるんだ」
「……ごめんなさい」

「そうか、勉強中なら仕方ないね。僕は怒らないよ」
「私も気にしないから大丈夫よ」
「ありがとう。ございます」
「ほら次は言えたじゃないか。それでオッケーさ」


 ちょっとだけ晴れやかな気持ちになったルシュドは、


 顔を上げ、今度はアーサーに話しかける。


「アーサーは?」
「何がだ」
「父さん母さん」
「……は?」
「二人、父さん母さん、エリスの。だからアーサー、父さん母さん、どこ? おれ、挨拶、する」




 目を輝かせ始めたルシュドとは対照的に、ペンドラゴン一家の表情が強張る。




「あー確かにね。こんな所に子供一人で来ないもんね」
「ともすれば両親が来てても可笑しくねえな」


 ルカと竜賢者も同調して頷く。それに対してユーリスは咳払いをしてから切り出す。


「えっとね、アーサーのご両親はね、忙しくてアーサーとは一緒に行けないって言ったんだ。だから僕達にアーサーだけを預けてきたんだ」
「……つまり?」
「アーサーの両親はここにはいないってことだぜ」
「そっか……」


 口を萎ませるルシュドを、エリスは心の中で謝りながら見つめる。


「ん、そろそろ夕方になるね……ここにいるのもあれだし、用が済んだら宿に行きませんか?」
「日が暮れるとこの辺物騒になるしな。観光目的なら夜は宿に籠っていた方がいい」
「ついでにあたし達もお邪魔しようよ。ここで会ったのも何かの縁だし」
「賛成です、食事の席は人が多い程楽しいですしね」

「決まりぃ。えっと取った宿は……『岩石亭』ですか?」
「凄い。どうしてわかったんですか」
「この辺で一番おすすめできる宿なんで。それじゃあっちの方だねー」





 我先にとルカが駆け出した横で、エリスはユーリスに耳打ちする。


「お父さん……さっきはありがと」
「僕も完全に失念してた。いやー三ヶ月もいないとさ、実感湧かないよね……原初のナイトメア、騎士王が僕達の家にいること」
「うん……」


 ぼんやりとアーサーの後ろ姿を見つめているエリスは、もっと実感が沸いていない。


「……何をしている。置いていくぞ」
「今行くから待っててアーサーっ」
「ちょっと秘密のお話してただけだよー。てかアーサーよぉ僕に敬語使えやちくしょーが」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。  カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。 ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)  異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。  他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。  自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します

みかん畑
ファンタジー
無能と蔑まれ、Aランクパーティを追放された結界師フィン。 行き場を失った彼を拾ったのは、辺境伯の娘リリカだった。 国土結界の恩恵が届かない辺境で、フィンの結界は本当の価値を発揮していく。 領地再建、政治の駆け引き、そして少女のまっすぐな想い。 これは無能と呼ばれた男が、辺境で居場所を見つけ、やがて年の差婚へと至る物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。 だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ! 捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……? 無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

処理中です...