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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期
第90話 渦巻きポテト・その1
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「ただいま戻りましたー」
「……戻った」
「おふかれ~」
エリスとアーサーは調理室に入り、丁度昼食を食べていたリーシャに声をかける。
「今日のご飯は購買部のサンドイッチだよー。今日ぐらいは贅沢してもいいよねっ」
「別にいいと思うよ。あれ、リーシャも次のシフトだっけ」
「そうだよ、ごっくん! さあ着替えよう」
「リイシアがごはんを食べているあいだに、スノウはエプロンをじゆんびしていたのです!」
「ありがとスノウ~!」
スノウからエプロンを受け取ると、リーシャは片手でばっと広げて両手で着用する。
「……プロの動きだねぇ」
「褒められるもんじゃないって~」
「準備はできた。行くぞ」
「はーい」
愛用歴半年のエプロンを着け、三角巾をきっちり被り、三人は三年四組の教室に向かう。
三年四組の教室は、現在料理部によって旗やスプレーで装飾され、楽しい雰囲気に包まれている。食事スペースにはちらほら人がいて、ポテトを美味しそうに頬張っていた。
「よし来たね。じゃあ仕事の確認をするよー」
「はーい」
「はい」
「……」
三つある販売スペースのうち一つに来た三人は、先輩生徒に合流する。そして説明を受けた。
「接客、会計、調理。やる仕事は大体この三つ。接客と会計は協力して臨機応変にやってってねー。それでエリスちゃんが接客で、リーシャちゃんが会計で、アーサー君が調理だね」
「……ああ」
「はい」
「頑張りますっ!」
「大変元気がよろしい。あ、そうだ。ナイトメアの発現についてなんだけど……」
生徒はスノウとカヴァスを交互に見る。
「えっとね、学園祭は外部から沢山のお客さんが来るんだ。中には食事の場所に犬がいるなんて不衛生だと思う人もいるだろうから、アーサー君のは仕舞っててほしいな」
「ワン!」
アーサーが指示を出す前に、カヴァスは自分から身体の中に入っていった。
「大体こんなもんかな。他わかんないことある?」
「うーん……初めてのことばっかりで、仕事内容を聞いてもわからないことだらけですね……」
「あはは、そうだよね。まあわからないことがあったらその都度質問すればいいよ。さっ、位置についてついて」
先輩生徒に誘導されるがまま、エリスは机を動かし受け渡し口に入ろうとしたが、
すぐに立ち止まって入り口の方を見る。
「……どうしたの?」
「あそこに倒れている人が……」
「え?」
三人も首を傾けて入り口の方を見る。
そこには女が顔面から倒れ、陸に上がった魚の様に四肢をピクピクを動かしていた。
「……何だろう、あの……やっとここに来たけど、直前で力尽きた、みたいな」
「皆気味悪がって無視してるじゃん……」
「うーん……アーサー、一緒に来てよ」
「わかった」
「ちょっ、気を付けてね?」
エリスはアーサーを連れて女性の所に向かう。
「……誰だぁぁぁ貴様はぁぁぁ……」
二人が女に近付き、更に口を耳に近付けると、僅かにそう言っているのが聞こえた。
「あの……料理部の生徒です。そこで渦巻きポテトの販売を行ってます」
「ポテトォォォ……? そうだぁポテトだぁぁぁ……腹が減って死にそうだからぁぁぁ……ここまで頑張って来たんだぁぁぁ……」
「そ、そうなんですか……そういうことなら、食べていきますか?」
「食わせないならテメエは人殺しになるぞぉぉぉ……」
「……取り敢えずここにいられては迷惑だ。店内に連れて行くぞ」
「うん、お願いね」
アーサーは女を担ぎ上げ、軽々と背中に背負う。
身長はアーサーよりも小さく百四十センチ程度。白を基調にピンクとクリーム色で飾り、大量のフリルをあしらったドレスを着ている。髪はブロンドのセミロングで、丁寧に切り揃えてあった。
「……子供か、こいつは」
「女の子……お父さんとかとはぐれちゃったのかな?」
「あああああああああ……」
二人の言葉に対し、女は呻くような声で返事をした。
そして女を教室まで連行し、販売場所から見て真正面にある椅子に座らせる。
「よし、ここに座れ。既に揚がっているのがあるから持ってくるぞ」
「嫌だぁぁぁ揚げ立てがいいぃぃぃ……揚げ立てを食いてえよぉぉぉ……」
「そ、そこにはこだわるんですね……」
そこにリーシャがポテトを一本持ってきて、
「はい、これどうぞ」
「丁度いい。ほら、つべこべ言わず食え」
「もがっ」
アーサーは女の口にポテトを突っ込む。
「……」
女は口を動かして噛み切り、串を右手で持つ。
「……うめえ」
最初の一口を飲み込んだ後、女は言葉に出して感情を表現する。
「うめええええええ!!! うめえぞおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
「……っ!?」
それから椅子から飛び降り、飛んだり跳ねたりの大合唱。
釣り上がった目が大きく見開かれ、生気が再び宿ったことを示している。
「アーッハッハッハッハ!!! これで元気爆発だぜぇぇぇ!!! 今の私は最強無敵だぜぇぇぇ!!! 殺せるもんなら殺してみろってんだぁぁぁぁぁ!!!」
「……え、えっと」
「おいガキ共ぉぉぉ!!! ポテトをもっと寄越せぇぇぇ!!! 二十本だぁぁぁ!!!」
「にじゅっ……!? えっと、お一人様につき二個まで、主君とナイトメア合わせてなので……!!!」
「貴様等あああああ! 私の言うことが聞けねえって言うのかおおおおおおおん!?!?!?!?」
「こいつは――」
アーサーが警戒し身構えるのと同時に、
「げひゃひゃひゃ! ここにおられましたかご主人!」
暗い黄土色のオークを先導に、男性二人が入り口から慌ただしく入ってくる。
「発狂じみた叫び声が聞こえてきたと思ったら……!! こっちにいたんですね姐上!! 探しましたよ!!」
「離せぇ!!! 離せぇぇぇ!!! 私はこのポテトを食ってポテトキングへと成り上がるのだあああああああ!!!」
「何で昨日の酔いが覚めていないんですか姐者ぁぁぁ!!!」
橙色の髪を盛った茶色の革鎧の男性は、女性を豪快に抱え上げる。彼女は必死に短い四肢でもがいて抵抗していた。
そして一緒に来ていた、紫色の髪を刈り上げた同じような革鎧の男が会計口に近付く。
「えっと俺達は六人パーティだから……!! ポテト六本ください!!」
「はっ、はいぃ!? お会計は六百ヴォンドになります!?」
「よし、金貨だ!! 面倒臭いから釣りはいらない!!」
先輩生徒が素早くポテトの準備をし、リーシャが手渡す。
既に揚げ上がり時間が経ったポテトが四つ、揚げ立てのポテトが六つ、紙コップに入った状態で手渡された。
「ほら!!! 揚げ立てポテトですよ姐者!!! これ食べてご機嫌取り戻してください!!! ねっ!?」
「つけあがるなああああああ!!! 私を誰だと思っているううううううう!?!?!?」
「もう駄目だ!!! こうなったら撤退するしかないぜ兄者!!!」
「げひゃひゃひゃ!!! 皆様、うちの主君がどうもご迷惑をおかけしました!!! どうか我々のことは記憶から抹消しておいてください!!! では!!!」
こうして最後までけたたましい足音を立てて、彼女らは撤収していった。
「……先輩、今のは?」
「毎年ね……あんなのがいるんだよね……」
「ま、毎年……」
「祭りだから調子乗っちゃうんだよ、色々と。さあ、気を取り直して頑張ろう!」
「……そうですね! 頑張ります!」
「あんなのシア所に来ちゃったら、この先もうどんなアクシデントにも耐えられる気がするわ、私!」
「……ああ」
改めてエリス達は持ち場に就く――学園祭の後半戦が幕を開けた。
「……戻った」
「おふかれ~」
エリスとアーサーは調理室に入り、丁度昼食を食べていたリーシャに声をかける。
「今日のご飯は購買部のサンドイッチだよー。今日ぐらいは贅沢してもいいよねっ」
「別にいいと思うよ。あれ、リーシャも次のシフトだっけ」
「そうだよ、ごっくん! さあ着替えよう」
「リイシアがごはんを食べているあいだに、スノウはエプロンをじゆんびしていたのです!」
「ありがとスノウ~!」
スノウからエプロンを受け取ると、リーシャは片手でばっと広げて両手で着用する。
「……プロの動きだねぇ」
「褒められるもんじゃないって~」
「準備はできた。行くぞ」
「はーい」
愛用歴半年のエプロンを着け、三角巾をきっちり被り、三人は三年四組の教室に向かう。
三年四組の教室は、現在料理部によって旗やスプレーで装飾され、楽しい雰囲気に包まれている。食事スペースにはちらほら人がいて、ポテトを美味しそうに頬張っていた。
「よし来たね。じゃあ仕事の確認をするよー」
「はーい」
「はい」
「……」
三つある販売スペースのうち一つに来た三人は、先輩生徒に合流する。そして説明を受けた。
「接客、会計、調理。やる仕事は大体この三つ。接客と会計は協力して臨機応変にやってってねー。それでエリスちゃんが接客で、リーシャちゃんが会計で、アーサー君が調理だね」
「……ああ」
「はい」
「頑張りますっ!」
「大変元気がよろしい。あ、そうだ。ナイトメアの発現についてなんだけど……」
生徒はスノウとカヴァスを交互に見る。
「えっとね、学園祭は外部から沢山のお客さんが来るんだ。中には食事の場所に犬がいるなんて不衛生だと思う人もいるだろうから、アーサー君のは仕舞っててほしいな」
「ワン!」
アーサーが指示を出す前に、カヴァスは自分から身体の中に入っていった。
「大体こんなもんかな。他わかんないことある?」
「うーん……初めてのことばっかりで、仕事内容を聞いてもわからないことだらけですね……」
「あはは、そうだよね。まあわからないことがあったらその都度質問すればいいよ。さっ、位置についてついて」
先輩生徒に誘導されるがまま、エリスは机を動かし受け渡し口に入ろうとしたが、
すぐに立ち止まって入り口の方を見る。
「……どうしたの?」
「あそこに倒れている人が……」
「え?」
三人も首を傾けて入り口の方を見る。
そこには女が顔面から倒れ、陸に上がった魚の様に四肢をピクピクを動かしていた。
「……何だろう、あの……やっとここに来たけど、直前で力尽きた、みたいな」
「皆気味悪がって無視してるじゃん……」
「うーん……アーサー、一緒に来てよ」
「わかった」
「ちょっ、気を付けてね?」
エリスはアーサーを連れて女性の所に向かう。
「……誰だぁぁぁ貴様はぁぁぁ……」
二人が女に近付き、更に口を耳に近付けると、僅かにそう言っているのが聞こえた。
「あの……料理部の生徒です。そこで渦巻きポテトの販売を行ってます」
「ポテトォォォ……? そうだぁポテトだぁぁぁ……腹が減って死にそうだからぁぁぁ……ここまで頑張って来たんだぁぁぁ……」
「そ、そうなんですか……そういうことなら、食べていきますか?」
「食わせないならテメエは人殺しになるぞぉぉぉ……」
「……取り敢えずここにいられては迷惑だ。店内に連れて行くぞ」
「うん、お願いね」
アーサーは女を担ぎ上げ、軽々と背中に背負う。
身長はアーサーよりも小さく百四十センチ程度。白を基調にピンクとクリーム色で飾り、大量のフリルをあしらったドレスを着ている。髪はブロンドのセミロングで、丁寧に切り揃えてあった。
「……子供か、こいつは」
「女の子……お父さんとかとはぐれちゃったのかな?」
「あああああああああ……」
二人の言葉に対し、女は呻くような声で返事をした。
そして女を教室まで連行し、販売場所から見て真正面にある椅子に座らせる。
「よし、ここに座れ。既に揚がっているのがあるから持ってくるぞ」
「嫌だぁぁぁ揚げ立てがいいぃぃぃ……揚げ立てを食いてえよぉぉぉ……」
「そ、そこにはこだわるんですね……」
そこにリーシャがポテトを一本持ってきて、
「はい、これどうぞ」
「丁度いい。ほら、つべこべ言わず食え」
「もがっ」
アーサーは女の口にポテトを突っ込む。
「……」
女は口を動かして噛み切り、串を右手で持つ。
「……うめえ」
最初の一口を飲み込んだ後、女は言葉に出して感情を表現する。
「うめええええええ!!! うめえぞおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
「……っ!?」
それから椅子から飛び降り、飛んだり跳ねたりの大合唱。
釣り上がった目が大きく見開かれ、生気が再び宿ったことを示している。
「アーッハッハッハッハ!!! これで元気爆発だぜぇぇぇ!!! 今の私は最強無敵だぜぇぇぇ!!! 殺せるもんなら殺してみろってんだぁぁぁぁぁ!!!」
「……え、えっと」
「おいガキ共ぉぉぉ!!! ポテトをもっと寄越せぇぇぇ!!! 二十本だぁぁぁ!!!」
「にじゅっ……!? えっと、お一人様につき二個まで、主君とナイトメア合わせてなので……!!!」
「貴様等あああああ! 私の言うことが聞けねえって言うのかおおおおおおおん!?!?!?!?」
「こいつは――」
アーサーが警戒し身構えるのと同時に、
「げひゃひゃひゃ! ここにおられましたかご主人!」
暗い黄土色のオークを先導に、男性二人が入り口から慌ただしく入ってくる。
「発狂じみた叫び声が聞こえてきたと思ったら……!! こっちにいたんですね姐上!! 探しましたよ!!」
「離せぇ!!! 離せぇぇぇ!!! 私はこのポテトを食ってポテトキングへと成り上がるのだあああああああ!!!」
「何で昨日の酔いが覚めていないんですか姐者ぁぁぁ!!!」
橙色の髪を盛った茶色の革鎧の男性は、女性を豪快に抱え上げる。彼女は必死に短い四肢でもがいて抵抗していた。
そして一緒に来ていた、紫色の髪を刈り上げた同じような革鎧の男が会計口に近付く。
「えっと俺達は六人パーティだから……!! ポテト六本ください!!」
「はっ、はいぃ!? お会計は六百ヴォンドになります!?」
「よし、金貨だ!! 面倒臭いから釣りはいらない!!」
先輩生徒が素早くポテトの準備をし、リーシャが手渡す。
既に揚げ上がり時間が経ったポテトが四つ、揚げ立てのポテトが六つ、紙コップに入った状態で手渡された。
「ほら!!! 揚げ立てポテトですよ姐者!!! これ食べてご機嫌取り戻してください!!! ねっ!?」
「つけあがるなああああああ!!! 私を誰だと思っているううううううう!?!?!?」
「もう駄目だ!!! こうなったら撤退するしかないぜ兄者!!!」
「げひゃひゃひゃ!!! 皆様、うちの主君がどうもご迷惑をおかけしました!!! どうか我々のことは記憶から抹消しておいてください!!! では!!!」
こうして最後までけたたましい足音を立てて、彼女らは撤収していった。
「……先輩、今のは?」
「毎年ね……あんなのがいるんだよね……」
「ま、毎年……」
「祭りだから調子乗っちゃうんだよ、色々と。さあ、気を取り直して頑張ろう!」
「……そうですね! 頑張ります!」
「あんなのシア所に来ちゃったら、この先もうどんなアクシデントにも耐えられる気がするわ、私!」
「……ああ」
改めてエリス達は持ち場に就く――学園祭の後半戦が幕を開けた。
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