ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期

第64話 研鑽大会

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 少年少女の秘密の計画が進む裏では、何の変哲もない日常が綴られる。それは翌週の魔法学園にて。


 アーサーとイザーク、そしてルシュドは現在武術の授業の真っ最中。休暇前に教わったことをよく思い出して、拳で木の的を破壊していく。




「ふんっ……!」
「おりゃー! ぐっ……!」
「ぬぅん……いってぇ!」


 イザークが放った拳は、突き抜けずに的に阻まれた。痛みのあまり手首を大きく振る。


「だぁー……! 全く難しいな! 行けると思ったんだけど!」
「ふんっ……」



 アーサーは痛がるイザークを尻目に、次々と拳を放っていく。



「オマエはいいよなあ。力強くて。ボクなんかと比べ物にならねーじゃん」
「……」


 視線を感じたので、訓練の手を止めてイザークを見つめるアーサー。


「……何だよ」
「いや……」



 アーサーの脳裏に彼の姿が浮かんでは消えていく。


 次々と他人に話しかけ、心を開いていく姿だ。



「……真面目に何だよ?」
「……」



「……オレは武術が上手。あんたは下手」
「そうだなあ」
「だけどオレも下手で、あんたも上手」
「何が?」

「……」
「……」





「おーい。アーサー、イザークー」


 微妙な空気が流れていた所に、颯爽と割り込む快活な声。


「……お、ルシュド。どうしたよ」
「授業、おしまい。おれ、二人、呼ぶ」
「あーもうそんな時間か。よし片付けようぜ」
「……ああ」


 ルシュドの呼び声を合図に、二人は授業の道具を片付け始める。



「どうした? 様子、おかしい」
「いや……別に」
「違う。何か、あった。何が、あった?」
「……あー。んじゃあ一応訊いておこう」


 イザークはアーサーから離れてルシュドに近付く。


「……ボクが上手でアイツが下手なもの。心当たりある?」
「……? ごめん、知らない……」
「だよなあ……」


 それから首だけを後ろに向け、黙々と片付けるアーサーを見遣った。





「よし、皆今日も訓練お疲れ様」



 集まってきた生徒達に次々とクラヴィルが労いの言葉をかける。


 全員が集合した所で、授業とは全く違う話を切り出した。



「さて、休憩しながら聞いてくれ。皆が学園に入学し、武術の訓練を始めてから大体半年になる。そろそろ腕前に個人差が出てきたと思うが、その中でも特に上手な生徒は、そろそろ研鑽大会に出場しても良い頃合いだと思うぞ」


 研鑽大会、という単語を聞いてほとんどの生徒が首を傾げる。


「研鑽大会は文字通り武術と魔術の研鑽を目的とした大会だ。トーナメント方式で出場した生徒が戦い、頂点を決める。そして何と言ってもこの大会、成績に応じて小遣いがもらえるんだ」


 小遣い、という単語が聞こえるとほとんどの生徒が目を輝かせた。


「ははは、やっぱり皆お金は好きだもんな。興味がある生徒は日曜日になったら学園の北、王城近くの騎士団管轄区に行ってみるといい。円形闘技場、俗に言うコロッセオが設置されていてな。そこで執り行われているぞ」




 ルシュドは水を飲みながら、他の生徒と同様に目の色を変えて話を聞いていた。




「おおっ、ルシュド目がマジになってるな」
「……え? ご、ごめん……」
「いやいや、怒ってねーし。むしろ褒めてるし。オマエ大会に出たいのか?」
「……うん」


 一回だけ大きく頷く。意思表明には申し分ない。


「よしわかった。今週末応援に行くわ。アーサー、オマエも来るんだぞ」
「何故そうな「応援に行くんだよっ!!」


 言い終える前にイザークは肩を小突いた。やけに力強く。


「応援?」
「そう応援。折角友達が出るんだから応援に行かない理由がないだろ!?」
「……応援」
「絶対に来いよ!! 言ったからな!!」







「……ということがあったんだが」



 帰宅後、夕食後の夜。アーサーはエリスと一緒に魔法学総論のレポートを進めながら、武術の授業であった一連の話をした。



「そっかぁ……大会なんてあるんだね」
「後から言われた話だと、魔術の大会もあるそうだ。だが魔法学総論の方ではそんな話はされてなかったが」
「魔術の方はあれじゃない? 一年生出ても太刀打ちできないからじゃない?」
「……そうか」


 エリスは髪を触りながら話を聞いている。疲れたのかペンは置いていた。


「アーサーはさ、行きたい? ルシュドの応援」
「……」



 ペンを走らせる手を止めてから。だからといってすぐに言葉に出さず、思考する。



「……オレはお前の側にいることが使命だ」
「そういうの置いておいてさ。アーサーはどう思ってるの?」
「……」


 アーサーは思わず視線を下に向ける。そこにはカヴァスが香箱座りで眠っているが。小動物特有の愛らしい寝顔も今は気にならない。




「オレは……応援が何なのか、知らない」


 俯いたまま独り言のように言った。




「そっか。それならますます行かないと。応援が何なのかこの機会に知っておこう」
「だが、お前は予定が……」
「うん。カタリナにリーシャと会う約束してたよ。でもその辺散歩するだけだから、二人も誘うよ。それでいいでしょ?」

「……」
「あの二人なら大丈夫だよ。だから、一緒に応援行こうね」


 緑の瞳がアーサーを覗き込む。そこらの少女達と然程変わらないのに、頷かざるを得ない迫力があった。


「……感謝する」
「ううん、こっちこそ。応援の話、教えてくれてありがとうねっ」







 そして日曜日がやってきた。



「大会に勝つだけで小遣いがもらえる。うーん、なんて素晴らしい催し事なのかしら」
「あたしには縁遠い世界かなあ……お金に困ってないし」
「え、何それ羨ましいんだけど」


 リーシャとカタリナは談笑しながら地上階を歩く。百合の塔からこんな調子でやってきたのだった。


「あ、あの子じゃないかな?」
「本当だ! おーい!」


 そしてエリスの姿を見かけると、合図に手を振ってから駆け付けた。





「お待たせー。今日は応援に誘ってくれてありがとねっ」
「ううん、こちらこそ急に変更しちゃってごめんね」
「いいよいいよ、せっかくの機会なんだし」


 そこに近くの建物を眺めていた、アーサーとイザークもやってくる。


「うーっす。リーシャは久しぶりだなあ、元気してる?」
「あー、ぼちぼち。テストで言うと六十点ぐらい」
「じゃあ元気だな。良かったぜ」
「良いのかな……?」
「生きていれば良いことなんだよぉ!!」
「……」


 アーサーは門の向こうに目を遣る。鉄の門を境に、整備された道や緑地が並ぶ。加えて小綺麗な建物が幾つかに、広めの演習場も目に入った。


「騎士団管轄区、か」
「何か宿舎とか訓練場とか色々あるらしいぜ」
「そんな所に入っていけるなんて、本当に開かれた国だよね」
為政者いせいしゃとの距離が近い反面、いざって時に敬意を向けることが難しくなるんだよなー」


 そんな話をしながら五人は騎士団管轄区の中に入っていく。




 騎士団管轄区内に建てられている円形闘技場。土造りの茶色な建物であり、中はランプと魔術照明が中を照らす。壁には生徒達の落書きや寄せ書きが描かれており、独特の土臭さが鼻を刺激する。




「ここが観戦席かー」
「円形闘技場なんて本の挿絵ぐらいでしか見たことなかったけど、本当にあるんだ」
「聖杯時代の頃から、闘技場ならこの形って決まってるよな。ぐるーっとどっからでも戦闘が見渡せるのが理由だろうけど」



 五人は中央部脇の階段を上っていき、屋外の観戦席までやってきた。


 既に八割程が観客で埋まっており、その大半が学生服を着た生徒である。自分達もその一部となるのだった。



「さてと、今日の参加者はっと……」


 最前列の席に腰かけた後、イザークは受付で受け取った書類に目を通す。


「第一回戦、ルシュドの相手はフォルスだって。この生徒知ってる?」
「うーん知らないなあ……」
「どこかで名前は聞いたことあるかも?」
「そうだとしたら恐らく碌なことじゃねえな」



 四人の隣にいたのは、三本の尻尾とを生やした男。更に観察すると、毛で覆われたクリーム色の耳が生えているのも確認できた。足を組んで座っていた彼が話に割り込んできたのである。



「……あの。いきなり人の話に入ってきて……どちら様なんでしょうか」
「なあに、怪しい奴ではねえよ。俺はアルベルト、グレイスウィル騎士団所属のしがない一般騎士さ」
「騎士様かー。じゃあ職務怠慢で通告しないとなー」
「いやいや、今はオフだから。任務外だから。普段は訓練とか頑張ってるから訝しく思わないでくれよ?」


 アルベルトは葉巻を吸って、煙を吐き出す。その間、彼の耳や尻尾がわさわさ揺れていた。


「獣人……ですか?」
「そうそう、俺は狐の獣人。鎧着てたら暑そうとか、そもそも入らないんじゃないのかって思ってるだろ? そこは魔法でどうにかしてんのさ」
「へー。魔法ってすげー」
「お前ら多分学生だろ? なら魔法を自由に扱えるようになったら、防寒防暑もなんのそのだから頑張れよ。そうそう、フォルスのことなんだが」


 身を乗り出し、五人にだけ聞こえる声で話すアルベルト。


「あいつは二年生なんだが、学園内ではかなり恐れられているようだ。とにかく気に入らない奴は見境なく殴る。教師陣も大分持て余しているらしいぞ」
「うっわ……ヤべーヤツじゃん。勝てる気がしねえよ」
「んで対戦相手のルシュド……こいつに関しては何にも知らないな。というか初めて見る名前だ」

「なら私達の方が詳しいですね。ルシュドは一年生で、私達の友達。今日は初めて大会に出るから応援に来たんです」
「なーるほどそういうことか。じゃあこの機会に、その戦いぶりをとくと観戦させてもらうとしよう」



 葉巻を放り投げ、どっしりと座席に腰を落ち着けるアルベルト。ぶしゅっという葉巻の火が消える音がした。



「あー騎士様がポイ捨てしてるー。通告しなきゃー」
「待て待て、俺は『ルゼール』のチョコレートを持っている。城下町にある高級チョコレートの店だ。お値段は一個につき五百ヴォンド。この試合終わったらくれてやるから、通告はやめろ」
「あれれー。今騎士様何かしてたのかなー。ボクの目には何にも入らなかったなー」
「こいつは……はぁ」



 そんな話をしていると、闘技場に角笛の音が響く。


 更なる力を求める二人の勇士が激突し合うことを知らせる、重厚で迫力のある音色だ。
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